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僕の名前はジュン、聞けば誰もが恐れた大盗賊だ。それが今、何でか鼬の世話なんかをしている。

 J「おい、鎌鼬!何度言ったら分かるんだ!トイレは新聞紙の上だって言ってるだろう!!」
 鎌鼬「キュー…」

落ち込んだ顔をしているがこれでもう10回目だ、流石に僕の怒りも収まらない。

 J「せめて自分で汚した分は自分で綺麗にしろよな、まったく…」
 真紅「随分と仲が良さそうじゃないの。」
 J「 何 処 が だ ! ! 」

コイツは僕の相棒の真紅、こいつ曰く僕は下僕らしい。この鎌鼬だってこいつが預かるとか言っておいて殆ど世話すらしない。偶に餌をやるだけで排泄物の処理やら風呂などは僕に任せっきりだ。
絶対に何時か契約を解いて泣かす、それが今の僕の唯一の動力源だった。


 真紅「それはさておき、そろそろ鎌鼬を帰さないとね。」
 J「やっとか、何処に行くつもりなんだ?」
 真紅「そうね、霊山にでも帰しに行こうかしら。この辺だったら…剣泉山がいいかしら。」
 J「剣泉山?まぁあそこは確かに妥当かもな。」

剣泉山、かつてとある剣士が鬼を討伐し鬼の屍が泉に姿を変えた場所として知られている。別名『鬼屍之山』今では膨大な霊力の集まる大霊穴として退魔士や巫女など様々な者がその地を訪れている。
実は先の戦闘の所為で鎌鼬は霊力が弱まっていたので帰すなら山でも霊穴のある場所がよかったのだ。

 真紅「そうと決まったら行くわよ。支度をしなさい。」
 J「わかった、ってお前わざわざ退魔士のコートを着て行く気かよ。」
 真紅「当然なのだわ、剣泉山と言えば大霊穴のある場所、其処で私も霊力を蓄えておくのだわ。」
 J「今のままでも十分化け物じみてるのにもっと強くなる気かのか…」

刹那、真紅のステッキが僕の脳天に叩きつけられる。悶絶してる僕を尻目に鎌鼬を抱えて真紅は家を出た。絶対にコイツだけは泣かす…ッ!

 J「此処が霊山、剣泉山…?」

其処は異様な邪氣で満たされていた。とても話に聞くような神聖な山とは思えない。取り敢えず麓の住人であろう若い女性に話を聞いてみた。

 J「なぁ、此処が剣泉山なのか?」
 女「はい、その通りで御座います。けれども最近何者かがこの剣泉山の泉を破壊し伝説の鬼を蘇らせてしまったのです。」
 真紅「伝説の鬼…熾鬼、ね。」
 女「その鬼なのですが…先ほど一人の退魔士殿と剣士殿が別々にやって参りまして。討伐に出てから帰って来られないのです。」
 J「ひょっとしたら食われたのかもな、伝説が本当なら並大抵の奴ならまず勝てないだろ。」
 真紅「兎に角、このままじゃ鎌鼬も帰せないから討伐に向かうわよ、ジュン。」

いや、鎌鼬を帰すのは二の次で普通は山のため~とか退魔士の誇りのため~とかじゃないのか?そして僕と真紅は鎌鼬を預けて妖しく紫に光る山の中へと足を踏み入れた。


其処は外観と同じく霧が立ち込め、四方から紫の妖しい光が灯る陰鬱な場所だった。この山に生息しているであろう動物や妖精、または神獣の姿は何処にもなかった。
あるのはただ、今は邪氣だらけとなったこの場を棲家にする邪悪な妖怪のみ。

 J「コイツら倒しても倒してもキリがないぞ!」
 真紅「そうね…イチイチ相手をするのも馬鹿らしいから一気に駆け抜けるわよ!」
 J「そのまま駆け抜けても意味がないだろうが…これだけの大人数に使うのは初めてだが…開眼!!」

