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『nのフィールド』から帰って来た僕たちにすぐに情報が入って来た。今回の依頼主は退魔士からとのことだった。

このことに真紅は非常に訝しい顔をしている。普通なら退魔士から退魔士へと依頼をすることはまず有り得ない。

それは退魔士の誇りに関係する話だからだ。余程の事情があるに違いないと言っていた。


 白崎「それで、どうするんだい?断ってもいいんだけど…そうそう、依頼主はね、黄薔薇のご頭首なんだ。」

 真紅「黄薔薇の頭首ですって?取り敢えずどういう内容の依頼なのか教えて頂戴。」

 白崎「うん、どうやら『黄薔薇』の退魔士が討滅に向かったまま帰って来ないから迎えに行ってやってくれという話だ。」


『黄薔薇』の退魔士…、僕にとって今まで見たことのない最後の退魔士だった。一体どんな奴なのかと思いを馳せてみる。

何にしろ『薔薇の退魔士』だ、他の連中みたいに化け物染みてるに違いない。しかし、そんな奴に迎えなど必要なのだろうか?

この依頼には何か裏があると僕も思い始めていた。


 真紅「…頭首からの依頼なら断れないのだわ。いいわ、行きましょう。」

 白崎「そうかい、それじゃあ頑張って。ふんじばってでも連れて帰ってくれとあちらさんも言ってるのでね。」


それだけを言って白崎は一方的に電話を切った。行き成り電話を切る癖も嫌いだと真紅は文句を垂れていた。


 J「けど…ふんじばってでもってどういう意味だ?」

 真紅「さぁね、けど楽勝な依頼じゃないってことは確かね。」

 雛苺「うぃ、『黄薔薇』と言ったらカナなの。ヒナと仲良しなのよー。」

 J「カナ…?」

 真紅「正式名は金糸雀。『薔薇の退魔士』で第二席よ。」

 J「第二席…それって滅茶苦茶強いんじゃあ…?」

 雛苺「そんなことないのよ、『薔薇の退魔士』の第二席とかはその家が出来た順番を数えてるだけなのよ。」

 真紅「第一席の水銀燈、二席の金糸雀、三席の翠星石、四席の蒼星石、五席の真紅、六席の雛苺、七席の薔薇水晶…の順ね。」

 J「そうだったのか…てっきりこの間の水銀燈の所為で強さが関係してるかと思った。」

 真紅「さぁ、雑談も此処までよ。そろそろ準備をして依頼された場所に行かなければ。」


パンパンと手を叩いて急かすように言う。勿論、準備というのは真紅の分までしろということなのだった。

依頼された街へと僕等は辿り着いた。魔物に侵略されている荒れ果てた街を想像していたがそうではなかった。

むしろ街は人で賑わい活気付いている。子供は元気にはしゃいで回り、荒巻スカルチノフは地べたで眠り込んでいた。


 J「全ッ然平和じゃないか…」

 雛苺「思いっきり準備して来たのがバカみたいなのー…」

 真紅「………」


一体どんな手強い魔物がいるかと思って僕達は持てるだけのアイテムやアーティファクトを持って来ていた。

しかし、目の前にある平和な現実を見るとどう見ても場違いなのは僕達の方だったのだ。

納得のいかない真紅は街の人を捕まえて事情を聞き出した。


 「はぁ…確かに最近まではとても恐ろしい魔物が蔓延っていたのですが黄色いコートを纏った退魔士さんが全員退治してくれたんです。

