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2年前のハドソン川、じゃなかった、川のほとりのベンチ。
あの日も寒かった。今日みたいにな。いやホント。

クリスマスイブだってのに、辛気臭い顔してたよアイツ。何やっても楽しそうにないからついついイラついてな。
だから聞いてやったんだ。俺といて楽しくないのかよ?って。今思えばバカなことを聞いたもんだ。
男ってのはつくづくなイヤ生き物だと、自分のことながら思ったんだ。え?全人類を巻き込むなって?それもそうだな。

「大事な話があるかしら。」

あぁ、今でも鮮明に残ってるよ。エコノミーモードで保存したかった記憶だが、そうもいかないんだこれが。

「何だよ?」
「カナがバイオリンが好きなのは・・・よく知ってると思うかしら。カナはそんなにバイオリンが上手なわけでもないし・・・」
「ある時ね、あんまりにもカナが悩んでるのを見てみっちゃんがこんなことをいってくれたかしら。」
「"だったらバイオリン作ってみたらいいんじゃないの?"って。」

よーく知ってらぁ。お前のバイオリンに対する情熱は卵焼きを凌駕するほどのものになってきたことくらいな。
「みっちゃんの短絡的で楽観的なアドバイスをカナはなんとなく受け入れたかしら。じゃあバイオリンを作ってみようかしらって。」
「それから、バイオリン造りの教室に行って、バイオリンの素晴らしさに触れてしまったかしら。卵焼きに勝るとも劣らないモノがこの世にあったのかしら。」
「・・・お前はそれでどうしたいんだ?」
「バイオリンを・・・バイオリンを本格的に作る勉強がしたいかしら!そのためにも大学を休学する準備も整ったのかしら!」
あんな金糸雀の顔、初めて見たよ。それに、あんな風に迫られて反対できるか?いくら好きでもだ。
参ったよ、ホント。あの日俺があいつを引きとめられたとしても、もう別れてただろうな。そうやって世界が流れてくみたいに。
頭ん中で昔聞いたあの曲が流れてる。何て言ったかな?あぁ、"MerryChristmas Mr.Lawrence."だ。
金糸雀がバイオリンで奏でてくれたあのメロディが。畜生、なんでこんな時に。
頬を伝う最初は暖かく後に冷たくなっていく感触は、何だったんだろう?今思えばもっと早く気付いてやるべきだったんだ。
独りよがりでもなんでもいい、アイツが本当に追いかけたかったこと、言いたかったことをここまで追い詰めないと言えなかった自分が・・・
「嫌だったんだ。本当に、自己嫌悪の塊みたいでな。アホらしい話だろ?」
「・・・そんなことない。続けて。」
あの時と同じように冷たくなったコーヒーの渋味が、今はよく似合うんだろうな。情けない。

「泣いてるかしら?」
「泣いて何かねーよ!俺様を誰だと思ってるんだ?」
「・・・無理は、無理はよくないかしら。」
自分の視界が霞んでるのをいいことに、俺は全く気づいてなかったんだろうよ。アイツだって・・・泣いてたんだ。
あの日以来、俺はアイツを見ちゃいない。どんなツラ下げて行けばいいんだよ?メールも返せなくなっちまったしな。
3日後にはメールも来なくなったし、アイツも踏ん切りがついたんだろうよ。女ってのは強い生き物だぜ全く。
踏ん切りが未だについてないのは、俺だけなんだろうよ。アレから何にも変わっちゃいない。誇り高きサイヤ人が聞いて呆れるぜ。

「・・・本当に、そう思うの?何も変わってないって。」
「額の面積が少しばかり広がっただけだろうよ。ってうるせーな。」
「・・・何にも言ってないけど、やっぱ気にしてるの?」
「・・・まぁ、気にするだろう。男たるもの。」
「・・・そう。でも、変わったのは額の面積だけじゃないよ。」
「?」
「・・・あなたは自分のことをもう少し知るべきじゃないかな?ベジータ。高校から見てるけど、大分大人になったと思う。丸くなったよ。」
「焼きが回ったって言いたいのか?」
「違う。そんなことはない。強がってるだけだよ、ベジータは。」
見たこともないような真剣な顔をしやがった。こんな顔するんだこいつ。少しばかり驚いたぜ。
「昔のジュンを見てるみたい・・・そう、4年前の夏みたいな。ジュンもね、悩んでたんだよ?」

