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『笑ってはいけないアリスゲーム(3)』
あらすじ
 薔薇水晶にゲームで完敗した僕、蒼星石と翠星石、水銀燈、真紅の4人は
その1週間後に彼女の身内がやっている温泉旅館に招待される。
 でも、それは薔薇水晶が丹精こめて仕掛けた僕らへの罰ゲームだった。
 ルールは駅に着いてから彼女の待つ旅館の部屋まで何があっても絶対に
笑ってはいけないというもの。
 笑ってしまったら、きついハリセンの一撃が待っている。
 笑ってたまるかと思うのだけど……本家『ガキの使い』並に強烈な仕掛けや
笑いの刺客が容赦なく僕らに襲い掛かる。
 果たして、これ以上笑わずに、旅館へたどり着けるのか――

 なお、実在の地名、人名、番組名がもろに出てくるが、当然このネタとは
現実には何の関連が無いことをご承知を。


 車は順調に目的の温泉宿に向かって走り出している。
 やがて、川沿いの道に差し掛かる。
 さすがに源流に近いのか、水の色がかなり澄んでいる。清流とはこういったものをいうのだろう。
 両岸にそびえる山々と温泉旅館、そしてこの渓谷の風景は本当に見とれてしまうと言っても過言じゃない。
 真紅や翠星石、さらには景色とかいうものには無頓着な水銀燈でさえ見入ってしまっている。
 本当に旅に来たことを実感する。

 ――この旅行が罰ゲームという事実を除いては……。

「ちょっとごめん。ラジオつけるけどいいかな?」
 突然運転手さんがそんなことを言い出す。
 だが、断る理由も特に無い。むしろラジオから流れるのんびりした曲を聴きながら景色を楽し
むのも悪くないと思い、それに期待しながらいいですよと答えた。

 運転手がラジオをつけて流れてきたのは……静かなテンポの音楽だった。



「一瞬、吉田照美か今夜が山田のウソ放送が流れると思ったですよ」
「まったくね」
 純粋に楽しもうとした僕とは対照的に、翠星石と水銀燈はラジオから流れる内容にびくびくし
ていたのだった。
 身構えていたのだが、流れてきたのが普通の曲だったので、ほっと胸をなでおろす。
 ラジオでもウソ放送を流して笑かそうとするネタが本家にはあると彼女達は言う。
「美しい景色に静かな曲……素晴らしいわ。これに紅茶があったら最高なのに」
 そんな二人をよそに真紅はすっかり旅情気分を味わっていた。
 やがて、曲が終わり、CMが流れ出す。

『最優秀スーパー集団選抜大会の決勝戦が本日17時より、○○キャンプ場の特設ステージで開催!
練馬が生んだ元祖カリスマ変態集団練馬変態クラブと、幕張が生んだ最強の変態王者吉六会との
一騎打ち!果たして、頂点に立つのはどちらか、乞うご期待!』

 一瞬我が耳を疑った。
 変態対決?



「ふふふふ……」
 真紅がたまらず笑ってしまう。
「言わんこっちゃじゃねえです」
 翠星石がそんな彼女を見てすっかり呆れている。

『真紅、アウト……』
 案の定後ろについていたワゴン車のスピーカーから宣告が流れたかと思うと、僕らの乗っていた
車が急に路肩に寄せる形で停まった。
 そして後ろの車から男達が数人出てきたかと思うと、僕らの乗っている車のドアを開け、
真紅を
外に連れ出す。そして、ハリセンを彼女にお見舞いする。

「痛いわ……」
 頭をさすりながら車に乗り込む真紅。
「やっぱり来たわね、ウソ放送。普通の放送を流して安心した所にこんなのを放り込むなんて……
油断しちゃったわぁ」
 すっかり薔薇水晶の策に感心している水銀燈。
「まったくですぅ。さっきの変態軍団のネタを盛り込むとはニクいったらありゃしねえです」
「変態……ぷぷっ!」
 翠星石の発言になぜか真紅が笑い出す。
「ちょっと、翠星石。さっきの集団の事思い出したじゃない!後で覚えてなさい」
 恨めしそうな目で翠星石をじっと見つめる真紅。
「逆ギレされても困るです」



『真紅、アウト……』
 また車が停まり、真紅が外に連れ出され、ハリセンが振り下ろされる。
 今日で何回叩かれてるんだろ。
「貴女、練馬変態クラブに弱いわねぇ」
「うるさい!その名前は出さないで!」
 必死になって水銀燈に噛み付く真紅。すっかりあの集団が彼女の笑いのツボにはまってしまっ
たのだろう。両手で耳をふさぎながら、大きく首を左右に振っていることからもそのことが窺え
る。

