【MADE'N MOOR - 真夜中に訪ない】
知ってる? イチゴダイフク。日本のとってもおいしいケーキ。中にいちご入ってるんだよ! 日本に旅行に行っていたおばちゃんがね、買ってきてくれたの。明日学校に持ってってミミにもあげたいから、忘れたらいやだから、まどのとこにおいといたの。
そしたら、食べられちゃったんだ!
ねずみとかじゃないよ? だって、はこに入ってて、一つ一つふくろに入ってるんだもん。それがね、ちゃんとはこをあけて、ふくろをあけて……ビリビリにやぶいちゃったりとかじゃなくて、ママみたいに上手にあけてあるの……ケーキだけなかったのよ!
あたし、だれか食べちゃったのかと思ってママとかパパとかに食べたでしょう! って言ったら、夜中にオディールが食べたんだろう、ベッドに入って食べたらいけないって言っただろう、っておこられちゃった。あたしじゃない、ってだれも信じてくれないの。
それで学校で、持ってこれなくてごめんね、ってミミに全部話したの。ほら、ミミ日系でしょ? だから日本のものとかよろこぶんじゃないかな、もってこれなかったからがっかりだろうな、って思ったから。
そしたら、それはぜったい妖精よ、ひょっとしたら見たり、つかまえたりできたかもよ、って言うの。あたしね、なるほど、って思った。だって、はこもふくろもちゃんとあけてあったんだもん。
そりゃ、ちょっとはどうかなー? って思ったよ? ミミ、おばちゃんと同じで妖精大好きなんだもん。いっつもそのことばっかり言ってるの。二人とも、うちに来るとおばあちゃんからさいてい一つ、妖精のお話きかないと帰らないんだから。
ミミが作せん立てたの。ふつうはミルクとかだけど、おかしでも出てくるんだったらなにかとびっきりおいしいものならなんでもよさそうね、だから、今日のおべんとうのたまごやきをしかけましょう、って。
あのね、ミミのママのたまごやき、すっごいおいしいの。あまーくてふわふわ。どうやったらこんなのできるの、ってくらい。うちのママのたまごやきは、グリンピースとかにんじんとか入れるからだいっきらい。
それでね……ぜったいでてくるように、ケアンから石もってきちゃおう、って言ったのよ。
知らない? ほら、スクールバスからもみえるじゃない。三つ。あの石でできたおっきいとう。ああいうところは妖精がいるのよ。うちの近くにも一つあって。うちまち外れでしょ。だから西のケアン、まどから見えるの。
知らない……うーん。まぁ、あたしはおばちゃんとかミミとかいて、いっつもいろいろきいてるし。おばあちゃんもね、きかれないと話さないけど、すっごいくわしいみたい。
それで、ミミすぐにでんわして、今日……だから、その日ね。うちにおとまりすることにしちゃった。そういうの、ミミなんでもすぐしちゃうから。ちょっとわがままだよね。
それで、学校から帰ってきたらすぐ西のケアンの行ったの。おばあちゃんは行っちゃだめっていうから、ないしょで、ね。
……ただ石がつんであるだけじゃん、って思うんだけど、やっぱりちょっとこわいよね。あそこ。きっと、どっかから妖精が見はってるのよ。きっとそう。
それで、ミミもあたしもなんだかこわくって、ばーって走ってってケアンの足元のとこからてきとうに石ひろって、ばーって帰ってきちゃった。見せっこしたらね、両方ともすごいきれいな黒い石だった。とがっててつやつやしてて……
……あとで、おばあちゃんからものすっごくおこられちゃった。ちょう本気っぽかった。フェアリーダートって言うんだって。妖精が呪いをかけるのに使うんだって……
それで、夜になったのね。もちろんみんなにはないしょだから、ふつうにあそんで、トランプとか。それで、ねる時間になって。
しかけはね。あたしのお気に入りのバスケットに、たまごやきとひろってきた石入れておくの。あとね、石とってきてごめんなさい。かえします、ってお手がみ。それで、ふたがしまらないようにえんぴつ立てて止めておいて、ひもひっぱるとえんぴつが外れてバタン! っていう。
ミミとおこづかい出し合ってたくさんかってきたコーヒーキャンディなめながら、ふたりでベッドにもぐっちゃって、中からこっそり、じーっと見てたの。
そしたら……きっとゆめだったと思うんだけど……
……あたし、ふわふわういてたの。ちょうちょか何かになったみたいに。で、となりに女の子がいるのよ。ピンクのふくでおっきなリボンの子と、黄色いふくで、おっきなかみかざりの子。その子たちが、妖精だったの!
