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晴れ渡っていた空が次第に黄みがかっていくなか、放課を迎えた生徒達が動き出す。
ある者は部活動へ、ある者は外に出て下校…
転校生・水銀燈もその多分にもれず、ほとんど中身の入っていない新品のカバンを背中にあずけ、
肩にはメイメイと命名されたカラスを載せ、ふらりと席を立つ。

そのまま教室を出ていった彼女の背中を見て、これまで波乱万丈な一日を送っているジュンは
ふとその背中を追いかけたい衝動に駆られた。
今日は思わず口付けしてしまったが、その事については一応謝っておかなければと思ったのだ。
と、そんな彼のもとに、またいつもの少女達がやってくる。
真「さあジュン、帰りましょう」
翠「今日は家でスコーンでも焼くです。どうしても食べたいって言うならついて来いですぅ」
雛「お腹すいたの~」
蒼「ジュン君、そろそろ中間テストも近いから一緒に勉強しない?」
金「うぅ、テストの話はやめて欲しいかしら…」
困ったな…と苦笑するジュン。

とその時、ジュンにとっては天佑とも言うべき僥倖が、梅岡の姿をまとってジュンのところに
やってきたのであった。
帰りのHRのあとに職員室に一度戻ったはずの梅岡は、小脇に書類を抱えつつ息を弾ませて
ジュンと彼の取り巻きの少女達のところに向かってくる。
梅「やあ君達!転校生の…水銀燈はもう帰ったかい?」
ジ「え…はい」
梅「そうかぁ…困ったな…」
ジ「何かあったんですか?」
梅「いや、転校してきたばかりの水銀燈に渡すプリントが結構あってね、本当はHRの時に渡したかったん
  だけど職員室に忘れてきててね…そうだ!桜田君、良かったら彼女の家に届けてくれないか!?」
ジ「は、はい承知しました!」
その言葉を聞いた少女達が一斉にジュンの顔へ鋭い視線を向けた。
そんなことはつゆ知らず、梅岡の顔がぱっと明るくなる。
梅「頼めるかい!?いやぁ、そうしてくれれば助かるよ。彼女の家は…もちろん知らないよね?
  住所はこのプリントに書いてあるよ。多分君の家が一番近いと思うから…よろしく!」
ジ「分かりました。任せといてください」
梅「すまないね、桜田君!…ところで、水銀燈はクラスではどんな感じかな?
  ちゃんと溶け込んでるようなのかな…君達の見た感じでは、どう思う?」
ジュンと少女達を見回す梅岡。
それに答えたのは雪華綺晶だった。
雪「心配ありませんわ先生。私とジュン様は彼女とお昼ご飯をご一緒しましたもの。
  つっけんどんな所もありますけど、これから皆とも仲良くなっていくと思いますわよ」
その言葉にうなずくジュン、聞いて安堵の表情を浮かべる梅岡、そして「本当に?」と怪訝そうな
顔をしている少女達。
梅「そうか、それなら安心だね!水銀燈もまだこの学校に慣れないことばかりで不安もあると思うけど、
  これからも彼女と仲良くしてあげてね!じゃあ、よろしく!」
そう言って、梅岡は教室から出て行った。
少女達がジュンに詰め寄るのに時間はそれほどかからない。
真「ちょっとジュン!本気であの娘の家に行くつもりなの!?」
ジ「え…そ、そうだけど…」
翠「あり得ねぇですぅ!ジュンもカラスどもの餌食になっちまうですよ!?」
蒼「そそそそうだよ!危ないよ!」
金「どうせあの娘の家といったら、お化け屋敷のような真っ暗な洋館かしら…
  そしてその周囲をぐるぐる飛び回って鳴き声を上げるカラス達が…」
雛「や~ん!ジュン死んじゃうの~!」
身動きが取れずおろおろするばかりのジュンに、雪華綺晶が助け舟を出す。
雪「私も行きますわ。水銀燈さんのお家に行って、もっと彼女の事を知りたいですし」
どれだけ肝っ玉が太いんだこの娘、という表情で振り返る少女達。
真「貴女まで…」
翠「おめぇの怖いもの知らずはいつか身を滅ぼすですよ…」
雪「そんな事はありませんわよ。人は理解できないものを恐れるもの。私は水銀燈さんを
  理解したいんですもの…ねぇ、ばらしーちゃんもご一緒しません?」
先ほどからじっと黙ったまま隅に立っている薔薇水晶に声を掛けた雪華綺晶だったが…
薔「…行かない。帰る」
ぼそりと言った薔薇水晶は、雪華綺晶の横をふいと歩き去っていってしまった。
残された雪華綺晶と、その様子を見ていたジュン。
ジ「…薔薇水晶のやつ、一体どうしたんだ?何かあったのか?」
雪「…分かりませんわ。ばらしーちゃんのあんな様子、滅多に見たこともありませんわ…」
薔薇水晶とは普段とても仲の良いだけに、どこか寂しげな雪華綺晶。
真「それはあの子も不気味な娘とカラスが怖いからに決まってるでしょう!私も帰るわ。
  カラスとはもう対面したくなんかないもの…じゃあね」
翠「すっ翠星石も帰るですぅ!」
蒼「あ、待ってよ二人とも」
金「じゃあジュンに雪華綺晶、ご武運を祈ってるかしら…」
雛「ま、また明日なの…」
残りの少女達も、こうして足早に出て行ってしまった。ぽつねんと見送るジュンと雪華綺晶。

