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薔薇水晶は、ついにイヌミミを手にする事ができてとっても嬉しそうな表情です。

早速、念願のイヌミミっ子になろうとしますが……
そこではたと気が付きました。
自分には今、ネコの尻尾が付いているのです。

このままでは、ネコ尻尾とイヌミミ、なんてアンバランスな事になっちゃいます。

それはそれでアリなのかもしれませんが……やっぱり、普通に考えたら変ですね。
もっとも、普通に考えたら、尻尾が生えているのも変な事には違いありませんが。

仕方が無いので、薔薇水晶は、この問題については保留する事にしました。

そして目の前に立つ、ネコミミを付けた水銀燈へと、薔薇水晶は視線を向けます。
ここでネコミミの回収も出来れば、もう何も言う事はありません。

薔薇水晶は隣に立つ、シロクマ耳を付けた雪華綺晶に顔を向けます。
そして、こくん、と頷きました。
雪華綺晶も、静かに頷きました。




ごう、と一陣の風が、彼女達のスカートを揺らしました。
長かった闘いの日々にも終りが近づいています。 





     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇ 





「真紅!ねえ真紅!!寝ている場合じゃあないかしら!!」
金糸雀は、イヌミミを千切られて気を失っている真紅の体をゆさゆさ揺すります。

ですが、イヌミミを千切り取られてよっぽど痛いのでしょう。
真紅はうんうんうなされたまま、目を覚まそうとはしません。

「お願い!このままだと……水銀燈までやられちゃうかしらっ!!」

金糸雀は倒れた真紅に、叫ぶように声をかけながら、激戦を繰り広げている水銀燈を指差します。
それは……確かに激戦でしたが、同時に圧倒的なものでもありました。


岩をも砕くパワーのシロクマ耳を付けた雪華綺晶。
猫さながらの俊敏な動きで相手を翻弄する薔薇水晶。

対する水銀燈はというと、ネコミミの力で足音が消えているだけです。

確かに、足音がしないというのは、こっそり奇襲をかけたりするのには向いていますが……
こうやって向かい合って闘うには、あまり意味がありません。

その上、水銀燈が雪華綺晶を素早さで振り切ろうとすると、薔薇水晶が。
薔薇水晶を力で押し切ろうとすると、雪華綺晶が襲い掛かってきます。

互いの長所を最大限に発揮しての連携に、水銀燈は徐々に、ただ逃げるだけの時間が長くなってきました。

「ちっ……このままじゃあジリ貧ねぇ……!」
水銀燈は、ブンと風を切って振り下ろされた雪華綺晶の手を避けながら呟きました。
どうみても、既にジリ貧です。
このままではイヌミミを取り戻すどころか、自分の身さえ危険です。 

でも、水銀燈は、その事を認めたくありませんでした。
ネコミミだけで尻尾はありませんが、尻尾を巻いて逃げるのも嫌でした。
薔薇水晶や雪華綺晶に負けるのは嫌だというのもありますが……
それ以上に、自分を助けて倒れた真紅の事が気になりました。


そういえば、いっつも真紅とは喧嘩ばかりしていました。
今更、この事を通して仲良くなれるだなんて、これっぽっちも思ってはいませんでした。
それでも……
まあ、これからは、退屈しない喧嘩仲間くらいにはなれそうかも、とも思いました。 


そこまで思って水銀燈は、闘いの最中だと言うのに、ちょっとだけ、ふふ、と笑っちゃいました。

「なぁんだ……それって、今までと同じよねぇ……」

背後から飛び掛ってきた薔薇水晶をかわし、水銀燈は倒れている真紅へと視線を向けます。
そこで水銀燈はやっと、真紅の隣でしゃがみ込んだ女の子……金糸雀の存在を思い出しました。

タンッ!と地面を蹴り、水銀燈は薔薇水晶たちと距離をとります。
そして、金糸雀のもとへと走りました。

「水銀燈!こうなったら二人で真紅を担いで逃げるかしら!」

水銀燈は、近くに来るなりそんな事を言ってきた金糸雀のおでこをぺしっと叩きます。
それから、余裕の表情を浮べながら近づいてくる薔薇水晶と雪華綺晶へと視線を向けました。 

