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もしも、願いが3つだけ叶うというのなら。

貴方は何を願うのかしら。
ありあまる財宝?最高の権力?素敵な恋人?それとも世界平和?

私は……

私は真紅。

身に余る幸運と、手に余る不幸を同時に得ただけの普通の女子校生。




     ―――→ ナ!イ!チ!チ!Dreams (前編)




「おはようですぅ」
「やあ、おはよう真紅」

いつもと同じ朝の通学路。
いつもと同じように、友人である翠星石と蒼星石の双子姉妹が私に声をかけてきた。

「ええ、おはよう翠星石、蒼星石」

私も、いつもと同じように微笑んで彼女達に挨拶を返す。
いつもと同じ、平和な光景。
いちまでも続くように思えた、安息の日々。

でも、その平穏は確実に失われつつあった。

「確か今日だったよね。雛苺が帰ってくるの」
「あー。そういえば、そうです」
「あの子がフランスに行ってから、もう1年も経ったのね」

私達3人の話題は、1年前に親の都合で海外へ引っ越してしまった雛苺の事。
別れの瞬間はとても悲しくとても寂しく感じたけれど、早いもので、もう1年も前の事になっていた。

「こうやってとぼけてるけれど、実は翠星石も雛苺と会うの楽しみにしてるんだよ」
「な!?だ、誰が楽しみになんかするもんですか!」
「あら、でも表情がいつもより明るくなってるわよ?」

蒼星石と私とで翠星石をからかいながらの、通学路。
私は鈍感にも、この時から既に平穏が崩れ始めている事には気が付かないでいた。

「でも、1年も経ってると……チビ苺のやつも変わっちまったんじゃあないかと心配ですぅ」

翠星石が伏し目がちに、小さく呟く。

「大丈夫よ。あの子は……雛苺は、とっても優しい子ですもの」

私はそう言い、雛苺との思い出を脳裏に描いた。

幼稚園の頃は、とっても泣き虫な子で、いつも私の後ろに隠れようとしていた。
小学校に上がと、その甘え癖は少しはマシにはなったけれど。
中学校に入る頃には、気の弱さは優しさへと変わりはじめた。
そして高校生。フランスへの引越し。
空港の見送り玄関で、私に抱きつきながら泣いていた雛苺。
彼女との思い出を振り返ると、姉と妹のような関係に近かったのではないかと思う。 

その雛苺が1年ぶりに帰ってくる。
そう思うと、ほんの少し目頭が熱くなってくる。

私達は、雛苺との思い出話に花を咲かせながら校門をくぐり、校舎へと入っていった。

「しかし、あそこで光線銃が出てくるとは思わなかったですぅ」
「あれは予想を遥かに超えていたのだわ」

そんな会話をしながら、私達が靴を上履きに履き替えた時だった。
予想を遥かに超える出来事が、私達に降り注いだ。

バイ~ンバイ~ン、と聞きなれない音が背後から聞こえてくる。
続いて「し~んく~!!!」と、こっちは懐かしい声。

この声は……忘れる訳が無い。間違える筈も無い。

「雛苺!?」

私は1年ぶりにもなる妹のような彼女の姿を見ようと、振り返って……
でも、振り返ると同時に、私の視界は何だかよく分からない柔らかいスイカみたいなものに塞がれてしまった。
あまりに急な事に私は、はしたなくも「おぅふ」みたいな悲鳴を上げてしまったわ。

そして、そのままスイカは私の顔にぶつかってきて、さらにギュウギュウと押し付けてくる。
これは何事!?
何なのこの物体は!?
新手のバイオ兵器!?
一体誰が私を窒息死させようとしているの!?
何故!?

