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平日の昼下がり、空は雲一つ無い。

今僕は三人の女の子と同居している。三人とは大学に入学してすぐに知り合ったからもう二年と少しの付き合いになるが、全員が大学生というわけでもない。同い年は一人だけだ。

吸っていた煙草の火を消し、ベランダからリビングに戻ると同居人の一人である水銀燈がいた。パジャマを着替えもせずドラマの再放送を見ている。

「授業の無い日の大学生は暇そうねえ」

と馬鹿にしたように笑う彼女の前に鏡をもってきてやろうかと思った。25にもなって昼間からテレビにかじりついていることになんの自覚も無いのだろうか。

水銀燈は仕事をしていない。気が向いたら数カ月バイトをしてはまたダラダラした生活にもどる。

「ひとつの仕事を一生続けるってこと、いまいちピンと来ないのよねえ」

出会ったばかりのころそれを聞いた時はなんとなくわかる気がしたが、こんな姿を見ているとただなにもしたくないだけなんじゃないかと思ってしまう。

「コンビニ行ってくるけどなんかいるもんある?」
「コンビニ?何しに?」
「別に。ただすることもないから」
「・・・ほんとに暇ねぇ」
「なんもないの?」
「特にないわぁ。行ってらっしゃい」

画面を見ながらそう答える。どんなドラマなのかと見てみるとテレビの中で女優が泣きながらなにか叫んでいた。馬鹿馬鹿しい。平日の昼間にこんなものを見て感動する人間がいるとでも思っているのだろうか。

「あ、そうそう最近この辺りで通り魔がでるらしいから気をつけてねぇ」

僕は何も答えず部屋を出る。

入学したてのころ、僕はなんとなくあるサークルにはいろうと思い新歓に出てみた。適当な気持ちで選んだサークルだったため期待していなかったが、想像以上につまらない連中の集まりだった。
気付けば僕はその輪からはずれ、たいしておもしろくないことで笑うそいつらをながめていた。

「何がそんなにおもしろいのかしら」

振り返るとそこには背の低い女の子がつまらなそうな顔をして座っていた。

「あなたもそう思うでしょ?」
「誰?」
「同じ一年生かしら。私カナリア、あなたは?一年生よね?。」
「ああそうだよ。僕は桜田JUM」
「そう。ならこんな場所抜け出して二人でどこか行くかしら。退屈すぎて死にそうかしら」

僕らはそこを出て適当な店で飲みなおすことにした。酒が入っていたこともあり話ははずみ、気付けば日付は変わっていた。頭が上手くまわらないほど酔っ払ったころ、真紅と水銀燈に出会った。

「あらぁ、彼女をこんなに酔っ払わせてなにするつもりなのかしらねえ」
「水銀燈、やめるのだわ。ごめんなさい、彼女酔ってるの」

カウンターで隣に座っていた水銀燈が話しかけてきてそれを真紅がたしなめる。

「いいじゃない。あなたたち学生?いいわねえ。私も高校生ぐらいに戻りたいわぁ」
「水銀燈、迷惑なのだわ」

真紅の言葉を聞きもせず水銀燈はその後も話し続けた。普段なら相手にしなかっただろう。だがその日は僕自身ひどく酔っていたせいでなんだかんだで一緒になって飲むことになった。

二人は僕とカナリアより四つ年上で子どものころからの付き合いらしく、今では同居しているらしい

「でもあの部屋二人で住むには広すぎるのよねぇ。家賃も高いし。真紅がいつもお金がないってぼやいてるわあ」
「それはあなたのせいでしょう?さっさと仕事を見つけるのだわ」

このころからフリーターの水銀燈は真紅におんぶにだっこのようだった

「そうだわぁ。もしよかったらあなたたちも一緒に暮らさない?」
「なに馬鹿なこと言ってるのだわ!」
「いいじゃない。きっと大勢で暮らしたほうが賑やかで楽しいわよぉ?」
「あなたの分の家賃が払えないからでしょう?いつもそうやってすぐひとに頼るのだわ」
「はいはい。それで、ふたりはどう?一緒に暮らす気はある?」
「私は構わないかしら!なんだか楽しそうだし。JUMはどうするかしら?」
「別にいいよ。引越してきたばかりだし部屋に愛着もないからな」
「じゃあ決まりねえ。明日家に迎えに行くからとりあえず住所教えてくれるぅ?」