何とかして薔薇水晶の動きを止めないことには、イヌミミは取り戻せません。
かといって、雪華綺晶が居る限り、薔薇水晶だけに気をとられる訳にもいきません。

二人の動きを同時に止める方法が何か無いものかと水銀燈は考えを巡らせます。
そして。

「ねぇ、おチビさん。
 ……本当なら私一人でも十分なんだけど……特別に手伝わせてあげるわぁ」

薔薇水晶たちに視線を向けたまま、水銀燈は金糸雀に声をかけました。 



―※―※―※―※― 



水銀燈は再び、薔薇水晶と雪華綺晶に向かって全力で走り出しました。

華麗な動きで背後に回りこんできた薔薇水晶を無視して、水銀燈は雪華綺晶に組み付きます。

「あらあら、黒薔薇のお姉様らしくもない。
 万策尽きての力押しでしょうか?」
雪華綺晶はふふ、と笑いながら、水銀燈の腕を掴みます。

「私がそんなブザマな真似をすると思ったのかしらぁ?」
水銀燈もニヤリと笑いながら、雪華綺晶の腕をつかみ返します。

がっしりと組み合う水銀燈と雪華綺晶でしたが、どう考えても水銀燈が不利です。
さらに。
「……これで終わり……」
水銀燈の無防備な背後には、薔薇水晶がやって来ました。

雪華綺晶と掴み合っているので、水銀燈には薔薇水晶に対抗する手段はありません。
そして……
薔薇水晶の手が、水銀燈の頭の上のネコミミをガッシと掴みました。

勝利の予感に、薔薇水晶も雪華綺晶もにやりと笑みを浮べます。
水銀燈も、ニヤリと笑みを浮べました。

「今よ!」
「了解かしらっ!」
水銀燈の合図で、今まで隠れていた金糸雀が、いきなり薔薇水晶に飛び掛ります。
 

水銀燈を押さえつける役目の雪華綺晶。ネコミミを掴んでいる薔薇水晶。
完全に動きの止まっていた二人は、簡単に金糸雀に近づかれてしまいました。

そして。
金糸雀は薔薇水晶のポケットから、奪い取られたイヌミミを、サッと取り戻す事に成功したのです。


「ふふふ……まんまと二人して足を止めちゃって……ほぉんと、ブザマねぇ?」
腕を掴まれ、ネコミミを掴まれた水銀燈は、それでもニヤリとしながら言いました。

水銀燈の思惑に見事にはまってしまった事に気付いた薔薇水晶は、くっと奥歯をかみ締めながら言います。
「……負け惜しみを……!」
それは、お互い様です。

そして薔薇水晶は……そのまま、掴んだ水銀燈のネコミミをバチーン!と引き千切りました。

水銀燈は膝からカクンと崩れ落ちます。
そして、地面に倒れる直前。
「……癪だけど……後は……任せてあげる……」
水銀燈は小さな声で、そう言いました。

どさっ、と水銀燈が地面に倒れる音がします。

金糸雀には……
翠星石から託された尻尾と、水銀燈から託されたイヌミミを抱きながら、見ているだけしか出来ませんでした。

 
薔薇水晶は、水銀燈から奪い取ったネコミミを、すっと自分の頭に付けます。
それから、少し楽しそうに目を細め、引っ付いたばかりのネコミミをぴこぴこさせました。

次の瞬間です。

薔薇水晶は、一切音を立てずに、一瞬で金糸雀の背後にまでまわっていました。
完全なネコミミっ子になった薔薇水晶は、本物の猫みたいに俊敏な動きが出来るようになったのです。

「……返して……」
冷ややかな声で、薔薇水晶は金糸雀に言い放ちます。


金糸雀は、ほんのちょっとだけ震えちゃいそうになりましたが……
「絶対に……渡さないかしら!!」
それでも、イヌミミとふかふか尻尾をギュッと抱きしめながら叫びました。

その様子に、今度は雪華綺晶が、悲しそうにため息を付いた後……静かに口を開きました。

「どうして?どうして貴方は、そこまでしてイヌミミが私達に渡るのを嫌がるのでしょうか?
 それに……この状況では、どうやってみても貴方には何も出来ないと理解できてるでしょうに……」

金糸雀は目の端に涙を浮べながら、それでも一生懸命、大きな声で答えます。

「カナにとっては!イヌミミは正義の味方の証拠かしら!
 どんな時でも助けてくれる、優しくって素敵な……それがカナにとってイヌミミかしら!
 貴方たちになんか……このイヌミミは渡さないかしら!!」

きっと、なけなしの勇気を振り絞ったのでしょう。
金糸雀の頬には涙が流れ始め、膝も少し震えちゃっています。
それでも、雪華綺晶と薔薇水晶を睨みつける金糸雀の目からは強い意志は消えてはいませんでした。


