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……もしもし、ジュン?出るのが遅いわよ。
「私からの電話には3コール以内に出ること」
いつも言っているでしょう?

それとも、出れない用事でもあったのかしら。
ふふ、まあいいわ。
貴方の声が聞けるのだもの。

さて、今日は何を話しましょうか。
大学ではうまくやれてるの?友達はできたのかしら?

……あら?今、何か物音がしなかった?
いえ、受話器の向こう側、貴方の方よ。
誰か、お客でも来ているの?
こんな時間に訪ねてくるなんて、まったく非常識な子ね。
大学のお友達?……それとも、私の知っている誰かかしら?
翠星石?蒼星石?ひょっとして金糸雀?
まさか……水銀燈?

……え?ただのテレビの音?
本当かしら?私には、何かこう、人が動いた時の衣擦れの音に聞こえたのだけど……

ねえ、ジュン。私たちは隠し事をするような間柄じゃないでしょう?
正直に話して頂戴。

……「本当にテレビの音なんだ」?

ねえ、なんで隠そうとするの?
ジュン。私はそんな嘘にはだまされないわよ。
そうやっていつもいつも……そう、いつもよ!!

どうして、いつも大切なことを私に教えてくれないの!?
ねえ、どうして!!
私は、この真紅は貴方のことをこんなにも想っているのに!!
ねえ、教えて!!どうしてよ!!貴方はいつもそうやって!!
ジュン!!聞いてるの!?ジュン!!答えなさい!!

……ハア、ハア……ごめんなさい。
私としたことが、少し取り乱してしまったようだわ。
まったく、こんなことじゃレディ失格ね。

……ねえ、ジュン。
本当にテレビの音なのね?本当に本当ね?
……そう、なら今回は貴方を信じることにするわ。

でも、そのテレビが私と貴方のつながり……
絆を一瞬たりとも揺るがすなんて、そんなこと許せない、いえ、許さないわ。
今すぐ消して頂戴。
……もう消した?あら、なかなかに気がきくじゃない。
これからは私と電話するときはあらかじめ消しておくこと。いいわね?

それと、貴方に悪い虫がつかないか心配だわ。
携帯電話を今度会ったときに少し貸してくれるかしら?

……何のため?決まってるじゃない。
貴方のところに来るメールが、全て自動的に私のほうへ転送されるように設定しておくのよ。
こうすればお互いに安心でしょう?
貴方はあらぬ疑いを避けられるし、私も杞憂せずにすむのだもの。
そう、これは私のためでもあるし、貴方のためでもあるのよ。

……束縛?何を言っているの?
この真紅が貴方を束縛していると?

ふふ、ずいぶんと幼稚なことを言うものね、ジュン。
貴方は私の恋人である以前に、下僕でもあるのよ?
いい加減に、自分の立場というものをわきまえてほしいわね。

いいこと?私は貴方の全てを知っているの、ジュン。
貴方は生まれ故郷を離れて、忌々しい過去を捨て去ってその街で生きているつもりなのでしょうね。
でも、私は全て知っている……。
あなたが注意深く、注意深く、二度と開けないであろう記憶の引き出しの奥底にしまいこんだことも、ね。
そう、あの中学での全校集会のことも……。

……あら、どうしたの、ジュン?声が震えているわよ?
ごめんなさい、あまり触れるべき話題ではなかったわね。
ふふ、でも貴方がいけないのよ。
私が貴方のこと、縛り付けているなんて言い方するから……。

そうそう、少し話がそれたけど、携帯電話の件はわかってくれたわね?
……いい子ね、ジュン。それでいいのよ。

……ねえ、ジュン。
私、貴方のこと、誰よりも想っているつもりよ。いいえ、そうに違いないわ。
だから、貴方も私のことを信じて、その心を預けてくれていいのよ。

私ね、時折怖くなるの。
貴方が私から離れていってしまう気がして……。
ふふ、おバカさんよね、そんなことあるわけないのに。
でも……もしも、もしもそんなことがあったら……私の貴方への想いも、きっと変わってしまうのでしょうね。
そう、まるで熟しきった果実がいつしか腐るように……。

……あら、もうこんな時間。
そろそろ寝ないと、夜更かしは体に良くないわ。
じゃあ、ジュン。明日、また電話するから。
ちゃんと3コール内で出ること。約束よ?

くれぐれも気をつけなさい。
私という果実を、腐らせることのないように……ね。

<了>

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