僕はなんの躊躇いもなく住所を教えた。今思えば初対面の相手になんて危険なことをしたのか・・・・・あまりの警戒心の無さにあきれてしまう

「真紅構わないわよねえ?」
「・・・今更なにを言ってもしょうがないのだわ。好きにしなさい」

僕はどうせ酒の席での話だから冗談だと思っていた。だから次の日、ほんとに迎えに来た時は心底驚いた。唖然とする僕を尻目に水銀燈とカナリアは部屋にあるものを手当たり次第ダンボールにつめて車に積み込んでいく。

「この車レンタカーだから急がないと追加料金とられるのよねぇ。先にカナリアの荷物運んでたら思ったより長引いちゃって。さ、乗って乗って」

ダンボールと一緒に車に乗せられ、なにがなんだかわからないうちに水銀燈達の部屋についた。

「空いてる部屋があるからそこ使っていいわよぉ」

あっという間に引越しは終わった。いったい彼女のどこにこんな行動力が潜んでいるのだろう。そんなふうにして僕達四人の共同生活が始まった。

ぼーっとしながら歩いているとコンビニを通り過ぎていたことに気付く。引き返そうと思ったがどうせ用事もないしもう少し先の本屋まで足をのばすことにする。

本屋に入ると見知った顔が目にとまる

「JUM?なにしてるかしら」
「ああカナリアか。用もないけど暇だったからさ。カナリアは?」
「ちょうどバイトが終わったところかしら。今日も疲れたかしら」

やれやれ、僕にはひとりになれる時間もないらしい。まともに本を見ることも出来ず、結局部屋に戻るまでカナリアの愚痴を聞く羽目になった。
(今日はカナリアか・・・・)
僕は同居している三人の愚痴を毎日代わる代わる聞かされる。
黙って話を聞くから丁度いい相手だと思われているらしい。僕の愚痴はいったい誰が聞いてくれるのか。少なくともあの三人の中にはいない。

どうして女の子は次から次へ愚痴ばかり口からわいて出るのだろう。同居してるとはいえ邪険に扱えるほど近しい関係ではなく、かといってその場限りの優しさで凌げるほど遠くもない。実際、この距離感が難しい。
永遠に続くかと思われたその時間から部屋に着くことでようやく解放された。

「ただいまかしら」
「おかえりなさい。あらぁふたりで帰ってきたのぉ?」
「たまたま本屋で会ったからさ」
「本屋まで行ったのぉ?何か面白そうな本あったぁ?」

本なんか見る暇はなかった

「いや、特になかったよ」
「ねえ、今何時かしら?」

冷蔵庫からボルヴィックのペットボトルをだしながらカナリアが尋ねる

「5時半過ぎかな」
「真紅今日ははやいって言ってたけどそろそろ帰ってくるかしらねぇ?」
「じゃあ今日は晩御飯四人分つくったほうがいいかしら?」
「そうねえ。そのほうがいいわぁ」

僕はここに越してしばらくしてからこういう・・・なんていうか所帯じみたやりとりを聞いていると無性にイライラするようになった。

それが何故だかわからない。でもたいしたことじゃない。最近はそういう時はちょっと走ることにした。戻ってきて汗を流し、ぐっすり眠れば朝にはすっきりしている。

まあそのジョギングの回数が増えてきているのは心配と言えば心配だけど。僕は自分の部屋で走りやすい服に着替える。

「ちょっと走ってくるよ」
「また行くのぉ?もう少ししたら真紅も帰ってくると思うからご飯の後にしたらぁ?」
「腹が一杯になったらまともに走れないだろ。7時までには帰ってくるよ」
「・・・・・そう」
「あら?JUMどこに行くかしら?」
「ああ、ちょっと走ってくる」

そう言うとカナリアは露骨に嫌そうな顔をした。

「ちゃんと晩飯までには帰ってくるからそんな顔すんなよ」
「・・・わかったかしら」

彼女はそれでも不満そうだった。気にせず僕は外にでる。

僕はいつも音楽を聞きながら走る。そのほうが考え事に集中できるからだ。


ニワトリをまとめて飼うとその全部に順位がつくらしい。そして一位のニワトリが何か嫌なことがあると二位のニワトリにあたる。二位は三位に、三位は四位にというようにストレスを解消する。