4年前の・・・桜田ジュン。そう言えばジュンと呼ぶようになったのは、大学に入ってからか。
当時は中二病の塊みたいな奴だった‐特に、3年の時は酷かった。授業という授業を片っ端から睡眠時間に使ってたな。
かくいう俺もその部類だが、学校には来ていたように思う。
それがいつからか見違えるように生き生きとしやがった。いったい何があったのかと思えば、春が来たとか。
ただの現金な奴に見えるが、そうでもないことくらい俺にでもわかる。しかしジュンが4年前に乗り越えたことを22にもなって・・・
やめておこう、また自己嫌悪のフルコースになりかねん。何度も何度も"自責の念のマリネ、鬱のソース和え"みたい前菜から始めるのは御免だ。
一通り、薔薇水晶から話を聞くと俺はジュンがいかに成長していたのかをまじまじと見せつけられることになった。
「・・・そんな感じ。私は今でも卒業式で言いかけた言葉を言えずにいるんだ。その年の夏にね、言おうと思ったんだけどやっぱり駄目だった。」
「そう・・・なのか。」
「・・・うん。似た者同士かもね、私もベジータも。」 

一緒にするなと言いたいところだが、どうも分が悪い。というのも、薔薇水晶の言う通りで間違いないからな-認めたくはないが。
「・・・素直に、素直になればいいと思うよ?私はジュンにそう言ったの。だから、ベジータも・・・」
「人のこと言えた義理かよ。まぁ、俺は今までこんな風に人に話すことがなかったんでな。良かった。感謝するぜ。薔薇嬢。」
「・・・その呼び方、なんか懐かしいね。」
「ほら、お前のコーヒーも冷めちまってるじゃねーか。何かもう一杯飲んでくけど」
「いる。新しいのが飲みたい。」
人がしゃべってるのを遮って、しかもまだおごるとも何とも俺は言ってないんだがな。まぁいい、話を聞いてくれた礼をせんとな。
「まだ俺は何も言ってないんだが・・・何がいいんだ?新しいのは3種類あるだろ?」
「・・・おねーちゃんのお勧めカスタムで飲むから、ついてきて。」
そう言えば薔薇水晶の姉貴、水銀燈はバリスタだったな。全くいらん入れ知恵をしてくれたもんだ。お陰様でお値段俺のドリンクの2倍だ。2倍。締めてお値段1200円也。
「にひひ♪ありがと♪」
「・・・覚えてろよてめぇ。」
俺涙目、超涙目。給料日前だってのに何やってんだおれは。グッバイ、野口英世とその他諸々達よ。

「・・・で、あなたはどうしたいの?」
「どうもしねーよ。忘れたいだけだ。」
「・・・今でも好きなの?そうなの?」

・・・本当のところ、どうなんだろうな。
好きか嫌いかだけで言えば未だに俺は金糸雀が好きなんだろうが、またもとの関係に戻りたいとかそういうのは正直薄れているように思う。
理由なんて理由はないし、強いて言うなら気持が離れていったんだろう。物理的距離は心理的距離に比例するとか・・・誰か言ってたな。 

「・・・離れたんだ、気持も。それなのに何で誰とも付き合おうとしないの?そんなにモテないわけじゃないでしょ?」
「モテるなら 今は誰かと 共にいる ベジータ。」
「・・・はいはいワロスワロス。でも私はまだ好きなんじゃないかなって思うんだ。さっき言ったみたいに、自分もそうだったから。」
「・・・正直、わからんとこはある。というかたった今わからんくなった。」
「・・・無理に区切りを付けようとするとダメみたい。」

--この気持ちにも、自分の小さな考えと枠にもそろそろ卒業しないと。

「こんなこと言ってたけど、やっぱり無理だったもん。今は大丈夫だけどね。正直しんどかったよ?」

自分の気持ちなんて自分以外の誰が分かるんだって思ってたが、似たような経験をした人間には完全にとは言わずともある程度はトレースできるらしい。
そんな風に経験と感情を共有することを俺は妙に嫌っていた。逃げや甘えにつながりかねんと思っていたからだ。

「・・・ストイックすぎるんだよ?ホント、昔のジュンみたい。」
「俺はストイックでもなんでもないと思うがな。」
「ストイックも行き過ぎるとただのMだよ。いくらM字だからってそこまでしなくてもいいんだよ。」
いい加減、そのネタでいじるのをやめてもらいたいもんだ。そろそろギャリック砲が発動しそうで自分でも怖いぜ。

・・・に、しても、だ。コイツの言うとおり、本当はどう思ってるのか正直自分でもわからん部分はある。
だが未だに金糸雀を思っていたとして、アイツになんて言えばいいんだ?2年前に別れた女を指さしてこいつは何だと言われたら元彼女以外なにが思い浮かぶってんだ一体。
今日はもう、考えるのをやめよう。そう薔薇水晶に言い捨てて、俺は席をたった。


「ベジータは今でも、金糸雀のことを・・・大切な人って思ってるんだよ、きっと。」

クソッ・・・!薔薇水晶の言葉が頭から離れねぇ・・・。
なんだってんだ、ホントに。

薔薇水晶、お前は一体何がしたいんだよ。

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