「……なら、仕方ありませんわね」
雪華綺晶はそう言うと、金糸雀へと近づいていこうとします。
ですが、すっと伸びてきた薔薇水晶の手に歩みを止められました。

「…………」
薔薇水晶は何も言いませんが、その表情からは迷いのようなものが感じられます。
きっと、勝利を確信した今となっては、こんな小さな子供には酷い事をしたくないのでしょう。

雪華綺晶も、そんな薔薇水晶の様子に気付き、うふふと笑いながら、小さく耳打ちしました。

「何も心配なさらなくても……大丈夫ですわ。
 ほんの少しおでこをつねって、お仕置きをするだけですから」

頬ではなく、おでこをつねる。
実にあっさりとそう言った雪華綺晶の底知れぬ恐ろしさに、思わず薔薇水晶もブルブル震えちゃいました。
ホント、手加減無しです。

「さあ、逃げても無駄。抵抗しても無駄。どうなさいますか?」
雪華綺晶は笑みを浮べながら、金糸雀へと手を伸ばします。

「ひっ!き…来ちゃ駄目かしらー!」
イヌミミと尻尾を胸の前で抱きしめながら、金糸雀はジリジリと後ろへ下がります。
ですが、すぐに、大きな木が背中にトン、と当たって、追い詰められてしまいました。

雪華綺晶は今がチャンスとばかりに、金糸雀のおでこに手を伸ばします。
本気だったようです。
ですが、おでこはつねる所ではありません。
 
金糸雀は「きゃぁぁ!」と叫んで、しゃがみ込みます。

そして雪華綺晶の手は、金糸雀がしゃがんだせいで、彼女の背後に立つ大きな木に当たりました。
ズドン。みたいな、何だかもう、もの凄い音がします。

雪華綺晶の手は、大きな木に深々と突き刺さっていたのです。
こんな力でおでこをつねられたら死んじゃいます。

金糸雀は、顔を青くしてブルブル震えました。
雪華綺晶も、何故か顔を青くしています。

「……あら?……えい!……あら?」
珍しく困ったような表情で、雪華綺晶は大きな木と格闘しています。
そうです。
あまりに勢い良く手を突き出したので、腕が木に刺さったまま抜けなくなってしまったのです。

今がチャンスです。

金糸雀は大急ぎで、雪華綺晶から逃げます。
ですが、少しも逃げないうちに……

ネコミミとネコ尻尾を付けた薔薇水晶が、音も無く、金糸雀のすぐ前に現れました。

「……返して……」
薔薇水晶は小さな声でそう言うと、ガシッと金糸雀の手を掴みます。
「嫌!絶対に渡さないかしら!!」
金糸雀も必死に抵抗します。
 
ですが、体の小さな金糸雀では、どうやっても薔薇水晶には勝てそうにありません。
そこで金糸雀は……
引っ張ってくる薔薇水晶から逃げようとせず、逆に、その力を利用しての必殺の体当たりをお見舞いしました。

「……!?」
いきなりの事に手を振り払われた薔薇水晶は、思わずバランスを崩しそうになりますが……
それでも、ネコ尻尾とネコミミの力で、クルリと華麗な空中一回転をして、その場をしのいでみせます。

逆に金糸雀は、全体重を乗せた体当たりだったので、反動で地面をゴロゴロと転がる事になってしまいました。
お気に入りのお洋服も、可愛いおでこも、砂がいっぱいついてしまいます。

そして、ゴロゴロ地面を転がる金糸雀は……やがて、何かにぶつかって止まりました。

それはイヌミミを千切り取られ、気を失い倒れた、真紅でした。

金糸雀は地面から起き上がろうともせず、振り向いて薔薇水晶と雪華綺晶の様子を見ます。
薔薇水晶は平然とした足取りで再び近づいてきますし、雪華綺晶だってもうすぐ木から抜け出しそうです。

「……やっぱり……悔しいけれど、カナでは勝てないかしら……」
金糸雀は呟きます。

「雛苺も蒼星石も翠星石も……水銀燈も……みんな、やられてしまったかしら……
 カナも頑張ったけれど……やっぱり駄目だったかしら……」
気を失っている真紅に手を伸ばし、金糸雀は呟きます。

