見つめ合ったまま静かに時が過ぎていた。
そんな静寂を破ったのはリビングから騒音で起きて来た真紅だった。
『ガチャ』
真「うるさいわね。ジュン、何を騒いで・・・。その娘は誰?」
後半は凄みの聞いた声で僕に聞いてくる真紅。
ジ「え、だ、誰って・・・僕が知るわけ無いだろ!」
雪「初めまして。私は雪華結晶。薔薇乙女の7女ですわ。」
背後からいきなり声がしたので、僕は跳ね上がった。
真「7女?7女は薔薇水晶じゃなくて?」
雪華結晶は雷に打たれたような驚いた顔をして、
雪「えっ・・・、そ、そんな・・・。ひどいですわ・・・、私を、私を忘れるなんて・・・」
両手で顔を覆い泣き出してしまった。
そんなことを尻目に、
ジ「また増えるのかよ。」
と、発言したのが悪かったらしく、
雪「そんな・・・ジュン様まで・・・、ひどいですわ・・・、あんまりですわ・・・。」
雪華結晶は顔を上げて僕を一度見た後、さらに大声で泣き出してしまった。

僕は今まで事を傍観していた真紅に助けを求めた。
このままでは他の姉妹まで起きてきて、事がさらにややこしくなる。
ジ「真紅、姉妹なんだろ、何とかしてくれよ。」
無論、まともな返答が返ってくるわけがないと重々分かっている。
真「下僕の問題を何故私が解決しなければならないの?」
しかし、女性経験が姉であるのりと幼馴染の巴以外ないという
未熟な僕にどうしろというんだ?  
そんな僕にましてや泣いている女の子をどうこうしろなんて、無理に決まってる。
そんなことはできる奴がやってくれ。のりは・・・慌てるだけで役に立たないだろう。
雪「グスッ、ひっく、・・・」
そうこうしている間に雪華結晶は泣き続ける。
真「ジュン、早くしなさい。リビングで待っているわ。」
ジ「ち、ちょと待て・・・」
立ち上がり、真紅の後を追おうとしたとき、
『ギュっ』
不意にズボンの裾が引っ張られるのを感じた。
ジ「ん?」
見れば、雪華結晶が俯きながら、震える両手で裾をつかんでいる。
ジ「ちょ、離してく・・・」
雪「ジュン様は、私のことが嫌いですか?」
突然聞こえた雪華結晶の弱々しい声が、僕と、リビングに向かおうとする真紅の動きを止めた。
雪「私のことが・・・嫌いですか?」
涙で潤んだ目で、上目使いで問いかけてる雪華結晶はなんとも言えない可愛さを振りまいていた。
ジ「え・・・えっと、」
僕は顔が熱く、赤くなっていくのを感じた。

真「ジュン、どうなの?」
真紅に問いかけられ、ようやく正気取り戻した僕。
問いで正気を取り戻したわけでなく、殺気を感じたためである。
ジ「そ、そんな事いわれたって・・・」
下に目をを向ければ、雪華結晶が目に入る。
(・・・かわいい・・・)
僕は心底そう思う。このまま時が止まればいい・・・。
しかし、そんな気分は真紅の殺気ですぐに消し飛んでしまう。
僕が何をしたっていうんだ?
真「ジュン、早くリビングに連れてきなさい!」
玄関での最初の騒動と同じような、少々ヒスの入った声。
ジ「わ、分かったから、静かにしてくれ・・・。ほれ、立てるか?」
雪華結晶に目を合わせないようにしながら喋りかける。
雪「はい。ジュン様・・・。」
返事が返ってくるのはいいものの、殺気は増すばかりである。
雪華結晶は裾からようやく手を放し、目を袖で拭き、立ち上がる。
真「ジュン、早くしなさい。」
静かな問いかけが、恐怖心を掻き立てる。
真紅の殺気レベルがレッドゾーンに突入しそうだ。
そんなことはもろともしない雪華結晶は僕の右腕を掴みつつ、
雪「ジュン様って、お優しいのですね。」
笑顔で話しかけてくる。
ジ「え、まあ、うん・・・」
前には鬼、右には花、鬼の殺気はさらに増していく。


雪「ジュン様、」
ジ「ん?」
『チュッ・・・』
『ピシッ』
前者は僕の右頬から、後者は前から聞こえた。
雪「ジュン様、大好きですわ。」
雪華結晶は満足げな笑顔でこっちを見ている。
一体何が起きたんだ?右頬に暖かんし・・・
『ゴスッ!』
ジ「ぐはっ!!」
『どさっ』
雪「ジュン様!ジュン様!ジュ・・・」
雪華結晶の呼びかけとは反対に、僕の意識は闇に落ちていった。

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最終更新:2006年05月27日 11:27