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~心のある場所~

ジ「やぁ…」
メ「また来てくれたのね」
ジ「…うん」
メ「退屈、とても退屈。ねぇ、世界に私は必要なのかな?」
ジ「…何言ってるんだよ」
メ「だってね、小さい頃からずっとここにいるのよ?私は外を知らない…、生まれたときから世界には組み込まれていないの…」
ジ「そんなことない!君がいない世界は、考えられない…」
メ「ふふっ。それって告白かしら?」
ジ「違ぁぁぁう!!」
メ「そんなに必死にならなくても…」
ジ「わああああ!ご、ごめん!!謝るから泣くなよ!」
メ「ふふふ、また騙されたね。泣くわけないじゃない♪」
ジ「こ、このぉっ!」

ジュンがめぐに出会ったのは去年の夏
水銀燈の紹介だった



柿崎メグ
彼女は先天的に心臓が弱く、生まれたときからずっと病院で過ごしてきた
ジュンと出会うまでは、水銀燈が唯一の友達だった

桜田ジュン
彼は登校拒否で、中学にはまともに通わなかった
高校に入っても仲のよい友達は少なかった

二人が出会ったとき、お互いに奇妙な感情を抱いた
「私にそっくり…」「僕と同じだ…」
境遇はまるで違ったけれども、心の奥底にある闇が互いにひかれあったのだ


メ「今日はどんな話を聞かせてくれるの?」
ジ「そうだなー…。あっ、最近真紅の勧めで『錬金術と無意識の心理学』って本を読んだ
  んだ。それに付いて話そうか?」

ジュンは学校が終わるとすぐにメグの部屋にくる
そして、メグが経験できないようなことを代わりに話す
本のことだったり、学校のことだったりと…
二人ともこの時間が一番好きだった

ジ「でね、心っていうのは心臓にあって…どうした?」
メ「えっ?どうもしてないわ…」
ジ「だって、…泣いてるぞ」
メ「あれ、本当だ…。私ったら、何で泣いてるのよ」
ジ「…」

ジュンは少し後悔していた、メグは心臓が悪かったのだ…

ジ「ごめん、無神経だった」
メ「ううん、いいのよ。ジュンは悪くない。悪いのは私のこれよ」

そう言って胸を指差す
発育途中の小さな胸…
その鼓動は消え入りそうなほど弱いのだろう
透き通った白い肌が、目にするものの目を瞑らす

五歳までに死ぬ、七歳までに死ぬ、次は十歳までには…
もう疲れ切っていた、死への恐怖など早くに無くした
「死ぬことが決まっているのなら、今すぐにでも死にたい」が彼女の口癖だった



ジ「…」
メ「はぁ、飛びたいなぁ。翼を広げて、羽ばたくの。それはとても素晴らしいこと
  だとおもうわ…」
ジ「…」
メ「ねぇ、ジュン?私を連れていって、どこかとおくへ」
ジ「…」
メ「こんな小さな部屋で死ぬのは嫌。どうせなら、どこか広いところで…」
ジ「だめだよ…、お前はここを離れちゃ」
メ「言ってるでしょう?どうせ死ぬんだから…、最期は私が決めるの」
ジ「死ぬなんて、そんなこと簡単に言うな!」
メ「…なによ!ジュンは何も知らないでしょ!病気も、私の気持ちも!」
ジ「お前もだろ!お前が死んで悲しむ人がいるってこと、知らないじゃないか!」
メ「この命は私のモノ。捨てることは私の勝手だわ!!」
ジ「くそっ…、もういい。今日は帰る!」

いつも仲が良かったわけではなかった
口喧嘩なんてしょっちゅうしてたし、お互いに素直になれないところもあった
ただいつもは直ぐに仲直りをしていたのだ
だけど、今回は違った
次の日も、そのまた次の日もジュンは来なかった
メグは次第に塞ぎ込むようになっていった



一週間後

銀「ジュン、ちょっと来なさい!」
ジ「?」
銀「どういうこと?説明してくれるかしら?」
ジ「…なんのことだよ」
銀「とぼけないで、メグのことよ」
ジ「知らないよ、あんなやつのことなんて…」
銀「昨日久しぶりに会いに行ったわ、ひどくやつれてた。食事もまともにとらないんだっ
  て。喧嘩したのでしょう?」
ジ「…」
銀「こんなことは本人が言った方がいいのだけれど、時間もないし私が言うわ。ジュン、
  メグは貴方のことが好きなのよ。わかるでしょう?好きな人に嫌われることがどれほ
  ど恐ろしいことか…」
ジ「…僕も柿崎のことが好きなのかもしれない。でも、あいつは死にたがっていて…」
銀「メグはね、もうすぐ手術するの。心臓移植よ。たぶん恐がっているの…」
ジ「き、聞いてないぞ!!」
銀「やっぱりね、そんなことだろうと思った…って、もう行っちゃった」

水銀燈が話し終わる前に、ジュンは教室を飛び出した
行く先はもちろん、病院のあの部屋

ジ(くそっ、何で気付いてあげられなかった!)


メ(心のあり場所は…心臓…。頭ではない、心臓…。手術したら私が私でなくなるの?
  私の心はどこへ?…教えて、ジュン…)

バンッ!!勢い良く扉が開く。そこに立っているのは…ジュン

メ「ジュン!……もう会えないかと…」
ジ「泣くなよ。僕は泣かせにきたんじゃないぞ」
メ「ごめんなさい…、ごめんなさい…。ごめ…んなさ…いっ…」
ジ「…手術、するのか?」
メ「水銀燈から聞いたの?」
ジ「うん、どうして教えてくれなかったの?」
メ「あの日、喧嘩したあの日に話すつもりだった…。でも…、ジュンは言ったでしょう?
  心は心臓にあるって。…手術すると、心が無くなると思ったの」
ジ「…あの話は、所詮本の話だよ。誰も証明できない」
メ「できる、私が証明できる。…ジュンといると鼓動が高鳴る…、同時に心が弾むの。こ
  れはね…心臓に心があることの証明なの…」
ジ「…」
メ「私は手放したくない、ジュンへの純粋な心…」
ジ「僕も、柿崎のことが好きだ。…死んだら悲しい」
メ「もう死ぬなんて言わない、死よりも甘美なことを見つけたのだから。ただ、この心は
  死んでしまう…」
ジ「…ない。心は…死なない!知ってる?僕らはよく似ていた。そして繋がっていた、心
  の奥底で…。柿崎といると、柿崎の意識が時々流れてくるんだ。嬉しいとか、寂しい
  とか、喜怒哀楽の意識が…。君が器をなくしても中身は僕がもてる。心は共有できる
  んだから」
メ「心の共有…。ジュン、行くね、手術してくる。成功したら…恋人になってくれる?」
ジ「うん、…待ってるよ」



それから一ヵ月後に彼女は退院した
手術後は順調で、僕らは手をつなぎ街などで遊んだりもした
そして、大学を卒業すると同時に結婚した
結婚2年目にできた子供には、心(しん)と名付けた
とても楽しく、とても充実した10年間だった
今は一つの墓の前で手を合わせている

ジ「もう五年になるな、…少し寂しくなってきたよ。今日は心も一緒だ」
心「ままー♪僕は元気だよ、ままは元気ぃ?」
ジ「心、お母さんは元気にしてるぞ。こことここでね…」

自分と息子の胸に手をあてる

ジ「ここにお母さんが生きている。大切にするんだ」
心「うん、わかった!」

生憎の空模様、もうすぐ雨が降りそうだ

もう一度、手を胸に…

『柿崎メグ、元気ですか?あなたの心はここにあります…』

Fin
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