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※時系列的に第四回と第五回の間のお話です

1945年1月21日 グアム米空軍基地
日本本土空襲の最高指揮官であったヘイウッド・ハンセル准将の部屋に、ある男が訪れた。
カーチス・ルメイというその少将は、立ち上がって敬礼しようとしたハンセルを制し開口一番にこう言った。
ル「准将、君の指揮によるジャップの空襲はほとんど効果を上げていないと言うじゃないか。
  分かっているのか?」
赤ら顔でまくし立てるルメイ。椅子に座ったまま、ハンセルは苦々しげな顔を上げた。
ハ「…何を仰りたいのですか」
ル「君の指揮が生ぬるいと言っているんだよ。聞いたところでは、君はジャップの軍需工場その他の軍事関係施設しか爆撃を許可していないそうじゃないか」
ハ「それが間違っているとは思えませんが」
それを聞いたルメイは、くわえてかけていた葉巻を灰皿に叩きつけた。
ル「それが駄目だと言っているんだ!君はジャップの特徴を何も分かってはいない!
  奴らは全員軍需工場の労働者なのだ!工場だけではない、奴らの家も全て工場だ!奴らは軍民挙げて
  武器を生産し、我々の仲間を殺しているんだ!攻撃目標など制限する必要は無い!」
ハンセルも黙ってはいられなかった。
ハ「少将は私に、日本本土に対する無差別爆撃を行えと仰っているのですか!?」
ル「当然だ!」
ハ「馬鹿な!少将、あなたも日本軍の重慶無差別爆撃を知っているはずでしょう?目標を選ばない爆撃など、
  我が軍の名誉を汚すものです!」
ル「中国人は人間だ!だが日本人は、ジャップは猿だ!頭蓋骨の発達が遅れた野蛮な動物だ!神の意志に
  背く存在の奴らに同情も必要なければ、ピンポイント攻撃も、精密爆撃も必要ない!」
ハ「…っ!!」
ル「言い忘れていたが、本日をもって、日本本土空襲の司令官は私に代わった。君の指揮はもう必要ない」
ハ「…少将、あなたのやろうとしていることは合衆国の汚点となるでしょう」
ル「どうかな?いずれにしろ、君は解任された。もう用はない。荷物をまとめたまえ」
ハ「…」
悲劇は、ここから始まった。

