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今日も学校が終わった。
いつものように帰り支度をして、いつものように鞄を持って、いつものように帰路に着いた。
そして、いつものように途中の十字路で真紅と別れ、僕は一人になった。
僕の家まではあと数十メートル。
そこで、僕は後ろから聞こえる黄色い声に気づいた…

『思い出』

雛「JUM~!」
J「?雛苺!どうしたんだ?こんなとこまで。お前の家は反対方向だろ?」
雛「JUMに話したいことがあってね、ついてきちゃった!」
J 「僕に用があるなら学校でもいいじゃないか?」
雛「…どうしてもJUMと二人っきりで話したかったの」
J 「…そうか。それで、話ってなんだ?」
雛「あのね…今度の日曜…ヒナにちょっとお付き合いしてくれる?」
J 「今度の日曜?」
雛「あ…別に無理なら無理でいいの」
J 「いや、いいよ。今度の日曜だな?」
雛「ほんと?じゃあ約束ね!」

それまで不安そうだった雛苺の顔が急にぱあっと明るくなった。

J 「ああ約束だ」
雛「JUMありがとうなの!じゃあまた明日学校でね!」
J 「ああ、またな」

そう言って雛苺は走っていった。

J「雛苺の奴…なんかいつもと様子が違ったな。何かあったのかな?」
僕は雛苺の様子を少し疑問に思いながらも、そのまま家路へ着いた。


そして日曜日…


(ドッシーーン!)


J 「ぐはっ!」
雛「JUM~!おはようなの!」
J 「…雛苺さん。何をやっていらっしゃるのですか?」
雛「JUMを迎えに来たの!」
J 「……で、何で僕の上に乗ってるのかな?」
雛「JUMがなかなか起きないからなの!」
J「お前な…もう子供じゃないんだからそんなことするな!死ぬかと思ったぞ!」
雛「JUMは大げさなの」
J 「お前は…自分が何㌔あると思ってんだ」
雛「あっ!JUMひどいの!ヒナはそんなに太ってないのよ!」

…こんな朝も久しぶりだな。小学生の頃はよくこうして雛苺が朝僕を起こしに来てたっけ。
「JUM~遊びに行こ~!」って言って…
…でも、あの頃はまだ小さかったからいいけど、今飛び乗られるのはマジで勘弁です。はい。

の「ヒナちゃん久しぶりねぇ~。朝ごはんまだでしょ?一緒に食べましょ。今日の朝ごはんは花丸目玉焼きよぅ!」
雛「わ~い!」
J「小学生じゃないんだから…朝ごはんくらいで騒ぐなよ」
雛「ヒナは今でも花丸目玉焼きも花丸はんばーぐも大好きなの!」
J 「はいはい…」
の「それじゃあみんな!いただきます!」
雛「いただきま~すなの!」
J 「やれやれ…」


雛「JUM!朝ごはんも食べたし…そろそろ行くの!」
J 「ああ。ところで、行くってどこにだ?」
雛「それは行ってからのお楽しみなの!」

の「待って!JUM君、ヒナちゃん!お弁当作ったから持って行って」
J 「ああサンキュ。姉ちゃん」
雛「それじゃあ行ってきま~すなの!」
の「はい、行ってらっしゃ~い!晩御飯までには帰るのよぅ~!」
J 「わかってるって!」


J 「さて…まずはどこに行くんだ?」
雛「こっちなの~」

雛苺に手を引かれて歩く。これも久しぶりだ…


雛「ここなの!」
J 「ここは…」

雛苺に連れられて来たのは近所の川だった。

J「へー懐かしいな。小さい頃はこの川でよく遊んだっけ」
雛「JUM~!ここなの!」
J「そうそう…ここにある蔦をロープみたいにして川原に降りてたんだよな」
雛「ねえ!下まで行ってみましょう?」
J 「え?でも今の体重をこの蔦が支えられるかな?」
雛「大丈夫よ!じゃあ先に雛が行くの!」

そう言うと雛苺は蔦をつたって川原へと降りていった。

雛「大丈夫なのよ~!JUM!」
J 「そうみたいだな。じゃあ僕も行くぞ~!」

(スルスル…プチッ)

J 「プチ?…うわああぁぁぁぁ!!!」

(ドッシーーン!)

