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謎の転校生・水銀燈を探して三千里…とりあえず校舎の外へと出たジュンときらきー。
ジ「どこだろう?」
特に見える範囲では彼女の姿は無い。
雪「靴箱には上履きが入ってましたから、外に出たことは確かですわ」
ジ「そうだよな…あっ!!あそこ…」
校舎の影、どこの教室の窓からも死角になっているその場所…大きなクスノキの木陰で、あの少女が…
たくさんのカラス達に囲まれていた。腕に乗せているカラスが彼女の頭をこつこつと軽くつつき、水銀燈は
笑顔すら見せていた…人には見せることの無いであろう、そしてジュンが垣間見ていたあの笑顔を。

…が、突然一羽のカラスが顔を上げ、鳴き始める。
主の世界の中に闖入者が来た事を告げられた水銀燈は、すっ…と目を細め、近づいてくるジュンと
雪華綺晶を見つめた。
「何よ」
まずは棘々しい口調を投げかける水銀燈。カラス達もそちらを向き直り、今にもスクランブル発進をしようと
する戦闘機のような体勢をとる。
思わず怯むジュン。彼がこのような境遇にさらされたのは二度目である。だが、逃げるわけにはいかない。
見ると、傍らの雪華綺晶は、彼とは対照的に全く動じる様子もなく、ゆっくりと歩を進めつつ言った。
「こんにちわ。私は雪華綺晶と申します。こちらは桜田ジュンさん。お昼をご一緒しませんこと?」
はらはらしながら見ていたジュンだが、カラス達は一向に雪華綺晶に襲い掛かる様子は無い。
何故だろう?といぶかしんでいると、水銀燈がまた声を上げた。
「はぁ…!?やぁよ。何であんたたちと…」
雪華綺晶は全く気にもかけずに続ける。
「決まってますわ。私達は貴女とお友達になりたいんですの。ねえ?ジュン様」
足を止めて振り返った雪華綺晶に背中を叩かれるかのような形で、ジュンも口を開いた。
「あっ…うん。よろしく…」
水銀燈はめんどくさげな表情の向こうにわずかに驚きを見せたが、すぐに目をそらして吐き捨てるように言った。
銀「…ふん。孤独な転校生に憐れみでも抱いたの?」
ジ「え…」
雪「…」
銀「で、そんな『可哀想』な私のことを気にかける『振りをして』、そんな自分に『陶酔』するんでしょぉ?
  お生憎様。誰があんたたちに…」
雪「まぁ、酷いことを仰るのね」
笑みを絶やす事もなく、雪華綺晶はその場に弁当箱を置き、再び前進を開始した。
ジ「あっ…雪華綺晶!」
思わずジュンは止めようとした。予想通り、彼女の背中の向こうの黒い翼たちが一斉に羽ばたくのが見え…
彼は眼を覆う。
…ややあって再び眼を開いたジュンは、信じられないものを見た。
カラス達は飛び上がるや、一斉に雪華綺晶から距離を取って逃げ出したのだ。
あちこちの木の枝に逃れるカラス達。
水銀燈は…というと、明らかに狼狽していた。
銀「ちょっとぉ、あなたたち…!!」
水銀燈には何が何だか分からなかったであろう。彼女に忠実なしもべ達が、今回ばかりはそれに背いたのだから。
ちなみに、彼女はしもべ達が何故眼帯の少女…雪華綺晶にだけは襲い掛かろうとしないかは知らない。
そんな水銀燈に、雪華綺晶は歩み寄っていく。
何だかよく分からないが、ジュンも雪華綺晶の後に続いた。
彼はおっかなびっくりだったが、雪華綺晶は微笑を浮かべている。

