ーあらすじー
幼馴染の水銀燈に告白されたジュン。しかし水銀燈を幼馴染以上に見られないことを理由に、
彼女の思いを拒絶した。だが今の関係を続けたいとも思っていたジュンは、
自分が水銀燈の親友薔薇水晶と付き合っていることはぼかしてしまった。
後日薔薇水晶に今回のことがばれて、中途半端なことはするなと怒られる。
うろたえるジュンに薔薇水晶はこう囁いた。
「私が本当に好きなら水銀燈と縁を切れ」と。


+++桜田ジュン(6/19PM12:55薔薇学園校舎裏)+++
薔「銀ちゃんとさよならして」
J「え………それって……」
薔「意味がわからなかったの?銀ちゃんとは縁を切ってってことだよ」

水銀燈との縁を切れ?そんなこと……そんなこと……

J「そんなこと……出来るわけ……ない」
薔「そう、なんで?」
J「水銀燈は僕の大切な友達なんだ……だから縁を切れって言われても……」
薔「あ、そう。じゃあ私たちもう別れよう。さよならジュン」

薔薇水晶はそう言うと、僕に背を向けて来た道を戻り始めた。
僕は慌てて引き止めた。

J「待ってくれよ薔薇水晶!別れるってどういうことだよ!!」

薔薇水晶は振りかえると僕に言った。

薔「だってジュンは銀ちゃんのことが好きなんでしょ?」
J「違う、僕が好きなのは薔薇水晶だ!!」
薔「だったらなんで銀ちゃんとさよなら出来ないの?私が好きなら出来るはずだよ?」
J「だからそれは……」
薔「……ジュンも私を置いて行くの?」
J「え?」

そう言った薔薇水晶の表情はひどく寂しげな物だった。

薔「私……不安なの……銀ちゃんにジュンを取られちゃうんじゃないかって……私を捨てちゃうんじゃないかって……」
J「薔薇水晶……」

薔薇水晶は涙を流しながら言った。

薔「私にはもうジュンしかいないの……だから……だから……」

ああ、そうか。やっとわかった。薔薇水晶がなんであんなことを言ったのか。薔薇水晶は繋がりを失うのが恐いんだ。
薔薇水晶には家族が居ない。母親は彼女が生まれてすぐにこの世を去り、父親は彼女を省みずに仕事に没頭し、
もう五年以上も家に帰っていないらしい。それに加えて周囲からイジメにあい、友達も出来なかった彼女は、
今までの人生の大半を一人で過ごしてきた。それはどんなに辛いことだっただろう……。
家に帰っても家族はいない。周りは全部敵だらけ。そんなのに僕は耐えられない……。でも薔薇水晶は、
僕に会うまでずっとその地獄に耐えてきたんだ。薔薇水晶からその話を聞いたとき、
僕は彼女を守りたい、彼女の力になりたいと、心から思った。

J「薔薇水晶……」

僕は泣いている彼女をそっと抱きしめた

J「僕は君から離れない。ずっと側にいるから」
薔「ジュ……ン……」

薔薇水晶は僕を抱きしめ返してきた。そのまましばらくの間僕たちは抱きしめあっていた。

薔「…ねえジュン」
J「なんだ?」

薔薇水晶は僕から離れた。

薔「私……今のままじゃダメなの……ジュンが銀ちゃんや他の女の子と仲良くしてるのを見てると、
  胸がすごく苦しくなるの……それから心の中に黒いどろどろしたものが溢れてきて、
  頭の中で声が聞こえてくる…『あいつらを消せ、そうすればジュンはお前の物だ』って」
J「………」
薔「今はまだ抵抗できるの。でもこんな関係を続けてたらいつか『声』に抵抗出来なくなって、
  ジュンや銀ちゃんにとりかえしのつかないことを……そんなことになったらみんな悲しむし、
  私だって悲しいの」

彼女は本気で僕を愛してくれている。僕のために一人で悩んで……傷ついて……

薔「だから、ついあんなこと言っちゃった。ジュンが銀ちゃんと縁切ってくれたら、もうあんな『声』
  聞こえなくなるんじゃないかって……。でもそんなの私のわがままだよね。そんなことのために、
  ジュンに銀ちゃんとの縁を切らせようなんて……私、最低だね」

薔薇水晶はそのまま黙り込んでしまった。僕は、彼女に掛ける言葉が見つからなかった。
こんなときはなんて慰めたらいいんだ……

薔「……あんなこと言っちゃったけどね。私はジュンも銀ちゃんも大好きなんだよ。二人とも大事な人だから
  傷つけたくないの……傷つけるくらいなら私が二人から……離れるから……」
J[えっ?」

