――――――――――――――――――――


 夢を、見ているのだと思った。だってこれは――何度も見てきた、光景だっ
たから。
 ここに居る時の私は、自分の意思で動いているようでありがなら。その実、
もう既に『何かに囚われた』動きしか出来ない。
 眼の前には、私がずっと好きだった……彼の姿。『今』の私は、彼の部屋の
中に居る。幼馴染の関係を続けてきて、いつも二人一緒であること自体が自然
だった。
 そんな彼が。瑣末な問題(あくまでそれは、私から見ての意見として)により、
学校へ来なくなってしまった中学生時代。私も随分と拒絶されていたけれど、
彼が学校へ通えるようになった直前の時期などは、家に上がれるようになって
いた。

「ねぇ、ジュン」

「――なに」

初めはドア越しに、そしてその内部屋に入り。眼は合わせていないけれど、今
私達は、同じ空間を共有している。

 あなたが来ない学校は、何だかとても味気なかった。学校に行ってない時だっ
て。紅茶を一人で淹れて飲んでみても、寂しいと感じてしまう。ひとえに、それ
は。いつもそこにあった日常が、無かったから。あなたに紅茶を淹れて貰い、そ
の感想を言うことも出来ない。


「特に無理を言っている訳でもないんだから。話くらい、相手になって頂戴」

「……」

彼は答えない。何も、答えない。

「ねぇ、ジュン。寂しいと思っているのは、私だけなのかもしれないけど」

知っている、わかっている、

「せめて……一緒に居て、頂戴」

彼は、

「わたし、……私は、あなたのことが。……好き、だから」


彼は、私の思いに、……応えない。


 そんな、遠いあの日の夢を。今も私は、見続けている。



――――――――――――――――――――――



目覚めるとそこには、見慣れぬ天井。

「……痛、……」

そうだ、私は。昨日は水銀燈と呑みに行ったのだ。酒量が多かったのだろう、
どうやら二日酔いのような塩梅だ。
 喉が、渇く。水が欲しい。

 ベッドサイドを見やると。ペットボトルのミネラルウォーターと、紙切れが
置かれている。何か書いてあるようだ。

『ここは水銀燈の家よぉ。ゆっくり休んでて。そして水分をいっぱい摂ること!』

 彼女が私を運んでくれたのだろう。……迷惑をかけてしまった。
 心遣いに感謝しつつ、水を押下していく。

「ふぅ……」

とりあえず、一息つく。酔いつぶれてしまうだなんて……レディとして、なって
ないのだわ。こうなってしまうと、もう嗜みも何もあったものでは無い。

 風邪を引いている訳でもないのに体調が悪いのは、存外に心地良くないもの。
もう少し眠ったほうが良いかもしれない。

 横になって。眼は瞑らず、天井を眺めていた。白を基調とした内装が、清潔感
抱かせる部屋だった。
 このまま眠ってしまうと、また夢を見てしまうかもしれない。今でもたまに見
る、『あの日』の夢を。


 私の想いは、残念と言うかなんと言うか。その日、砕かれてしまった。若い頃
の思い出と言うか、中学生の癖に告白だなんて、ませた子供だったかもしれない
けれど。私はそれを、告げずにはいられなかった。それは、当時の彼の状態に対
する、同情でもなんでも無く。素直な私の気持ちとして。
 水銀燈に、このことは伝えていない。密やかに、私の胸の中に閉まっておこう
と思ったのだ。
 
『ごめん、そういう事とか……今は考えられないから』

 申し訳なさそうに、彼は言った。彼の精神状態を鑑みるに、自身のメンタルを
調えるだけでも当時は精一杯だった筈。そんな彼に余計な気を遣わせてしまった
と、それだけでかなり私は落ち込んだ。

 私はそれからも、彼の家へ通い続けた。とは言っても、もう彼に恋愛感情とし
ての想いを伝えることは無くて。黙って座っていたり、少し落ち着いている時な
どは、話をしてみたり。勉強も一緒にしたりしていた。
 そうやって私は、彼の"回復"に付き添っていた。想いは届かずとも、彼は大切
な友人。私にとって、無くてはならない存在だったから。