  それからその退魔士さんが今でも作って下さってる道具を売って街を建て直して今では魔物に襲われる以前よりも賑やかになったんですよ。」

 真紅「そう…ありがとうなのだわ。」


取り敢えずあの住人の話だと『黄薔薇』の退魔士はこの街にいるようだ。後はそれで彼を連れて帰れば依頼も達成できて一件落着なのだが…。

そして遂に『黄薔薇』のいる一つの街外れにある小さな工房のようなところに僕等は辿り着く。

扉をノックすると緑色の髪と瞳をした小さな女の子が出て来た。まさかコイツが…


 真紅「久し振りね、金糸雀。」

 金「し、真紅?どうして此処が…」

 雛苺「むー、ヒナだっているもーん!」

 金「本当かしら、おバカな雛苺までいるかしら!?どうして二人とも揃って…それに後ろの男は…?」


不意の顔馴染みの来訪に金糸雀は少し混乱している様子だった。というかまた女の子なのかよ。


 雛苺「ジュンなのよ。」

 金「ジュン…?もしかして『魔眼の大盗賊』?」

 真紅「ええ、今は私と契約しているけれどもね。」

 金「そ、それで今日は一体何しに来たのかしら?」


真紅達の様子から察したのか金糸雀は警戒態勢をとっている。


 真紅「貴女を連れ戻しに来たのだわ。『黄薔薇』の頭首のご意思よ。」

 雛苺「カナー…悪いことしたならヒナが一緒にごめんなさいしてあげるから帰ろうよ。」

 金「………気持ちは嬉しいけれどもダメかしら。カナは…もう退魔士として戦うことはできないかしら!」

 真紅「…そう、なら力尽くでも連れ帰るのだわ!」


真紅が懐から空間発生装置を取り出したと同時に金糸雀は懐に仕込んでおいたスパナを投げつけ真紅の手からそれを弾き落とす。

そして空間術でヴァイオリンを取り出し突然それを弾きだす。ヴァイオリンから出る超音波による衝撃波が幾度となく真紅達を襲った。

負けじと真紅も花弁を飛ばし空気中の振動を妨げて音波を軽減させる。その間に真紅はヴァイオリンを壊そうと接近する。

金糸雀はヴァイオリンの演奏を一時的に止めて何か管のような物を地面に設置した。管は真紅が近づくと自動的に動き出し光の熱線を浴びせかける。

自分に向かって来る光の熱線に真紅は怖じることはなく逆にステッキで熱線を跳ね返し、管を全て破壊する。

焦った金糸雀は今度は小型のロザリオのような物を自分の足元に設置する。勢いよく真紅はステッキを金糸雀に振り下ろしたが見えない壁のようなものでそれは防がれた。


 雛苺「結界展開装置(シールド・デヴァイス)なの、やっぱり金糸雀は退魔の道具の扱いが上手なの…」


結界展開装置により真紅はそのまま弾き飛ばされてしまう。其処へ金糸雀は容赦なく音波による衝撃波攻撃を繰り出す。

真紅はその衝撃波にステッキで分け目を作りその分け目に器用に風の魔力を送り込み衝撃波を打ち消す。

そして金糸雀の結界展開装置に自分のそれをぶつけて結界同士を拮抗させ歪ませて金糸雀に接近する。

足を蹴り上げる。

金糸雀の蹴りをサイドステップで避けた真紅は下段回し蹴りで足払いを繰り出す。咄嗟に跳ねて反撃に上空から弓を振り下ろす。真紅は右斜め上からステッキを振り下ろす金糸雀はヴァイオリンの弓を使って受け止め右

