ピンポーン。
チャイムが鳴り一人の少年が玄関にかけていく。
J「ちょっと待って。今鍵を開けるから。」
土曜の午後。今日は授業が午前中で終わり、ほとんどの学生は遅くとも昼過ぎには家に着いていた。
くわえてもうすぐテストがある。直前とはいかないが少しはあせる時期でもある。
彼-JUNもその一人である。
玄関についた彼は鍵をはずして待っている相手を迎え入れた。
J「悪いな柏葉、勉強教えてなんて無理いって。」
巴「そんなことないよ。お邪魔します。」
彼女-柏葉巴ぺこりとお辞儀をしてそういった。
J「かしこまらなくていいよ、姉ちゃんもいないし。」
巴「えっ、そうなんだ。」
だが、幼馴染の二人にとっては別段変わったことでもない。
昔はよく二人で遊んだものだった。
今はそうでもないが。
J「じゃあ僕の部屋でいいか?」
巴「うん、いいよ。」
その返事を聞くと彼は部屋に向かって歩き始めた。

J「とりあえず、古文がわからないんだけど・・・」
巴「古文のどこ?」
J「まずは、ここかな・・・」
そういって開いたページを指差す。
巴「ここは・・・」
さされた文章を見ながら巴は丁寧に教えていく。




そうして2時間ほどたった頃
J「少し休憩にしないか?」
JUNは言った。
巴「うん、そうしよう。」
その発言に巴もペンをおいた。
J「しかし・・・柏葉教えるの上手いな。」
巴「そんなことないよ。桜田君ののみこみがいいんだと思うよ。」
JUNのほめ言葉に巴はぶんぶんと手を振りながら返した。
JUN「・・・なんかこうして柏葉と二人きりで話すのもひさしぶりだな。」
そう、年頃になったせいか二人きりではあまり話すことは少なくなってしまった。
もっとも
巴「そ、そうだね。(それは桜田君の周りにいろいろな子がいるせい・・・)」
この巴の考えの方が主であったが。
今、JUNの周りにはたくさんの魅力的な(少なくとも巴にはそう思える)女の子がいる。
そのせいで巴は悩んでいた。




この恋心について。
小さい頃二人はいつも一緒だった。
一緒にお風呂に入ったことだってあった。
ずっとずっと一緒にいられるって思っていた。
しかし今、そうではなくなってしまった。
たしかに巴はJUNの近くにいる。
違うのは近くにいるのは巴だけではないということだ。
たくさんの女の子がJUNの近くにいる。
それが不安でしょうがない。
いつか二人は別々の道を歩むのではないか。
いや、もうすでにJUNはほかの子と・・・
そう思うだけで胸が締め付けられる。
それに巴はあまり押しの強い方ではない。
この状況を打破できるほどの力もない。
しかし、どうにかしたい。
このジレンマに今、巴は苦しめられている。




J「でもさ・・・」
JUNはそんな苦悩をよそに話を進めた。
J「なんか柏葉と話してると落ち着くんだよな。」
巴「え!?」
進んだ先は巴にとって予想外のことであったが。
J「いやさ・・・他のみんなと騒いでるのもたのしいけど、柏葉と二人で話してる時は落ち着いた気分でいられるんだよ。」
巴「そ、そうかな・・・?(///)」
巴にとってこんなこと言われたのは初めてであった。
しかも大好きな相手に。
そのため巴は真っ赤になってふさぎこんでしまった。
そんな巴を不思議に思いながら
J「あ、そういえば。」
JUNは何か思いたったようだ。
巴「どうしたの?」
巴はきく。
J「せっかく休憩なんだし、紅茶いれてくるよ。」
そういうとJUNは立ち上がった。
巴「こ、紅茶?」
その単語に巴はあまりいい思いはしていなかった。
そして彼はだしてほしくない名前を言った。




J「そう紅茶。近頃、ずっと真紅に入れさせられてさ。自分でもかなり上手くなったと思うんだよ。」
真紅。
巴にとって真紅は友達であったがJUNの近くにいる女性でもあった。
真紅はJUNのことを『下僕』と呼んでこき使っていた。
JUNもお人好しなせいか文句をいいつつもちゃんと紅茶をいれてあげている。
『主人』と『下僕』。
ハタから見ればそうであろう。
でも、時折真紅がみせるあの目。
JUNを見るあの目がそれ以外の感情があることを巴はなんとなく分かっていた。
女のカンというやつだろうか?
とにかく巴は不安でしかたなかったし、紅茶という単語に対してもあまり快く思っていなかった。
だから紅茶なんて別に欲しくもなかった。
巴「いいよ。桜田君も大変でしょう?」
彼女にとってせいいっぱいの否定であったが、
J「そんなことないって、ちょっといれてくる。」
彼にはとどかず、彼は部屋を出て降りていってしまった。
巴「・・・・・・・・。」
残された巴はしかたなく待つことにする。
しかし以外にはやく彼の声が下から響いてきた。
J「葉っぱ切らしてるからちょっと買ってくるー!」
そんな声が聞こえたかと思うとドアを開ける音がして彼はいってしまった。
巴「そんなの・・・いらないのに・・・。」
またしても巴の声はとどかなかった。