 彼が学校へ通うことが出来るようになって。その事自体、私の功績などでは無
いと思っている。彼の"回復"は、彼自身の強さ故の話。私はただ、彼の傍に居た
かっただけ。
 その後。彼は家へ引き篭もってしまう前のように、私に接してくれた。それは
少し寂しいようで……また嬉しくもあったのだ。
 だから、私も。同じように彼に接した。一緒の高校に行けるように、勉強も二
人で殊更頑張って。そうすれば、当面はまだ……近くに居られる。そう、思った。

「……」

 なんだか眠い。お酒を呑んだ後の睡眠は、ほとんどその用を成さないせいだろ
う。身体がまだ、休息を欲している。

 私はまどろみながら、考えている。こういう夢を見てしまうのは、恐らく私が
未練がましいせい。現に、今も。私はジュンが――好きだ。
 この想いは。きっと、振られたあともずっと続いている。
 だが。それが一体、何だと言うのだろう。どうにかなる訳でもないのに。

 横になりながら、ペットボトルに手を伸ばす。

 ――水銀燈。あなたはジュンに、想いを伝えたの? 付き合っているような素
振りは見えなかったけど……今も、あなたの。想いは、続いているの?

 『私達は、似た者同士なのかもしれない』だなんて。それが、ふたたび眠りに
落ちる前の、最後の思考だった。


――――――――――――――――――――――――


「~~♪……♪~~~~♪」

キュッ、と。鼻歌交じりでシャワーの蛇口を捻り、全身でお湯を浴びる。
お酒を呑んだ次の日は。別に身体にアルコールが残っている訳では無いが、起き
てすぐにシャワーを浴びることにしている。勿論寝る前にも浴びるには浴びるの
だが、なんとなく習慣というやつだった。

 立ち昇る湯気の中、髪の毛も濡らし始めた。長い髪をしていると、洗うのが割
と面倒なのだけれど。今のところ、ばっさりと切ってしまう予定は無い。
 髪を適当にピンで留めておき、タオルで巻く。それから、あらかじめ貯めてお
いた湯船の中に、身を沈めた。

「ふー……」

 朝風呂(とは言っても、既にお昼近い)が気持ちよいなどと言うと、随分親父く
さいのかもしれない。かと言って『一日に二回はお風呂に入る』と表現すると、
それはそれで潔癖っぽい印象になってしまうだろうか。なんとか良さげな言い方
はないものかな。

「……む」

 ちょっと、自分の胸に手をやってみた。最近、ブラのサイズがきつい様な……
まさかまた、大きくなってるんだろうか?
 真紅に分けてあげたい、なんて事は。間違っても本人の前では言えない。後が
怖いから。


――――――


 高校一年の時。修学旅行のお風呂場で一緒になった時、彼女の裸体を一度見て
いる。女の身である私から見ても。本当に白く、美しい肌だと思った。確かに、
胸はちょっと控えめだったが……
 彼女の方はと言うと、何故かこちらにちらちら目線を向けつつ。顔だけはまっ
かっかだった。そして自分の身体を見やっては、『はぁ……』と溜息をついてい
るのだ。

 そんなの、コンプレックスに感じることなんて無いのに。あなたは充分、魅力
的なのだから。
 そう頭ではわかっていたものの。彼女の様子に、私の嗜虐心はくすぐられてし
まったのだった。湯船につかりつつ、私は言う。

「ジュンは、どんなタイプの娘が好みなのかしらねぇ?」

この言葉に、はっとした表情を見せる真紅。

「例えば、身体的特徴で言ったりすると……」

「……」

何も返してこないので、改めて彼女の方を見やった。すると、顔はますます真っ
赤になって。眼はなんだかうるうるしている。
 ちょっと慌ててしまった。確かに少しばかりいじってやろうと思ったけれど、
これは流石に様子がおかしい。


