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夜、懐かしい感覚だった。昔だったらこんな夜更けに獲物を探して飛び回っていたっけ。

闇の中にさえ居れば誰も僕を見つけられない、誰も僕の本性を暴けない、漠然とした不安が躍動感に掻き消される。

それが今では…


 真紅「今回のターゲットはあの家の中にいるわ。さぁ行くわよジュン。」


今では…イマイチ素性の分からない退魔士の女に扱き使われる毎日、まぁ偶にこの退魔の仕事が楽しい、と思えてしまう。

が、コイツの人使いの荒さがそれを打ち消してしまうほど酷い。

因みに今回の舞台は一般人の住むごく普通の家宅だ。

あの白崎とか言う男の話によるとこの家で暴れ回る悪霊がいて人を殺してしまったから退治してくれとの話らしい。

家の中に入ると酷い惨状だった。ガラス物は悉く割られ、電気も付かず床は水びたし、壁紙が所々剥がされているのは当たり前で酷ければ穴まで空いている。

家具も出鱈目に倒されて足の踏み場も余りない。


 J「これじゃあやっこさんも不利なんじゃないのか?」

 真紅「この荒れ様…ひょっとしたら…」


暗がりの向こうから甲高い笑い声が響いた。見ると暗闇の中で白いモヤのようなものが浮いている。

目を凝らして見ると両手に包丁を持った何やら白い小人のようなモノが宙に浮いていた。その片目には何か光に反射してキラリと光る物があった。


 真紅「やっぱり、ポルターガイストなのね…。」


再びけたたましい金切り声をあげて奴は包丁を振り回しながら襲い掛かる。

足場が不安定な中、真紅は華麗に回避し壁を蹴ってその勢いのままステッキで包丁を叩き落とす。

次に奴は大皿を浴びせるように投げ続けるが真紅は魔力の結晶である花弁をぶつけて悉く防ぐ。

ポルターガイスト、はた迷惑な存在ではあるが人を殺すことなんてそうそうあるものじゃない。

何か嫌な予感がする、その時僕の頭の中に鎌鼬の事件が蘇った。

あの時もそうだった普段は人に害悪をなすはずのない鎌鼬があそこまで暴れまわったのは何かの欠片が背中に刺さっていたから。

そして今目の前にいるポルターガイストの目に刺さっている物。僕の中で一つの答えがはじき出された。


 J「真紅、目だ!ポルターガイストの目に刺さっているもの…あれがきっとアイツを凶暴化させてるんだ!」

 真紅「何ですって!?」


ジュンは倒れた家具の上を器用に飛び移りながらポルターガイストに近づく、目にも止まらぬ速さ、これぞ大盗賊の本領だった。

初めて目にするジュンの本気に流石の真紅も驚いていた。

それ以上に驚いていたポルターガイストには隙が生じジュンは目に刺さってる破片を引き抜く。

ジュンは欠片を見て驚愕する。


 J「こ、これは…」


だがよく確かめようにも家の中は暗いし欠片はすぐに真砂のように崩れ風の中に消えてしまう。

欠片を抜かれたポルターガイストは暫く宙に倒れていたがすぐに起き上がる。意地悪そうな顔は相変わらずだがその手にはもう包丁もなければ敵意もない。


 ポ「な、なんや!?どうして退魔士が此処におるんや!?それもあ、赤薔薇の退魔士やと!?」

 真紅「あら、よく分かったわね。」

 ポ「そらアンタの噂は方々で聞きますからな。というか後生や!討滅だけは勘弁したってぇな!!」


胡散臭い関西弁を喋る奴は両手を顔の前に合わせて命乞いをし続けている。

流石の真紅もこれには当惑していた、白崎の話では構わず討滅しろと言われている。

そうしなければ報酬が貰えない、当然それで食っている退魔士にとってそんな命乞いなど蚊の鳴き声の如く鬱陶しいだけだった。

無論そんなの聞くわけもなく討滅するに決まって…


 真紅「…わかったわ。けれどもこの町から出て行くのが条件なのだわ。」

 J「何ぃ!?いいのか、鎌鼬のときもそうだけどターゲットを討滅しなくても…。」

 真紅「私は無益な殺生が嫌なだけなのだわ。貴方の時と同じよ。」


考えてみればコイツの討伐に3回立ち会ったがコイツは一度も殺しをしていない。この間の鬼のときは巴が止めを刺したので数に入っていないが。

冷たい奴だと思っていたが本当は根は優しすぎるのかもしれない。でも何で退魔士になったんだろう?