巴はさらに長い時間待つことになってしまった。
しかも待った先にあるのは紅茶。
JUNがいつも真紅のためにいれている、紅茶。
JUNと真紅の絆の証。
たとえそれがどんなに小さいものでもそれを見せられるのはいやだった。
それに真紅だけではない。
水銀燈だってJUNにくっついてばかりいるし、・・・それにスタイルも抜群によい。
薔薇水晶とも話があうようだ。
翠星石なんてみれば一目瞭然だ。
他にもたくさんいる。
巴(桜田君は私のことをどう思っているのかな・・・)
ここのところ巴はそのことばかり考えていた。
そしていつも出る結論は一緒だった。
悪い方に考えればきりがないし、かといって良い方も・・・。
答えはでない、それが結論だった。
巴「・・・・・・・。」
ふらりと立ち上がり、巴はJUNのベッドに寝転んだ。
巴(桜田君の・・・JUN君のにおいがする・・・。)
JUNのベッドに寝転びながら巴はなんだか変な気持ちになってきていた。
枕を引き寄せ抱きしめる。
まるでそれがJUNの腕のように。
と、
そこで巴はある違和感に気づいた。




ベッドが平らではない。
何か敷き布団の下にある、そんな感じ。
巴は土台と布団の間に手を入れてみた。
案の定そこから何か出てきた。
出てきたものは・・・ありていにいえばエロ本。
巴(JUN君も年頃の男の子だもんね・・・)
少々驚いたが、なんてことはない。
このくらいの年ならもっていても不思議ではないだろう。
巴はそう考えた。
というよりその中身が気になった。
ベッドの上でそれを開いてみる。
中身はマンガだった。
チープな内容で幼馴染の男女がなんやかんやで終わる話だったが、今の彼女にとってはそれだけで十分だった。
巴(いつか私も・・・JUN君と・・・)
そう考えるとますます変な気持ちになってきた。
そうして巴はその気持ちを静めるために自分を慰めはじめた。
その時
ガチャ
J「紅茶はいったぞー。」
巴「え!?」
最高か最悪か、どちらにしろ絶妙のタイミングでJUNは入ってきた。
J「あっ・・・・・。」
JUNも巴の状態に気づく。
巴(み、みられた・・・JUN君に・・・)




巴は今にも泣きそうだった。
こんな姿を一番好きな人に見られたのだ。
さげずまれたと思う。
軽蔑されたと思う。
巴はベッドから飛び降りるとJUNの横を通り過ぎ部屋を走り去ろうとした。
が、それはできなかった。
J「まって!!」
JUNが巴の手をつかんだからだ。
そのため彼の入れてきた紅茶は勢いよくカーペットの上におちる。
巴「な・・んで・・・?」
巴も驚きを隠せなかった。
しかしすぐにその感情は消えうせた。
目の前にJUNの顔がある。
そのためにさっきの感情がまた浮かんでくる。
巴「け、軽蔑したでしょう・・・。こんな子だったなんって・・・」
巴の目から一筋の涙が零れ落ちた。
J「そんなことない。」
JUNは言ったが、
巴「うそよ!こんな変態な子はいやでしょう!?一緒にいたくないでしょう!?」
およそ巴らしくない姿。
J「そんなことないって。」
JUN言う。
巴「いいから!さっきだっていってたじゃない!他の子といたほうが楽しいって!!私とは・・・」
そこで巴のセリフは途切れた。




JUNが口を塞いだからだ。
その口で。
巴「どうし・・て?」
多少落ち着きを取り戻した彼女はきいた。
J「巴が好きだから。」
ずっと待っていたはずの告白。
しかし、
巴「う・・そでしょ・・・私より他の子といるほうが楽しいって・・・」
その問いにJUNはゆっくりと答えた。
J「たしかに騒ぐのはたのしいよ。でもね・・・一緒にいる時に落ち着いていられる。それが嬉しかったんだ。
 他のみんなにはない。柏葉と一緒にいるときだけしか味わえないものだから・・・」
その答えを聞き巴の目からはもう一つ、雫が零れ落ちた。
巴「私でいいの・・・?何もないような人だけど・・・」
J「柏葉がいいんだ・・・。それにその一緒にいて落ち着くやさしい空気がある・・・」
互いに抱きしめあい見詰め合った後、巴は言った。
巴「じゃあ今から名前で呼んで欲しいな・・・」
J「わかった、大好きだよ・・・巴。」
巴「私も・・・JUN君。」
そうして二人は二度目の口付けを交わした。


fin

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最終更新:2006年04月14日 20:43