しばらくは静かな教室内で黙っていた二人だったが…
ジ「まぁ…二人だけど、今から行ってみようか!」
雪「ええ!」
気を取り直した二人は、努めて明るい表情で教室を後にした。

 

 

その少し前。

屋根や壁が穴だらけのウサギ小屋では、ちょっとした紛争が起こっていた。
小屋の住人のウサギ達と、そのエサを小屋に入り込んで横取りするカラス達との間のことである。


『あ~ん、カラスが僕たちのご飯食べちゃったよぅ!』
『出てけよ~!』
『ずうずうしいにもほどがあるよ~!』

嘆き叫んでいるウサギ達。

『だって美味しいんだも~ん』
『僕たちだってお腹すいてるんだも~ん』
『わ~いわ~い』

まったく悪びれもせず、ウサギ達の手の届かない天井の梁に並んで止まっているカラス達。

と、ウサギ達の中から、一羽の立派な白兎が群れを掻き分けて進み出てくる。

『僕はウサギのリーダーのラプラスだ!ここは僕達のすみかだぞ!勝手に入り込んで食ベ物を
 奪っていくのはやめろ!』

抗議の声を上げたラプラスだが、カラス達は動じる様子もない。

『ふ~んだ!や~い、悔しかったらここまでおいで~』
『このでぶウサギ!や~いや~い」』

さすがに腹に据えかねたのか、ラプラスは元々赤い目をますます真っ赤にして怒鳴る。

『よろしい、ならば戦争だ!僕達ウサギは君達カラスに宣戦布告する!』

『宣戦布告~?』

『そうだ!今後君達が僕達の住みかを侵犯し、ご飯を勝手に取っていくようなら、僕達は全力を挙げて
 君達を容赦なく攻撃する!』

『やれるもんならやってみろ~』
『わ~いわ~い』


…こうしてしばらくは、ウサギとカラスの間で不毛な罵り合いが続いたが…

一羽のカラスが、下校生徒の群れに混じって昇降口から出てくる水銀燈を視界に捉えた。

『あっ、銀様だ~』
『みんな、銀様がお帰りだよ~。行くよ~』
『わ~い』

カラスが飛び去って、あっという間に静かになったウサギ小屋。

しばらくは小屋の中でうろうろとしていたウサギ達だったが、やがて…ラプラスという名の
リーダーウサギを中心に、円になって何事か相談を始めたのであった。


              つづく

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