※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ジ「ううん、何だよ・・・せっかく人が寝てるっていうのに・・・。」
 ジュンは目をこすり、枕元に置いてある眼鏡を手探りで取り、掛ける。
蒼「ジュン君。翠星石の事なのだけど・・・。いいかな?」
 蒼星石はジュンの顔を覗き込む。
ジ「・・・勝手にしろ。」
 ジュンは窓からどんよりとした空模様を見る。
蒼「ありがとう。えっと、ジュン君は翠星石の事をどう思っているのだい?」
ジ「え・・・?」
 ジュンは翠星石の事でまた説教を喰らうのかと思っていたが、蒼星石の意外な問いに、
 疑問を隠せない。
蒼「そのまんまだよ。翠星石をどう思っているかって。」
 蒼星石は、無理に作り笑いをした。
 ジュンにも、その笑顔は無理をしていると、直感で分かった。

  ――――悔しい。翠星石に、先を越されそうで。

ジ「どうっていうか・・・、口が悪い毒舌家みたいな感じ。」
 あごに手を当てているジュンは、蒼星石を傷つけないために、わざと嘘をついた。





 ジュンは、翠星石の事を正直かわいいと思っている。まあ、口さえよければの話だが。

  ――――僕は・・・なんでいつもこうなのだろう・・・。

 蒼星石は、ジュンが嘘をついている事は見抜いていた。
蒼「そう・・・。ねえ、ジュン君、翠星石を探しにいってあげて。」
 蒼星石は後ろに向き直り、唇をかみ締め、声を絞り出す。
ジ「でも・・・僕はあいつにひd」
蒼「いいから行ってあげて!!」
 蒼星石の突然の声に、ジュンは驚く。
ジ「え・・・あっと・・・その・・・。」
 ジュンは動揺し、おろおろする。

  ――――姉さん・・・。ジュン君が迎えに行くよ・・・。

蒼「君が行くのが、姉さんにとって一番いいんだ。だから、行って。」
蒼星石はゆっくりと呼吸を整える。
ジ「わ、わかった。」



 ジュンはパッと起き上がりクローゼットへ歩き、着替える。
 体はまだ正直痛い。しかし、この部屋からは、すぐに出なければならない。 
ジ(蒼星石・・・)
ジュンには分かっていた。蒼星石は絶対にこちらを向かないと。
 なぜなら、今の蒼星石は涙を堪えるのが精一杯だと知っていたから。 
 手を強く握り、下を向いている。
ジ(ごめんな、蒼星石。僕が弱虫なばっかりに・・・)
 ジュンは部屋を出る。
 ジュンの廊下を走る音と、いつの間にか降り出した、蒼星石の代わりに泣いているような空からの雨が、窓を打つ音。
 蒼星石一人の部屋に二つの音が鳴り響く。
 ジュンが遠ざかれば遠ざかるほど、雨は強さを増すだろう。
 
蒼「ううん、謝らなくいいよ・・・僕は、大丈夫だから・・・。」

 蒼星石がそうであるように。

 
 ジュンは一階に降りると、リビングへ入り、キッチンへと向かう。
 リビングに居る六人は、テレビに夢中、昼寝、ティータイムと相変わらず好き勝手している。
真「行くのね、ジュン?」
 真紅はカップを片手にジュンを見る。
ジ「別に。ちょっと外の空気を吸いに行くだけだよ。」
 ジュンは魔法瓶を取り出し、熱湯を注ぎ、ホットココアを作る。
真「あら、私翠星石の元に行くとは言っていないわよ?」
 真紅は不敵な笑みを浮かべる。




ジ「うるさい。とにかく、留守番頼んだぞ。」
 ジュンは魔法瓶を持ち、廊下に出ようとする。
銀「頑張ってねぇ~。」
薔「・・・ハッピーエンド。」
雪「しっかりしてくださいね。」
 起きている三人は、笑みを浮かべながらジュンを見る。
水銀燈と雪華結晶はソファーの上から、薔薇水晶はテーブルの下から。
ジ「・・・留守番、しっかりやれよ?」
 ジュンはそれだけ言うと、リビングから出て行った。
雪「正直でないですわね。」
 雪華結晶はフフ、と笑う。
しかし、それぞれの本心は違った。

 ―――嫉妬心、羨み、悔しさ。

これらが、それぞれの中に回っていた。
 しかし、決して憎むような感情は抱かない。愛する姉妹のためだから。




 ジュンは小さめのナップサックに魔法瓶を入れ、玄関を出る。
 
  ―――雨は激しさを増し、雷が鳴り響く。

ジ「くっ・・・翠星石・・・。」
 ジュンは傘をさし、走り出す。

 ―――自分が傷つけた、か弱い子猫のために。薔薇姉妹が愛する姉妹のために。

 
真「さて、蒼星石の所に向かいましょうか。」
 真紅は立ち上がり、リビングを出ようとする。
 後の三人は、テレビを見ている。
銀「あの娘、強そうで弱いからねぇ。」
 水銀燈は、テレビから目を離さずに真紅に話しかける。
真「そうね。でも、そのために私達が居るのだわ。」
 真紅はリビングから出て行った。
 リビングからは、テレビの無機質な音声、窓を叩く雨、時折吹く強い風、雷の音が、
 ただ流れるだけだった。
銀「そうかもしれないわぁ。でも、ジュンの為にも居るって事、忘れないでねぇ。」
 既に出て行った真紅に、水銀燈は静かに言い放った。



 真紅は階段を上り、ジュンの部屋に入る。
真「蒼星石・・・。」
 蒼星石は、ジュンが出て行った時と同じ姿勢のままで、そこに立っていた。
蒼「やあ・・・真紅か・・・。」
 蒼星石はゆっくりと向き直り、真紅を見る。
 蒼星石の顔は、悲しみと嬉しさを混ぜたような、くしゃくしゃな顔をしていた。
蒼「ねえ、真紅・・・。」
 蒼星石は、ゆっくりと口を開く。
真「何?蒼星石。」
 真紅は優しく蒼星石を見つめる。
蒼「何で・・・僕ってこう・・・いつも空回りするんだろう・・・。」
 蒼星石は苦笑いになっていた。
真「そうね・・・。あなたは優しすぎるわ。蒼星石。」
 真紅はそっと蒼星石を引き寄せ、抱きしめる。
蒼「しん・・・く?」
真「泣きたいのなら、今泣きなさい。気の済むまで・・・。」
 真紅は蒼星石の背中をゆっくりと擦る。
蒼「う・・・うああ、・・・うう・・・ヒグ、うわああん。」
 蒼星石は泣いた。雨より大きい大粒の涙を流し、雷より儚い泣き声で。
 真紅の温かい胸の中で。
|