◎◎◎


同年3月9日、東京のとある街角。
「や~い鬼畜!」
「白んぼ、帰れ!」
おや、金髪に碧色の瞳の小さな女の子が、国民学校帰りの子供達に囲まれて罵声を浴びせられています。
女の子は小さな手をぎゅっと握り締めて俯いていたましたが…
あれあれ、やがて堪えきれずに泣き出してしまいました。かわいそうな事をする奴らですね。
「わああああああん!!」
「おっ、泣いたぞ!」
「鬼畜も涙を流すなんて生意気だな!」
ますます調子に乗る小国民…始末の悪い餓鬼共です。
…と、そんな餓鬼共のうちの一人が、突然悲鳴を上げて地面に倒れました。
「痛えよぉ!」
餓鬼はうつ伏せに倒れたまま泣き出しました。因果応報です。
そいつの頭に片足を乗せてふんぞり返っているのは、金髪の女の子と同い年位の女の子でした。
いじめっ子達も、泣いていた少女も、しばし呆気に取られて突然の闖入者を見やりました。
「こら、あんた達!男のくせに弱いものいじめなんて卑怯よ!」
少女がまくしたてます。
不甲斐ない餓鬼共は、これを見てすごすごと退散していきました。正義は勝つ!
「おととい来やがれバーカ!」
情けない集団の後姿に舌を出しつつ、その少女は、金髪少女のもとへ歩み寄りました。
「大丈夫?あいつらはもう行っちゃったよ?」
少女は、先ほどとはうって変わって優しげに話しかけました。金髪少女は泣き止みました。
雛「あ…ありがとう…なの…」
妹「ねえあなた、お名前は?」
雛「雛苺…なの」
妹「へえ、可愛い名前ねっ」
雛「あの…あなたは?」
妹「私は名乗るほどの者じゃあござぁせん。なんちゃって…」
少女は生粋の江戸っ子のようです。
雛「…」
妹「…」
雛「あの…雛の顔になにかついてるの?」
妹「ううん、綺麗な髪と目をしてるなって思って…雛ちゃんはどこで生まれたの?」
雛「…フランス、なの」
妹「へぇ!どおりでお人形さんみたいに可愛いと思った!」
雛「照れるの」
妹「ねえ雛ちゃん、うちに来ない?一緒にお話しようよ」
雛「いいの…?」
妹「いいってことよっ」
雛苺はその少女に手を引かれ、下町へ入りました。この頃の東京は、物資が少なくなっているために、木炭ガスで走る
木炭バスくらいしか走っていません。道を歩く人も少なく、通りの歩道のあちこちには防空壕が掘られていました。
しばらく歩いた二人は、とある通りの小さな和菓子屋さんの暖簾をくぐりました。
妹「ただいま!」
母「はいお帰りなさい。あら、お友達?」
和菓子屋さんの奥で団子を丸めていた割烹着姿の女性が、少女の声に応えました。どうやら少女のお母さんみたいです。
妹「うん、雛ちゃんっていうの~」
雛「おじゃまします…なの」
雛苺は小さな声で言いました。
母「あれれ、可愛い子ね」
雛「うぃ?」
雛苺は驚きました。大東亜戦争の開戦以来、異国人の自分を見る目が冷たいことには慣れつつありましたが、
初見で『可愛い』と言ってくれた人は本当に久しぶりでした。
妹「お母さん、何かお菓子ない?」
母「そうねぇ、じゃあ苺大福をあげましょうか」
雛「イチゴ…ダイフク?」
妹「お母さんの苺大福、おいっしいんだよぉ?ほっぺた落ちちゃうんだから!」
妹ちゃんが手振りを織り交ぜ、嬉しそうにしゃべります。
お母さんは陳列棚から苺大福を4個お皿に取り、奥のちゃぶ台に座った雛苺と妹ちゃんに差し出しました。
母「さあ、召し上がれ」
雛苺は、目の前に差し出された小さなお菓子をしげしげと眺めました。
見たことの無いそのお菓子は、小さくて、白くて綺麗な打ち粉をまぶされ、楊枝で持ち上げると…うにゅうと
しました。雛苺はそれを小さく可愛い口に運び…顔を輝かせました。
雛「美味しいの!」
妹「でしょ!?」
妹ちゃんもお母さんも嬉しそうです。
母「そう、良かったわ~。雛ちゃん、これからもウチの子とよろしくね?」
雛「はいなの!」
妹「ふふふ、よろしくぅ。私のことは妹ちゃんって呼んでねっ」
雛「妹ちゃん…なの?」
母「この子の上にはお兄ちゃんがいるのよ」
妹「うん、ほらあれ」
妹ちゃんは、壁にかけられている写真の額を指差しました。
そこには、若々しい陸軍将校が写っていました。
雛「お兄さん、軍人さんなの?」
妹「…うん。陸軍の中尉さん。死んじゃったお父さんも軍人だったけど…。今は沖縄にいるってお手紙が来たの。
  キョン君、元気かなぁ…」
雛「大変なのね…」
妹「でも楽しそうだと思うよ。キョン君の上官、ハルにゃんっていう幼馴染の子なんだよ」
妹ちゃんは別の写真を指しました。カチューシャをつけた活発そうな女性がそこに写っていました。
その軍服姿の腕には『大隊長』と書かれた腕章がありました。
雛「へえ…」
その時、雛苺の膝の上に、タヌキのように大きな三毛猫がのし上がり、そのまま丸くなりました。
雛「ネコさんなの~」
妹「うん!このネコはシャミセンって言うの。ほらシャミ、雛ちゃんに挨拶して」
雛「よろしくなの」
妹「ねぇ、雛ちゃんの家族の事聞かせてよ」
雛苺は…少しだけ顔を曇らせて応えました。
雛「お父様は外交官なの。お母様は…3年前の東京初空襲で死んじゃったの…」
妹「…ごめんね」
妹ちゃんは神妙な顔で謝りました。
雛「いいの。それより、苺大福美味しかったの~!」
母「あら、良かったわ。今度来てくれたらまたご馳走するわね」
雛「ありがとうなの!…それじゃ、お父様が心配するからそろそろ帰るの」
妹「うん、じゃあまたね!」
母「さようなら、雛ちゃん」
雛「またねなの!」
雛苺は、3月に入ったというのに寒い風が吹き付ける中、お家に向かって元気よく走り出しました。