J 「いててて…」
雛「JUM!?大丈夫なの?」
J「ああ…下にあったクッションのおかげでなんとか…」
雛「このクッション、ヒナ達が置いたのよね」
J 「ボロボロだけど…まだあったんだな…」


雛「JUM!冷たくて気持ちいいのよ!」
J 「ほら!あんまはしゃぐと服が濡れるぞ!」
雛「大丈夫なの…ってきゃあ!」

(ギュ…)

J 「ほら…転びそうだったじゃないか」
雛「え、あ、JUMありがとなの」
J 「ん?どうした?なんか顔赤いぞ?」
雛「な、何でもないの!あっ!お魚が泳いでるの!」
J 「ん?本当だな…」


雛「楽しかったの~!」
J「さてと…どうやってここを登るかが問題だな。蔦も切れちゃったし…」
雛「JUM忘れたの?もう少し先に歩いて登れるくらいのゆるい坂があるのよ」
J 「そういやそうだったな…」


J「…なあ、さっきその坂から降りればよかったんじゃないか?」
雛「…ハッ!」


J 「さて…次はどこだ?」
雛「あっちなの!」
J 「あっち?」

雛苺の指差す先には小高い丘と小さな雑木林があった。

J 「秘密基地か…」
雛「そうなの!ほら!行きましょ!」
J 「おい!待てって!そんなに走ったら…」

(ドッテーン!!!)

J 「やっぱりな…」
雛「うぅ…転んじゃったの…」
J 「ほら泣くなよ。立てるか?」
雛「うん。大丈夫。ありがとJUM」

(そして…)

雛「着いたの~」
J 「ああそうだな」
雛「この丘はいいのね。街が全部見えるし…優しい風が吹いてるの」
J 「そうだな…」

(ぐ~)

雛「お腹すいたの」
J「よし!じゃあ姉ちゃんが作ってくれた弁当食べるか」
雛「うん!」


雛「のりの作ってくれたお弁当はいつもおいしいの!」
J 「昔はよくみんなでこうしてお弁当食べてたっけな」
雛「でも、やっぱまだまだなのね!おにぎりに苺が入ってないの!」
J 「入ってたまるか!」

そんな他愛のない話をしながらのお弁当。いつ以来だろう?
小学生の頃はよくこうして…

お弁当を食べ終えて、僕たちは昔秘密基地があった場所を探していた。
…まだ残ってるだろうか?


雛「確かここらへんなの…」
J 「だよな…」
雛「あっ!あった!」
J「おっ!ほんとだ!何年もたってるのに残ってるもんだな」
雛「でもちょっと変わってるの」
J「新しい子が秘密基地として使ってるんじゃないかな?」
雛「そうかもなの。ねえJUM、ちょっと中に入ってみましょ」
J 「そうだな。せっかくだし」


J 「意外と狭いな」
雛「そうなのね。あの頃は結構広いと思ってたのに…」
J 「でも、ここにいるといろいろ思い出すな…」
雛「そうなの!みんなの秘密基地だもん!」
J「水銀燈なんか最初は『下らなぁい』なんて言ってたくせに、ここが野良犬に荒らされたときは一番に泣き出したりして…」
雛「あははは♪そんなこともあったのね!」
J「真紅が『紅茶が飲みたい』なんて言うから持ってきたカセットコンロで小火騒ぎなんてのもあったな」
雛「あの時はとっても怒られたの~」
J 「他にもさ…」
雛「……なの…」


蒼星石が翠星石とけんかした時に投げた鋏で傷がついた木。
薔薇水晶がどこからか拾ってきたハンモック。
本当に懐かしいや…


雛「すぅすぅ…」
J 「グーグー……うん?寝ちゃってたのか…」

J 「おい雛苺。起きろ」
雛「…うゆ?…おやつの時間なの?」
J 「もうおやつの時間は過ぎてるよ。そろそろ帰ろう」
雛「!!!もうそんな時間なの!」

そう言うと雛苺はがばっと起き上がった。

J 「どうかしたのか?」
雛「ねえJUM。最後にもう一箇所行きたいとこあるんだけど…いい?」
J 「? ああ。いいけど…どこだ?」
雛「ついて来て!」

そう言って雛苺は走り出した。

J 「おい!どこまで行くんだ?」
雛「もう少し…もう少しなの」
J「本当にどこなんだ?正直この辺はあんま見覚えないんだけど…」
雛「ここなの」
J 「ここは…」

そこは古びた公園だった。
2つのうち1つは壊れたブランコ。
塗装がはげ、錆び付いた滑り台。
そして雑草が生え、荒れ果てた砂場。
もう夕暮れ時だということを差し引いても、あまりに寂しくて、とても子供が遊ぶような場所には見えなかった。

J「寂しい公園だな…でもどうしてここに来たかったんだ?」
雛「…やっぱりJUMは覚えてないのね」

雛苺はそう言って、壊れかけのブランコに腰を下ろした。

J 「覚えてない?どういうことだ?」


雛「……昔この公園に一人の女の子が遊びに来たの」
雛「その子はこの町に越してきたばかりで…探検しててこの公園に着いたのね」
雛「その頃、この公園はまだキレイで、たくさんの子供が遊びに来てたの。そして、その子もお友達と一緒に遊んだ…」
雛「…でも、この公園はその子の家からは遠かったのね。周りの子供たちがお母さんが迎えに来て帰ると…その子は一人ぼっちになってしまったの」