僕は魔眼を使いこの場にいる全ての妖怪たちを見た、妖怪たちの動きは緩やかなものとなりその隙に僕と真紅は一気に山を駆け上る。
正直能力を使って消耗している僕にはきつかった。朦朧としていると僕は木の根に躓いてしまう。

 真紅「ジュン!?」

馬鹿、なんで立ち止まるんだ!立ち止まっている内に追い抜いた妖怪たちが徐々に追いつく、流石に拙い、僕は再び目にありったけの魔力を注ぎ込もうとする。
真紅はステッキを構えた、その時だった、木々の間から人影が僕等と妖怪どもを隔てるように飛び出し妖怪たちを赤色に光る刀身を持った日本刀で薙ぎ払っていった。
やがて全ての妖怪が斬り伏せられ屍の山の上に袴姿の剣士は返り血を浴びながら佇んでいた。

 真紅「貴女は…?」
 「貴女たちこそ何者?まさかとは思うけど魔物が化けていないよね?」
 J「失礼な!僕は確かに魔物に分類されるかもしれないけれど…こっちの方は歴とした退魔士だ。」

それでも信用ならないのか剣士、それも驚いたが女、は僕と真紅をジロジロと見ていた。
やがて剣士の視線が真紅のコートにある十字架に巻きつく赤い薔薇の紋章に止まった。




 「成る程、赤薔薇の退魔士殿でしたか…私の名前は巴です。霊験あらたかなこの霊山へと足を運んだところこのような事態だったので山で妖魔の討伐をしていました。」
 真紅「私の名前は真紅、そしてこっちの男は私と契約を交わした者、ジュンよ。」
 巴「ジュン…あの『魔眼の大盗賊』の?」

ああ、懐かしい、昔はそんな風に呼ばれて恐れ戦かれていたのに…。
退魔士の飼い犬風情に成り下がった自分を見たら昔の僕は何て言っただろうか?

 真紅「ええ、今では使い勝手のいい下僕、もといパートナーだけれどもね。」
 J「そんなことよりも、巴だったか?例の伝説の鬼の居場所は突き止めたのか?」
 巴「いいえ、まだ、けれどもこの霧がどうやら熾鬼への道を阻んでいることは間違いないわ。この霧を発している元凶を止めれば…」

霧の元凶…、確かにこの霧は普通じゃない、何か方向感覚を狂わせ時間すら曖昧にさせている気がする。
真紅はコートのポケットを漁り出した、何が出て来るかと思えば金の意匠の施された扇子だった。

 J「おい、そんな扇子でどうするつもりだ?扇いで霧を吹き飛ばそうってのか?」
 真紅「その通りよ、この扇はシナツヒコノカミという風の神の加護を受けた扇、霧を追い払うぐらい不可能じゃないわ。」

彼女が扇を扇ぐととてつもない突風が吹き荒れこの紫色に光る霧を空の彼方へと吹き飛ばした。
やがて、同じ霧が少し遠くから立ち上り始めている。

 真紅「あそこに霧の元がいるみたいね。行きましょう。」
 巴「流石は赤薔薇の退魔士…こうも容易く霧を払い除けるとは…」

確かに今のは凄いけど普段はぐーたらなただの女の子なのにな…。しかし、其処までコイツの名は有名だったのか…。
シナツヒコノカミの扇と言えばその辺で手に入る代物ではない。あれは所謂、神器の一種だ、それを持ってるなんてどんな後ろ盾を隠してるのやら。

そうこう考えている内に僕達は黒い小さな泉に辿り着いた。此処があの大霊穴かと思ったがそれにしては小さすぎる。
泉の向こう側には黒い塊があった、それには大きな口のようなものがパックリと開けられその中から例の霧がもくもくと出ていた。

 J「あれが霧の元凶?取り敢えずぶっ壊してみるか!」
 巴「あ、待って!あれは…」

巴の制止も聞かずジュンは黒い塊へと殴りかかる、だが黒い塊は見た目からは想像できないが俊敏な動きでそれを回避し突進して来る。
僕は真正面から右手で正拳突きで逆に黒い塊を吹っ飛ばす、すると黒い表面が一部分だけ剥がれて何か白い肌と緑色の刺青のような隈取が露わになった。