「……本」

「え?」

「この間、本があったのだわ。ジュンの部屋に。ベッドの下を探って見たら、
 案の定あったのだわ!」

ああ……なるほど。彼も健全な青少年だからなあ。というか、声が大きいわ
よ? 真紅。一応他の女子も居るのだから、彼の名誉は守ってあげないと。

「そこに載っていた女のひとが、なんていうか……その……
 む、胸が、大きくて……」

きっと、そんな感じの女性が好みなのだわ。そう言って彼女は、ぶくぶくと湯船
に潜っていってしまったのだった。

「……ふぅ」

私は溜息をつく。それで私の身体をちらちら見ていたのだろうか? 確かに私の
胸は大きいほうだけど。"そういう本"に載っている女性と、彼の好みを直結させ
るのは。いささか短絡にすぎるのではないかと思う。……多分。

 当時の私は、ジュンの存在が"意識"する様になりだした頃。明確に『好き』と
いう感情を持ち合わせていたかと言うと、それは微妙だと思う。まあそれでも、
男の子の中では断トツに話す率は高かった訳で。もっと彼の事が知りたくて、話
がしたいと思ったりしていた時期だった。

 真紅は本の内容にショックを受けているようだけど。そんなことよりも、私は。
彼女が平然と彼の部屋へ上がれている方が、すごいと思っていた。私は、彼の家
に行った事は無かったし。だから、むしろ真紅のほうが羨ましい。

「……あら?」

さっき湯船に潜行していった彼女が、浮上してこない。

「嘘!? ちょっと! 真紅ぅ!?」

 完全に血を昇せてしまった真紅を迅速に救出し、服を着せて。廊下の長いす
に寝かせながら、団扇で彼女の顔を扇いでいる私なのだった。

「ありがとう、水銀燈……」

「どういたしましてぇ」

苦笑気味に返す。本当、いたいけな娘なんだから。見てるこっちがはらはらし
てしまう。
 と、そこに通りかかる人影。

「……何やってんだ? 二人とも」

「あらぁ、ジュン。ちょっと真紅が昇せちゃったのよぅ」

「えー? 旅行だからってはしゃぎすぎだろ、真紅。……泳いでたのか?」

惜しい。彼女は沈んでいたの。……色んな意味で。

「なっ! そんなはしたない事はしないの、だわ……」

語尾が弱くなる。まだ本調子には戻らないだろう。さっきに比べると、大分顔
色は良くなってきているが。

「あー。ちょっと待ってて」

そう言って、ジュンは小走りで向こうへ行ってしまった。変わらず、私は団扇
で扇ぎ続けている。

「……ジュンは?」

額に当てていたタオルを外しながら真紅は言う。

「どっか行っちゃったわよお」

私の言葉に、『そう』と一言返して。今度は顔の上半分にタオルを乗せなおした。

「ねぇ、真紅……別にジュンは、なんというか……グラマーな娘が好み、とは
 限らないじゃない」

「……そう、かしらね」

そうだ、気にしすぎだと思う。タオルで隠れているせいで、彼女の表情は読め
なかった。


「お、いたいた。おーい」

ぱたぱたと走りながら、ジュンが戻ってきた。

「飲み物買ってきたぞ。風呂上りはやっぱこれだろ」

珈琲牛乳。王道ねぇ。流石に乳酸菌飲料は売ってないか。ちょっと残念。

「おい、真紅。どれがいい?」

「つめたい紅茶がいいわ」

「選択肢に御座いません。よってお前は飲み物なし」

「なっ」

慌てて彼女は身を起こした。ジュンも意地が悪い。初めから選択肢は無いんだ
から。

「ペットボトルの紅茶なんて飲めたもんじゃないって。お前が言ったんだろ?
 いいからこれで我慢しろよ」

「……仕方無いのだわ。ありがとう、ジュン」

「水銀燈も、ほら」

「あら、ありがとぉ」


――――――――


 そんな、やりとり。軽口を叩きあっているだけのように見えるけど。ジュン
と真紅は、本当に仲が良い。……あと彼女は、ちょっと素直じゃないなあ、な
んて。そんな事を私は、その時考えていたのだった。