J 「それ…」

雛「その子はこのブランコに座って一人で泣き続けたわ。孤独ということを生まれて初めて味わって…とても怖かったのね」
雛「でもそこに一人の男の子がやってきたの。その男の子はこういったわ。『どうして泣いてるの?』って…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『どうして泣いてるの?』
『あのね…ヒグ…お家がわかんないの…エッグ』
『迷子なの?』
『コクッ…』
『それじゃあ僕と一緒だ。実は僕もお家がわかんなくなっちゃったんだ』
『あなたも…ヒック…迷子なの?』
『うん。ちょっと遠くまで遊びに来すぎちゃったみたい』
『あなたは寂しくないの?怖くないの?』
『うん。あのお山のほうに向かっていけば分かるとこに出るだろうし、それに…』
『それに?』
『君を見つけたから。僕は一人じゃないよ。もちろん君も一人じゃない。ね?』
『……』
『さあ、泣いてても仕方ないよ。僕と一緒に行こう。きっと君のパパやママも探してるはずだよ』
『うん…』


『僕の家はこの辺なんだけど…』


『雛苺!』

『あっ!ママ!』
『どこに行ってたの!心配したじゃない!』
『ごめんなさいなの…』
『…もういいわ。さあお家に帰りましょ』
『待って!…あれ?あの子は?』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


雛「それで、お礼を言おうと思ったらもうその男の子はいなくなってたの」

J「…その男の子も自分の母親を見つけて走っていったからな」

雛「…思い出した?」
J「うん。今まですっかり忘れてたけど。…そうか…あの時の女の子は雛苺だったんだ」
雛「次にJUMと会ったのは小学校に入ってからだもん。JUMが分からなくても仕方ないの」
J 「雛苺は僕のこと分かってたのか?」
雛「うん!一目見て分かったの!だって…」


だってあなたは…私を暗い闇の中から助けてくれた王子様だから


J 「だって?」
雛「ううん。なんでもないの!」

雛「あの時、JUMがいてくれたから…ヒナは一人ぼっちじゃなくなったの。怖くなくなったの」
雛「JUM本当にありがとう」

J「よせよ。もう10年も前のことじゃないか。それに僕も迷子だったんだし…」
雛「えへへへへ…」


J 「それで、どうして今日なんだ?」
雛「うい?」
J「小さい頃の色んな思い出の場所に行ったけど…今日じゃないといけない理由でもあったのか?」
雛「……ねぇJUM?ヒナはJUMのことが好きなの。大好きなの」
J 「突然なんだよ?」
雛「JUMは?JUMはヒナのこと好き?」
J 「ああ。好きだよ?」
雛「そう。よかった…」

雛苺は少し残念そうな微笑を浮かべながらそう言った。

雛「それじゃあ帰りましょ?」
J 「お、おい!質問に答えろよ!」
雛「競走なのよ!よーいどん!」
J 「おい!待てって!」


どうして雛苺は今日僕と思い出の場所を巡ったのだろう?
結局雛苺の口からその答えを聞くことはなかった…


それから数日後、雛苺は僕たちの前からいなくなった。…誰にも別れを告げずに。
担任の梅岡が雛苺は家庭の都合で海外に行くから今日から学校に来ない、と告げた。ただそれだけ。
本当は一ヶ月ほど前から分かっていたそうなのだが、彼女の意向で学校側も公表しなかったそうだ。
みんな突然のことに驚いていた。もちろん僕も。
悲しむ間も、懐かしむ間もない別れ。
雛苺のことだ。たぶん別れが辛くなるから何も言わなかったのだろう…
でも…本当に彼女はそれでよかったんだろうか?

J 「JUMのことが好き…か」

雛苺がいなくなったその日、僕の足は自然とあの公園へと向かっていた。

そしてあの時彼女が座っていたブランコに腰を下ろした。

J 「ここで出会った女の子が雛苺…」
J「雛苺は僕のことずっと覚えてたんだな…それなのに僕は…」


気付かなかった…


気付かなかった?何に?
あの時の女の子が雛苺だってこと?
雛苺がそのことを今までずっと黙ってたってこと?
それとも雛苺がもうすぐ会えなくなるのに無理して笑っていたってこと?