 巴「やっぱりそうだ…ジュン殿、それはこの山の神獣で山の神の化身だ。殺してはいけない!」

神殺しは大罪、魔物を討伐するのとは訳が違う。例え悪神だろうと殺せばたちまち『呪』をかけられ命が削られてしまうだろう。
神の『呪』とはその神自身がかけるのではなくその神を信仰する人々の想いの強さから来る。つまりは死霊の呪いではなく生霊の呪いなので祓ってもキリがないのだ。
それ故に信じる者の多い神クラスの存在には誰も手を出せない。有名どころで言えば神に逆らった堕天使ルシファー、ゾロアスター教の悪の化身でもあり神でもあるアーリマン、絶大な妖力を誇る金毛九尾、エジプトの悪の神セト、などがいい例だ。
無論それは土地の神も例外ではない。

 J「けれどもどうするんだ?このままじゃあ一生鬼の所には近づけないぞ!?」
 巴「私の刀、『祓浄女之刀』(ハライノシズメノタチ)ならばあの黒い呪縛を祓うことが出来る筈…二人は私の支援をお願いします。」





 真紅「了解したわ、貴女の剣技見せて貰うのだわ。」
 巴「ええ、剣士、柏葉十兵衛巴…参ります。」

頷いた巴は猛然と今は暴れ狂う獣と貸した神獣に立ち向かう。
獣は口から毒気を帯びた霧を吐き出したかと思うと真紅が魔力の結晶である赤い花弁を放ち、霧を押し返す、逆に毒霧に当てられた獣はよろめく。
その瞬間に僕は魔眼を発動させて獣の動きを遅らせる、やがて自分の間合いに獣を捉えた巴は跳躍し獣の真上からその赤く美しく光る得物を突き刺した。
刀の刺さった背中から黒い膜のような呪縛に亀裂が走り、やがて砕け散った。其処には美しい白毛をした深緑の隈取を持った猪のような神獣の姿があった。

 猪「おお、人の子と人ならざる者よ。礼を言うぞ。
   我はこの山に身を寄せ世を見下ろしはべる神の御使いなれど禍々しき悪鬼により力を封じられておったが主等の働きによりて目を覚まし申した。
   今こそ悪鬼めを滅ぼすべく我は立ち上がらん!!」
 J「ちょ、ちょっと待て、お前が倒されたら洒落にならん!此処は僕等に任せてお前はこれ以上妖怪が出ないように山に結界を張っておいてくれ。」
 猪「主等が彼の悪鬼を倒すと申すか?されど今の主等では倒すことなど努々叶うまい。」
 真紅「それでも私達はその悪鬼を討伐するためにこの山に足を踏み入れた、その決意は揺らぐものではないわ。」

一歩進み出て真紅が進言した。神獣はじっと真紅を見つめるが彼女は物怖じもせずその偉大なる神の御使いの瞳を真っ直ぐに見返した。

 猪「承知した、主等に任せよう。この山に隠されし秘宝を授けよう。」

神獣の牙が折れて巴の剣に吸い込まれるかのように宿った。彼女の佩びる刀から眩い神聖は光が放たれる。

 猪「我が力をその刀に移した悪鬼に止めを刺す時にその刀を使うがよい。それでは主等に武運長久を祈りはべる。」

それだけを言い残して神獣は霞のようにその姿を消した。



そして光の道が現れ山の頂へと伸びていく。僕等はその光の道を歩き頂へと駆け上った。其処には先ほどの泉と同じく黒い水溜りがあった。
水溜りへ近づくとその中から禍々しい妖気と共に漆黒の皮膚をした旨に勾玉を持った巨大な鬼が現れた。そう、奴がことの元凶、伝説の鬼、熾鬼だった。

