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+++薔薇水晶(6/20AM8:10薔薇水晶自室)+++
薔「ウフ……ウフフ……」
窓からから差し込む太陽の光を浴びながら。私はジュンの腕の中で幸せを噛み締めていた。
目覚ましはとっくに止めてあるから、ジュンはまだ起きそうにない。

(あの後一緒に晩御飯食べて、一緒にお風呂入って、寝るときにまた……なんて幸せなんだろう……)

思えば、朝起きたときに一人じゃないのは生まれて初めてなのかもしれない。

(あ、でも……)

だけど、昨日のこと、そしてこれからのことを考えるとその幸福感にも陰りが見えた。

昨日、校舎裏でジュンが銀ちゃんに、いや、水銀燈に一人で会いに行くと言ったときは本当に驚いた。
確かにあの時点では水銀燈に勝利していた。でもジュンに水銀燈への思いが少しでも残っている間は、ジュンを彼女に会わせるわけにはいかなかった。
私はなんとしてでもジュンを止めたかった。でもジュンに自分を信用していないと思われるのがいやだったので、
しかたなく水銀燈の家へ行く事をゆるしてしまった。
結局それがいけなかった。案の定、ジュンは自分の本当の思いに気付きかけて、いや、気付いてしまった。
私がジュンを見つけるのがほんのちょっと遅かったら、ジュンに会ったのが私以外だったら、もう手遅れだっただろう。
あのタイミングでジュンを見つけられたことを幸運に思った。



今、ジュンは自分の思いに背をむけて私との関係に逃げている。
だがもし、ジュンが自分の思いと向き合ってしまったら……ジュンは確実に水銀燈の元へ行ってしまう。
私は、ジュンが私から離れて他の女の元へ行くのを『よかったね』と笑って祝福することなんて出来ない。
なんでそんなことでようやく手に入れた幸せを手放さなきゃいけないのか。そんなの冗談じゃない……
やっぱり水銀燈の方をなんとかしないといけないのか。

中学生のときの記憶が甦る。
あのとき、水銀燈は、小さい頃からずっとジュンが好きだったと言った。
きっと、私と出会うずっと前から、二人はいろんな思いでを作り、絆を育んできたのだろう。
でもそれはただの過去、二人が仲の良い幼馴染だったというただの記録でしかない。
私にジュンとの思いではあまりない。だけどそんなものはこれから作っていけばいいんだ。
ジュンの過去は水銀燈のものかもしれない。でも、ジュンの未来は、私のものだ。

(どうやったら勝てるの……)

水銀燈とまともに戦っても、私にまず勝ち目は無い。
ジュンにはああ言ったけど、本当はこの関係を水銀燈に隠してくれて内心感謝していた。
もし、ジュンが水銀燈に私と付き合っていることを話したら、まず間違い無く水銀燈と真正面から戦うことになる。それだけは避けたかった。
今、おそらく彼女はジュンを奪った相手を必死に探している所だろう。その目が私に向く前になにか手を打っておく必要がある。
既成事実は作った。でもそれだけじゃ足りない。なにか手は無いのか。二人の絆を断ち切る決定的な手は。



着信音<ブーブーブー

そのとき、私の携帯の着信音が鳴った。私はいつも携帯をマナーモードにしているから、メールが来ても気付かないことがある。
でも部屋が静かだとバイブ音でも結構響くようだ。
私はジュンを起こさないようそっとベッドから出て、メールを確認した。
メールは私が購読しているメルマガだった。

(メール……携帯……そうだ!!)

私は急いである物を探し始めた。

(あった!!)

探し物はすぐに見つかった。探し物は、ジュンの携帯だ。
後ろを確認する。ジュンが起きる気配はない。でも急いで終わらせないと。

(オートロックが掛かってる。暗証番号は……)

私が今からやろうとしていることがとても卑怯な行為だってことはわかってる。
でも、私にはもう手段を選んでいる余裕はないんだ。

(1234……やっぱり違うか。出席番号は……)

元々この勝負は私に勝ち目は無い。だったら勝率を少しでも上げるために打てる手は全て打っておこう。

(だめかぁ……だったらこれは……)

ジュンを手に入れるためなら私は、どんな悪いことだって出来る。

(やった!!当たった!!……ジュン、これからは誕生日を暗証番号にしちゃダメだよ)

最大にして最後の障害をクリアした私は作業を進めることにした。もう引き返すことは出来ない。


+++水銀燈(6/20AM8:07通学路交差点)+++
(ありえないわぁ。あの子に限って……)

(でも、それじゃあなんで二人はまだ来ないの?)

(やっぱり薔薇水晶が……でも……)

私は今、自分の中にある幻影の薔薇水晶と闘っていた。
ジュンの次に大好きな薔薇水晶に裏切られるなんて、絶対にないと信じたくて……
けど、考えれば考えるほど、想像はどんどん悪い方へ傾いていく。
私は薔薇水晶が犯人でないと信じている。だけどもし薔薇水晶が犯人だっだとしたら私はどうすればいいんだろう?
もし、他の子が私の立場なら自分の気持ちを隠して二人の幸せを応援してやるのだろう。
だが現実の、今ここにいる自分は、とてもそんなことは出来そうにない。
ジュンが他の女と手を握り合い、他の女と笑いあい、他の女とキスをして、他の女を抱いて、他の女と結婚して……
二人のそんな光景を、自分の想い人が他の女と喜びを分かち合う様を、優しく笑って見守ってあげることなど絶対に出来ない。
それは薔薇水晶が相手でも同じだ。いや、あの子だからこそ余計に許せない。私があんなに面倒を見てやったあの子が、この私を裏切るなんて……

(信じていたのに……あなたを信じていたのに……)