ステッキを横に構え弓を受け止めいなしステッキを振り下ろす、金糸雀も弓を下段から打ち上げる、丁度二人の得物は鍔迫り合いの形になる。


 真紅「金糸雀!理由を聞かせて頂戴!どうして戻ろうとしないの!?」

 金「そんなこと真紅に言われたくないかしら!カナは…絶対に戻れない、負けられないんだからー!!」


鍔迫り合いを解いて金糸雀はありったけの魔力をヴァイオリンに注ぎ込む、音波の衝撃波は風と混ざり合い巨大な竜巻を作り上げる。荒れ狂う風が真紅を襲う。

 真紅「く…此方だって、退魔士の誇りにかけて負ける訳にはいかないのだわ!!」


竜巻に向けて真紅も再調律した魔力を解き放つ。何時もと変わらない赤い花弁が咲き乱れる。

だがそれは違っていた。花弁が竜巻とぶつかり合う、花弁が竜巻を完全に圧倒していた。

再調律をした真紅の花弁はその一枚一枚に強大な魔力が注ぎ込まれ小さな爆弾のようなものになっている。

今までは其処まで細かく魔力を振り分けることは不可能だったようだ。確実に真紅は前よりも強くなっている。

やがて竜巻は押し返され花吹雪が辺り一面を覆い尽くした。


 真紅「…これでどう?」

 金「う…」

 真紅「さぁ、帰るわよ金糸雀。」


真紅が金糸雀に近付こうとした時、金糸雀の工房から一人の黒髪のポニーテールをした女性が出て来た。


 「ちょっとカナー、どうかしたの?」

 金「あ、みっちゃん!?来ちゃ駄目かしらー!」

 み「あれ?誰かいるの?もしかしてカナのお友達さん?なら上がってって下さい。」

 J「え?いや、あの…」

 真紅「…そうね、魔力を使った所為で疲れたのだわ。上がらせて貰いましょう。」


よく分からないままみっちゃんと呼ばれた人に促されるまま僕等は金糸雀の工房の中に入ることになった。


 真紅「さぁ聞かせて頂戴。貴女が此処に居座る理由を。」

 金「わかったかしら…カナはちょっと前に此処の魔物を討滅するために来たかしら。

   それでまんまと討滅には成功したんだけれども………魔物を退治するための道具を手伝ってくれたみっちゃんが魔物に襲われて…失明したかしら。」

 J「失明?でもみっちゃんは今目が見えてないようには…」

 み「この眼鏡のおかげなんです。カナが私のために視力をエンチャントしたものですから…。」


言われて見ればみっちゃんのかけている眼鏡に微かだが魔力が感じられる。どうやら金糸雀の魔力が注ぎ込まれているようだ。


 金「もう分かってるとは思うけれどもみっちゃんの眼鏡はカナの魔力を供給することによってその能力を発揮してるかしら。

   だからカナがこの街を出て行ってしまったら………」

 雛苺「うゅ………また目が見えなくなっちゃうの…?」

 み「私は構わないって言ってるんだけどね…カナがどうしても離れたくないって…」

 金「当たり前かしら!カナの所為でみっちゃんの視力がなくなったんだから…カナがせめてみっちゃんの目になってあげないと…」

 み「でもカナは偉い退魔士様なんでしょ?それにこうして迎えが来てるんだから…戻らないと。」

 金「酷いかしら!みっちゃんにとって…カナなんてどうでもいいのかしらー!」

 み「あ、カナ…!」


金糸雀はそれだけ吐き捨てて工房を飛び出してしまった。その後を雛苺が追って僕と真紅は暫く呆けてしまっていた。

みっちゃんは目に涙をいっぱい溜めている。何を言ってあげればいいか僕が迷っているうちに真紅が言葉を紡ぎ出した。


 真紅「…貴女は金糸雀のことを考えて、敢えて突き放したのね?」

 み「それが…カナにとっての幸せだと思ったから…」

 真紅「幸せね…貴女は視力だけでなく人を見る目も失ってしまったの?貴女といる金糸雀は…とても楽しそうだった。

    辛い退魔業ばかりやっていた以前の彼女とは比べ物にならないぐらい…。あの子にとっての幸せはもう貴女と一緒にいることになっているのよ?」

 み「そうなのかもしれない、私は気付かないふりをしてたんだ…ありがとう、えーと…」

 真紅「真紅だわ。」

 み「真紅さん、ありがとう…カナの所に行って来ますね。」


みっちゃんは立ち上がって泣きべそをかいていた顔から決意した顔になって金糸雀と雛苺の後を追って工房を出て行った。

残された真紅は出されていたセイロンを何食わぬ顔で飲んでいる。


 
J「いいのか?金糸雀を連れ戻すんじゃなかったのか?」