では順位が一番下のニワトリはどうするのか?ただ耐えるだけだ。そして最後には死んでしまう。どこかで聞いたその話について僕は考えていた。

外は曇りはじめた空のせいか暗くなりはじめていた。走っている道にも人通りはほとんどない。

しばらく走ると雨が降り始める。雨は次第に僕の服に染みをつくりそれはあっという間にひろがった。土がむきだしの工事現場のよこを走っていたため、土のにおいがした。

ふと気付くと前から傘をさした女が歩いて来るのが見えた。僕は足元にあったコンクリート片を掴んだ。女は僕に気付いていないらしい。胃が痙攣するような吐き気がする。

女に向かって走りだし、口を塞いで押し倒す。塞いでいた手をはずすと僕は顔をめがけてコンクリート片を二度三度振り下ろす。その音はほとんど聞こえない。聞こえるのはイヤホンから流れる音楽だけだ。イヤホンがはずれかけたのをなおしまた振り下ろす。


どれだけ殴っただろう。女の顔は顎がないように見え、ときどき口の中にゴボッと黒い泡がたつ。
馬乗りになっていた女の体から立ち上がると突然後ろから手首を掴まれた。
雨のせいか血のせいかその手は一度すぽっと抜けたがまたすぐに掴まれる。手を掴んでいたのは真紅だった。

急に引っ張られて女の腹を踏んだらしい。バランスをくずして転びかけた。その拍子にイヤホンが外れ、だらりとたれさがった。真紅は真っ青な顔をしている。腕が震えていたが、それは自分のせいなのか掴んだ真紅が震えているのかわからなかった。

「早くするのだわ!!」

強い力で引っ張られ、僕たちは近くの公園にあったトイレに入った

「まったく・・・びしょ濡れなのだわ」

僕にはその時なにがおこったのかよくわからなかった。

「大丈夫なのだわ。誰もいなかったしここに来る途中も誰とも会わなかったのだから」
「大丈夫なわけないだろ!!あの女の顔見ただろ!?」
「な、なんなのだわ突然!大きな声を出さないでちょうだい」

なんであんなことしたのか聞かないのか?

「・・・その上着は脱いだほうがいいわ」
「やめろよ!!着替えてどうするって言うんだ!!」
「そんなに血がついていては帰れないのだわ!!」

帰る?

「・・・上着、家に持って帰って捨てたほうがいいのだわ」
「さっさと警察でもどこでもいいから突き出せよ」
「聞こえなかった?帰ると言ったのだわ」

どうして?

「・・・あいつらになんて言うんだよ」
「何も言わないのだわ」

何も・・・?

「たぶん二人とも知ってるのだわ」
「知ってるって・・・なんだよそれ!!じゃ、じゃあなんで誰も何も言わなかったんだよ!!」
「知らないのだわそんなこと!・・・言わなければいけない理由もないもの」

なにがなんだかわからなくなった。知っていた?
ふと、出掛けに見たカナリアの顔を思いだす。あれは全て知っている顔だったのだろうか・・・

気がつくと、僕はジャージを脱ぎTシャツ一枚で玄関に立っていた。

「あ、おかえりかしら」
「ただいま。お風呂は沸いてる?びしょ濡れなのだわ」

玄関に立ったままの僕の横を真紅が通り過ぎていく。

「沸いてるわぁ。入ろうと思ったけど・・・風邪ひかれても困るし先入っていいわよぉ」

いつもと変わらないやりとり

「JUMなにしてるかしら?はやく部屋にはいるかしら」

僕は部屋に入る

「JUMもずぶ濡れねぇ。取りあえずタオルでふいたほうがいいわよぉ」
「もうすぐご飯できるかしら」
「カナリアの作るご飯は甘すぎるのよねぇ」
「そんなことないかしら!!」

誰も何も言わない。未だ裁かれもせず、許されもせず、僕は立っていた。
お前には弁解も謝罪もする権利を与えない。そう言われているような気がした。何故か、ひどくみんなに憎まれているような、そんな気がした。
四人の中で一番の癌は僕なのだろう
僕たちの生活は続いていく・・・


fin
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