違う


J 「僕が気付かなかったのは…」

雛苺の想い。


雛苺はあの時僕に好きだと言った。
彼女は人より子供っぽいところがあるし、よく「大好き!」って言いながら抱きついてきた。
だから、僕はあの日もいつもと同じ意味で好きと言ったんだと思った。
そして、いつもと同じように好きだと答えた。

でも、そうじゃなかったんだ。あの時、雛苺は…

J 「僕は…」

雛苺はいつだって僕のそばにいた。それが当たり前だと思っていた。

J 「僕は…雛苺のことが…」

意地悪して泣かせたこともあった。それでも彼女は僕のそばにいてくれた。

J 「好き…だったんだ」

彼女の天使のような笑顔が。子供っぽいその仕草が。
時折見せる大人びた横顔が。そして彼女のすべてが。

J 「……もう…いいや」

そう。いまさら色々考えてももう遅い。
だってもう彼女は…僕が好きだった雛苺は僕の前にはいないのだから…

?「JUM!」

不意に聞こえたその声。聞き慣れた幼さの残るその声。
まさか…そんなはずは…だって彼女は…
考えていても仕方ない。僕はその声が聞こえたほうへ振り向いた。


そこに彼女がいた。


J「…?……!!!雛苺!!!どうして!?外国に行ったはずじゃ!?」
雛「…飛行機は明日の朝出発なの。それで…最後にこの公園にもう一度来たくなって…そしたらJUMが…」
J 「そうか…」
雛「うん…」
J 「……」
雛「……」

どうしてだろう。あんなに会いたかったのに、話したかったのに声が出ない。
ええい!動け口!今言わないと…もう雛苺は…

J 「あ…その…」
雛「?JUMどうしたの?」


J「なんで…なんで誰にも…何にも言わずにいなくなっちゃうんだよ!」
雛「え?」
J「一ヶ月前にはもう外国行くってわかってたんだろ!」
雛「…うん」
J「だったら!…だったらみんなに言ってれば、もっと思い出だって作れたじゃないか!」

僕だって雛苺の想いにもっと早く気付いたかもしれないじゃないか!

雛「……それがイヤだったの」
J 「どういうことだよ」
雛「だって…思い出って…作ろうとするものじゃないでしょ?」
J 「……?」
雛「JUMと会って…真紅や水銀燈たちと遊んだりけんかしたりして…そんな、なんでもない毎日がヒナの大切な思い出なの」

雛「それにね、遠くに行っちゃうから特別な思い出作ろうなんてしたら、もうみんなと会えなくなっちゃう気がしたの」
J 「……」
雛「ヒナはみんなとお別れするつもりじゃないの。もっともっとみんなと思い出作りたいの。だから…だから……」
J 「雛苺…」
雛「あれ…?どうしてなの…?泣かないって決めたのに……目から…」

(ギュ……)

雛「!JUM!」
J 「泣きたいなら泣けばいいさ。僕はここにいるから」
雛「JUM…JUM…うわぁーーーーん!!!」

それからしばらくの間雛苺は大声で泣き続けた。まるで小さな子が駄々をこねるように。
そして僕はそんな雛苺をギュッと抱きしめていた…

J 「…落ち着いたか?」
雛「うん…JUMありがとなの…」
J「…あのさ、こないだの日曜ここ来た時、お前僕のこと好きだって言ったよな」
雛「……うん。そうなの」
J 「今あの返事してもいいか?」
雛「?あの時JUMは好きだって言ってくれたの」
J「いや…あの時は聞かれた意味が分からなかったんだ。だから今改めて返事させてもらう」


      僕はお前のことが好きだ


雛「JUM…」
J 「…意味は分かるな?」
雛「うん。雛もJUMのことがだーいすき!」
J 「そうか。よかった…」
雛「ねえJUM…」
J 「うん?」


雛苺はじっと僕を見つめてきた。
まるで人形のような美しいエメラルドグリーンの瞳。
その瞳を見て、彼女が何を言わんとしているかがわかった。


そして、僕たちはどちらからともなく唇を重ねた…

そのまま僕たちはしばらくの間抱きしめ合っていた。
…どのくらい時間がたったのだろう?不意に雛苺が口を開いた。


雛「……でも…もうヒナはJUMとは一緒にいられないのね。もうJUMと新しい思い出を作れないのね…」
J 「雛苺…」
雛「ヒナはJUMのこと絶対忘れない。だから…JUMもヒナのこと絶対忘れないで!」
J 「…それは違うだろ?」
雛「え?」
J「もっともっと思い出作るんだろ?そのために誰ともお別れしなかったんだろ?」
雛「JUM……うん!そうなの!」
J「だったらそんなこと言うな。お別れじゃないんだから。また会えるから」
雛「…うん!じゃあまたねJUM!」

そう言って彼女は夕闇の中に消えていった。

J 「さよならは言わないからな…」

別れの言葉はいらない。だってこれは別れなんかじゃないから。

J 「そうだろ?雛苺…」

この公園は僕たちの始まりの場所。出会い、そして恋の。
決して終わりの場所なんかじゃない。
だから…

J 「またな…雛苺…」

~fin~

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