しもべの助けが得られないと悟った水銀燈はわずかに後ずさった。
銀「こ…来ないでっ!」
雪「何故?」
雪華綺晶はついに水銀燈の前に立ちはだかり、その端正な顔を両手で覆うように触れた。
銀「い…いやっ!!メイメイ、助けてぇ!!」
悲鳴を上げる水銀燈。しかし、恐るべき天敵…白い悪魔を前に、カラス達は動かない。
雪「どうして怖いの?」
雪華綺晶はその澄んだ目で水銀燈に問いかける。
水銀燈は恐れていた。もはや彼女を外から遮るもの、守ってくれるものは存在しない。
雪「こんなに綺麗な目をしているのに…」
銀「…嘘っ!!」
再起動した水銀燈が、いきなり雪華綺晶を突き飛ばす。
雪「きゃぁ!」
しかし雪華綺晶はジュンの腕の中に抱えられ、転倒を免れた。
ジ「水銀燈…!」
さすがに憤りを感じたジュンが睨んだ水銀燈は、両腕で胸と顔を覆い隠して震えていた。
だがジュンはそれに構わず口を開く。
ジ「君は弱いね」
銀「何ですって…!?」
若干、水銀燈の刺々しさが戻った…が、ジュンは続ける。
ジ「君は強がっているだけだ。カラス達を手下にして、気に入らないことがあれば暴れさせて…
  でも君は本当は弱さをもっている。仮にカラスがいなかったら、君は崩れてしまうんじゃないか…?」
銀「うるさい…」
ジ「君は自分の事を最初から皆に受け入れてもらえないと思い込んでいるんだ。
  だから強がる。カラスで武装する。周囲を拒否し、否定し続ける…。
  君がそうしている以上、周りもまるで鏡のように君を否定しざるを得なくなるんだよ。
  結局、君が否定しているのは周りの僕達じゃない、君自身だ」
銀「うるさいうるさいうるさいっ!!あんたなんかに何が分かるっていうの!!」
ジ「そう、僕もまだ良く分からない。だから君の事を知りたい。教えて欲しい。君は何故自分を否定する…?」
銀「…」
ジ「…髪?瞳の色?」
銀「…!!」
それを聞いた水銀燈は、まるで敵に襲い掛かろうとする狼のように、尖らせた眼を見開いてジュンを睨みつけた。
その銀髪は、まるで逆立たんばかりだったが…表情は、次第に哀しげなものに変わっていく。
ジ「…気に障ったんならごめん。英語の時間の君を見ていて…そう思ったんだ」
銀「…あんただって心の底では私のこの姿を嗤ってるんでしょお!?」
ジ「そんな、僕は」
たしなめようとするジュンをよそに、水銀燈は苦しげに続けた。
彼女の脳裏を駆け巡っているのは、今までに彼女が受けてきた好奇・蔑みの目、目、目。
銀「私は見せ物じゃない!出来損ないなんかじゃない!!どうして、みんな私を認めてくれないの!!」
ジ「…」
雪「水銀燈さん…」
悲しみを浮かべて水銀燈を見つめる二人。それとは最早比べ物にならないほどの哀しみを零して絶叫する
水銀燈は、心の叫びをついに吐き出した。
銀「私はみんなに認めて欲しいのに!…愛されたいのにっ!!…もう孤独は嫌あっ!!!」

一瞬、時が止まった。
真実だけが、その場を支配した。
そして、その真実を叫んだ水銀燈は…自分がいま何を言ったのかを改めて思い返し…その場にへたり込もうとした。

へたり込もうとした、というのは、そうしようと脱力した水銀燈を、ジュンが思わず抱きかかえ、支えたからである。
二人はひどくその身体を接近させ、見つめ合っていた。
ジュンは水銀燈の、うっすらと涙に潤んでいる真っ赤に澄んだ…吸い込まれそうな瞳をじっと見つめていた。
ジ「…雪華綺晶が言ったとおりだ。君は…こんなにも美しいのに」
銀「…」
水銀燈は、真っ直ぐに彼女を見据えるジュンの瞳から目を逸らすことが…どうしてもできなかった。
やさしい風が通り過ぎ、その銀髪をさらさらと揺らしていく。
ジ「僕は…君のことが好きになったらしい…この瞳も、柔らかな髪も」
銀「…!!」
何かを言おうとした水銀燈の唇を、ジュンは自分のそれでゆっくりと塞いだ。

雪「まぁ…」
間近で見ていた雪華綺晶は、一つに重なった二人の姿を、…本当に美しいと感じていた。

銀「んっ…はぁ…」
やっと唇を解放された水銀燈。彼女はその白い肌を真っ赤に染め、ジュンを見つめている。
ジュンは言った。
「人は、本来孤独だ…だけど僕は、人は孤独と決別する事もできると思う」
紅い瞳から、涙が迸った。

雪「良かった、良かったですわ…」
二人の様子を、まるで我が事のように傍らで喜ぶ雪華綺晶。
この喜びを分かち合おうと、彼女は木々に止まっている水銀燈のしもべ達を見上げる。
瞬間、主の一連の様子に戸惑いを感じていたカラス達は、…再び身の危険を感じて震え上がっていた。

…そんな彼らを、校舎の影に隠れて見つめている生徒が一人。

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