【少女たちの夢を星に託して】
[2009年11月17日 23:59]
[蒼星石の部屋 ベランダ。]
蒼「う~っ、冷えるなぁー……」
蒼「もう、11月も折り返したんだよね」
雛「なの! もうちょっとでクリスマスなのよ♪」
蒼「……まだあと37日もあるんだよ?」
雛「だからー、もうちょっとなの!」
……僕は蒼星石。中学3年生の女の子だよ。
将来の夢だとか、どこの高校に行くとか……
みんなそんなことを言ってるけど、僕にはまだ、
そういうものは、見えない。
家で、双子の姉の翠星石と、チクチクと盆栽をいじってるほうが、
気が楽だからね……。
となりに並んで座ってるのは、同級生の雛苺。仲良しなんだ。
見た目だとか性格はちょっと幼いから、まるで妹みたいだけれど……
……たまに、大人びて見えることがあるんだ。
なんでこんな時間に、雛苺が僕の部屋にいるかって?
……夜の11時に、僕がジュースを買いに行ったら……
偶然、雛苺に出くわしたんだ。
いつもは、9時には寝ちゃうはずなんだけど、
「今日はなんだか眠れないの」って言うから……僕の部屋に呼んだんだ。
蒼「うーん……ねぇ、雛苺」
雛「うゆ?」
蒼「雛苺には……夢ってあるのかい?」
雛「うぃー、あるよー!」
蒼「へぇ、どんな夢なんだい?」
雛「あのねぇ……大人になった後も、みんなで、一緒に遊びたいの。」
蒼「……!?」
……僕は、雛苺が言ったことが、
言ったとおりの意味のことかと思ってたんだ。
雛「みんな、高校に行って、大学に行って、働いて……
ばらばらになっちゃうの。違う国に行っちゃうかもしれないし……。
忙しくなるの。トモエも、『高校を出たら東京に行く』って言ってたわ。」
蒼「うん……たしか、真紅がイギリスに行きたいって言ってたよね。
水銀燈も、ドイツに行くって言ってたし……」
雛「金糸雀は、ヴァイオリンの先生になりたいって、言ってたの。
雪華綺晶と薔薇水晶はお花屋さん、ジュンはデザイナー、
ヒナも……お菓子を作るひとになってみたいの。」
蒼「そう……なんだ。」
雛「……めったに、みんなと逢えなくなるの。」
蒼「うん……」
雛「……ヒナね、みんなの夢が叶うの、とってもいいことだと思うわ。
でもね……」
蒼「……?」
雛「みんなが、いつまでも仲良しでいられたら、もっと素敵だと思うの。」
そうか……。そういうことだったのか。
自分よりも、友達を大事にする……そんな雛苺ならではの、大きな夢だよね。
僕も……というより、周りのみんなも……そう言いたいけれど、
いずれはばらばらになるのを分かってるから……言えないのかも知れない。
雛苺だって、今までこんな夢を語ったことはなかった。
けど……僕に、あんな素敵な夢を語ってくれた。
今なら、言えるよ。
蒼「うん。そうだよね。」
雛「うぃ。」
蒼「……思いあっていれば、この先、何年も、何十年も……
つながりあえるはずだよ。それは、君もよく知っているよね。」
雛「……絆、なの。」
蒼「ディ・モールトいい答えだね。 それに、どこにいようと、上を見上げれば……
みんなはどこを見ていると思う?」
雛「……みんな、お空を見ているの。 あっ! おんなじ、空を見ているのね!」
蒼「そうだよ。 ……同じ星の上にいるのだから……いつでも、みんなに逢えるよ。」
雛「うゆ!」ニコニコ
……なんだか、僕らしからぬことを言っちゃったかな。
だけど……雛苺の満面の笑みを見ていたら、そんなことなかった、って思える。
そう思って、空を見上げたら……
ヒューン……
蒼「あっ! 流れ星だ!!」
雛「うゆ!? どこどこー!?」
ヒューン……
雛「見えたなのー! うわーい!!」
蒼「僕も見えたよ!」
ドタドタ
バンッ
翠「待ってましたですぅ!!」
蒼「わあっ!! 翠星石!? 寝てたんじゃなかったのかい!?」
翠「『しし座流星群ピーク』だと聞いておちおち寝てられんですぅ!
蒼星石の声がするのを待っ……ありゃ? どうしてチビ苺がいるですか?」
雛「こんばんわーなの!」
蒼「ほ、星を見にきたんだよ。」
翠「はぁ、そうだったですか。」
雛「流れ星、きれいなのよ♪」
そっか、今日は、流星群のピークだったのか……。
それで、流れ星を立て続けに見られたんだ……。
ニュースでも言ってたよね。
翠星石も加わって、3人で、しばらく空を眺めてた。
そうしていると、一瞬だけ、辺りが静かになって……
次の瞬間……
ヒューン……ヒューン……
ヒューン……ヒューン……
キラキラキラキラキラキラ……!!
蒼「わああ……!」
雛「ふおお……!」
翠「すっげえですぅ……!」
ヒューン……ヒューン……
ヒューン……ヒューン……
キラキラキラキラキラキラ……!!
蒼「……せっかくだから、お願い事をしようよ。
さっきの夢、星に託してみないかい?」
雛「うん!」
翠「そうですねぇ……」
蒼「……そういえば、翠星石、君の夢は何なんだい?」
翠「す、翠星石の夢ですか!? そりゃー、ジュ……
あわわわ! な、なんでもねぇですぅ!!
とびきりうまいスコーンを焼けるようになりたいですぅ!!」
雛「……翠星石、まっかっかなのー。夜でも分かるのよ。」
翠「じゃかーしーですぅ!! それに翠星石は夢を叶えちゃるですぅ!!」
蒼「ハハハ……」
天体ショーを楽しみ終わったわ、時計の針は1時を指してた。
僕と翠星石は、雛苺を家まで送り届けて、少しだけ冷たい風の中を、
途中の自動販売機で買ったココアを握り締めて、家路を共にしたよ。
明日も……もう、今日かな? ……行かないとね。みんなのいる、学校へ。
翠「……ジュンには内緒ですよ?」
蒼「言わないさ。……けど、素敵な夢だと思うよ。」
翠「……ありがとです。」
……君の夢も、みんなの夢も、叶うといいね。
【少女たちの夢を星に託して 終わり ☆彡】