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「はぁ……今日は雨か」

がっくりとうな垂れて、窓枠にべったりともたれかかるのは私の彼氏、ジュン。
私は彼に入れてもらった紅茶を啜りながら、ジュンが曇天を眺めているのを眺める。
あまり大きな声では言えないけれど、部活をしているときのジュンの顔を傍から見るのが好きだ。
だからこんな雨の日は、私もほんのちょっぴり元気が無くなる。

「今日は部活も無いし……帰るか」
「そうね。雨も降っているし、更に寒くならないうちに帰るのだわ」

私は空っぽのカップをその場に置いて、帰り支度を始める。
ジュンも窓をカラカラと音を立てて閉め、鞄を軽々と肩の所まで抱えあげる。
そして、二人しか居ない……二人だけが居る教室の電気を切った。
こんな日は、やっぱり気分が重たいわね。……そうだわ、私はジュンの方を向いて口を開く。

「貴方の家に行きたい気分なの。大丈夫かしら?」

首をかしげながら、上目遣いで必殺の一撃。
彼は顔を薄桃色に染め、目をキョロキョロと動かす。

「べ、別にいいけど」

やっとの事で私に言葉をぶつけるジュン。全く、付き合い始めて三ヶ月も経つというのに……初心なんだから。
彼の頬に軽くキスをする。彼が顔を更に紅くする。それからすぐに、私の顔にその薄い色の唇を近づけてきた。

「真紅、お返しだ」

私の額に啄ばむようなバードキス。
うん、少しだけ元気が出たのだわ。

 


 

平日の雨って、どうしてこんなに気分を重たくさせるんだろう。
僕が17年と少し生きてきた中でも、最大の謎の一つだよ。

「きーっ!雨のやろー!早く止みやがれですぅ!」

僕の姉である翠星石も、若干湿った洗濯物を畳みながら愚痴をこぼす。
それでもその手は精密機械の様に止まることを知らない。

家事の苦手な僕には、到底出来ない芸当だよ。

「いよぉーし!お手伝い終わり、です。」

どうやら、畳み終えたようだ。お爺さんに、お婆さんの分。僕と翠星石の分。

洗濯物が整列した直立不動の兵士みたいに分けられている。

「翠星石は、いいお嫁さんになるよ」

不意に、口走っていた。

翠星石は豆鉄砲を食ったような表情になって、ちょっとだけ口の端っこに笑みを浮かべた。

「あたりめーですよ。翠星石に釣り合う男なんて、この世には存在しないのですぅ」

こんな事をにべも無く言うあたり、僕の姉は自信家だ。こんなツンとした事を言っていても、いつかはきっと素敵な男性を連れて来るのだろう。
僕はそれを、祝ってあげられるのかな……。……多分、その時にならないと、分からないのだろうけれど。

「ねぇ、翠星石。ココアでも飲むかい?僕が作ってあげるよ」

自信家の姉は、その柔らかそうな唇を嬉しそうに綻ばせた。

「ありがとですぅ」
「はは、すぐに作るよ。待っててね」

翠星石と過ごす『今』は、どうしてこんなに気分を浮き立たせるんだろう。
この僕、蒼星石が17年と少し生きてきた中でも、最大の謎の一つだよ。

 


 

「あら……あれは確か……」

しとしとと氷雨の降る日の下校中。私は紫陽花色の傘をさしている変わり者のクラスメイト、薔薇水晶を見かけた。
彼女は水溜りの前でしゃがみこんで、熱心に何かを見ているようだ。こんな寒い日は、家で熱々のカルビクッパでも啜るのがおつですのに……
けれども、私は何故か素通り出来ずに、彼女の元へと歩み寄っていた。

「何を見ているの?」
「……これ」

彼女が指差した方を見ると、何の変哲も無い水溜り。時折雨粒がその透明なキャンバスに、波紋を描く。一体何が面白いのか、私にはよく分からない。
しかし、薔薇水晶はとても面白い映画でも見ているかのごとく、幸せそうな顔をしている。
そんな彼女の表情を見ていると、こっちまで嬉しい気分になってきた。

「……雪華綺晶。何で、私に付き合ってくれるの?」

しばらくの間、そうしていただろうか。彼女がぼそりと言った。
一体何故なのか……それは、私にも分からない。

「もしかしたら、貴女に惹き付けられたのかもしれませんわね」
「……私に?」
「ええ」
「……ふぅーん」

……いつの間にか、雨が止んでいた。私達は立ち上がって同時に空を見上げた。
雲の切れ間から、陽の光が差し込んでいる。

「……あれ、『天使の梯子』って言うんだって」
「え?『天使の階段』じゃあなくて?」

私と薔薇水晶は、二人で並んで歩道を進む。雲が、だんだんと晴れていくのが見えた。

 


 

「うぅー……寒いのよ」
「こんな日は、早く帰って暖かいおでんに限るかしら」

私と雛苺は、シャッターの閉まった店先で雨宿りをしている。
ちょっと前まで、雨は降ってなかったのに……突然降りだして来たのかしら。
そして、今はザーザーと音を立てて滝の様に降り注いでいる。槍まで降ってきそうな勢いなのかしら。

「中々止まないのー」
「かしら」

雛苺が口を尖らせる。帰って苺大福(通称『うにゅー』)を食べたいのだろう。
カナも早くお家に帰って、『月で●った卵』を食べたいのかしら!
けれども、雨は止む気配を見せない。もう、神様の意地悪!

「もう、覚悟をきめていくの!金糸雀!」

しばらくして、とうとう雛苺がそんな事まで言い出した。
その表情は難攻不落の砦に攻め入る兵士のようで、正直、止めるのがはばかられる。

「ちょちょ、ちょっと待つかしら!」

こんな雨の中を飛び出したら、風邪を引いてしまう。通学鞄の中をガサガサと漁りながら、雛苺を止める。
傘は無いだろうけど……え?
……あったかしら。そうだった、昨日みっちゃんに言われて、鞄の底に入れておいたんだった。

「……はやく出せばよかったのに」
「ごめんかしら」

カナたちは、小さくて、明るい、黄色い傘を広げて、ざぁざぁ降りの雨の中に飛び出した。うぅ……風邪を引かなきゃいいけど……

 


 

「はぁ……」

私は、ため息をつきながら窓の外を眺める。
高層マンションから見る外の景色も、今日はあまり良いとは言えない、灰色の世界だ。

「メイメイ、おいで」

仕方ない。こんな沈んだ休日は、飼い猫の喉を撫でるに限る。
メイメイは私の腕の中に飛び乗ってきて、真っ黒でふわふわな体を私の体にこすりつけてくる。
そして、私の手のリズムに合わせて、ごろごろと嬉しそうに喉を鳴らす。
しばらくすると、電子レンジから、チーンと電子音が聞こえてきた。

「あらぁ、出来たみたいね」

レンジからよく暖められた牛乳を取り出す。いわゆる、ホットミルクだ。
それを白い陶磁のお皿に入れてやり、メイメイの前に置く。黒猫は私の目の前で真っ赤な舌を出し、ミルクをピチャピチャと舐め始めた。

「飼い主とペットは似るって、本当ねぇ。ふふっ」

私はそうひとりごちて残りのミルクを啜る。
仄かな甘みが口の中に広がる。

「ふぅ……美味しいわぁ」

私はラックから読みかけの雑誌を取り出し、椅子に座って読むことにした。
今度行くお店に目星をつけたり、読者相談のコーナーを眺めたり……
そのまま、私達の間に静かで、そして優雅な時が流れていく。
意外と、雨の日の休みも悪くない。

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