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不安、それは誰しもが持つもの、弱い自分が作り上げた恐怖のそれ。

不安を包み込むもの、それは弱い自分すら包み込む他者の愛のそれ。

これはそんな不安に打ち勝った二人の愛の形…。

目覚ましのけたたましい音に頭が痛くなる思いで真紅はベッドから起き上がる。

大きめのダブルベッドの中にまだ幼さを残した寝顔のジュンがいた。

この光景を見るたびに真紅は実感した、私たちは結婚したのだと…。

高校から出会った二人は紆余曲折ありながらもめでたくゴールインした、最初は色々とあったが今では傍目から見ても夫婦仲は良い。

ジュンは普通のサラリーマンで真紅は専業主婦で今日の真紅の朝は夫の朝食を作ることから始まる。

因みに真紅は和風料理が苦手だった、帰国子女である彼女にとって朝食と言えばトーストに紅茶(コーヒーにあらず)にサラダにフルーツと決まっている。

しかしジュンは日本で生まれ日本で育った純和人だったのでその辺の衝突はないこともなかった。

その妥協案が毎朝交代で朝食を作ることだった。最初はジュンも納得いかなかったようだが今ではすっかり手馴れてしまっている。

トーストをトースターに入れ野菜と果物を包丁で切る、そう言えば卵があったから今日は目玉焼きでも作ろうと思い冷蔵庫から卵を出しフライパンに油をひいて熱する。

そのうちにジュンがベッドから這い出てきた。

 J「ふぁ…おはよう真紅…」

 真紅「おはよう、ジュン、朝食はまだだから顔でも洗って来なさい。」

返事の代わりに欠伸で答えてジュンは洗面台へ向かう、朝起きて真紅が家にいることが、胸がくすぐったくなるぐらい嬉しい。

最初はジュンも結婚には少なからず不安を抱いていた、高校生や大学生で付き合うのと結婚とは想像以上に違いがある。

彼氏、彼女の関係だけならばお互いの嫌な部分は『眼を瞑れば見えない』、しかし結婚となると話は別だ、例え眼を瞑っても露骨に相手の嫌な部分が見えてしまう。

ジュンは自分にあまり自信がなかった、真紅に嫌だと思われるようなところを見られて幻滅されたくない。

だがそれはただの杞憂、主観的にしか見れなかった浅はかな考えでしかなかった。

真紅はこんな僕を毎日見ていても毎朝微笑んでおはようと言ってくれる。僕のすべてを見て、聞いて、触れて、感じてくれる。

高校生の頃の彼女からは考えられないほど彼女は大きくなったのだとジュンは感心していた。

クラスに馴染めずに悩んでいたり大好きな先輩が卒業したときにお別れを言わずに逃げ出してしまったり…

何時の間にか真紅は僕よりも大きくなり逆に僕を包み込んでくれていた。

嬉しいような、淋しいような…まるで真紅の親のような気持ちになってしまっている。

顔を洗い鏡の向こうにいる自分を見つめる、僕は成長できたのだろうか…鏡の中の自分に問いかける。

けれども答えは返って来ない、まるで自分で答えを探せと言わんばかりに。

忌々しい鏡の中の自分に一瞥をくれて真紅の待つリビングに向かう。

 J「おお、今日はスクランブルエッグもあるんだな。」

 真紅「え、ええ…召し上がれ。(目玉焼き作ろうとして黄身が割れたなんて言えないのだわ…)」

多少真紅の表情がひきつっていた気がするが朝なので余り思考の働いてない僕は気にせずにバターを塗りスクランブルエッグを乗せたトーストを頬張る。

時間を見ると余りゆっくりしていられない、熱い紅茶にミルクを入れて冷まし口の中のトーストを一気に流し込む。

 J「お先にご馳走様!」

食器を洗い場に置いて部屋に行きすぐにスーツに着替えて鞄を引っ掴み玄関に向かう。

急いで靴を履こうとする、けれどもそんな時に限って革靴が固く感じられてこずる。

その間に真紅が玄関まで見送りに来てくれた。悪戦苦闘の末、靴を履き終えた僕は立ち上がる。

 真紅「ちょっとジュン、ネクタイが曲がっているわよ?」

 J「え?」

真紅のか細く綺麗な指が僕の首筋に向かいネクタイを締めなおす。

自然と僕と真紅の距離が縮まる、お互いに向き合い少し躊躇い勝ちに僕は真紅の顔を引き寄せた。

朝から何をやっているんだと自分の行動を非難したがそれでも僕は真紅から離れようとしない。

真紅もまた僕の首に手を回して来る、受け入れてくれたことが本当に嬉しかった。

やがて満足した僕は熱い抱擁を解く…真紅は真っ赤になりながらバカと言った。

 真紅「つ、続きは夜にしてさっさと仕事に行きなさい!」

 J「わかった、それじゃあ今度こそ行って来るよ。」

玄関のドアを開けたら其処には明るく晴れ渡った朝日のまぶしい青空が広がっていた。

真紅が僕にとって太陽なのならば僕は空のようになりたい…太陽に照らされながらも太陽を包み込んでいる青い空のように…。

                           The End

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