 ポ「あ、ありがとうございます。そ、それじゃあ俺はこれで…」


その時だった、ポルターガイストの胸を薔薇の茨が貫いた。

霊体である奴に物理攻撃は効かない、しかしその茨には退魔の力が宿っていた。

胸を貫かれた奴はそのまま煙のように体が徐々に薄くなり完全に消え失せてしまった。

真紅はただ呆然とポルターガイストの居た所を見つめていた、そしてキッと茨が伸びて来た方向を睨む。


 真紅「どうしてこんな事を…出て来なさい!雛苺!!」


誰かの名前を呼んだと思ったら暗がりの向こう側から桃色の退魔のコートを着た少女が現れた。

見た目は少女で油断するかもしれないが真紅にも負けない底知れぬ魔力をその小さな体に宿している。

滲み出ているのは魔力だけではない、無邪気で純粋な殺気にジュンの背筋に悪寒がほとばしった。


 雛苺「うゅーバレちゃったの。でもこれは仕返しなのよ。」


碧色のその目は愉快そうに笑っている、あどけない少女の笑いに心がくすぐられることもなく、彼女の目は相手に恐怖を刻むためにあった。


 真紅「仕返し?」

 雛苺「このあいだ剣泉山に来たでしょー?あそこの鬼とヒナが遊ぶつもりだったのに

真紅が先に遊んじゃったからヒナは遊べなくなったのよ。」

 真紅「…それだけ?それだけのために無害のポルターガイストを殺したというの!?」


真紅の真剣な問いかけに雛苺はケラケラと笑う。


 雛苺「可笑しなこと言う真紅なの、ヒナたち『薔薇の退魔士』にとって魔物はみーんな殺すべき敵なのよ?

    それを殺されてどうして真紅が怒っちゃうのー?」

 真紅「貴方には一度、お灸をすえてやる必要があるみたいね…」


赤いコートの内ポケットから真紅は十字架のようなものを取り出す。

それを地面に向けて投げつけると十字架は破裂する。

中央にはめてあった宝石のような玉石から魔力の波が立ち雛苺を含めた僕達をその魔力で作り上げた空間の中に閉じ込める。

空間発動装置(ディメジョン・デヴァイス)、高位の魔術の力がなければ扱い切れない代物だ。

退魔士達は余りにも激しい戦闘になると覚悟したとき外界から被害を出さないために空間を隔離すると言う。


 J「おい、真紅…まさか『薔薇の退魔士』同士で戦いでもする気じゃ…」


ジュンの問いかけに答えるでもなく真紅はステッキを構えて雛苺に突進する。雛苺は地面から苺わだちを生やし真紅の行く手を遮る。

しかし真紅はもう一つの武器である花弁を正面からわだちにぶつけて力づくで突破する。

雛苺は茨を硬化させ槍のようにしてステッキでの打撃を防ぐ、そして苺わだちから茨を現し後ろから真紅を捕まえようとする。

背後から迫る茨の蛇はあと少しで真紅に触れる、そのところで真紅は十分に引き付けて跳躍してそれを回避する。

茨の蛇は雛苺にぶつかり鋭い棘が雛苺のコートを貫き肉体にもダメージを与える。

跳躍から着地した真紅はよろめく彼女に容赦なく裏拳を腹部に入れて吹き飛ばす。

ものの数分の出来事だった。たったそれだけで同じ『薔薇の退魔士』である『桃薔薇』雛苺を圧倒してしまった。

しかし、それで終る筈もなく雛苺は起き上がる。


 雛苺「うー…ヒナ、諦めないの…負けるのは、嫌なの!!」


最後の攻撃に雛苺はありったけの魔力を開放した。魔力は空間発生装置によって作られた空間を覆いこむ茨へと姿を変えた。

幾重にも重なった茨がまるで数匹もの大蛇の如く鎌首をもたげる。

流石に劣勢となった真紅もまた魔力を開放する。開放された魔力によって空間の空気中の殆どに花弁が舞い散る。

まさしく繚乱…禍々しい大蛇に対し真紅の業は華麗で美しかった。

大蛇が勢いよく真紅に向かって襲い掛かる、だが空間中に舞った花弁が突如、突風を纏い大蛇に直撃して相殺する。

花弁の吹雪は変幻自在で主人を守る楯にも攻める刃にも代わった。

一方、雛苺の大蛇もときに主を守る茨の鎧になり槍にもなる、これが退魔士の中でも至高と呼ばれる『薔薇の退魔士』たちの本気の戦い…。

同じく名を轟かせたジュンですらこの戦いには息を呑むものがあった。

本気になったお互いの実力はまさしく甲乙付けがたく実力伯仲の戦いが繰り広げられている。

攻めては防ぎ、防いでは攻める、このサイクルが繰り返される。

永遠に続くかと思われた戦いだったが終りは呆気なく訪れた。

魔術で作られた、決して外部からは干渉されないはずの空間に静かに皹が入る。

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