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プツン。
「また弦が切れてしまったのかしらー」
そうぼやいた金糸雀はもそもそと弦を外す。
「はあー。ため息は重いかしらー」
先日のコンクール。肝心なところで金糸雀の弦が切れてしまったため、あえなく予選敗退となった。
決まりかけていた音大への推薦もなくなった。
「もう・・・ヴァイオリンはやめようかしら・・・」
弦を張る手が止まる。
音楽室には金糸雀一人。部活は休みのため、誰もいない。
いたところで、うしろめたさが残っている。しかし、未練がましく練習をしている自分におかしさが
あることに気づいた。
「・・・カナは飛んだおバカさんかしら」
ヴァイオリンを眺めていると、誰かが音楽室に入ってきた。
「お・・・。委員長か。なにやってんだ?」
「桜田くん。べ、別に自主練かしら」
「ふーん。そか」
ジュンは音楽室の隅にのこのこと歩いていく。
「桜田くんはこんなところになんの用かしら?」
「ん?ああ、さっき音楽のラクス先生にゴミ箱の袋代えとけって言われてさ。代えにきたわけよ。別に
暇だからいいけどさ」
「そ、そうなのかしら」
「んッ・・・よし」
ゴミ袋を片結びで縛るとジュンは金糸雀に近づく。
「委員長」
「な、なにかしらー?」
「他の皆はわからないと思うけど、眼鏡外して、髪下ろしたら、きっとかわいいと思うよ」
金糸雀の顔が赤くなった。
「なにを言ってるのかしらー!」
「はは。怒った怒った。委員長いっつもムスってしてるからさ。表情変わっただけでも僕は満足さ。じゃあね」
空いてる手でヒラヒラと手を振ったジュンは帰っていった。

「ほんと、なにいってるのかしら」
自宅の脱衣所で金糸雀はポツリとつぶやいた。
眼鏡を外し、髪をほどく。
それだけでイメージが変わった。
いつもと少し違う自分。
己だけが知ってる自分。
「カナだって、本当は・・・」
男の子と仲良く話したい。でも臆病な自分はバリアを作ってしまう。
話かけられても素っ気無い返事。
ジュンにだって、そうだった。

しかし、今日。
その気持ちが揺らいだ気がした。

きっかけは ほんの些細なことでも。

予鈴が鳴り始めた。
皆、ポツポツと教室に集まってくる。
「一羽・・・二羽・・・三羽・・・あ、一羽飛んだ」
ジュンは外の電線に止まってる雀をぼけっと眺めていた。
教室が、どよめいた。
ざわざわ。
「おい、あんな子いたか?」
「しらねえ。かわいくないか」
ざわざわ
ジュンが顔を向けるとその当事者が隣の席に座っていた。
「おはようかしら。桜田くん」
「委員長!?」
ジュンが一番驚いた。

昼休み。
この日、金糸雀はちょっとした策を持っていた。
(ハチミツ入り厚焼き卵。これで桜田くんのハートをゲットかしら)
金糸雀は授業終了のチャイムが鳴ったすぐ後にジュンに卵焼を見せようとしていた。
が。
「おーい桜田。メシ食いにいこうぜ」
「べジータか。ああいいよ。今日はカレーにしようぜ」
今日はカレー。
今日はカレー。
金糸雀は少し涙を浮かべながら、卵焼きの入ったタッパーに蓋をした。

放課後。
金糸雀は勇気を出してジュンに一緒に帰ろうと話かけようとしていた。
(昼休みは不覚だったかしら。でもべジータくんは部活でいないし、チャンスは今かしら)
が。
「ジュンお兄ちゃーん!今日は雛にドドリア堂の苺大福おごってくれる約束なのー」
雛苺がひょっこりと顔を出した。
彼女は明るく、スタイルもいいため、校内ではかなりなアイドルだった。
学園のアイドル。
ムチムチボイン。
妹。
金糸雀は少し涙を浮かべながら、帰宅した。

「やっぱりだめかしら。カナ、挫けそうかしら」
自宅の脱衣所で金糸雀はポツリとつぶやいた。
髪の毛をしばり、眼鏡をかける。それとため息一つ。

翌日、金糸雀は終始無言のままだった。
髪の毛をしばり、眼鏡をかけ、いつもの格好だった。
他の部員がいる時間を避け、図書室で時間を潰し、音楽室へ向かう。
いつもの日課だった。
そしてヴァイオリンを手に取る。
今日は弦を切らないように。
奏でる音楽は哀しい曲だった。
途中でやめ、大きく息をする。
胸のモヤモヤが取れない。
少しそのままでいた。
ガラッ!
「あッ!いたいた。委員長」
「なんのようかしら?」
金糸雀は素っ気無く答える。
自分の抱いていた淡い思いは勘違いだと、そう踏ん切りがついていた。
「・・・なんで、元に戻しちゃったんだい?」
「気まぐれ・・・かしら」
金糸雀はジュンの目を見ない。
「どうしてだよ?だって、昨日は委員長が変われたって思って気分がよかったのに・・・」
「それは・・・」
言いかけて金糸雀は言葉を飲み込む。
言わなくちゃ。
せっかく変わろうと思ったんだ。
「あなたに・・・振り向いて・・・欲しかった・・・かしら・・・」
「え?」
「あなたのことが好きかしら」

言葉が小さかった。しかし、ジュンに聞こえるには十分だった。
音が無い時間が流れる。
二人は目を見つめあい、お互いの心を読もうとする。
ジュンが口を開いた。
「委員長。僕はバカだから、言葉では表せないけど・・・」
そういったジュンは優しく金糸雀を抱きしめた。
「あ、ありがとうかしら・・・」
金糸雀は嬉しかった。
変わることができて。
自分を好きだという人ができて。
「か、カナもバカだから・・・」
ジュンの腕をやさしく解いた金糸雀はヴァイオリンを手に取る。

優しい音楽が紡がれていく。
あたたかさで胸がいっぱいになるような。
とてもいいにおいがする音楽が。

(カナはジュンと一緒にいたい。そして伝えていきたい。

             あなたと奏でるプレリュードを・・・)

『あなたと奏でるプレリュード』 ~完~

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