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私は、ジュンが好きだわ。
ジュンがいないと、私はなにもできない。
さびしくて、不安でしかたがなくなるわ。
でも、私は知ってしまった。
ジュンにそばにいて欲しいと、呼びかける声が届かなくなったことを。
けれども、違う声は届くはず。
わがままな私に付き合ってくれた、
笑わない私に笑顔を教えてくれた、
ひとりぼっちになった私のそばにいてくれた、
私の名を呼んでくれたのは、ジュン、あなただったわね。
だからこそ、彼には幸せになってほしいとも思ってる。
そう、ジュンの幸せを願い喜ぶ声なら届くはず。
彼が彼女を選んだというのなら、ジュンと彼女のこと、笑って喜ぶべきだわ。
今はまだ、無理だけれど、
でも、今度会うときには、私は、笑えるようになってみせるわ。

 

太陽がビルの間に沈もうとしている。
今頃、水銀燈は、オヤジさんと飯でも食ってるのかな。
僕は、少し水銀燈に嫉妬をしているみたいだ。
よろこんでやらなきゃならないのに。
本当に自分で、自分が嫌になる。
……紅茶、飲もうかな。
僕が、やかんに火をかけようとすると、
ノックの音が聞こえた。
ジ「はいはい。」
どこの宗教勧誘だ。
そう思って、出た僕は意外な人を目にした。
ジ「水銀燈?どうしたんだよ?」
銀「……ご飯作りすぎちゃったの?
  よかったら食べる?」
ジ「じゃあ、お言葉に甘えて……。
  というか、時間、大丈夫なのか?
  オヤジさんと会うんだろ?」
銀「大丈夫。
  お父様来れなくなったから」
ジ「……そっか、……残念だったな。」
当然だけど、かなり落ち込んでる。
いつもの口調じゃないし。
 
水銀燈の部屋に上がるのも始めてだな。そういえば。
テーブルの上には、綺麗に盛り付けられた料理が並んでいた。
ジ「いただきます」
銀「はい。召し上がれ」
料理は冷めていたけれども、
ジ「……うん。おいしいよ」
水銀燈は心ここにあらずって感じで、話を始めた。
銀「ねぇ、ジュン。やっぱり私って壊れた子なのかな。
  こんな変な髪で……。
  だから、お父様は私のこと嫌いなのかな…?」
僕は、彼女が髪の色を気にしてるなんて、少しも思わなかった。
けれども、言われてみれば、
フードつきの服。小さな会社の事務職、それらしい点はある。
ジ「違う。水銀燈は、嫌われてなんかいない」
銀「嘘よ。なら、なんで会いに来てくれないの?
  ずっと、ずっと、待ってたのに。
  前も、その前も、来るっていって結局来なかった。
  そうよ、私のことなんてどうでもいいのよ!」
僕のことなんてどうでもいいんだ、僕が親に対して思ったことと一緒だ。
けれど、否定しなくちゃ……。
僕は、こんな水銀燈見てられない。
ジ「違う……。」
僕からやっと出た言葉は、彼女の意見を否定するのに足りなかった。
銀「……ねぇ、ジュン。
  この人形ね。お父様がプレゼントしてくれたものなの。
  どこの店にいっても、売ってなかったくんくんのぬいぐるみが
  欲しいってせがんだら、仕事先から送ってきてくれてね。」
そういって、くんくんの人形を手にとった。
銀「私は、すごく喜んだわ。
  離れていても、お父様は私のことを愛してるって思えたもの。
  けれども、だれでも持ってるようなただの人形。
  たまたま売ってたから、うるさいわたしを
  黙らせるために買ったに過ぎないただの人形。
  私は、こんなの喜んで、ずっと大切にして……
  でも、お父様は私のことなんてどうでもよくて、
  ホント、馬鹿みたい。」
ジ「水銀燈……」
僕は、彼女の名を呼ぶしかできなかった。
僕も、両親は僕のこと嫌いなのでは、と思っているから。
僕に否定できるわけがなかった。
けれども、水銀燈のこの姿を見ているのは、辛い。
僕は、どうすれば、彼女を慰めることができるんだ?
そんなことを考えてると、ふいにブチッという音が聞こえた。
水銀燈は人形をバラバラにちぎってゆく音だ。
ジ「お、おい」
僕は水銀燈のそばによる。
銀「ジュンも、私のことなんてめんどくさい奴って思ってるんでしょ?
  もう、私のことなんて、放っておいて!
  私なんて、要らない子なのよ」
そういいながら、彼女は僕を突き飛ばして外に出て行く、
目には涙が浮かんでいた。
ジ「おい、待てって、水銀燈。僕はそんなこと」
僕は言いながら追いかけるが、とても追いつけない。
なんであんなに足が速いんだよ?
ジ「水銀燈っ!」
僕は彼女を呼ぶけれど、水銀燈はそのまま闇に消えていった。
僕は、自分の不甲斐なさを呪った。

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