真っ黒に煮えたぎったなにかが、私の心の中溜まっていく。薔薇水晶に対する憎しみが溜まっていく。こうなったらいっそあの子を……

いや、まだ薔薇水晶が犯人だと決まったわけじゃない。二人が来ないのはただの偶然かもしれない。そうだ、ただの偶然に決まっている。
ジュンを盗ったのは薔薇水晶じゃない。そう信じている。

(お願い、他の子であって……)

(私は、あなたを嫌いになりたくないのよ……)

(私は……私は……)


それから少し時間が経った.
大半の生徒はもうとっくに登校していて、人影はまばらになっている。時折いつまでたっても学校へ向かわない私をいぶかしげな目で見る人もいた。
二人は、まだ現われなかった。
私は携帯で時間を確認する。時間は8時17分、あと数分でHRが始まってしまう。おかしい、さすがに遅すぎる。
もしかしてこのままサボる気じゃないだろうか?いや、あの子はともかくジュンに限ってそんなことはありえない。
ジュンは今まで学校をサボったことは一度も無い。昔、私が半分冗談で学校をサボって遊びに行こうと誘っても、ジュンは首を縦に振らず、
反対に私が怒られたことがあった。そんなジュンが学校をサボるとは考えにくい。きっと少し遅れているだけだろう。
そういえばジュンは学校の用意はどうしたんだろう?泊まりに行くときに持っていかなかったんだろうか?
もしそうなら制服やカバンを取りに、一旦家に帰ったのかもしれない。
だったらあのままジュンの家で待たせてもらったほうがよかったのでは?

(いまさらそんなことに気付くなんて、私ってほんとにおばかさぁん……)

このままでは自分が遅刻してしまう。私は二人を待つのを諦めて、学校へ行くことにした。

着信音<チャーチャーチャーチャチャー

そのとき、制服のポケットに入れた携帯が鳴った。どうやらメールがきたようだ。
携帯を取りだしてメールを確認する。メールは……ジュンからだった。



082    6/20 08:17
桜田ジュン
大事な話



大事な話?一体なんなんだろう?ジュンは今まで大事な話をメールですることなんてなかった。
だったらなんで今回はメールで?私はメールを開いて内容を確認した。内容は、衝撃的なものだった……





From:桜田ジュン
Sub:大事な話

本文
僕はお前なんて大嫌いだ。ハッキリ言ってウザ過ぎる。
もう声も聞きたくないからもう二度と僕に話しかけるな。



銀「……な……なによ……これ……」

大嫌い?ウザ過ぎる?私は書いてあることが理解できなかった。いや、理解したくなかった。

銀「じょ……冗談でしょう?……あはは……もう、ジュンったら……」

こんなの冗談に決まってる。そうだ、そうに違いない。そういえば他人になりすましてメールを送る方法があるらしい。
きっとあの泥棒猫がその方法を使ってジュンに成りすましてるんだ。そうにちがいない。だってジュンが私にあんなことを書くはずがないもの……

私は未だ震えの止まらない手でジュンに電話を掛けた。ジュンから本当のことを聞きたくて……ジュンに違うって言ってほしくて……




プルル……プルル……

(お願い早くでてよぉ……)

ガチャ

銀「もしもしジュン!私……」

―――この電話番号からの電話はお受けできません……この電話番号からの電話はお受けできません……―――

無機質な応答メッセージが耳に届いた。着信拒否。なんで。なんでこんなことを……

―――もう声も聞きたくないから―――

銀「ジュン……ウソよねぇ」

誰も答えてはくれない

銀「いやぁ……こんなのいやよぉ……」

手から携帯が滑りおちる。ジュンは声も聞きたくないと書いてあった。
だからメールにしたんだろうか。着信拒否になっているということは、つまりはそういうことじゃないのか。
私の心を、絶望が満たしていく……




銀「うああぁっ!!なんでなんでなんで!!!! うわあああああっ!!!!!」

私はその場に泣き崩れた。泣いたってしょうがない。でも泣くしかなかった。
私はジュンに捨てられたのか。ジュンしかいないのに。私のこと本当に見てくれて、助けてくれたのはジュンしかいなかったのに。
それなのにどうして。
さっきまで感じていた憎しみも、復讐心も、どこかに消え去っていた。
今の私の中にあるもの。それは、『絶望』だけだった。

――――――――――――――――――――――
薔「送信完了」

全てを終えた私はそっと元の位置に携帯を戻した。これでいい。これで水銀燈はおしまいだ。
自分が最も愛する人から完全に拒絶される苦しみ、悲しみ、それは耐えがたい物だろう。
他人では絶対に断ち切ることのできない強い絆。だけど、それも本人同士だと、いとも簡単に断ち切ることができる。
後は、彼女が立ち直る前にトドメを刺せば全てが終わる。これでジュンは私だけのもの。
ジュンの寝顔を眺める。穏やかな寝顔だ。それが私を信頼している証だと思うと、心の中が暖かくなる。
ベッドに戻り、ジュンの頬を撫でる。

薔「ジュン、今日もいい天気だよ。でもこの時間じゃ学校遅刻だね。だったら今日はサボっちゃおっか?一日くらい別に良いよね。
  じゃあデートしよっか。何処に行きたい?映画見に行くのもいいよね。それとも公園に行こうか。
  でもこうやってずっと抱き合ってるのもいいな。ふふ、でもそんなに急ぐ必要ないか。
  だってこれからはずーっと一緒だもんね。邪魔する人なんて、もう誰もいないから」
  
今、この瞬間から、ジュンの隣は私の指定席。だれのものでもない。私だけのもの。
私はジュンの胸元へ滑りこみ、そっと口付けをした。
この幸せ、だれにも奪わせはしない。絶対に。



続く

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