 そんな二人のやり取りを見てため息をつきながら、フロントガラスの先に目をやると道端に
大きなプラカードを掲げた人影がいた。
 大きなリュックを背負った男性ので、身振りからしてどうやらヒッチハイカーらしかったが、
なんか見覚えが……。
「山本の奴じゃねえですか」
 翠星石の言葉に、ようやくそれが誰なのか思い出した。



 JUM君の姉ののりさんに片想いをしていて、ことあるごとに桜田家に告白しにアタックを掛
けているものの、ことごとく失敗している。
 まあ、あの天然ののりさんに何度失敗してもへこたれずに挑戦する山本君の執念にも感心す
るのだが、ついにあきらめて一人傷心を癒すためのヒッチハイクに出てしまったとか……?
 勝手にそんな妄想を膨らませながらも、僕の目は自然と彼が大きく掲げている看板に目が行く。
 最初は距離が離れていてよく見えなかったものの、車が彼に近づくに連れてはっきりと見え
てきて……

『のりLOVE(はあと)』

 はっきりと黒い文字でそう書かれていたのが見えた。




「ぷっ!何ですか、一体!」
 目にした途端に大きく吹き出してしまう翠星石。
 僕も吹いてしまいそうになるが、大きく息を無理矢理吸ってなんとか笑いを抑えた。

『翠星石、アウト……』
 車は丁度山本君の真横に停まる。そして、後続の監視車から男達が続々出てきて、翠星石を連れ出すと、即彼女にハリセンの一撃を与える。
 スパーンという乾いた音が周囲に大きく響く。

「痛えです……。で、山本」
 痛さをなんとかこらえながらも、その痛みの元凶となった人物を思い切り睨みつける翠星石。
「は、はい」
 その当の本人は相変わらず、先程と同じ姿勢のままでありながらも彼女に怯えている。
「あんた何のつもりですか?」
「ち、違うんです。桜田さん」
 足元をガクガク震えさせながら質問の答えになっていない返事をする山本君。
 ていうか、翠星石をのりさんと間違えているし。
「失礼な奴ですぅ!翠星石はのりじゃねえです!」
 当然のごとくキレる翠星石。
 傍から見ていてもこのやりとりは滑稽というよりかは、それ以前に意味不明だった。
 ていうか、山本君はネタでやっているのか、本気でやっているのか……?

『蒼星石、アウト……』
 宣告の声が響くと同時に、なんでという疑問がとっさに浮かんだ。
 思わず、真紅の顔を見る。
「僕、笑ってた?」
「顔が完全に笑い顔になってるわ。鏡を見てみなさい」
 真紅の言っていたことは正しかった。バックミラーを通して自分の顔を見てもすっかり笑い
でほころんでしまっている。
 実を言うと、笑いそうになっていたのだ。なんとか我慢してバレていないだろうと高をくく
っていたのだが、甘かった。顔に思い切り出ていたんだね。
 男達に車の外に連れ出されると、ハリセンをお見舞いされる。

「しかし、貴方そんな看板持って恥ずかしくない?」
 水銀燈が醒めた様子で車から出てくる。僕らとはすっかり対称的だ。
「い、いえ。薔薇水晶さんにここでヒッチハイクをしていたら桜田さんの乗った車が通りかか
ると言われまして……。で、この看板を持っていたら、魂のこもった告白になるからと言われ
まして……」
 見え見えな嘘に騙されるなんて山本君も純粋というか。
 何となく彼が哀れに思えてきた。




「お生憎様。のりはここにはいないわよ」
 真紅も車から出てくる。
「彼女なら大学の友人と沖縄でバカンスを楽しんでいるわ。ちなみに帰ってくるのは1週間後。
なんだったら、彼女から友達と沖縄で楽しんでいる画像が私の携帯に届いているから見てみる?」
「うっ……いや、結構です……」
 今の状態であまりにも非情ともいえる真紅の宣告が彼の心を串刺しにしたのは、反応を見て
も明らかだった。今にも泣き出しそうな顔でがっくりとうなだれる。
「とにかく、今からでも遅くないわ。こんなことしてないでさっさと帰りなさい」
「は、はい……」
 真紅に言われるまま、すっかり落ち込んだ様子で駅の方へ歩き出す山本君。

「危ない!」
 いきなり水銀燈が山本君を道端へと突き飛ばす。
 直後に彼がいた場所あたりにを何か大きな物体が猛スピード落下してくるのが見えて……。



 どおおおおん!!