◎◎◎

日本本土空爆の最高指揮官となったルメイ少将は、ただちに爆撃目標とする日本の民家の研究に取り掛かった。
当時の日本の民家はその大部分が木造住宅であり、これを効果的に破壊するには、炎上させるのが最も効果的である
ことはすぐに結論付けられた。
これを受けて、とある兵器が研究・開発された。
その実験のため、ルメイは実際に、実験台として木造住宅を作らせた。材料・間取り・家具・畳…それら全てが
実際の日本の民家に似せて再現されていた。
そしてある日、ルメイの見守る前で、「とある兵器」の実験が行われ、実際に木造住宅に投下された。
…そのE46集束焼夷弾は、実験台の瓦の屋根をもやすやすと貫き、木と紙でできた構造物を瞬時に炎上された。
“鬼畜ルメイ”は薄笑いを浮かべ、自分の前途の光明を確信した。

◎◎◎

3月9日夜。
雛苺が妹ちゃんとお友達になったその夜、雛苺はお家でお父様とお話していました。
雛「…でね、その子に助けてもらったの」
父「そうか。それは良かったね。今度時間があれば挨拶に行きたいものだな」
雛「苺大福も食べさせてもらったの!」
父「ほう…しかし、食糧配給が厳しい折、和菓子屋の経営も大変だろうに…」
雛「…なの?」
父「ま、いずれにしろ一度私もお邪魔して苺大福をご馳走になりたいな!」
雛「ほんと?雛嬉しいの!」
父「ははは。ではもうお休み?私の雛」
雛「お休みなの。お父様」
お父様は雛苺をベッドに寝かせ、その可愛い頬にキスをしました。

◎◎◎

同日夜。
アメリカ空軍の第73、第313、第314の三個航空団は、所属のB-29に詰め込めるだけの焼夷弾を積み込み、
テニアンを発進した。彼らの目標は、町工場も混ざる木造建築ばかりの東京の下町の市街地、生活する市民そのもの
であった。低高度夜間焼夷弾攻撃が、今回の彼らの戦法だった。

◎◎◎


同日夜。
和菓子屋一家は茶の間で遅い夕食をとっていました。食料は乏しくなり、配給だけが唯一の供給源となっていたのです。
しかしその配給も途切れがちになり、一家の食事も、麦の混ざった白米に具の少ない味噌汁のみとなっていました。
その夜は、冷たい強風がガタガタと紙テープを×印に貼られたガラス窓を揺らし、母子家庭をより心細くさせていました。
…と、その時。
ウウウウウウウウウウウウ…
お腹の底から響く、出来るなら耳にしたくない警戒警報のサイレンの連続音が、夜の東京に響き渡りました。
妹「お母さん!」
母「急いでラジオつけて!」
妹「うん!」
妹ちゃんがラジオをつけると、この時間帯に流れている音楽放送の変わりに、アナウンサーの緊張した声が聞こえました。『東部軍管区情報。東部軍管区情報。南方海上より敵らしき数目標、本土に近接しつつあり。繰り返します―』
お母さんがただちに電気を消し、部屋は闇に包まれました。ラジオの音声だけがやけに大きく聞こえます。
二人は、避難用にまとめていた荷物を持ち、靴を履いてラジオに耳を傾けていました…が、
やがて…
『敵目標は房総半島南方海上を旋回後洋上はるかに遁走せり。 警戒警報は解除されました―』
母子は思わず顔を見合わせて安堵の笑顔を浮かべました。

