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あのヘンテコなトラブルの日々から、しばらくが経ちました。





今日も町では、金糸雀と雛苺が元気に走り回ったり。
水銀燈が病院にお見舞いに行ったり。
翠星石と蒼星石が二人で買い物をしたり。
イヌミミをぴこぴこさせた真紅が、沢山の犬をお供に連れてお散歩をしたり。 


そんな、とっても平和な毎日です。

  






         ◆ ◆  えぴろーぐ  ◆ ◆

       【  ○ ○ ○ ○  も ー ど !?  】







「以上が調査の結果ですわ。
 こちらは仔細をまとめた報告書と、依頼料の……」

シロクマ探偵・雪華綺晶は、そう言うと浮気調査の報告書をテーブルの上に置きました。
テーブルを挟んだ向かいには、依頼人の若奥様が悲しそうに涙を流しています。
事務所、兼、自宅の『私立探偵きらきー事務所』の応接室。
そこで悲しそうな表情をする依頼人と、仕事を完璧にこなした雪華綺晶。

腕の良い私立探偵である雪華綺晶にっては、これもまた慣れた光景でした。

やがて暫くすると、若奥様はお金の入った封筒を雪華綺晶に渡し、修羅のような形相で事務所から出ます。
きっと家に着く前に、バールのような物でも買って帰るのでしょう。

雪華綺晶は一人残った応接室で、封筒の中身を確認します。
そこには、以前の探偵家業では考えられないくらいの大金が入っていました。

シロクマ綺晶となった今、彼女は圧倒的なパワーと機転の良さで、探偵界のアイドル的存在だからです。

ですが……
雪華綺晶は嬉しそうにするどころか、つまらなさそうに封筒をテーブルの上に投げ捨てたのです。

「ふぅ……」
すとんとソファーに腰を下ろし、雪華綺晶は小さくため息を付きました。
ぷにぷにと、自分のシロクマ肉球をつつきながら、物思いに耽ります。 


思い出すのは……イヌミミを巡る、妙ちくりんな日々でした。

確かに、決して儲かる仕事ではありませんでした。
ですが、真紅や雛苺といった強敵。薔薇水晶と言う依頼人にして友人。
お金では買えない、とっても素敵にスリリングな日々。

今にして思えば、とっても楽しい毎日を過ごしていました。
でも、それも今日で全て終わりそうです。


雪華綺晶はポケットから一枚の写真を取り出しました。
そこに映っているのは、眼鏡をかけた一人の男性。
彼こそが、イヌミミを巡るトラブルの元凶の一人。
薔薇水晶のお父さんからイヌミミを盗んでいった白崎でした。

雪華綺晶がやっとこさ白崎の居場所を突き止めたのは、つい最近でした。
そして今日これから、薔薇水晶と一緒に、白崎を捕まえに行く予定です。


何だか、これでお終いかと思うと……不謹慎かもしれませんが、ちょっと寂しくなったりもしちゃいます。


「まあ、それでも……素敵なお友達も出来た事ですし……」
雪華綺晶はもうすぐ来るであろう薔薇水晶の姿を思い浮かべながら、自分に言い聞かせるように呟きました。

ソファーでごろごろしながら、肉球をぷにぷにしたりして雪華綺晶は時間を潰します。
そうこうしている内に、事務所兼自宅の玄関から『ピンポーン』とチャイムの音が聞こえてきました。 



―※―※―※―※― 



「……ごめん……薬の研究で遅くなった……」
ネコミミを付けたままの薔薇水晶は、そう言ってペコリと雪華綺晶に頭を下げました。

薔薇水晶の言う、薬。
それは『イヌミミを簡単に外す薬』の事でした。
薔薇水晶は、あの日真紅が去り際に言っていた、千切る以外のイヌミミの外し方を研究しはじめたのです。
イヌミミを作った天才・槐さんの娘である薔薇水晶なら、きっと上手く行くでしょう。

ですが……
やっぱり、始めたばかりの研究は難しいようで、薔薇水晶のネコミミも、少し元気がありません。

「いいえ、ばらしーちゃんは頑張っていると思いますわ」
雪華綺晶はそう言い、薔薇水晶のノドのあたりをコロコロと撫でてあげます。
薔薇水晶も「……ありがとう、きらきー」と答えて、気持ち良さそうにコロコロとノドを鳴らします。

