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今ではない昔、ここではない何処かに、
赤い神様と黒い神様がいました。
赤い神様は真紅と呼ばれて、みんなに慕われていました。
黒い神様は、水銀燈と言います。とても優しい神様なのですが、
体が黒いので、みんなが水銀燈を怖がって誰も近寄ろうとはしません。
水銀燈は深い深い谷の底で、いつも一人で座っています。
真紅と水銀燈は、仲が悪かったのですが、
毎日顔を合わせては、会話を交わしていました。



「あら、水銀燈。またこんな暗いところで座っているの?
 そんなんじゃお尻から根っこが生えるのも時間の問題なのだわ。
 私は黒い樹なんか見たくはないのだわ」

「私は黒いから、ここにいると誰かに見つかることも少ないのよぉ
 みんな私を怖がるから、ここにいる方がいいのよぉ
 あなたみたいな人には分からないわ、何処かへ行ってちょうだい。」

真紅は、本当は水銀燈とも仲良くなりたかったのです。
しかし、顔を合わせると恥ずかしくなって、悪口しか言えないのです。
水銀燈も、真紅と友達になりたかったのですが、
自分と真紅が仲良くなることで、真紅が他の友達から嫌われるのが嫌だったので、
我慢して悪口を言うのでした。



ある日、真紅は裁判所に呼ばれました。
真紅は、猫を殺してしまったのです。
一番偉い神様はとても怒って言いました。

「…猫が嫌いなのは知ってる…けど、殺しちゃ駄目。
 …裁判官、アレ持ってきて…」

そういうと2人の裁判官がとても大きなリュックを持ってきました。
それは、真紅一人なら楽に入れそうな位でした。
リュックはパンパンにふくらんでいて、とても重そうでした。

「真紅…あなたははこの罪を食べてしまわないといけない。
 …でも、罪が零れたら危ないから、谷の底で食べてきて…」

真紅は大きな大きなリュックを背負って、谷へ向かいました。
それはとても重くて、足が折れそうなほどです。
谷へ行く途中、真紅は友達に出会いましたが、もう友達ではありませんでした。
真紅のことを罪人だと非難し、恐れ、避けました。



「殺しをしたんですって?所詮おめーはそんなヤツだったんですぅ」

「近づいたら殺されるかしらー!」

「こわいのー!」

真紅はとても悲しくなりました。
少し前まではたくさん周りに人がいたのに、今は誰一人真紅を慕ってくれてはいません。
真紅は泣きたかったけれど、荷物の重さに耐えるのに必死で、涙は流れませんでした。

やがて谷について、重かったリュックをおろすことができました。
でも、これで終わりではありません。
これからこの中身を食べてしまわないといけないのです。
真紅はリュックを開けて、中身を覗いてみると、
吸い込まれそうなくらい黒い『罪』が一杯に詰まっていました。
真紅はそれをひとつまみ千切って、食べてみました。
それはとても苦く口の中で広がって、体をほんの少し黒く染めました。
とても全て食べられるものではありませんでした。
真紅が涙を浮かべて次の一口を手にとって食べようとしたとき、後ろから水銀燈の声がしました。



「あらぁ、こんな所に座っていると、お尻にカビが生えるわよぉ」

水銀燈は真紅のそばにあるリュックを見つけると、真紅に訪ねました。

「これって…」

「私は罪を犯したのだわ。その償いに、これを食べないといけないのだわ。
 お笑いよ、今までみんな私のそばにいてくれたのに、今はみんな私を軽蔑してる。
 所詮私は、一人ぼっちだったのだわ」

真紅は笑っています。でも、とても悲しそうです。
水銀燈はそっと真紅に近寄って、リュックのそばに座りました。
そして真紅の頭をそっと撫でました。

「大丈夫よぉ。私に任せなさぁい」

そうして水銀燈はリュックから『罪』を取り出して、食べ始めました。
水銀燈は知っていたのです。
真紅が殺した猫は、重い病気で、もう治らなかった事。
猫が真紅に、これ以上苦しみたくないから、殺してくれと言ったこと。
そして真紅はその猫を殺したあと、泣きながらお墓を立ててあげたこと。
だから真紅に罪はないと、そう思っていました。
真紅は驚いて、水銀燈を止めようとしました。
しかし、水銀燈は笑っています。とても苦い『罪』を食べながら、微笑んでいます。

「私は元から黒いから、これぐらいなんともないわよぉ」



そのうちに水銀燈はリュックの中の『罪』を全て食べきってしまいました。
水銀燈の体はもう、影よりも真っ黒です。
目を懲らさないと、どこにいるのか分かりません。
真紅は手探りでその真っ黒な体を抱きしめて、泣きました。

「どうして…こんな事をしてくれるのだわ…」

「私はみんなに怖がられて生きてきたわぁ。
 だけど、真紅、あなただけは私とお話してくれたのよ。
 あなたはいやがるかも知れないけど、私はあなたの友達になりたかったの。
 でも、私はどうしたらいいか分からないから、あなたの為にできることをしただけよぉ」

水銀燈は、見えない黒い手で真紅の頬を撫でました。
その手はとても冷たくて、すぐにでも崩れてしまいそうなほどでした。

「あなたは…世界一の大馬鹿よ…!」

真紅は叫びましたが、嗚咽でうまくしゃべれませんでした。
真紅の目の前で、光の粒が流れました。
見えないけれど、きっとあそこに水銀燈の目があって、泣いているのです。

「私たち…友達になれるかしら…?」

真紅は黙って深く頷きました。
2人は笑いながら、泣きながら
強く、強く、抱き合っていました。



やがて水銀燈は霧のようになって、真紅の体をすりぬけていきました。
やがてそれは空一杯に広がって、2人が流した涙が空に点々と跡を残しました。
それはのちに『夜』と呼ばれることになります。
そして真紅は、水銀燈と一緒に空へ昇って、ふわふわと輝く月になりました。

寝る前の一時、空を見上げてみれば。
相変わらず夜は広がっていて、月は真ん中で輝いています。
2人の神様は、いつまでも一緒です。
悪口を言い合ったりもしません。
ただ静かに笑っています。

今ではない昔、ここではない何処か、優しい神様の物語。


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