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『退魔の戦乙女達』 ~世界のすべてが白ければよかったのか~

人の気配のなくなった、いや正確には生きている人がいなくなった鉱山に銀色の長髪を纏った女がいた。
鉱脈の岩壁にはまだ渇いていない血痕と肉片が散らばり道端には人骨が無造作に捨てられている。
そんな赤と黒の世界に一人浮き彫りにされた女の名は水銀燈、『白薔薇』の退魔士である。今回彼女は偶々立ち寄った此処で悪魔の気配を感じ此処まで文字通り飛んで来た。
暗闇に紛れてわかりにくいがその背中には漆黒の翼が雄々しく広げられておりそれを使って鉱山を登ってきたのだ。
悪魔の気配に向かってゆっくり慎重に歩みを進める。御佩刀である黒薔薇の刻印のされた剣に手を伸ばす。とても近くに気配を感じる。
何かが蠢く音が狭い洞窟で不気味に反響して緊張感を誘う。この生死を掛けた、全身を襲う躍動感が少しだけ心地よい…。
その時だった、壁から何かが動いた気がした。其処へ一瞥をくれてやるが何もいないように見える。突然、足が掬われ水銀燈は転倒する。
暗闇の中、よく目を凝らして見ると自分の周囲に小さな虫のようなものが壁や地面を横行していた。蟻のような姿をしているが一つ一つに微弱ながら魔力を感じる。

 銀「しまった…レギオン(群魔)!?」

小さな虫のような悪魔は倒れている水銀燈の体を容赦なく蹂躙して行く、やがて水銀燈の姿はレギオンに覆われ文字通り真っ黒な姿になってしまう。
それで終ったとレギオンは油断していた。しかし、水銀燈の体から背中の翼を中心に爆発的な力の塊が発せられその圧力に群がる小さな悪魔達はひとまとめに根絶やしにされる。

このレギオン達は個体としては大した魔力を持っていないが群れとなると中級の悪魔に匹敵するので体に纏わり着かれたらまず助からない。
そして大多数のレギオンは死滅したが残った幾つかのレギオンが収束し人の形になり人の姿になる。

 「ば、バカな…まさかあのレギオンの大群を退けるとは…」
 銀「おばかさぁん…私の背中にある翼が一体誰の翼かわかってるのぉ?ベルゼブルですら勝てなかったのに貴方みたいな下っ端が勝てるわけないじゃなぁい。」
 「く…化け物め…ッせめて、せめて一矢報いてみせる!!」

悪魔はその右腕を刃のようにして水銀燈の腹部に斬りかかる、彼女は腰に佩びていた短刀を抜き放ったと同時に悪魔の右腕を居合い斬りのように斬り落とす。
そして本来の得物である黒薔薇の剣を引き抜き悪魔の両足を切断する。
更に両手に持った剣を構えながら全身で回転し見る見るうちに魔物の両腕、腰、胸、そして頸を斬り刻む。
黒い、血のような体液を撒き散らしながら刻まれた悪魔の体は地面へと落ちる。しかし悪魔の生命力は大したもので首だけでもまだ生きていた。

 銀「ふん…まぁ貴方みたいな雑魚でも少しは足しになるでしょう。」

虫の息になった悪魔の首にある髪の毛を無造作に掴み上げ自分の目の前に掲げる。悪魔の表情は完全に恐怖に染まりきっている。
水銀燈は容赦なく魔物の顔面に手刀を突き刺して残された僅かな魔力をなんと吸収しだした。背中にある彼女の漆黒の双翼が禍々しく大きくなる。
悪魔の死体は魔力を吸い尽くされ干からびて真砂になり消え去った。