それから雪華綺晶は、薔薇水晶に、白崎の居場所に関する資料を渡しました。

「―――という訳ですので、今すぐにでも捕まえに参りましょうか」
雪華綺晶は立ち上がり、出発の準備を始めようとします。

ですが……
薔薇水晶はうつむいたまま、動こうとしません。
不思議に思った雪華綺晶は、しゃがみ込んで薔薇水晶の顔を覗き込みます。
すると。

「……白崎を捕まえても……これからも……会いに来ていい……?」
薔薇水晶が消え入りそうな声で、そう呟きました。
  

『イヌミミを取る薬』の研究は、薔薇水晶一人で出来ます。
その上、白崎まで捕まえた日には……
薔薇水晶にとっては、雪華綺晶に会いに来る口実が減ってしまうな気がしていたのです。 


何だか、そんな事を心配していた薔薇水晶が、雪華綺晶にはとっても可愛らしく思えました。

「ええ、もちろんですわ」
雪華綺晶は、薔薇水晶に微笑みかけて、そっと頭を撫でてあげます。
すると……薔薇水晶は急に、恥ずかしそうにうつむいてモジモジし始めました。

何だかいつもとは違う薔薇水晶の様子に、雪華綺晶も首をかしげます。
「ばらしーちゃん?どうかなさいましたか?」

相変わらず、薔薇水晶はモジモジしたままです。
ですが、やがて意を決したのでしょう。
一人で小さくコクリと頷くと、ポケットから小さな白い薔薇の飾りを取り出しました。
「……これ……きらきーに……その……私が作った……プレゼント……」

片目に薔薇の眼帯をした薔薇水晶と、片目に薔薇飾りを付けた雪華綺晶。
きっと、なにか通じるものを感じていたのでしょう。

雪華綺晶は友人からの贈り物に、何だか胸の辺りがポカポカと暖かくなります。

「私にだなんて……お礼の言葉もありませんわ」
ぎゅっと薔薇水晶の手を取り、素敵スマイルで雪華綺晶は言いました。
それから、貰ったばかりの新しい白い薔薇を、自分の右目の所に付けてみます。

「うふふ。どうでしょう、似合っています?」
「……うん……すごく……イイ……」
そう答えた薔薇水晶は頬を赤らめていますが、まあ些細な問題でしょう。 

「では、白崎に逃げられない内に、出発するといたしましょう」

雪華綺晶はそう言って、ソファーから立ち上がります。
それから、鏡の前でもう一度、自分の姿を確認しました。

シロクマ耳の毛並みも素敵ですし、新しい薔薇飾りも似合っています。

それから雪華綺晶は、玄関まで行って靴箱を開けます。
新しい薔薇飾りとお揃いの、真っ白なブーツで出かける事にしましょう。

そう思い、手を伸ばして靴を取ろうとした雪華綺晶でしたが……
まるで時間がビタリと止まってしまったみたいに、動きが止まってしまいました。

自分の手が。シロクマ手袋でふわふわもふもふした、自分の手が。
それが触れる前に、靴は動いていたのです。
さっき薔薇水晶から貰った薔薇飾りから伸びた茨にからめ取られて。

そうです。
薔薇飾りから変な茨が伸びていたのです。

「な…!?これはどういうことですの!?ばらしーちゃん!?」
雪華綺晶は慌てて、間違いなく犯人の薔薇水晶へと視線を向けます。

「……自分の意志で動く……伸縮自在の茨……私が作った……」

薔薇水晶は、何故かハァハァと呼吸をしながら、頬を赤らめて答えました。 



そう言えば、薔薇水晶のお父さんの槐さんも、天才的な頭脳を駆使してイヌミミを作るような変態さんでしたね。 

  

「いばら……ですか?」
雪華綺晶はちょっと困った子を見るような視線を、茨と薔薇水晶に向けます。

確かに、右目に付けた薔薇から『これ』は伸びては居ますが…… 


やけに生物的にウネウネと動いています。
というか、茨にしてはやけに太いです。
しかも、その太いソレは一本や二本ではなく、何本もウネウネしています。
トゲもあまり尖っていません。むしろ、何だか全体的に丸みを帯びています。
茨の先端からは、樹液だと信じたい、やけに粘度の高い液体が染み出てます。
はたしてコレは、本当に茨なのでしょうか?むしろ……


18禁なエロ触手にしか見えません。
完全にアウトです。


何だか倫理観が警鐘を激しく鳴らしまくります。
ですが、白崎を捕まえる事を考えると、薔薇水晶を問い詰めている時間はありません。

雪華綺晶は自分の薔薇飾りから生えてくる茨を見ながら―――
これから始まりそうな、ハタ迷惑で慌しい日々を予感して、顔を引き攣らせていました。 








    ☆ お し ま い ☆ 


 

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