「……」

白崎に話してしまったせいだろうか、昔の事をよく思い出す。そろそろ身体も
ふやてしまいそうだったから、お風呂をあがることにしよう。

 着替えて部屋に戻ると、ベッドではまだ真紅が眠っていた。
 ペットボトルの水が、減っている形跡がある。となると、一度は起きたとい
うことだろうか。
 起こすのも、なんだか悪い。まあ、そのうち目覚めるかしらねぇ。とりもあ
えず私は、彼女が目覚めた時のために。軽めの朝食――や、昼食か――を、作
ることにする。


――――――――――――――――――――


「ん……」

眼が覚めた。時計を見ると、一時三十分とある。とりあえず上半身だけ起こし
てみた。窓にかかっているカーテンから、陽の光が僅かに漏れている。どうや
ら、今は深夜では無いらしい。
 鼻腔をくすぐる匂い。そういえば、ちょっとお腹が空いたな……

「あら真紅、おはよぉ」

水銀燈が、お膳に何かのせながら部屋に入ってきた。

「調子はどう? 頭痛くなってなぁい?」

頭痛はとれているようだった。それにしても、まるで母親のような口ぶりである。

「ごめんねぇ。もっと抑えて私も呑んでればよかったんだけど……」

「いえ、水銀燈。潰れてしまったのは私の責任なのだわ。
 それにしてもありがとう。大変だったでしょう、運ぶの」

あなたの身体は軽いから全然平気よぉ、なんて言って。彼女は笑っている。

「お腹空いてるでしょ? ほら、どうぞ。呑みの次の日は、これが効くんだから」

膳に載っていたのは、和風の食事だった。少な目のご飯と、野菜の具が沢山入
れられているお味噌汁。脂っこいものが無いのが有難い。

「ありがたく頂くわ。……その前に、ちょっと顔を洗ってきても良いかしら?」

「いいわよぉ、タオルは適当にあるのを使って?」

示されて、私は小物が入っているポシェットを持ちつつ、部屋を出た。
 
 化粧はもともとほとんどしていない。だけど、眠ってしまう前に洗顔出来な
かったのが悔やまれる。まあ、昨日の状態ならしょうがないだろう。
 とりあえず顔を洗って(メイク落としは水銀燈のものを少し拝借した)、さっ
ぱり。ポシェットから色々取り出してみたものの、このまま直ぐにメイクして
も"のり"が悪そうだと思ったので、顔を拭いてからそのまま部屋へ戻ることに
した。……というか、殆ど変わらないし。

「いただきます」

お味噌汁が、良い香りを出している。すぐに戻ってきたので、まだ冷めてはい
ないようだった。胃が食べ物を受け付けてくれるかどうかは少し不安だったも
のの、それは杞憂に終わった。ほのかな塩味が食欲を掻き立てて、あっという
間に食べおわる。……ちょっと、行儀が悪かったかしら。

 ご馳走様、と言う私に対し。『お粗末さまでしたぁ』と返す水銀燈。
 シンプルな食卓だったが、美味しかった。水銀燈が料理が上手だということ
は、私の知る所では無かったので少し驚いている。
 対する私はと言うと、料理は得意では無い。一応、自炊を心がけつつ頑張っ
てはいるのだけれど。ちょっと他人に食べさせる段階になると、どうにも自信
が無くなる。水銀燈が、羨ましい。
 料理が出来るイコール、家庭的であるという方式は。短絡的に成り立たせる
ものでは無いのだろうけど、あながち間違っても居ないと思う。最近では男の
ひとも料理する場合が多い様だが。女性の手料理というものは、男性にしてみ
ると結構嬉しいらしい……と、雑誌か何かで読んだような気もする。

