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 一月一日、元旦もすでに昼下がり。水銀燈と金糸雀は近所の有栖川神社に初詣にやって来ていた。毎回行動を共にする他の姉妹たちは朝一番に初詣を済ませているか、年越しを騒ぎすぎて明日まで夢の中か、新年のバーゲンセールに並んでいるか、昔から初詣は二人きりであった。
「意外に寒くないかしら」
「どこがよぉ、寒すぎるわ」
 黒いコートに白くてふわふわしたマフラーで完全防備の水銀燈は寒そうに白い息を吐いた。対して黄色いパーカーを羽織り、スカートから見える黒いタイツが眩しい金糸雀はぴょんぴょんと跳ねるように歩いている。
「去年と比べると人が少ないわねぇ……インフルエンザの影響かしら」
「少ないのは好都合かしら。さっさとお参りを済ませて家に帰るかしら」
 晩ご飯もお雑煮でいい? と金糸雀は尋ねたが、嫌だと言ったところで変える気はなさそうなので水銀燈は黙って頷いた。



 水銀燈は10円玉を、金糸雀は5円玉を賽銭箱に投げ入れ、パンパンと手を叩いて目を閉じる。本当はやり方があるらしいがそんなことを気にするような二人ではなかった。
「ねぇ水銀燈、水銀燈は何をお願いしたかしら?」
「分かるでしょ? いつもと同じよ。金糸雀は? みっちゃんさんの事?」
「んー、秘密。まっ今年はちょっと違う事かしら」
 神社の境内を意味もなく二人は歩いた。なんとなく帰る気にはなれなかったのだ。
「神様もつれないわよねぇ……去年のお願いみっちゃんさんの結婚よねぇ」
「所詮こーゆうのはお参りをする人の心を慰めるだけで、本人の努力がないと叶わないかしら」
「見た目に反してドライよねぇ」
 苦笑いを浮かべて水銀燈は言う。みっちゃんは結婚願望が薄いかしら、と溜め息混じりに金糸雀は返した。



「……それでも私は、神様にお願いするのよねぇ」
 空を見上げて水銀燈はつぶやいた。空には飛行機雲が真っ直ぐ浮いている。
「他人じゃどうしようもないのは私が一番分かってるし、だからこそ10円玉に希望を込めるのよ」
「金額を変えてみたらどうかしら」
「……ちょっと休んでいかない? わたあめでも買って」
『宇宙一おいしい飴屋さん』と書かれた屋台に向かって水銀燈は歩き出した。
「ん、じゃあわたあめ一つ、あぁもちろん、くんくんの袋の奴を」
「えぇとコレくださいかしら」
「あいよっ、お嬢さんは200円、おちびちゃんは250円だよ……まいどっ」
 お店の人からくんくんの袋に入ったわたあめを受け取る水銀燈。金糸雀はカラフルなぐるぐる模様の飴を受け取る。ふたりは人通りが少なくなった神社の隅の木で出来た古めかしいベンチに座って飴を食べ始めた。
「あー、丸いから意外に舐めにくいかしら」
「体に悪そうな飴ね、おいしい?」
「まぁまぁかしら」
「で、話は戻るんだけど」
「かしら?」
 キョトンとした表情で金糸雀は水銀燈を見る。水銀燈はわたあめを食べながら喋る。
「毎年初詣でめぐの健康についてお願いをする私はやっぱりどうかしていると思う?」
「さぁ? かしら」
「私は万が一、めぐに何かあった時、自分はやるだけやったと自分自身に言い聞かせたいだけなのかなぁ? みたいに思っちゃったりして」
「さぁ? かしら」
「訳分かんなくなるのよねぇ、自分が望んでいるのは確かなのに、ねぇ」
「かしらかしら」
「……聞いてる?」
「何を?」
 金糸雀の舐めている飴はすでに半分以上無くなっていた。水銀燈のふかふかわたあめはまだまだ残っている。
「悩んだってしょうがないと思うかしら、だって」
 金糸雀は水銀燈のわたあめをひょっいっと一口奪って言った。
「水銀燈の未来は水銀燈にしか選べないかしら」
「まぁそうだけどぉ」
「だから、カナはもう先にいくかしら」
「? 何処へ?」
「カナの未来に、かしら」
ぴょんと地面を踏み締めて金糸雀は立ち上がった。
「水銀燈のやってることが間違ってるなんていう気はないかしら。でも何かあった時にめぐさんのせいにしちゃいけないかしら」
「……金糸雀はどうして?」
「みっちゃんが大好きだからかしら」
 そこでようやく金糸雀はクルリと水銀燈を振り返った。
「大好きだから、みっちゃんを言い訳に使いたくないのかしら」
 水銀燈は目をパチパチさせていた。見た目は小さい頃とほとんど変わっていないのにいつの間にか金糸雀は自分を追い越してしまったような、そんな気がした。
「私も、めぐが大好きよぉ」 
 改めて言葉にしてみると意外に恥ずかしいので、顔が赤くなる。寒さの影響も少しはあるだろう。
「でも、もう少しだけ今までみたいに過ごしたい」
「それを選ぶのも水銀燈かしら」
「そぉね」
水銀燈はわたあめを袋にしまって立ち上がった。わたあめはやはりまだまだ残っている。
「帰るかしら?」
「えぇ」
ほんの少し、スッキリしたような顔で水銀燈は歩きだした。その横を金糸雀がぴったりくっつくように歩いていた。
「水銀燈、ほら」
ちらりほらり、と雪が降り出していた。二人の息が白く、白く、雪と同じ色をした。そして二人はどちらからともなく手を繋いで帰っていった。



     おしまい

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