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5月とは言え、既に真夏と称しておかしくないほどの蒸し暑い夕方。
肩にカラスを載せた少女が、周囲の通行人の視線も気にせず帰途についていた。
何しろ肩に載せたカラスと何事か会話を交わし、その上では編隊をなしたカラスの群れが、
まるで少女を護衛するかのように旋回しつつ整然と飛行しているのである。
そのカラスの群れの中から一羽、少女のもとへ急降下してくるものがいた。

銀「…男女の二人組みが、私を尾行してる?」

足を停めた少女の前でホバリングしつつカアカアと鳴くカラス。
黒光りするその瞳を見つめつつ、少女はしばし考えた。

銀「どうせ…あの二人ね。そんなに私に付きまといたいのかしら?」

その二人とはもちろん言うまでもない。
ガアガアと騒ぐカラスに、水銀燈は返事をした。

銀「攻撃?…無駄よ。あなた達でもあの女には近づく事すらできなかったでしょう?
  …でも、足止めくらいはしてもらおうかしら。家を知られると後々面倒だしね…。行って頂戴」

それを聞いたカラスは、再びはるか上空の仲間のもとへ上昇し、やがて一群を率いて飛び去った。

雪「うふふふふ。何だか、どきどきしますわ」

水銀燈の後方を、それも電柱やら自動販売機やらの陰に隠れて尾行しているジュンと雪華綺晶。
この二人もこの二人で周囲の訝しげな視線に晒されているが、少なくとも雪華綺晶はそれに気づく様子も無い。

ジ「水銀燈の家はこっちの方角なのか…」
雪「このまま行くと高級住宅街ですものね。どんなお家なのでしょう」
ジ「でもなぁ…なにも尾行しなくても、水銀燈に追いついて一緒に家に連れて行ってもらえばいいじゃないか」
雪「甘いですわジュン様。彼女がそれを許すとでもお思いで?どうせつれなく追い払われるのが落ちですわ。
  それでもなお付きまとおうとすれば、私達はストーカーの謗りを受ける事になりますのよ」
ジ「よし、雪華綺晶。僕たちが今していることを客観的に考えてみようわああああああああああああああああ」

雪「ジュン様?」

突然顔を引きつらせて叫ぶジュンの視線を追った雪華綺晶。
夕暮れの空に、見まごう事なき水銀燈の手下達が翼を並べ、悠然とこちらに向かってくるのを彼女は見た。

ジ「ばっバレた!やべえええ!」
雪「あら!お迎えが来ましたわ♪」
ジ「ににに逃げるぞ雪華綺晶!」
雪「あ…」

腰を抜かしつつ退散しようともと来た方へ駆けていくジュンと、置いていかれる雪華綺晶。
そんな二人を空から確認したカラスの編隊の一角が不意に崩れる。
一羽、また一羽と重力に任せて弾丸のように落下していくカラス達が先に狙ったのはジュンだった。
食い意地の張った白い悪魔よりは組しやすきとカラス達に狙われたジュンは、あわれ、背中に一羽のカラスのくちばしを
受け止めて呆気なく地を這った。

ジ「いてええええええ!やめろおおおおおお!」

しかし時既に遅く、伏したその背中にカラス達の着陸を許してしまった少年・桜田ジュン(16)は、荒野で力尽きた
行き倒れの如く、またカラス達はそれに群がるハゲタカの如く…
身体を刺す無数の刃の洗礼に、殺人事件(刑法199条)の公訴時効期間ほどの長さしかない人生の走馬灯が自動で脳内再生されるジュンであった。


んで、その頃。

雪「あそこが水銀燈さんのお家ですのね…なんて大きなお屋敷なんでしょう」

相棒を見捨てて一人任務を遂行した雪華綺晶は、油断しきった水銀燈が入っていった邸宅の前にたたずんでいた。
今風の建築だが安っぽさなど微塵も感じさせない豪邸。
何かの化学実験を行っている重要施設のように、その大きな門はぴたりと閉じられて向こうを見渡す事もかなわず、
防犯カメラがこちら側の世界を嘲るように監視していた。
先ほど水銀燈が入っていった扉のそばのインターホンを、雪華綺晶はどきどきしながら押す。
その刹那、インターホン備え付けのカメラが、まるで猫の瞳のようにぎょろりと動き、雪華綺晶の顔を射抜いた。
何も疚しいことをしているわけでもないが、雪華綺晶の腋の下に変な汗が流れる。

「…どちらさまでございましょう」

スピーカーの向こうから、感情の読み取れない初老の女性の声が、緊張で心拍数上がりっぱなしの雪華綺晶の耳に届く。

雪「ああ、あのわたくし、水銀燈さんのお友達で雪華綺晶と申します」

「お友達…?」

にわかにスピーカーから聞こえてくる声が上ずったが、雪華綺晶はいまだ気づかない。とりあえず、彼女は方便を使う事にした。

雪「は、はい。実はわたくし、水銀燈さんの忘れ物をお届けに…」

「少々!お待ち!下さい!」

雪「…へ?」

いきなりスペックが上がったスピーカーの向こうの誰かが通話を切り、目をぱちくりさせた雪華綺晶だったが、
また次の瞬間突然にがしゃこんと音を立ててキーが解除された扉を見て、彼女はさらに驚いたのであった。



その頃。

「ママー、あそこで誰かお昼寝してるよー」
「こら!ゆきおちゃん!見ちゃダメよ!」

ジュン「」

つづく。
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