後にして思えば、これが東京の軍民両方に悔やんでも悔やみきれない重大な油断をもたらしたのです。
米軍の陽動作戦は、あまりにも綺麗に成功してしまったのでした…。

◎◎◎


日付が変わり、3月10日深夜…

東京の軍司令部。
「報告します!八丈島の対空レーダーが敵編隊を捉えました!」
「何だと!敵編隊はもう去ったのではなかったのか?」
「いえ、これは別の編隊です!」
「…くそ、あれは陽動だったのか!陸海軍の防空部隊は迎撃に上がれるか!?」
「それが、この強風のために離陸は非常に困難な状況ですっ…!」
「…仕方ない、迎撃は出来る範囲で行え!各方面の高射砲・サーチライト部隊は応戦準備だ!」
「はっ!!」

◎◎◎

深夜、雛苺のお家。
父「雛苺!起きるんだ?」
雛「うぃ…?」
突然のお父様の声に、雛苺は目をこすって起き上がりました。
サイレンの音、高射砲の音、ズズン…と響く音、人々の叫び声…様々な音が家の外に響いていました。
雛「怖いの…」
父「さあ、避難するんだ。雛苺、これをお着け」
お父様は雛苺の頭に防空頭巾を被せました。
父「さあ、行くぞ。お父さんの手をしっかり握ってなさい」
雛「う…」
父「大丈夫だ、お父さんがついてる。さあ、急ごう!」
雛「はいなの!」

警戒警報ではなく空襲警報で目を覚ました妹ちゃんとお母さんは、お家を出て近くの防空壕めがけて通りを走り出しました。
すでに沢山の人々が、慌てふためいた様子で走り回っていました。
二人は、人々に紛れて必死に足を動かしました。
…と、その時、炎で赤くなりつつある夜空に、エンジンの轟音が大きく近づくのが分かりました。
やがて、一機のB-29が、とても低い空を人々の頭上に達し…
その腹から、数え切れないほどの黒いものを落しました。
妹ちゃんは、走りながらも知らず知らずそれを見上げていました。
黒いものはやがて、空中で火を上げて真っ逆さまに降ってきて…
ドス!ドス!ドス!とあちらこちらの家・道路・そして…人々に。
「ぎゃあ!」
「ぐえっ!」
妹ちゃんたちと一緒に走っていた人々の、空を見上げた顔、背中に突き刺さり…斃れた肉体を火だるまにして燃え上がったのです。
妹「…!!」
母「見ちゃ駄目、見ちゃダメ…!!」
お母さんは、あまりのショックに泣きそうになっている妹ちゃんに声をかけ、一気に通りを走り抜けました。
下町は、すぐに火の海と化しました。

◎◎◎

米軍は、陽動作戦のために日本軍が警戒警報を解除した隙を突いて、3月10日0時7分に爆撃を開始した。
B-29編隊の第一波は、まずは民間の工場が集まる東京の下町を取り囲む形で、その10キロ四方を焼き払った。
炎の壁が、その中に取り残された人々に何を強いたのかは最早言うまでもない。

…爆撃隊の第二派・第三派は…、その死の正方形の内側にいた人々の頭上に、一平方メートルあたり4発もの
焼夷弾を撒き散らし、焼き尽くしていった。

アメリカは後に大量破壊兵器の所持と使用を咎め、ある国家を崩壊させたが、自国はその50年以上前に、
日本に対し、ナパーム弾・クラスター焼夷弾・E46焼夷弾などの大量破壊兵器を、それも民間人に対して使用して
いたのである。

火災の煙は成層圏にまで達した。
不幸な事に、その夜は強い冬型の気圧配置により強い北西の季節風…いわゆる空っ風が吹いており…
煙の下では台風並みの暴風が吹き荒れ、被害を拡大させ、文字通り火炎地獄の様相を創り出していた。
火災旋風までもがあちらこちらで発生していた。

季節風のために、日本軍の迎撃戦闘機隊はほとんどが離陸することが出来なかった。
運よく出来た戦闘機も、弾を撃ちつくして補給のために飛行場に降りてきても、季節風と火災旋風、
くわえてそれらが生み出す黒煙が、彼らの再出撃を阻んだ。
まともにB-29編隊に対抗し得たのは、破壊されずに残った高射砲ぐらいのものだった。

