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四月一日は一年で唯一嘘が許される日だ。
だが、それは人間に限った話ではないようで───


-Liar!Liar!~ホントがウソでウソがホントで~-


カーテン越しの朝日僕を夢の世界から引きずり起こす。
僕は何時もと同じ六時四十五分に目を醒ました。
まだ半分夢心地のまま身体を起こし、うーんと伸びをした。

…?

僅かな違和感。
その正体は、寝ぼけている頭では解らなかった。
ゆっくりとベッドから降り、自室の扉を開けると、味噌汁の匂い。
それに誘われるように階段を降り、リビングを通る。

「おはよう」

……?
誰の声だろう?
いや、挨拶したのは僕なんだけど。でも、僕の声じゃない。
寝ぼけているのかな、と自分の中で納得したのも束の間。
それが間違いである事はすぐに解った。

「おはようです、蒼星石。もうすぐ朝食の準備ができますよ」

僕を呼ぶ声。
でも、僕の知ってる翠星石の声じゃあない。
とても嫌な予感がした。

「あの、翠星石…だよね?」

また、誰かの声。僕の声じゃあ、ない。

「翠星石ですよ?何を言ってるんですか──」

嫌な予感は、徐々に大きくなってゆく。
だめだ、聞いちゃいけない!!

「私はお前の双子の兄貴の翠星石じゃないですか」

何故こうなったんだろう。
慌てて自室に戻りクローゼットを開く。中の服は全て男性物だった。
服だけではなく、下着すらも。
半ば放心したまま制服──ブレザーだった事がせめてもの救いだ──に着替え、朝食を摂り、学校へと向かった。
これが夢だったならどんなにいいだろう。
しかし現実は無情で、夢かもしれないと確かめるため翠星石に叩いてもらった頬はビリビリと痛んでいた。
そう、その翠星石も何時ものような長い栗色の髪ではなく、癖っ毛をムースとワックスでビシっとセットした男らしい髪形で。
僕はといえば見た目は全く変わらないものの、それでも「身体的特徴」は男の子のそれだった。
気が重いまま通学路を歩き、学校の門を潜る。
本日何度目か解らない溜息をつきながら、教室の扉を開いた。
僕は、そこで二度目の衝撃に見舞われる事になる。

「遅刻ギリギリとはいけないんだぜ蒼星石。委員長たる俺、金糸雀がビシっとバシっと矯正してやるぜ」

くらり。
現実を逃避しようとした僕の意識をどうにか捕まえて、目の前の事態を把握しようとした。
ブレザーに身を包み、亜麻色の髪を短く纏め──というか、むしろ角刈りに近いほど刈り込んで、細い眼鏡の向こうから鋭い視線を投げかけている。
一見するとものすごくガラが悪い。こ、こんなので委員長が勤まるのか…
どうでもいい事にばかり突っ込みが向く自分自身に呆れながら、適当に受け流して席についた。
ぐるりと見回すと、僅かに女生徒が多いような気がする。
机に伏してこの状況をどうにか整理しようと試みた。


…が。

「蒼星石ぃ、何をだらだらしてるのぉ」

甘い声が聞こえる。しかしそれもやはり男声で。
見たくないなあと思いながらもそちらに視線を向けると、ストレートの銀髪を歌人──自称グルメの玄人雀士でもいいが──のように固めた姿。
緋色の瞳と気だるげな態度で、彼女─いや、彼が何者かが解ってしまった。

「水銀燈…君もなのか……」

自分の変化と翠星石、それに金糸雀の姿で半ば予想はしていたものの、いざそれを目にするとやはり衝撃的で。

「私も…いる……」
「忘れてはいませんよ。蒼星石くんの事ですし」

そしてさらに衝撃的だったのは、水銀燈の左右を固める白と紫の二人。
それぞれ日本刀の鍔で作られた眼帯をつけ、癖のある長めの髪を縛っている。
それよりなにより、「彼女達」がそうであったように、水銀燈の腕をそれぞれ抱き寄せべったりとくっついていた。

「………なんだろう、この胸焼け感………」

「彼女」であった頃はさほど気にもならなかったのだが、「彼」になった途端なんとも例えがたい嫌悪感が胸の奥にわだかまっていた。
それでも無理矢理例えるならば「暑苦しい」が近いのだろうか。
適当に三人をあしらって、神に祈る。
僕が何か悪い事をしましたか。何故こんな仕打ちをするのですか。


がらり、と視線の向こうで扉が開いた。
女生徒が教室へ入って来る。
無造作だが不快感のない髪型、黒い縁の眼鏡。
JUM、と呼ぶ声で彼女が誰なのかはっきりした。
腰まである金髪を先で纏めている生徒──多分真紅だ──、そして同じ金髪でもこちらは短く纏めてある生徒──こちらは雛苺だろう──の二人がJUMと呼ばれた女生徒の傍へと駆け寄る。
下僕がどうのという会話が聞こえる。これ、男女逆になったら物凄く卑猥だ……そんな事を考えていた。

ふっ、と。
気付いてはいけない事に、僕は気付いた。
JUM君もこうなったってことは、まさか───
ぎぎぎぎぎ、と音を立てながら、JUM君の友人の方を見た。
気付いてはいけない事が、まさに現実であった。

M字禿というには少々思い切りの足りない額、何時も逆立っていた髪はオールバックで肩に掛かり、しかし太い眉はそのままに。

ああ、見なければ良かった。
こんな時こそ、台詞を借りよう。

「これからが本当の地獄だ………!!」


その日一日、僕は放心していたと思う。
授業も身に入らず──余談だが梅岡先生は髪型をショートボブにし、やけに乙女チックな服を着ていた──、園芸部の活動も具合が悪いという事で先に上がって、一人自室に篭っていた。
もしかしてずっとこのままなのか、そう思うとなんだか涙が出て来た。
もう、今日は寝てしまおう。
食欲も無い。宿題も無かった筈。お風呂は明日の朝でいいや。
僕は、ゆっくりと、眠りについた。

不思議な夢を見ている。
真っ白な空間に僕はただ一人漂っていた。
どれくらいそうしていただろう?ふっと横を見るとタキシードを着た兎が立っている。
兎が、何かを、喋っている。

「夢は現、現は夢」
「世界は貴女が思っている以上に悪戯なもの」
「惑わされるも、真実を見極めるも、貴女次第」
「さあ、間も無く目覚めの時間」
「意地の悪い世界に丸め込まれぬよう──」

そこで、僕は目が醒めた。
いつもの部屋、いつもの朝。
慌てて飛び起きて、クローゼットを見る。
そこには女性ものの服──とは言ってもパンツ系ばかりだけど──が並んでいた。
ほっと息をつき、うーんと伸びをした。

…僅かな、違和感。
慌てて僕はパジャマの下の自分の身体を確かめ───

えっ?

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