私は必死になって、ふがふがと叫びながら、ぽにょぽにょしたスイカを押しのけようとしてみる。

でも、そのウオーターメロンは、抵抗をものともせずに私の顔に引っ付いたまま。
さらには、抵抗すればする程、私の体内の酸素濃度は急降下。

ああ……美人薄命とはこの事ね。
さようなら、皆……私のお墓には日に13回くらい紅茶を供えてくれるだけで良いわ。

と、そんな風に私が己の死期を悟り、ライオンに捕らわれたシマウマのような虚ろな目をした時だった。

「あ……ごめんなさい……ヒナ、嬉しくってつい……」

懐かしい雛苺の声と共に、私を抹殺しようと企んでいた謎の球体は、私の顔から離れていった。

「な……何が……あったと言うの……?」

私は呼吸を整えながら、視線を上げて―――そして、理解した。

私を窒息死しかけていたのは雛苺が抱きついていたからなのだ、と。
―――そのたわわに実った、大きな胸で。

「ひ、雛苺、貴女どうしたの」
「チビ苺!?本当に、正真正銘、本物のチビ苺ですか!?」

思わず私は叫びそうになるけれど、すかさず翠星石の悲鳴のような声がそれを遮った。
雛苺はというと、どこか悲しそうに視線を落とし……小さな声で答える。

「……うぃ。ヒナは、ヒナなの……
 でも、フランスで暮らして少し太っちゃったから……」

そうは言うけれど、一部分を除いて雛苺が太ったようには見えない。
その一部分が大問題だけれど。

一体、何をどうしたら、そんなに胸だけが大きくなるというのかしら?

「だ、大丈夫よ。一目見て貴女だとわかったのだわ」
「いやぁ、太ったようにはとても見えんですぅ」
「うん。とっても立派になって返ってきたと思うよ」

私達は今にも泣き出しそうな雛苺を慰めるように、そう彼女に告げる。
それから……

翠星石はチラチラと雛苺の胸を見て、それから自分の胸に視線を落としていた。
ええ、そうね。その気持ちはよく分かるわ。

蒼星石は、雛苺の胸を凝視しながら「たまらないね」とか呟いていた。
お願いだから、うっすら微笑むのはやめて頂戴。

私はというと、脅威の超進化を遂げた雛苺へと微笑を向けながら……
無意識のうちに、自分の胸に手を当てていた。
「あら?……無いわ?」
無い。
無い無い無い。
おかしい。
私の胸が無いわ。
あらあら、どこかに落としたのかしら?

うふ。うふふふふ。
そうね。現実逃避ってやつね。

気が付けば、私の頬には涙が一本の線を描いていた。
久々の再会に感動したから、と誤魔化しておいたけれど。

私達4人はそのまま、あの頃と変わらぬ友情を確かめ合いながら教室へと向かう。
そうして辿り着いた教室の前で。

「あ!ヒナ、先生達に挨拶するの忘れてたの!
 真紅、またね!」

雛苺は私達にそう告げると、来た時と同様、バイ~ンバイ~ンと胸を鳴らしながら職員室の方へと駆けて行った。

そして、雛苺が去った後……
私達はまるで嵐が過ぎ去った後のような、虚脱感と脱力感に見舞われていた。

「チビ苺の胸……あれは脅威ですぅ……」
額にうっすらと汗を浮かべながら、翠星石が震える声で言う。
ええ、あれは確かに胸囲ね。

蒼星石は虚空を見つめながら「ロリ顔に巨乳か……」と独り言を呟いていた。
真顔はやめなさいお願いだから死んで頂戴。

でもね翠星石、蒼星石。貴女達はまだ良いわ。
目測だけれど、BからC程度は有るのでしょう?十分じゃない。
私なんてAAAよ。
もしこれが企業融資の信用格付けだったら、私は最優良物件という事になってるわね。
うふふ。
……うるさいわね分かってるわよ。

「―――く、――んく、真紅?どうかしたですか、ぼーっとして」
「え!?え、ええ……何でもないわ、翠星石」

気が付けば、私は死んだ魚のような目で呆然としていたみたい。
翠星石に声をかけられ、やっとの事で我に返った。

「大丈夫ですか?調子が悪いようなら、翠星石が先生に言っておくので保健室で休むです」
「ええ、そうね」

かろうじてそう答えるものの、まるで頭にモヤがかかったみたいに思考が緩い。
何も、まともに考えられない。
周囲の声も、見える景色も、どこか遠い。

結局私は、せっかく雛苺が帰ってきた喜ばしい日だというのにも関わらず、
ピントがぼやけた写真のような不鮮明な意識のままに一日を過ごしてしまった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……駄目ね。私とした事が、あんなに動揺して」