 真紅「気が変わったのよ。それにこの紅茶は貴方が淹れるよりもとても美味しいのだわ。」

 J「ハァ…お前ってつくづく退魔士に向いてないって思うよ。」

 真紅「フフ、奇遇ね。私も今そう思ってたところよ。」


何だか僕まで可笑しくなって笑ってしまう。本当にコイツは変わった退魔士だ…。

工房の裏手にある高原で金糸雀と雛苺は黙って青い空を仰ぎながら横になっていた。

日に照らされた草の匂いを運んでくる風が心地よい…一面の空にまるで自分が空の上で寝ているかと錯覚してしまうほど視界には空以外、何も無かった。


 雛苺「ねぇカナ…」

 金「何かしら雛苺?」

 雛苺「カナはみっちゃんのこと好き?」

 金「そんなんじゃないかしら、カナはみっちゃんの大好きかしら!」

 雛苺「む、ヒナだって巴のことだーい好きだもん!」

 金「トモエ…?誰かは知らないけれども頭もよくってカナに甘ぁーい卵焼き作ってくれるみっちゃんには敵わないかしら。」

 雛苺「巴は剣士で凄い美人でカッコイイもん!それにうにゅーをいつもくれて物凄ーく優しいんだから!」

 金「………そっか、雛苺にも大切な人ができたのかしら。」


空の向こうに今より幼き頃のことを思い描く。あの頃はただ純粋に人助けがしたいと早く一人前の退魔士になりたいと願い続けていたっけ。

それが何の因果か、多くの人助けよりもたった一人だけを助けたいと思ってしまっている。


 雛苺「うぃ、ヒナね、巴だけじゃなくってジュンも真紅も…勿論カナもだいだいだーい好きなのよ。」


此方に向けてなんの屈託もない笑みを雛苺は向けている。ああ、そうだ、彼女はただ純粋に大好きな人と一緒にいたい、助けたいと思っている。

それは彼女だけの幸せ、誰にも譲れない、誰にも真似できない、彼女だけの軌跡によるもの。

雛苺の笑顔を見ていると昔から頑張ろうって気になれる。どんなに失敗しても、どんなに挫けそうなときでも彼女は支えてくれた。(本人はきっと意識してないだろうが)

真っ青な空にぽつんと浮かんでいる太陽に手を翳す、手を透けて太陽が目に映りまるでこの体の中に太陽を手に入れたような気持ちになれた。

ふと金糸雀に影が降りかかる、大好きなあの人の顔が其処にあった。


 金「みっちゃ…」

 み「ごめんねー!カナ…私バカだったからカナのことわかってあげられなくてー!!」

 金「み、みっちゃん!ほっぺが摩擦熱でまさちゅーせっちゅ!!」


その頬擦りはまさしく音速を超え、とてつもない摩擦熱というエネルギーを生み出す…。

これぞみっちゃん必殺『まさちゅーせっちゅ』…何のこっちゃ(汗

幸せそうな二人を見て雛苺もまた幸せそうな表情になる。


 真紅「それじゃあ金糸雀、みっちゃん達者でね。」

 金「ありがとうかしら、真紅…本当に感謝してるかしら。」

 真紅「いいのだわ、セイロンの葉を貰えたのだから。」

 雛苺「カナー、みっちゃん!また遊びに来るのよ。」

 み「うん、ヒナちゃんも真紅ちゃんも可愛いからいつでも来てね~♪」

 J「僕は眼中になしかい。」


結局、真紅と雛苺は金糸雀を連れ帰ることもせずに街を後にした。まぁあの二人の仲を裂くのはきっと目を瞑って針の穴に糸を通すぐらいに難しいだろう。

暫く黙って僕等は歩いていたのだが不意に真紅が尋ねてきた。


 真紅「ねぇ、ジュン…私にとっての幸せって一体なんなのかしらね。」

 J「紅茶飲んでるときじゃないのか?」


ふざけて答えたら真紅のステッキが脳天にクリーンヒットして来た。流石に機嫌を損ねたらしい、ややむくれてそっぽを向いてしまう。


 
J「まぁ…そう思えることが幸せなんじゃないのか?」

 真紅「…答えてるようで答えになってないわね。」

 J「そんなもんだろ、幸せなんて人それぞれなんだし…絶対的な答えなんてないさ。」

 真紅「そうね…そうなのかもしれないのだわ。」


納得したのか真紅は黙った。真紅に言われて気付いたのだが僕自身の幸せが分からなくなっていた。

当初は契約の縁を切ろうと躍起になっていたが…今はどうしてかそう思ってたのかわからなくなっている。

なら…僕の望みや幸せって何なんだろう…?

僕の中で何かが変わり始めている…けれども気付かない振りをした。

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