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 薄暗い森の中、いつもは陽気に聞こえる鳥たちの鳴き声も、『ここ』では不気味に響く。
 その鳴き声の中心、木々が少なくなった『広場』のような場所に、蒼き鎧に身を包んだ女が凛と立っている。その首元では
剣とナイフをあしらった十字架が鈍い光を放ち、その腕には人の身の丈ほどはあろうかという鉄の塊が握られていた。

 『鉄の塊』と表現したものの、それらはメイスだとか、槍といったものとは全く違った様相を有していた。まるで…そう、
まるで『鋏』のような異形の武器。それはどのような金属で作られているのか、普通の剣や、金塊とは違う、妖しげな光を放
っている。

 彼女は、人形の群れに囲まれていた。人形たちの顔は薄汚れ、中にはヒビが入ったものすら見受けられる。それらは手にナ
イフ持ち、過去、人間に愛されていたであろう時代の面影をその表情に残しつつ、彼女に笑いかけていた。動くたびに軋む球
体間接の音は、まるで獲物に飛びかかる機会を伺う猛禽類の鳴き声のようにも聞こえた。

「へぇ…どういう原理で動いているのかな、これは」

 多勢に囲まれていながら、少女は取り乱さない。ゆっくりと『鋏』を構え、そして、『何もいない空間』を切り裂いた。

「悪いけれど、君たちの相手をしている暇も惜しいからね…それじゃ、バイバイ」

 突如、彼女を中心に竜巻のような風が巻き起こり、周囲の人形たちを襲った。
 人形たちは突然の異変に一瞬驚いたような素振りを見せたが、成す術もなく吹き飛ばされる。そして、あるものは木々に叩
きつけられ、またあるものは巻き上げられたあと重力の言いなりとなって地面へと激突し、バラバラに砕け散った。

 『鋏』を下ろし、振り向いた少女を迎えたのは一つの拍手。
 その主は薄桃色の髪に白い鎧を身につけ、眼帯で右目を隠している。

「…さすがですわ。すでに『魔』をそこまで自分の物にしているなんて…」
「何を言っているんだい…君だって、訓練は受けていたじゃないか。…それに僕よりも遥かに強大な力を持っている」

 白い女の賞賛に、蒼い女は皮肉めいた笑いで応える。とりたてて仲が悪いとは思えないが、仲が良いとも言い得ない、妙な空
気が二人の間には存在していた。

「…『アレ』が、『魔』にかかわった人間の末路ですわ」
「…へぇ、どういうことだい?」

 白い女はそんな言葉をさらりと受け流し、にこやかな笑みを浮かべながら蒼い女に語りかける。

「『魔』とは実体のない力ですが、それはさも疫病のように『宿主』の体を冒していきます。そして冒された者は『不死』を手
に入れることができる…」
「『不死』…その代償として人形や亡者に?」 
「半分正解、といったところでしょうか。
 …そもそも、『死』とは何でしょう?
 肉体が滅びぬこと?
 確かにそれも死ですわ。
 だけれど、それはあくまで『死』の一側面にすぎません。
 『本当の死』とは…魂自身が滅びること」
「…」
「『魔』に冒された者達は肉体が滅びようとも魂は永遠にこの世をさまよい続けます。
 彼らの『不死』とは『死に至らない』ということではなく…」

 そこまで言って女は一瞬言葉を止めた。その顔は先ほどまでと同じ笑みを湛えてはいたが、何か言い知れぬ『邪悪さ』を曝け出
し始めていた。

「『不完全な死』ということですの」

 蒼い女は不愉快そうに眉を顰める。やはり、彼女達の仲はあまりいいとは言えないようだ。まるで、腹の中を探り合っているよ
うな、そんな雰囲気だった。

「…それで?」
「彼らは生前、といってはまずいですわね。…『人間』だった頃の記憶が懐かしくて仕方がないんですの。
 だから死体や人形といった『人の形』をしたものを見つけるとすぐさま飛び込みます。
 …愚図で愚かな『リビング・デッド(生ける屍)』や『オート・マトン(自動人形)』の出来上がり♪ と、いうわけです」
「……そんなことを言うもんじゃないよ。不完全とはいえ、彼らだって死者なんだ。悼む気持ちを忘れてはいけないよ、雪華綺晶『団長』」
「失言でしたわね、申し訳ありませんわ。蒼星石『隊長』」

 それと同時に木々がざわめきだす。二人はそれを合図に、まったく逆の方へと向き直る。

「目的は分かっておりますね?」
「ああ。…『真の不死』、もしくはそれを手にした者の確保。忘れてはいないさ」
「それだけ分かっていれば良いのです。…では、道中お気をつけて」
「ああ、君こそ足元掬われないようにね。…『原初の女』のご加護を」
「ええ。それでは」

 蒼星石はその言葉を聞くと、再び森の中へと進み行ってしまった。後に残された雪華綺晶は、相変わらず、先ほどと同じ笑みを
浮かべ続けている。

「ふふふ…信仰篤くて結構、結構」

 不意に、木々のざわめきがやみ、鳥たちの鳴き声すらも消え…あたりは水をうったような静寂に包まれる。

「でも、ここは『魔の森』。…信仰なんて、腹の足しにもなりはしない。うふ、うふふふふ……」

 雪華綺晶だけが、そんなことには構うことなく、不気味に笑っていた。

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