仕事を終えた水銀燈は鉱山を降り麓の村で一夜を過ごそうと思っていた。しかし生憎その村に宿屋はなく変わりに教会があるそうだ。
教会に泊まるだなんてバカらしい…そう思っていたが空模様は雨意でこのまま野宿をすれば確実に寒い夜中の雨下に晒されてしまうだろう。
余り気は進まないが水銀燈は教会へ足を運ぶ。小さな村には不似合いなぐらい豪華な作りの教会が目に入った。
巨大な鐘は喧しいだけの鐘音を鳴らし礼拝の時間を告げ、けばけばしいステンドグラスには神の威光を示す日輪が描かれその脇に天使と人間が描かれている。
中に入れば天井を映し出すほど綺麗な大理石が床に敷き詰められ天井には聖者と思われる男の絵画が飾ってある。更に驚いたことには人が祭壇の前で行列を作っていることだった。
一体何があるのだろうと水銀燈は祭壇の方を見ると一人の少女が老人の手を握っている姿が見えた。
老人を見るに腰が悪いらしく歪に曲がっている。しかし、少女が両手を握った瞬間に何も無かったかのように老人の腰は真っ直ぐに伸びその足取りも軽く老人は上機嫌で教会を後にした。
目の前に起こった信じられない出来事に水銀燈は我が目を疑った。祭壇にいる少女は翠星石の如雨露のような媒介もなしに『癒し』の力を使ったのだ。

 銀「信じられないわぁ…ただの人間にそんなことが出来るだなんてこれじゃあまるで…」

まるで天使のようだと彼女は思った。冷静になってこの教会の現状を察するにあの少女の癒しの力で寄付金を集めて此処まで膨れ上がったのだろう。
水銀燈はその少女に興味を示して教会に泊まることを決意したのだ。
やがて夜も遅くなり、少女も最後の礼拝者の治癒を完了した頃だった。不意にその少女は祭壇にもたれかかるように倒れてしまう。驚いた水銀燈は思わず彼女の元へ進み出た。

 銀「ちょっと、大丈夫?」
 「………天使?」
 銀「………は?」
 「その背中の翼…貴女天使なの?」

水銀燈はまたまたこの少女に驚かされる。この背中の翼は強い魔力を持った者にしか見えない筈だった。
だが彼女は癒しの力だけでなくこの翼を見ることが出来るぐらいの魔力をも併せ持っているらしい。本当にただの人間にしては珍しい。



 銀「天使が人界に来る訳ないでしょぉ…私は…一応、人間よ。」

自分で確認するように言う。そうだ、例えどんな悪魔の力を喰らっていても私は歴とした人間だ…。

 「やっぱりそうよね…うっ…ゲホッゲホッ!」
 銀「貴女横になった方がいいんじゃないのぉ?何だかこのままほっといたら死にそうな勢いよぉ…」
 「アハハ、いっそのこと…死ねたら楽かもね…」
 銀「…どういう意味よぉ?」
 「私ね…小さい頃からこの力が使えたんだ。それで大人たちはやっぱり黙ってなくってね。
  私にこんな力があると聞いて色んな所から買いに来たわ。パパもママもお金に困っていたから私のことすぐに売っちゃって。
  それで流れ流れて今はこの教会に買われててね…『聖女の生まれ変わり』だなんて祭り上げられて此処で人の病気を治してるんだ。」

美しく長い黒髪にそれと同じく黒い美しい瞳は今は虚ろに水銀燈を見つめ己の歩んで来た暗い、黒く塗り潰された道を訥々と語った。
大人の勝手な都合によって翻弄された彼女の人生に水銀燈は自分を重ねて見ていた。

 銀「それで…死にたいっていうの?」
 「それだけじゃないんだ、大分前に気付いたことなんだけど…私が人の病気を治すたびに段々と体が弱くなってたの。酷い時なんて倒れて一週間近く意識が戻らなかったり…。
  酷い話だよね、私の命は私だけの大切なモノなのに…何で他人にあげなきゃいけないんだろう?って考えたら…何だかこうして生きてるのがバカらしくなったの。
  いっそのことさっさとこんな命使いきってしまいたい。そして私は自由になるんだ…。」