 熾鬼「貴様等か、儂の領域を踏み荒らす悪餓鬼どもはぁ!!」
 J「どっちが鬼だよ、大人しく僕達に討伐されろ!!」
 熾鬼「舐めるな、たかだか数百年しか生きておらぬ小童めが!!」

熾鬼はその鋭い爪でジュン達に襲い掛かる、それぞれ散開し熾鬼を取り囲んだ。
まずこの中では一番俊敏であるジュンが熾鬼の前に躍り出る、熾鬼は爪を突き立てて拳を振るがジュンは風を踏み、身を翻して拳の上にのりそのまま腕を駆けて熾鬼の巨大な頭に渾身の蹴りを入れる。
よろめく熾鬼の足に真紅はシナツヒコノカミの扇を扇ぎ熾鬼を転倒させる。
崩れた熾鬼の体から跳躍したジュンは熾鬼の腹部に向けてレイドアタックをけしかけ鬼の腹に重い一撃を加える、完全に無防備になった鬼の目に巴は神獣の力の宿った得物、『祓浄女之刀』で斬りつける。
苦痛に叫喚する鬼は体を大きく震わせて上に乗っていた巴を振り落とした。視力のなくなった奴は見境もなしに地団駄を踏むかの如く暴れ回る。

 真紅「拙いわね…これじゃあ止めを刺すどころじゃないのだわ。」
 J「何のための僕だと思ってるんだ?開眼!!」

限界に近い体を押して僕は今回最後になるであろう魔眼の力を使う。熾鬼の動きはとても鈍くなり止めを刺すには十分の余裕があった。

 J「今だ巴!!熾鬼の胸の勾玉にその刀を突立てろ!!」
 巴「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」

勢いを得てから刀を突き出して跳躍した巴は弾丸のように熾鬼の勾玉へ向けて一直線に跳ぶ。やがて得物である『祓浄女之刀』から激しい稲妻のような光が放たれ熾鬼の勾玉に突き刺さるだけでなくその巨大な体を完全に貫いた。

 熾鬼「ば、馬鹿なぁぁ…こ、こんな人間の小娘如きにぃぃ…」

最後の断末魔を上げて鬼は再び屍に戻り泉の中へ沈んでいった。



黒い泉からとても澄んだ光る水が高く天に衝き上がりその光り輝く聖なる水は山全体へと降り注いだ。
やがて山の邪氣は完全に祓われ以前の美しい山以上の霊力で満たされた。

 J「やったな、巴!」
 巴「う、うん…し、しかしジュン殿がいなかったらどうなってたか…。」
 J「いいや、僕と真紅だけだったらきっと熾鬼は倒せなかったよ。」
 巴「そ、そうかな…」

先ほどの勇ましさは何処へやら、巴は何故かソワソワしていた。それを見ていた真紅の胸中は複雑で討伐には成功したにも関わらず何故か面白くなかった。
何故かジュンが巴に優しくしているのが気に入らなかったので真紅はその辺に落ちていた石をジュンに投げつける。石ころはジュンの頭に直撃した。

 J「あっつ!な、何するんだよ!?」
 真紅「別に…ただ貴方に石をぶつけたくなっただけなのだわ。」
 J「答えになってねぇ!?」

結局、山を元通りに直した僕等は疲れ果てて麓の村まで戻り鎌鼬を剣泉山に帰して当初の目的は果たしたのだった。

 「うゅー…先を越されたのー…森で妖怪どもを皆殺しにしてたらもう終っちゃってたの…」

山の中で一人のただの小さな少女にしか見えない桃色の退魔士のコートを羽織った女が独り言をした。コートの懐から小さなビー玉のようなものを取り出し、中を覗き込む。
其処には先ほどの戦いの一部始終が映像として映っていた。

 「ヒナのお楽しみを奪った悪い子にはおしおきするんだからー!」

無邪気は悪意が僕達の背後に忍び寄っていることなど知る術もなく今日も僕は真紅に扱き使われるのだった。

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