時は第二次世界大戦前夜、彼の悪名高い日独伊三国同盟締結前。
当時、日本海軍は其の誕生が英国海軍を手本にした事もあり、親英的な派閥が大多数を占めていた。
この状況を鑑み、英国と敵対関係に会ったドイツは、敵戦力の分断の為、
ある極秘作戦を発動する事を決定する。
これが、半世紀の時を経て、今尚其の忌み名を轟かす、
『日本海軍メイドさん事件』の幕開けであった!!!
作戦の発動とともに、ドイツ滞在中の若い日本海軍将校たちには、それぞれ小奇麗な屋敷与えられ、
それぞれの屋敷には、現地妻とも言うべき可憐なメイド少女達が割り当てられていった。
若い海軍将校達はその手練手管に身も心も骨抜きにされ、次々と親ドイツ派へとニャンゴロしていく!
ところが其の中でただ一人、度重なる誘惑攻撃にも惑わされず、黙々と我が道を行く若き海軍将校がいた。
彼こそが、我等が期待のエース櫻田淳(秋山淳ではない)海軍中尉である!!
それが彼生来の鈍ちゃんに因るものか、はたまた其の鋭利な頭脳に起因するものか、
それともただのインポだったのかは分からない。
だが、事態を重く見たドイツ当局は、彼に対抗する為、特別の部隊を持って応じる事を決定した。
我々の目からすれば『えー、そんなん一人くらいいいじゃん』と思うかも知れないが、
侮る勿れ。蟻の穴から堤防だって決壊するのである。
油断大敵毛がボウボウ、彼等は変な所で完璧主義者なのだ。
たちまちナチの大物ローゼンベルクの号令一下、全ドイツから見目麗しく
また、彼の性癖がどのようなモノであっても対抗できるように、様々な性格の乙女たちが
あつめられ、一ヶ月の訓練を経た後、其の中から最も適任と思われる七名が選び出された!
彼女達が、『特別選抜日本海軍将校篭絡特殊部隊:薔薇部隊』通称、『ローゼンメイデン』であった!!!
(本来は八名だったのだが、ローゼンベルクの「デコはいらんのだよ、デコは。」の一言で一人弾かれた。
『かしらーーーーーーー!』
ローゼン閣下はデコがお嫌いであらせられるのだ!)
-
政治的な思惑に翻弄されながらも、それぞれの思いを胸に任務に就く薔薇乙女達。
一方、彼の故国では、幼い頃交わした約束を信じ、健気に帰りを待つ幼馴染みの姿があった。
揺れる櫻田中尉の胸中。
運命の糸が絡み合う中で、彼等はそこに、何を見るのか。
美しくも悲しい乙女達の戦いが、今、始まる。
それから暫く、月日は流れて……
其の日、私は朝からうかれていた。
御飯を食べていてもソワソワしてしまっておちつかないし、
両親もそんな私に苦笑ぎみだ。
(はしたないぞ。)と自分に言い聞かせてもみるが、正直仕方ないとおもう。
だって、今日はひさしぶりに兄が帰ってくるのだから。
『ダイジ ナ ハナシ アリ アス カエル』
兄からそんな電報が来たのは昨日のことだった。
兄はこの櫻田家の長男である。櫻田家は900年の歴史をもち、この辺りでは一番の旧家だ。
維新で多少おとろえたとは言え、まだそれなりの格式を保ち、当然躾もきびしい。
私もずいぶんきびしく育てられたものだ。
その次期当主たる兄は、陸軍士官学校を首席で卒業、24歳の若さにして中尉となり、
帝国の派遣部隊の一員として欧州列強の中で一、二の実力を争う独逸に派遣されている。
今まではいそがしかったのだが、なぜか急に上官の許可が下りて帰ってこられる事になったらしい。
「ただいま。」
なつかしい声が耳を打った。
うれしさの余り飛び上がり、誰よりも先に駆けつける。
幾分日焼けした兄がそこに立っていた。
- 「お!雪華綺晶じゃないか。」
(兄さま!!)
破顔する兄に飛びつこうとした私は、そこではたと足を止めた。
兄の後ろに誰か立っている。
「あ、あの……。初めまして。」
おずおずと進み出た人影はそう言ってペコンと頭を下げた。
透き通るように白い肌と艶やかな銀髪、そして紅い瞳。
黒い衣を纏い、絵の名から抜け出して来たように幻想的な雰囲気を携えた少女が、そこに立っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
『……!』
『……から……。』
ふすまを隔てた隣りの部屋で兄と父、そして先ほどの来客が何やら話している。
よく聞こえないので、すぐそばまで行って聞き耳を立ててみるとしよう。
「ですから父上、彼女の事は……」
「嫁入り前の娘を引きつれて歩きまわるなど言語道断!そんな事で次期当主が務まると思うか!」
「ならば雪華綺晶に婿をむかえて後を継がせればよいでしょう?」
「バカ者!ふざけるな!そんな事ができるか!」
父が怒鳴っている。
-
そう、『そんな事はできない』。私は養女で、この家の血を引いていないのだ。
この家にひろわれる前の事はよく覚えていない。
この家の子供は兄だけで、私が養女として育てられたのは……
つまり、まあ、そういうコトなのだ。
「本人にも聞いてみたらどうでしょう?……なあ、雪華綺晶?」
突然ふすまが開き、顔をのぞかせた兄が、こちらを見てニヤリと笑った。
……うぅ…。私の行動パターンはお見通しですか、兄上。
盗み聞きがバレたきまり悪さをごまかすために、プイと立ち上がり兄の膝の上にすわる。
そしてあらためて隣りに座っている不埓なる闖入者を見上げた。
兄はこのヒトのどこがよいのだろう?
兄は優秀な人間ではあるが、まるきりの鈍ちゃんである。
私の魅力にも気づかない位だ。
同じフトンにもぐりこんでも反応ゼロだし、甘えて寄りかかってもウンともスンとも言わない。
それなのに。
この女、どうやって兄をたぶらかしたのか知ら?
もしかしたら、何かあやしげな薬でも使ったのかもしれない。
――おのれ、私をさしおいて小娘め、絶っっっ体に許さんぞ!!!
歯ぎしりしながらにらみつけると、
私の頭をなでようとした敵はあわてて手を引っこめた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「はあ……。親父殿もあんなに怒らんでもいいじゃないか……。」
数時間後。
こってりしぼれれた青年中尉は縁側で涼みながらグチっていた。
そして膝の上に丸くなったネコに話しかける。
「なあ、雪華綺晶。」
「ニャ~~~。」
そう、彼女の名前は『雪華綺晶』。
彼女はネコである。
最終更新:2006年05月02日 19:22