当時の日本国民は、空襲の際には逃走せずに留まり、消火活動にあたるよう法律で義務付けられていた。
しかし…この法律は、この日のような無差別大空襲を予想して作成されたものではなかった。
最早意味のない消火作業にあたった消防団や隣組の被害が大きかったのは言うまでもない。

◎◎◎

妹ちゃんとお母さんは防空壕を探しましたが、どこの防空壕も一杯で、中には防空壕の真上から入り込んだ焼夷弾に
やられ、燃え盛っているところもありました。
逃げ惑う人々にもまれ、二人は浅草の言問橋近くまで来ていました。

お父様と逃げていたはずの雛苺は、いつの間にかお父様とはぐれてしまっている事に気が付きました。
雛「お父様、どこなの…」
お父様の姿はどこにもありません。
雛苺のすぐそばを、知らない人たちが悲鳴をあげて逃げていきます。
雛苺は、とめどない不安に怯え、次第に涙顔になっていきましたが…その時、
すぐ近くを、妹ちゃんとそのお母さんが、言問橋に走っていくのが見えました。
雛「妹ちゃん!」
雛苺は思わず妹ちゃんを呼びました。お父様とはぐれ、心細かったのです。
…ですが、火炎の音や人々の叫び声が雛苺の声を掻き消しました。
雛「妹ちゃん!」
たてもたまらず雛苺が走り出そうとしたその時…
言問橋の反対側から、信じられないものがやってきたのです。
巨大な炎の竜巻が、物凄い勢いで橋の上を渡り始めました。
言問橋の上は、対岸へ逃げようと両岸からやって来た人々がぶつかり、まるで身動きが取れない状況でした。
…炎の竜巻は、そんな人々を飲み込むようにして橋を渡り始めたのです。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」
断末魔の叫び声が響き、すぐにその数を増していきました。
雛苺が見ている前で、たくさんの人々が行きながら燃え上がっていたのです。
火に耐えかねた人々は、欄干を乗り越えて次から次に川に飛び込み…焼死体で埋まった川面で凍死したり
溺れたりして息絶えていました。
…雛苺は、橋のこちら側に、人にもまれている妹ちゃんの姿を見ました。
雛「妹ちゃんっ!!」
雛苺の悲痛な叫びが、妹ちゃんの耳に届きました。
妹ちゃんは雛苺を見つけ、何かを叫ぼうとし…
炎に包まれたのです。
父「駄目だ雛苺、見ちゃいけない…!」
いつの間にか雛苺を見つけて駆け込んできたお父様が、愛娘の顔を、自分の胸で覆い隠すように…抱きました。
雛「お父様!!」
父「すまなかった雛苺、はぐれてしまってすまなかった…!!」
雛「わあああああああああああん!!!」
安堵した雛苺は、お父様の胸で大声で泣き出しました。
お父様は…雛苺を抱きながら、すぐそばの橋の上でなすすべもなく焼かれていく人々の最後を…
涙を滲ませて見つめていました。

◎◎◎
B-29の編隊も去った朝方には、火勢もあらかたおさまっていた。
…その後、この東京大空襲の犠牲者は、死者・行方不明者あわせて10万人を超えたことが判明した。
これは、後の広島・長崎原爆に匹敵する被害であり…もはや戦争とすら呼べるものではなかった。
東京大空襲という戦争犯罪をを指揮したルメイ少将が、日本国内で「鬼畜ルメイ」と渾名されるようになるのに
それほど時間はかからなかった。

◎◎◎

雛苺とお父様は、一夜で焼け野原となった東京を目の当たりにしていました。
あちらこちらで煙がくすぶり、炭化して性別も分からなくなった死体が転がり、異臭を放っていました。
雛「怖いの…」
目の前の光景に怯える雛苺。
父「…雛苺、よくご覧。これが…戦争だよ。たとえ、どんな言い分があったとしても…
  これが、戦争の現実なんだよ…」
お父様は、焼け跡を見つめたまま、娘に訥々と語りました。

そう、これが、幼い雛苺の直面した、悲惨な「せんそう」だったのです…

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