「……ひょっとしたら、こんな事をお願いするのは、とっても酷い事なのかもしれないかしら……」

金糸雀は倒れている真紅に、再び、イヌミミを……ふかふか尻尾を、付けました。 


「……真紅……お願い……みんなの仇を……!」 


真紅の頭の上でイヌミミが、ぴくっと動きます。

そして……
ぴんと立ったイヌミミと、ふかふかの大きな尻尾を付けた真紅は、ゆっくりと立ち上がりました。

真紅は、自分を睨みつける薔薇水晶と雪華綺晶を見つめます。
それから……地面に倒れて動かない、水銀燈へと視線を向けます。

「……水銀燈……貴方……」
言葉に詰まったのか、真紅はくっと奥歯をかみ締めて悲しそうな表情でうつむきました。


最後に真紅は、自分の足元で、地面につっぷしている金糸雀を見ました。

「全く……せっかくイヌミミが取れて、気持ち良く寝てたというのに……本当に困った子ね」
呆れたようにそう言う真紅でしたが、その目はやっぱり、どこか優しそうなものでした。

それから真紅は金糸雀を助け起こし、服とおでこの砂を軽く払ってあげます。

「金糸雀……貴方の想いは、このイヌミミを通して、確かに私に聞こえていたのだわ」
それだけ伝えると、真紅は金糸雀にクルリと背中を向け、薔薇水晶と雪華綺晶に向かい合いました。

「そういう訳だから……不本意だけど、イヌミミを貴方たちに渡すわけには行かなくなってしまったのよ」

その言葉で、やっぱり真紅は闘うつもりだと知った薔薇水晶と雪華綺晶が身構えます。
ですが、当の真紅はと言うと、起きたばっかりで本調子ではないのか、フラフラしていました。

今にもバターンと倒れちゃいそうな真紅でしたが、気持ちだけは折れてはいません。

そして……
真紅はシロクマ雪華綺晶を真っ直ぐに見つめると、ニッコリ微笑みながら言いました。

「見ての通り、私は疲れてるの。だから……貴方の相手はしてあげられないわ」
むしろ、清々しいくらいに可愛らしい笑顔でした。

雪華綺晶は、真紅の言葉の意味が分からず、キョトンとしていたのですが……
心配しなくても、すぐに分かりました。

真紅はイヌミミをぴんと立て、尻尾をすっと伸ばし、片手を空高く突き上げました。
「忠勇なる家来よ……来なさい!」


どこか遠くから、犬の鳴き声が聞こえてきます。
それも、何十、何百ではなく、何千、何万も。

地面が、カタカタと震えます。
それは大地を覆いつくすほどの数の、犬の群れが走る振動でした。

すぐに、公園を埋め尽くすほどの数の犬が、真紅の周りに集まります。
全ての犬が、真紅の姿を見ると、尻尾をブンブン振りながら、短く一度、声を合わせてワンと吠えました。

「……良い子ね」
真紅も、尻尾をブンブン振りながらそう言って、集まってくれた犬たちに答えます。

それから、まるで悪戯でも思いついたように楽しそうな笑みを浮べて、真紅は雪華綺晶を指差しました。 


「ほら、貴方たち。
 彼女が散歩に連れて行ってくれるそうよ」
とっても素敵な笑顔で言いました。 


「……え?」
雪華綺晶は嫌な予感に顔を引き攣らせます。
ですが、もう手遅れです。

楽しそうにブンブン尻尾を振った犬たちが、まるで雪崩のように押しかけてきます。
シロクマパワーで押し返そうとしても、これだけの数が相手では苦しいです。

と。
そんな風に持ちこたえようと頑張っていた雪華綺晶でしたが……
気が付くと、自分のシロクマ手袋に、可愛らしい子犬がしがみついています。
これでは、力任せに暴れたり、抵抗したりは出来ません。
「え?そんな……ちょっと……きゃーーー!!」
そんなこんなで、あれよあれよと言う間に、雪華綺晶は犬の雪崩に巻き込まれてしまいました。
「きゃぁぁーーーー…………」
悲鳴がだんだんと遠くなっていくのが、何とも物悲しい余韻を残していました。 



そして、そんな光景の末にポツーンと残された薔薇水晶でしたが……すぐに我に返りました。

確かに雪華綺晶が居なくなったのは大きな戦力ダウンですが、それでも相手は満身創痍です。
もう援軍として犬を呼んだりもできないでしょう。
つまり相手は、フラフラしている、立っているのがやっとな真紅一人だけ。

薔薇水晶はそう判断し、一人でも真紅との決着を付けようと考えました。 


ライオンは兎を倒すのにも全力を出すと言います。
薔薇水晶も、いかに真紅が弱っていようと、本気で行こうと考えていました。
ライオンもネコ科の動物なので、広い意味では、この場合に当てはまっています。
 

