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平穏な日常 第一話 後

気がつくと夕方だった。ゆっくり目を開ける。今まで何をしてたんだろう。気絶してたのか?
既にみんなは居らず、窓からは夕日のやや赤い光がのぞいていた。…置いてけぼりですか?
地味に体の節々が痛むな…。あぁそうか、あの四人に袋だたきにされて…、あれ?なんだか頭の左側が柔らかくて暖かいな…。
「あ、ジュン君起きた?」
「ん…蒼星石…?」
上から声が降ってきたので見上げると蒼星石がいた。何故か僕を覗き込むような感じになっている。あれ?なんだこれ?
周りを見渡し、ハッとして自分がどういうことになっているか把握した。つまり、今まで僕は蒼星石に膝枕されていたのだ。
「うわっ!?ご、ごめんすぐにどくから!」
普段では見せないような瞬発力で飛び起きる。もちろん蒼星石にあたらないように。なんてこった。まだ蒼星石の膝の感触が残っているではないか。いかんいかん、落ち着くんだ僕。COOLになるんだ僕。

「ふぅ…みんなはどうしたの?」
COOLになって落ち着いたところで蒼星石に尋ねる。
「あはは…みんなジュン君にあきれて帰っちゃったよ。ごめんね、少しやりすぎちゃったかも」
蒼星石の話によると、ほかの三人は僕を適当にボコった後に帰ってしまったらしい。
うぅ、道理で体のあちこちがいたい訳だ。治療ぐらいしてくれても良いじゃないか。
蒼星石だけは気絶した僕を気遣って残っていてくれていたようだ。まぁ蒼星石にもやられた訳だけど。鋏で。
つーかなんでみんな武器を持ってたんだ。金糸雀に至ってはヴァイオリンだったぞ。殴るなよそれで。
「ありがとう蒼星石。おかげで助かったよ」
「ううん、みんなもあそこまでやることはなかったんじゃないかなと思うよ」
「確かに。でも蒼星石もあの場で参加していたことはお忘れなくだぞ?」
「うぅ…それは…ごめんなさい」
素直に謝る蒼星石。ほんとに姉とは似ても似つかぬできた妹だ。

「それで…?なんで蒼星石は僕に膝枕をしてたんだい?普通に床に寝かせててもらえばそれで良かったのに」
気になったので聞いてみた。看病してくれれば床に直置きでも気にしなかったし。いや、座布団は欲しいかな。
…?あれ、返事がないな。見ると俯いてつぶやいていた。よく聞こえないな。どうしたんだ?
「お~い、蒼星石さん?」
「え!?いやあの!それはほら!一応気絶してたから!それにこう、色々と…」
「色々と…なんだって?それに顔赤いぞ?風邪でも引いたか?」
「~~~~~っ!こ、細かいことは良いんだよ!」
両手をジタバタしながら喋る蒼星石。なにやらごまかされた気がするな。ほんとに顔赤いんだけどなぁ…。あ、夕日のせいかな。
自己解決したところで、もうひとつ疑問がわいてきた。
「そういえばさ、僕がお茶飲んでる時にみんなの動き…というか殺気がすこしゆるくなったけど、あれってなんだったのかな?」
「お茶…?あぁあの時か。…さぁ、なんでだろうね?」
「わからないか。まあいいんだけどさ」
「ボクは両手で持つのが可愛いと思ったからなんだけどね…」
「今なんか言ったか?」
「な、なんでもないよ!?」 

「ふぅん…。しかし、ずいぶん長い間寝てたんだなぁ。もう日も落ちそうだぞ…。帰ろうか?」
「うん、そうしよう。ジュン君も起きたし、長居する理由もないからね」
身支度を整えて鞄をつかみ、部屋を出る。もう残っている生徒もほとんどいないようだ。二人で並んで歩いて校門をくぐる。
お互いあまり会話はなかった。二つ、並んだ影法師。一つはのんびり。一つはゆったり。
違いがあるかはわからないけど、決して同じではない動き。さらに赤くなった太陽が二人を照らしていた。
「ジュン君、ボクね、結構緊張してたんだよ?」
不意に蒼星石がつぶやいた。
「緊張…ってどういうことだ?」
「あのお茶のことさ。あのお茶をジュン君が飲んでいるときに、逆にボクは固唾を飲んで見守ってたのさ」
「はぁ、そりゃまたどうして。あぁ、一番美味しいって言われるかどうか?」
「それもあるけど…全くジュン君はすこし鈍感なところがあるんだね」
蒼星石が立ち止まってこちらに向き直った。僕も立ち止まって蒼星石の方を向く。
お互いの顔は、ほんのちょっぴり真面目で。
「いいかい、ジュン君。あのお茶はボクが、君の為に淹れたんだよ。そのことに対して何か思わないのかな?」
なるほどなるほど。僕が飲んだお茶は蒼星石がわざわざ…ってそうか。そうだよな。
蒼星石以外にお茶を淹れることが出来る人はいないからな。あの三人には無理だろうな。

…まずい、なんだか恥ずかしくなってきたぞ。少し顔が熱くなってきた気がする。落ち着け、COOLになるんだ。
「あの緑茶はボクが自信を持ってオススメする美味しい緑茶だ。ボクはあのお茶を一番美味しいと言ってほしかった。
でもね、それ以上にジュン君にボクが淹れたお茶が一番美味しいと言ってほしかったのさ。
ジュン君は四つとも美味しいと言った。その中にはもちろんボクのお茶も含まれている。
でもジュン君は、はっきりとボクの淹れたお茶が美味しいとは言ってくれなかったんだよ。そこでボクは君に聞きたい」
長々と言った後に蒼星石が一歩、ズイッと僕に向かって踏み出す。今度は後退りしなかった。したいとも思わなかった。
「ジュン君…ボクが淹れたお茶は、美味しかったかな?」
期待と不安が入り交じった瞳をして蒼星石が僕に聞く。僕は少しだけ押し黙る。でも言うべき答えは既にあった。
手を伸ばして蒼星石の頭にポンと置く。少しビクッと動いたのが感じ取れた。ちょっと失敗したか…?
それでも早く答えてあげよう。膝をちょっと曲げて蒼星石の目線にあわせる。
「美味しかったよ、蒼星石。ぜひともまた淹れて欲しいな。また君のお茶が飲みたいよ」
そういって蒼星石に微笑みかける。ちょっとだけ動きを止めた後、蒼星石も僕に微笑んでくれた。

あまり平穏じゃなくても、これなら悪くはないかな_____
蒼星石の笑顔を眺めながら、僕はそう思った。
二人の顔が少しだけ赤かったのは、多分、夕日のせいだけじゃない気がする。

第一話 「悪いことの後にはちゃんと良いことだってある」 完







「でもな、蒼星石。金糸雀の卵焼きだってアイツの手作りだったよな?」
「あっ…」

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