虚ろな嗤いを浮かべ少女は己の宿命への呪いの言葉と希望を紡ぎ出す。それは悲しい嗤い、何もかもを諦め、手放した者だけができる表情だった。


水銀燈は少女を担いで祭壇から降りる、水銀燈の突飛な行動に少女は驚いて手足を動かして抵抗する。

 「ちょ、ちょっと…何するの!?」
 銀「…気に入らないのよぉ。貴女も、貴女の人生も、貴女の考えも、そしてこの腐った教会もねぇ。
   だから貴女の命は私が貰ってあげるわぁ。」
 「………同情だったらいらないわ。皆私に同情する振りをしていつもいつも…」
 銀「それなのよ、貴女のその悲劇のヒロインを気取ったその態度…。現状が気に入らないのならなんで貴女から動かないの?
   どうして自分から変えようとしないの?貴女は無力よ、癒しの力があったとしても貴女はただの弱い、くだらない人間よ。
   私だったら…自分の運命が気に入らないなら自分で変えてみせるわ。」
 「それは貴女が強いからできることでしょう?私みたいに自分の命を削ることしかできない人にそんな力…」
 銀「あるわよ、人は誰だって自分で進む力がある。貴女はただそれに気付いてないだけ…。
   まだ迷うのなら選びなさい、このまま胸糞の悪い運命に従うか、私に水銀燈に従って運命に抗うか。」
 「わ、私は…」

その時、教会の裏口から司教達が入って来た。そして少女を担ぐ水銀燈を見るや否や拳銃を取り出す。

 「と、止まれぇ!我等が『聖女』様をどうするつもりだぁ!!」
 銀「部外者は黙ってなさい!!」

自身に向けられる拳銃に向かって黒羽根を放つ。羽は司教の手に突き刺さり激痛に司教は無様にも拳銃を落としてしまう。
すぐに拾おうとするが水銀燈が許す筈もなく床に転がった拳銃を司教から蹴り離し、取り敢えず喚かれると五月蝿いので司教の鳩尾に強烈な膝蹴りを入れた。
無力な司教はそのまま腹の中のものを吐き出して冷たい大理石の床の上に倒れ伸びる。


 銀「どうするの?」

先ほどよりも優しい口調で彼女は聞いた。その表情は珍しく優しさに溢れあたかも天使を思わせるものだった。
その綺麗な顔に、とても美しい赤い瞳に見つめられたら、もう答えは決まっている。

 「私は…貴女と生きたい、こんな所で…大人の都合なんかで死にたくなんかない!」
 銀「よくできましたってところねぇ。」

私の天使は微笑んで、私を連れて空へ昇る。ステンドグラスの日輪をぶち破って先ほどの雨意が嘘のように晴れ渡った空をずっと、ずっと遠くまで…。

 銀「そう言えば貴女の名前、聞いてなかったわね。」
 「そうだっけ…私の名前はめぐ、貴女は?」
 銀「水銀燈よぉ。」
 めぐ「そう…よろしくね、私だけの天使サマ。」

めぐに言われて、初めてこの黒い翼とコートが白ければ良かったと思えた。
ねぇ、めぐ…この世界のすべてが白だったらよかったのかな…?
私は白くなんてなれないけれども、貴女だけは黒に染まらないで欲しい。
今まで沸いたことのない感情に私は少し戸惑って何処へ行こうか考えもせずにただ遠くへ飛んでいた。




薔薇「『退魔の戦乙女達』今回は此処まで…」
真紅「ちょっと、主役である私とジュンが一回も出てないじゃない!」
銀「これは主役交代かもねぇ。弱い真紅なんかよりも私が適任だわぁ。」
J「まぁまぁ…別にこれには明確な主役なんていないみたいだし…」
真紅「え、そうなの…?」
銀「まぁ私は最初っから主役とか興味なかったしぃ~…あ、そうだ、めぐのお見舞い行かなくちゃ。」
真紅「あ、逃がさないわよ水銀燈!」
薔薇「めぐ…羨ましい…じゃなくって次回予告………『Past』です…銀姉さま、私も一緒に行く~…」

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