薔薇水晶は、全身のバネを使って地面を蹴りました。
ネコミミの効果で、その足音は全く鳴りません。
真紅のイヌミミでは、どんなに頑張っても、薔薇水晶の位置を音から探る事はできません。

ちなみに尻尾は、ぶんぶんと動くだけです。
何の特殊能力もありません。

さらには、ネコ尻尾の力も使い、異常なまでの反射神経で薔薇水晶は真紅の周りを飛び回りました。
ただでさえ素早い動きに加え、今の弱りきった真紅では、その姿を視界に留めておくのも困難です。

これで薔薇水晶は、真紅が完全に自分の姿を見失った事を確信しました。
実際、真紅は薔薇水晶がどこに居るのか分からなくなっちゃってます。


薔薇水晶はニヤリと笑みを浮べました。
そして音も無く、真紅の背後に迫り、手を伸ばしイヌミミを……

掴めませんでした。
掴もうとした瞬間、急に集中力が途切れて動きが止まってしまったのです。

「……あれ……?」
何かが変だとは思いましたが、それでも薔薇水晶はもう一度、真紅のイヌミミに手を伸ばします。

ですが
「……あれ?……えい!……えい!……」
気が付けば、真紅のスカートのあたりでブンブン動いている尻尾にじゃれついていました。

ふかふかで大きな尻尾がブンブン動いているのは、さながら大きなネコじゃらしみたいです。
これはもう、じゃれつく以外の選択肢は無いも同然です。


薔薇水晶は、いつしか楽しそうな表情でふかふか尻尾にじゃれついています。
そして。
「……はっ!」
我を取り戻した時には、既に手遅れでした。

恐る恐る、薔薇水晶は視線を上げてみます。
ニッコリと微笑んでいる真紅と、目が合いました。

ビンタされました。


ボグシャァァ!と吹き飛ばされる薔薇水晶。
慌てて起き上がろうとしますが、それすら間に合いませんでした。

「これでお終いよ、薔薇水晶」
そう言う真紅が、再び手を伸ばしてきたからです。

ネコミミを千切られる。
薔薇水晶はそう思い、ブルリと震えました。


ですが、意外な事に……
真紅の手は、薔薇水晶の頬をペチンと軽く打っただけでした。

薔薇水晶は意外そうに、叩かれた自分の頬をさすります。
そんな薔薇水晶に、真紅はまるで諭すような静かな声で話しかけました。

「貴方のした事は、決して許される事ではないわ。
 それでも……特別に、さっきのビンタで許してあげるのだわ」

真紅はクルリと薔薇水晶から背を向け、歩き始めます。
そして……少し歩いてから立ち止まりました。 


「正直に言うと、お父様の為を思っての貴方の行動は……褒められたものでは無いけれど、気持ちは分かるわ。
 そして、私はただ、静かに、平和な毎日を過ごしたいだけなの。
 ……引き千切るだなんて方法以外の……誰も傷つかないイヌミミの外し方を見つける事が出来れば……
 そうすれば、私達が争う理由も無くなるでしょう?」 


真紅は再び歩き出します。
「それを見つけられるのは、貴方だけでしょう?
 ……その時が来たら、また私の所に来なさい……」
とだけ言い残して。




―※―※―※―※― 




薔薇水晶は、誰も居なくなった公園でぼんやりとしていました。
金糸雀や気を失っていた水銀燈は、既に真紅が連れて帰っています。

なので薔薇水晶は、一人でぼんやりしていました。

と。
公園の入り口から、まだ肩の上やスカートの端に子犬を付けた雪華綺晶がやって来ました。

「な…何とか振り切ってまいりましたわ……」
そう微笑む雪華綺晶でしたが、よっぽどハードな散歩コースだったのでしょう。
少しやつれたようにも見えました。

ともあれ。
雪華綺晶はコホンと咳払いをしてから、ぼんやりとしている薔薇水晶に声をかけます。

「今回は失敗でしたけれど、次こそはイヌミミを……」
「……いい……」

小さな声ではありましたが、確かにそう言った薔薇水晶に、雪華綺晶はびっくりしたような表情を向けます。

「どうかなさいましたの、ばらしーちゃん?」
雪華綺晶は首をかしげて、薔薇水晶の顔を覗き込みます。

薔薇水晶は、ふぅと息をついて、それから顔を上げて答えました。

「……私達の、負け……」

その表情は、諦めよりもむしろ、肩の荷が下りたような、どこかすっきりとしたものでした。 











 
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