家に帰ってから、私は今日一日の自分を恥じていた。
そうよ、あんなモノ飾りよ。エロイ人には分からないのだわ。

「そうよ……た、た、たかだか脂肪の集まりじゃない……む、む、む、胸なんて……胸なんてッ!!」

ギリリと爪が拳に突き刺さる感覚に、私は若干の冷静さを取り戻した。

とりあえず、お風呂場まで行って、さっとシャワーを浴びる。
それから、裸バスタオル巻きスタイルでキッチンまで行き牛乳とパックごと入手。
お気に入りのティーポットにお茶とお湯を居れ、準備は完了。
おぼんに牛乳とポットとカップを乗せ、自室まで戻る。

そして、いつもより多目のミルクを入れた紅茶を飲みながら、バスタオルを外す。
平らな胸が目に染みる。
私は涙を堪えきれずに、思わず現実から目を逸らしてしまった。

「……大丈夫、大丈夫よ真紅。継続は力なりって言うでしょ」

自分にそう言い聞かせながら、通販で購入した吸引式バストアップマシィーンを両胸に当てる。
さあ、夢をこの手に、スイッチオン。
すっかり慣れた現代科学の希望の力を感じながら、私は日課の紅茶タイム。

と、不意に誰かの声が聞こえてきた。

「おめでとうございます!
 貴方は世界で通算100億杯目の紅茶を飲まれた幸運な方です!」

「誰!?」
私は慌てて、バスタオルを胸元に寄せ、周囲を見渡す。

窓は閉まってるし、カーテンも引いてある。
ドアには鍵だってかけてあるし、そもそも部屋の中に人が隠れられそうな場所は無い。

私は変質者の存在を確信し、周囲を見渡す。
でも、やっぱり誰の姿も見えない。
にもかかわらず、声は再び聞こえてきた。

「そんな貴方の為に、紅茶の妖精である私が素敵なプレゼントをご用意致しました!」

声が収まると同時に、テーブルの上に置いたティーポットのフタがカタカタと揺れる。
まるで童話のランプの魔人が出てくる時のような煙が、ティーポットの口から広がる。
そして……

「ブラボォ!」
何か叫び声を上げながら、ティーポットから兎の顔をしたタキシード姿の人物(?)が飛び出してきた。

私は、あまりに常軌を逸した出来事に、バスタオルスタイルのまま固まってしまう。

そんな私の顔を、兎男はしばらく見つめていたが……
やがて視線をほんの少し。ちょうど胸元にまで下げた。

……私は兎なんて飼った事は無いけれど……それでも、この表情はハッキリ分かったわ。

兎男は私の胸元を一瞥した後、半笑いを浮かべながら「トリビァル」とか呟いてた。

すかさず、私は人差し指と中指で兎男の目を突く。
兎男は地面に倒れ両手で目を押さえている。
私はその手を取り関節を逆に極め、肘で兎男の頭を地面に押し付けた。

「ちょ!?待ってくださ……あおぁぁぁぁおおおお!?」

兎男は何か言おうとするけれど、私が腕をギリリとひねり上げると、それも悲鳴に変わった。

「……何?」
本当ならこのまま腕を折ってやろうかと思ったけれど、何か言いたそうにしていたので聞いてあげる事にした。
当然、間接は極めたまま。

「わ、私はラプラスの魔と言いまして……紅茶の妖精サンですゥ!
 日頃のご愛飲に感謝して、この度は幸運な100億杯目の方の願い事を3つ叶えてさしあげようと……
 あおぁおぁおおおぁああああ!?」

兎男・自称ラプラスの魔は、悲鳴混じりにそう答える。
……本当かしら?どうも信じられないわね……どうしたものかしら。

とりあえず……登場の仕方からして常識では考えられない事だったし、話くらいは聞いてあげようかしら。
でも、その前に。
何だかとっても馬鹿にされた気がするから、腕だけは貰っておくわね。








   ―――→  後半へ続く

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