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拝啓、あの世にいるであろう姉ちゃん。

俺は元気です、ええ、扱き使われながらも何とか生きています。


 
J「こらチビ!またお前飯残しただろ!?」

 雛苺「ヒナこんなの食べたくないもん!ヒナのお家にはこんなのとは比べ物にもならないご飯があるもん!」


今話しているコイツはこの間増えた退魔士だ。雛苺と行って桃薔薇の退魔士である。

そして僕が孤軍奮闘をしている横で一人だけ場違いなぐらい優雅にアフターヌーンティーを飲んでいるのが一応僕と契約した退魔士、真紅。


 真紅「ジュン、紅茶がなくなったわ。淹れて頂戴。」

 J「お前なぁ…この状況を見てみろ!紅茶ぐらい自分で淹れなさい!!」

 真紅「全く、使えない下僕ね。」


文句をたれながら珍しく自分から紅茶を淹れに行く。流石に雛苺の世話をしている僕に感謝しているということなのだろうか…?

しかしそう思っているのなら最初っから淹れろなんて言わないで欲しいもんだが。


雛苺が来てからジュンは彼女ばかり構っている。先ほども紅茶を淹れて欲しいと言ったら相手にもしてくれない。

別にあんな使えない下僕に相手にされないぐらいどうということはないけれども…。

何だか昨晩ジュンが蒼星石と接触して以来胸にモヤが掛かったようで具合が悪い。

この感情は何なのだろう…今までの先達の記憶の轍を紐解いてもその答えは出ない。

やがて電話が鳴った、恐らくあの人からだろう。出たくない気持ちとは裏腹に私は受話器を取る。


 白崎「やぁ、僕だよ。あのポルターガイストを退治したんだって?」

 真紅「…正確には雛苺が討滅したのだわ。」

 白崎「知ってるよ、君が討滅しようとしなかったってこともね。」


全てを見透かしたように言う。私は彼のこういうところが苦手で嫌いだ。

しかし私は彼から情報を得なければ討滅には赴けない。他の薔薇の退魔士達は『お家』の力で独自の情報ルートで討滅情報を仕入れる。

しかし私は『お家』のやり方が気に入らなくて『真紅』の名を継ぐとすぐに家出するかのように出て行った。

其処で私を拾ってくれたのが白崎だった。


 真紅「情報をくれた貴方には申し訳ないとは思っているわ。けれども…」

 白崎「分かっているよ。君は無益な殺生が嫌いで『お家』を捨てたんだ。僕も無理強いはしない、ただお金は上げられないけれどもね。」

 真紅「…そんなこと分かっているのだわ。」

 白崎「まぁ安心してくれ、これからも情報は提供するからさ。君は僕の掌で踊る美しいお人形なんだからね…。」


それだけを言って彼は一方的に電話を切った。どうやら今回は嫌味だけを言いたかっただけらしい。

今日は討滅もないようなので久々に読みかけていた本を読むことに専念しよう。

そう思っていたら今度は扉の呼び鈴が鳴った。ジュンが出ると其処には何時ぞやの女剣士、巴が来ていた。


 巴「どうも、二人ともお久し振り。」

 J「ああ、巴か。今日はどうしたんだ?」

 巴「前の鬼退治のときのお礼がまだだったから…それをしに来たの。」

 真紅「貴女が恩義に感じることはないのだわ。その剣が無かったら倒すのは容易じゃなかったでしょうし。」


取り敢えず巴には上がって貰った。巴は手に持っていたお土産と思しき風呂敷を机の上に置く。

それを興味津々の様子で雛苺が見ていた。


 巴「彼女は…ひょっとして退魔士?」

 J「ああ、何でも桃薔薇の退魔士なんだとよ。子供だけど。」

 雛苺「うー、ヒナ子供じゃないもん!!」

 J「喋り方からして子供だけどな。まぁ何にもない家だけどゆっくりして行けよ。」


貴女の台詞じゃないわと真紅が文句を言うが僕は気にせずに疲れて椅子に座った。

雛苺はまだ風呂敷の中身が気になっているらしく餌を貰う前の猫よろしく尺の足りない背なので机に手と顎を乗せてじっと観察していた。

それに気付いた巴が雛苺に話しかける。


 巴「えっと…食べる?苺大福なんだけど…」

 雛苺「苺…?食べるのー!!」


どうやら苺というキーワードに引っ掛かったらしい。巴が風呂敷の中から大福を出すと不思議そうな顔をしていた。


 雛苺「うゅ、苺…?」

 巴「その中に餡子と一緒に入ってるよ。」


恐る恐る雛苺は苺大福を口に入れる。今まで憂鬱そうだった彼女の表情は何処へやらとても嬉しそうな表情に変わった。


 雛苺「うゅー!苺なんだけどうにゅーってしてて甘ぁくて美味しいのー!!」


感激の余り巴に抱きついて親愛の情を表す、巴も流石に苦笑していた。

こうして見ると二人とも可愛いのになぁ…などとついつい考えてしまう。

結局、巴のお土産は全部コイツに食われてしまったが…。

夕暮れも近づいて巴は帰りの支度をしていた。


 雛苺「巴!ヒナね、あんなに美味しいの食べたこと無かったの!だから今度も持って来てね!」

 巴「ふふ、わかったわ。今度も持って来るからね。」


二人はすっかり意気投合していた。まるで姉妹のようだ。

彼女たちに自分と、大昔に殺された姉ちゃんを重ねて僕は見ていた。

巴が帰り、雛苺がはしゃぎ過ぎて疲れて眠った後、不意に真紅が僕に話しかけた。


 真紅「二人とも…姉妹のようだったわね。」

 J「そうだな、僕にもさ昔は姉ちゃんが居たんだ。けど殺されたんだ。」

 真紅「…そう、それは気の毒だったわね。」


真紅は何も聞いて来なかった。ただ僕の悲しみを受け止めてくれた。

何だかそれが嬉しくって僕はついつい今まで誰にも話さなかったことまで話した。

エジプトまで秘宝を探しに行ったこと、誰も知らないような綺麗な風景、今まで長い間生きて触れ合った人たちとの思い出…。

彼女はただただ僕の話を聞いてくれた、聞き流していたのかもしれないけれども僕は話し込んでいた。

話の一区切りがついた頃には夜は深まっていた。


 真紅「そろそろ眠る時間ね。貴方の話は面白いわ、また話したくなったら聞かして頂戴。」

 J「ああ、そうだな。また気が向いたら話すよ。」


僕が微笑むと彼女も今まで見せたことのない微笑みを見せてくれた。

退魔の仕事もない平和な時間…退屈だと思っていたその時間はいつもよりも充実していて楽しかった。

けれども時間は流れまた明日になれば討滅に出かけるだろう。話の続きを聞いて欲しいから僕は今日もまた彼女を守るように戦う。

コイツとの契約を破るのは…話が無くなってからにしようと僕は誓った。


ジュンが私に色んなことを話してくれた。暗くてよく分からなかったけれども私が今度続きを聞かせてくれと言ったら嬉しそうな顔をしていた気がする。

それだけで今日ずっと溜まっていた胸のモヤが掻き消された気がした。清々しい気持ちでベッドに体を預ける。

明日はきっと討滅に出かけるだろう。ジュンも、雛苺も死なせたくない。何時しか二人は私にとって守りたい存在になっていた。

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