「この子たちかしら~? いたずらっ子は」
黄色の子につっつかれたの。なによ、って言いかえしたかったけど、ぜんぜん、なにも言えなくって。体も動かないの。ずーっと見てるだけ。
「うにゅー。今日はうにゅーじゃないの」
ピンクの子が、すっごいおっきなバスケットを、せのびしてのぞいてた。それ、しかけたバスケットなのよ。ちゃんとえんぴつはさまってたし、となりにまどべにかざってあるアイビーがあったし。だからね、あたしが妖精みたいにちっちゃくなってたのね。
「うにゅーなんかどうでもいいかしら! たまごやき! たまごやきかしら~!」
って、黄色の子がピンクの子をひっぱって、いっしょにおどったの。あんまり上手じゃなかったな。
「あんたたち」
ってゆびさされた。
「ケアンにいたずらしちゃだめ、っておばあちゃまからおそわらなかったかしら? ごういんな子はきらわれるのよ? ま、今日のところはたまごやきにめんじてゆるしてあげなくもないかしら~」
「うにゅーないの? きのうのうにゅー」
「……ひないちごはちょっとだまってるかしら」
ひょっとして、ピンクの子、イチゴダイフクほしいのかな、っておもったけど、やっぱりぜんぜんしゃべれなくて。で、ちょっと黄色の子がこわぁいかおになって。
「でも、こんなしかけであたしたちをつかまえようなんて、こんどやったらゆるさないかしら? おしゃべりくらいはしてあげてもいいから、こういうのはもうなし。わかったかしら? やくそくかしら?」
うん、って言いたかったけど、言えないから、やくそくします、っていっしょうけんめい心の中でとなえたの。そしたら、なんかそのあいだにピンクの子が
「うにゅっ!」
ってバスケットよじのぼっておちちゃって。黄色の子が
「ひないちご! ひとりじめはゆるさないかしらー!」
ってすごいいきおいでとびこんで。
そのとき、えんぴつに手がひっかかって、バタン! ってとじちゃったの!
それで、目がさめたのね。あたしはベッドの中にいて……まどのバスケット、ふたがとじてるの。でね、ほんとだよ。ふたのところから、ちっちゃな手が見えてるの。バスケット、がたがた動いてて。
ものすごいドキドキした。ミミもおきてて、すごいかおしてて。
「ミミひもひっぱった?」
「ひっぱってない!」
「みた?」
「みた!」
って。あたしたち、あわててまどべにかけよったの、そしたら……そしたらね……
こわかったよ。
ばんばんばんばんばん!! ってすごいいきおいでまど、たたかれたの。レースのカーテンのむこうにね、まっくろでおっきなカラスみたいな鳥がいて、むちゃくちゃたたいてるの。目がまっ赤に光ってて……
さいごに、ばぁん!! ってすっごい音がしてガラスがわれて、とびこんできて……
……で、なんかよくわかんないけど、ベッドの中にいたの。体すっごいあつくて。ママがだいじょうぶ? だいじょうぶ? ってなきながら。
朝ね、ミミとふたりで、まどのところにたおれてて。すっごいねつだったんだって。おいしゃさんにみてもらっても、なんのびょうきかわかんなかったって。
それで……ママはあんまり妖精とか信じないんだけど、おばあちゃんがどうしても、っていうから、おばあちゃんにまかせたら、いろいろおまじないして。
それで、あたし目がさめたんだって。
すっごいおこられたの。お前がケアンから持ってきたのはフェアリーダートだ、それでうたれたんだ、って。おばあちゃんがそれを返して、よくあやまってきたから、治ったんだって。あたしもおきれるようになってから、あやまりにいったよ。
まどはぜんぜんわれたりとかしてなかったみたいなんだけど、あたしのバスケット、ぼろぼろにされちゃってた……なんか、鳥がむしったみたいに。
でね。
ミミとあそべなくなっちゃった。ミミのパパとママ、あたしとあそぶな、口もきいちゃだめだって言うんだって。ミミ、すごいごめんね、ごめんね、って言ってくれたけど。でもパパとママに言われたからって。
わかってるよ。ミミ、あたしのこときらいになったんじゃないって。みんな、ミミのパパとママのせい。だから、こんどケアンにおねがいにいくの。フェアリーダートで、ミミのパパとママをこらしめてください、って。
……ないしょだよ? ぜったい、おばあちゃんにおこられるから。やくそくまもらなかったら、あなたもこらしめちゃうんだから。
- 了 -
BGM:Roger Calvarley 'Crowned by Ivy' ( from "Celtic Misteries II" )