薔「私がいなくなったら全部解決するの。ジュンと銀ちゃんはいつも通り仲良くできるし、
  私も変な嫉妬はしなくなる。オールオッケー万々歳だね。」
J「まてよ!そんなことしたらお前また一人になるんだぞ!ほんとにそれでいいのかよ!!」
薔「私?私はいいから。だって一人はなれてるもん」

薔薇水晶は笑っている……

薔「一人ってね、慣れたら結構楽しいよ?なんでも好きなこと出来るし、なにしても怒こられないし」

涙を流して笑っている……

薔「だからね、ジュンはなにも心配しなくていいんだよ?私なら……大丈夫だから……」

僕はそんな彼女を……

ぎゅっ

薔「え……?」

心から守りたいと思った

J「大丈夫なわけないだろ……」
薔「え……ジュン?」

僕は薔薇水晶を抱きしめた。体の震えが止まるように強く。でも痛くないように優しく。

J「そんなにメソメソ泣きながら大丈夫だって言われても全然説得力ないんだよ」
薔「……ごめん」
J「謝るなよ」

謝らなきゃいけないのは僕のほうだ。薔薇水晶がどんな気持ちで居たのか、どんなに苦しんでいたのか、
今の今まで気付かなかったなんて……恋人失格だ。

J「僕はお前が好きだ。お前が泣いているならその涙を拭ってやりたい、苦しめるものからは守ってやりたい、
  それに、お前が望むことなら僕がなんだってかなえてやる」
薔「それって……まさか……」
J「ああ……」

―――薔薇水晶と水銀燈。僕は二人を天秤にかけて――――

J「水銀燈と縁を切る」

―――薔薇水晶を選んだ――――

薔「ゴメン……ジュン……ゴメンね……私のせいで……」

薔薇水晶は僕の胸に顔を埋めると、体を震わせながら静かに泣き始めた。

J「いいんだよ、薔薇水晶のせいじゃない」

―――――『ジュン』――――――

一瞬水銀燈の悲しげな顔が頭に浮んだ。でもすぐにそれを振り払った。
忘れないといけない。だって、僕は薔薇水晶の恋人なんだから……

+++薔薇水晶(6/19PM1:05薔薇学園校舎裏)+++
私は今、最愛の人に抱きしめられて涙を流している。でもこれは悲しみの涙じゃない。
その証拠に今の私の心の中は勝利の喜びで満ち溢れていた。

(勝った……私は銀ちゃんに勝ったんだ……)

そう、すべては私がジュンを銀ちゃんから完全に自分の物にするための作戦だった。
銀ちゃんがジュンにフられたせいで、今二人は距離を置いている。でもこれが一番危険だった。

――――離れたからこそ見えてくるものもある―――――

――――近くにいないからこそわかることがある――――

それに気付いてしまったら、もうおしまいだ。
ジュンと銀ちゃんの絆はとても強い。それが今以上に強くなってしまったら、私に打つ手はない。
ジュンを自分の物にするためには、ジュンがまだなにも気付いてなくて、銀ちゃんがいない今しかなかった。
……正直かなり危なかった。一歩間違えればジュンが銀ちゃんのもとへ去ってしまう危険性があった。
それでも私は勝った。あの銀ちゃんに!いつも私の前を行って、背中を眺めることしか出来なかった銀ちゃんを
初めて追い抜くことが出来たんだ!!私は最高の形で勝利したんだ!!

ごめんねジュン。さっきジュンにちょっとウソついちゃった

あのね、ほんとは『声』なんて聞こえてないの

アレはウソ、真っ赤なウソ 

でもね、ジュンのことが大好きなのはほんとだよ

ジュンは私の初めてのお友達

私のことを弄ぶために友達のふりをして近づいてきた人は何人も居た

でも私のことを本当に思ってくれたのはジュンだけだった

私のことを心配して、あいつらから守ってくれたのはジュンだけだった

私はあなたが好き、大好き、狂いそうになるほど愛してる

だからね、ジュンが私のことを好きだって言ってくれたときは本当にうれしかったんだぁ

私を守ってくれたジュン 側にいてくれたジュン 銀ちゃんの思いを知っても私を選んでくれたジュン

これは神様がくれたチャンスなんだ。やっと私も幸せになれるんだ

………だから私からジュンを奪おうとすることは

たとえそれが誰であっても

絶対に……絶対に許さない

ねえ銀ちゃん……私は銀ちゃんも大好きだよ

でもね、銀ちゃんはジュンに告白したんだよね?私からジュンを奪おうとしたんだよね?

知らなかったっていってもダメだよ。いけない子だね、人のものを取ろうとするなんて

そんな悪い子には……お仕置き……しなくちゃね

私は最愛の人を手に入れた喜びの涙を流しつつ、これから起こることを想像して笑みを浮かべていた。


続く

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最終更新:2006年04月29日 19:32