 一度、ジュンにクッキーを作ってあげた事があった。出来は……まあ。私の
頑張りほどには、反映されてくれなかった様で。彼の味に対する反応と言えば、
それはあまり良くないものだった。そういった所では、彼は自分の意見を忌憚
なく述べるタイプだから。
 それでも、作ったクッキーは全部食べてくれて。律儀かどうかわからないけ
れど、それも彼の『やさしさ』と言うか……良い所だな、とは思う。

「あら、真紅。何ぼんやりしてるのぉ? まだ調子悪い?」

 食器を洗い終えたらしい水銀燈が戻ってきた。何かを思い出したり考えたり
する時、周りの世界から意識が離れていってしまうのは、私の悪い癖だ。

「いえ、何でもないの。……それにしても。食事、美味しかったのだわ」

素直な感想を伝えておく。彼女はちょっとだけ、照れている様であった。

 それから、暫く雑談をして。内容はと言うと、春物の服や化粧品がどうだと
か言う日常的な事と、後は『トロイメント』についての話など。あの場所に
関しては、私が夜にひとりでお酒を呑みに行く事は無いだろう。彼女はその限
りでは無いだろうけど。ここは自分らしく、お昼の時間にまたゆっくりと紅茶
を頂きに行くとしよう。

 ジュンの話は、……会話にはのぼらなかった。私は意識的にその話をしよう
とはしなかったし。彼女は彼女で、彼について言及することも無く。
 今は『時期』では無いと思う。しかし、そんなことを考えながら。もう何年
も経ってしまい、今話題の本人は日本に居すらしない。
 逃げている訳で無い……と思いたい、私のこころ。だが、彼女の気持ちを確
かめるのが、怖い。私は既に一度、この恋に破れてしまっているから。
 水銀燈は、魅力的な女性だ。ジュンは、彼女のような母性溢れるタイプが好
きなんだろうか。料理も上手だし。

 そう。こんな思考に至って、いつも私は形の無い不安に包まれてしまうから。
彼についての話題を避けてきた。今まで、ずっと。私は……卑怯だ。

 きっと私の気持ちについて、彼女は気付いているに違いない。そこまで半ば
確信していながら。私はそれを、水銀燈に対し言葉として形にしていない。

 『私も、ジュンが好きなの』。

 その、あと一押しすれば出せる筈の言葉は。私のこころの中で、小さな小さ
な棘のようなものに串刺しにされ、何処かで引っかかってしまっている。水銀
燈の恋を、応援するのだと。当時複雑ながらも本心であった筈の言葉を、一
度口にしてしまったあの時から。


「そろそろ帰るのだわ。お邪魔したわね」

「いえいえ。今度は真紅の家に遊びに行くわねぇ」

ひらひらと手を振って、見送られる。帰り間際、昨日の酒代の事について気に
なったので尋ねてみたが、『おごりにしとくわぁ』と返されてしまったので。
その好意を受け取っておいた。

 外へ出ると。自分が思っていたほど、空は晴れていない様であった。油断す
ると、一雨やってきそうな感じ。

「……」

生憎、傘は持ち合わせていない。急いで帰らなければ、いつ気まぐれで空が泣
き出すかわからない。

 だけど何故だか、急いで家路につこうとは思わなかった。
 ゆっくりと歩き始める。空を見上げると、一瞬雲の切れ間から陽の光が零れた
様な気がした。でも、それはすぐに消えてしまった。

 そしてまた、日常は流れていく。日々のかたちは、その時だけのものだ。私が
生きているこの瞬間だけが確かなもの。そんな風に考えるのは、儚いことだろう
か? あるいは、寂しいことだろうか?
 夜に私は『あの日』の夢を見て、今はこうやって目覚めている。

 ゆめは、うつつか。うつつは、ゆめか。

 どちらでも良いなと、最近私は考えている。そもそも、それらを分ける基準など
曖昧なもので、詰まるところ各々の意識の問題だから。

 今の生活を、それなりに楽しく送っている私。
 それを、何処か遠いところでぽつんと独り立ち尽くしながら、眺めている私。

 そのふたつの存在の、どちらかが本物で。どちらかが偽物であるということは、
有り得るのだろうか。

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最終更新:2006年04月25日 03:54