 それは物凄い轟音と砂煙を上げながら、先の草むらに落下する。
 舞い上がった砂煙のために一瞬目の前の視界が悪くなる。
「ゲホゲホ……ちょっと、何なの?」
「こっちが訊きたいわぁ……けほんけほん」
「煙たいですぅ」
「何が起こったの……ゲホッ」
 僕らは咳き込みながらも、手で砂煙を振り払い、目の前に落下した物体を確認しようとする。

 やがて、砂煙は晴れてきてぼんやりとその姿が見える。

 何か大柄な人のようだが……。

 それはゆっくりと立ち上がると何事も無かったかのようにこちらへと歩き出してくる。




「一体……何?」
「スーパーマン……ですか?」
「違うわ。にしては太りすぎよぉ」
「怪獣?」
 こちらへと近づいてくるそれを僕らはただ見つめるしかなかった。
 少なくとも人ではない。人にしては大柄すぎる。それに髪の毛が無く、丸坊主?
 まったくもって得たいが知れない。

「…………」
 やがて僕らとの距離が縮まるに従ってそいつの容貌がはっきりとしてくる。

 体は……黄緑色。

 腹には……ピンクと黄色の縞模様。

 目は……大きい……しかも何か眠たそうだ。

 口には……2枚の出っ歯。

 そして……砂煙がすっかり晴れてきて……!


「ガチャピン?」

 真紅の言うとおり、そいつは子供達の朝のヒーローである奴そのものだった。
 もっとも背中にはロケットのような機械を背負っていたが。




「ぷぷっ!何でぇ……?」
 目の前のガチャピンの姿に呆然としている僕の横では水銀燈が吹いてしまっていた。
 そいつの出現に困惑しながらも笑ってしまっている。
 そして、案の定。

『水銀燈、アウト……』
 即座にお仕置が彼女に執行されるのを目にしながらも、どうしたらいいのかわからず、僕は
ただその場に立ちすくむしかなかった。
「ガチャピンです……ね?」
 翠星石もおろおろしながら目の前にいるそいつの名前を口にする。

 するとそいつ……の方から年配の男性らしきしわがれた声がした。

『我輩はガチャピンではない。ガチョビンであ~る』

「ガチョビン……ぷっ!」
「あはは……何なのぉ、ホントに」
 訳の分からない展開に吹き出す真紅と水銀燈。さらに翠星石も完全に大笑いしてしまっている。

『水銀燈、翠星石、真紅、アウト……』
 そして、下される罰の執行。


 そんな中、ガチャピン……じゃなくてガチョビンとかいうそいつは山本君のもとへとゆっく
りと歩み寄る。

「な、何ですか!あなたは?」
『怯えることは無い。同士よ、君を待っていたぞ』
「同士って何が何だかわからないのですけど」
 その場で縮こまっている山本君にはお構いなしにガチョビンは彼にゆっくりと手を差し伸べる。
『どうやら雑念を取り払わなければいけないようじゃな……闘魂を注入しようぞ』
 ガチョビンは左手(?)で山本君の胸倉を掴み、そして。
『芸能界の存在意義がわからん!(たなかよしたけ!)』
 聞いているこちらがまったく分からない叫びを上げながら、ガチョビンは右アッパーカート
を山本君に炸裂させる。彼の体は大きく吹き飛んだ。



『君は我が吉六会のホープじゃ。安心するがよいぞ。さあ同士よ約束の地へ行こうぞ』
 ガチョビンは落下してきた山本君の体を受け止めると、背中のロケットのスイッチを入れる。
 ロケットからはとてつもない灼熱の炎が吹き上がり……ガチョビンと山本君はゆっくりと浮
き上がり……瞬時に加速をつけて空のかなたへと消えていった……。

「何だったのかしら……」
「さぁ……」
 僕らは唖然としながら彼らが消えていった空を眺めるしかなかった。
「とにかく行きましょう。日が暮れるわ」
 真紅の言葉どおり、空はすっかり赤くなっていた。谷川連峰の向こう側へ太陽が姿を隠そう
としている。
 僕らは何事も無かったかのように車に乗り込む。
 そして、何事も無かったかのように車は温泉宿へと向かっていった。

                         ―to be continiued―

 (蛇足)今回の友情出演:板垣平松総理@幕張
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