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「うふふふ……ああ、なんて素敵なんでしょう……」

手に入れたシロクマパワーで握りつぶした小石の欠片を見ながら、雪華綺晶は微笑んでいました。
これだけの力があれば、何だって出来ちゃいそうです。

普段している私立探偵の仕事だって、これならお茶の子さいさいでしょう。
きっと、お金だっていっぱい入ってくるに違いありません。
美味しい物だっていっぱい食べられそうです。

それもこれも、一生懸命に考えた作戦で、雛苺からシロクマ手袋を奪い取ったお陰でした。

雪華綺晶は自分の手にピッタリとくっついたシロクマ手袋を、握ったり開いたりしてみます。
そんな事をしていると……
手袋の中心にある、ぷにぷにとした肉球の存在に気が付きました。

はやる好奇心を抑えられません。

右手の指で、ぷにっ、と肉球をつついてみます。
とっても柔らかくって、何だか楽しい気分になっちゃいました。
今度は左手で、右手の肉球をぷにっ、とつつきます。
これまた絶妙としか表現しようの無い、とっても心地よいぷにぷに具合でした。

何が嬉しいって、こんなに素敵な肉球が、これからは自分専用だという事です。
雪華綺晶は、ほんのちょっとだけですが、ぷにぷに肉球の感触に心を奪われちゃいました。

ですが、雪華綺晶はすぐに我に返る事となります。
肉球をぷにぷにしている隙に、蒼星石に思いっきり殴られちゃったからです。 




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇ 




「余所見をするだなんて、随分と余裕だね」

蒼星石は鋭い目つきで睨みつけながら、雪華綺晶にそう言いました。

一方、雪華綺晶はというと、せっかくの肉球タイムを邪魔されてご機嫌斜めです。
余裕を見せ付けるために微笑んではいますが、内心とっても怒っていました。

「……乙女の顔を殴るだなんて、随分と酷い事をなさるのですね」
おでこにちっちゃな怒りマークを浮べながらも、いつもと同じように柔らかな物腰は崩しません。

「雛苺のシロクマ耳を千切った君が、それを言うのかい」
「ふふ……いくらお仕事とはいえ、私だって心を痛めてますわ」


蒼星石は雪華綺晶のその言葉に、怒りを抑えきれないといった表情で、うめくように呟きました。

「ミミを千切られるのがどれだけ痛いか……」

思い出すのは、翠星石をかばってネコミミを千切られた時の痛さ。
視線の端に映るのは、シロクマ耳を千切られて、気を失ってしまっている雛苺の姿。

「……君にも、教えてあげるよ」

いつになく本気モードの蒼星石は、言い切ると同時に地面を蹴り、雪華綺晶へと腕を伸ばしました。
狙うはただ一つ。
雪華綺晶の頭の上でぴこぴこしている、シロクマ耳です。 

 
当たりさえすれば、一撃で決着を付けられる雪華綺晶。
対するは、シロクマ耳さえ引き千切るだけで勝利を収める事の出来る蒼星石。 

二人の戦いが始まりました。


蒼星石は手を伸ばして雪華綺晶に迫ります。
ですが雪華綺晶は、軽く腕を振るだけでそれを防いでみせました。

無造作に振られた雪華綺晶に払われただけでも、蒼星石の手はジンジンと痺れてしまいます。

「くっ……やるね……!」
蒼星石は痺れる手を押さえながら、そう強がります。
そして今度は、雪華綺晶の左側へ。薔薇飾りで視界が悪いであろう方向へと回り込みます。

そうして見つけた一瞬の隙を狙い、蒼星石は再び手を伸ばしますが……

蒼星石が伸ばした手は……ガシッと雪華綺晶の片手で捕まれてしまいました。
それでも蒼星石は諦めず、残った方の手で雪華綺晶の頭の上のシロクマ耳を狙います。

ですが、それより早く、雪華綺晶のもう方片腕が蒼星石の背中に回りました。

雪華綺晶はぐいっと引き寄せるように力を込め、蒼星石の体を自分に密着させます。
そして、まるでダンスでもしているかのような姿勢のまま、そっと蒼星石の耳元に顔を近づけて囁きました。

「……水浴びなど、いかがでしょうか?」
 
蒼星石には、耳元で甘く囁かれて顔を赤くしている暇も、嫌な予感に顔を蒼くしている暇もありません。
あっという間に、そのまま雪華綺晶に軽々と持ち上げられ……

そのまま、思いっきり、近くを流れていた川に放り投げられてしまったからです。

「うわぁーーーーーー!?」
との叫び声が、段々と遠くなっていきます。
やがて、ボチャーン、と大きな水柱が上がりました。


そう言えば、普通の状態でも、雪華綺晶は最強クラスでした。
その上にシロクマパワーまで手に入れた今となっては、やりすぎな位です。

雪華綺晶は水面でプカプカしている蒼星石をちょっと観察しました。
どうやら完全に目を回しちゃってるみたいです。
やがて雪華綺晶は「うふふふ」と妖しげな笑みを浮べると、逃げた翠星石の追跡を始めました。



―※―※―※―※―



「はぁ…はぁ……チビカナも……ちょっとはダイエット……しやがれですぅ……はぁ…はぁ……」

翠星石は息を切らせながら、金糸雀を背負って走っていました。
背中では金糸雀が「放して!カナも!カナも雛苺のカタキを討つかしら!」とか、色々と叫んでいます。
 
やがて、十分に逃げたと判断した翠星石は、金糸雀を地面に下ろします。
そして、ふうふうと呼吸を整えてから、ゴチーンと金糸雀の頭に拳を叩き落しました。

「この……おバカナリア!!
 お前みたいな泣き虫が行ったところで、いい足手まといになるだけですぅ!」

「そんな!カナは泣き虫じゃないかしら!!翠星石の分からず屋!」
金糸雀は目の端に涙を浮べながら、翠星石をポカポカ殴りつけて抗議します。

翠星石は、そんな金糸雀のおでこを片手で押し返しながら、もう片手で携帯電話を取り出しました。

「もしもし、真紅ですか!?今すぐ公園まで来やがれですぅ!
 チビカナを保護してやって欲しいですよ。詳しい事情は……時間が無いので、そこで聞きやがれですぅ!」
一方的にそうまくし立てると、すぐに電話を切りました。

電話をしまうと翠星石は、しゃがみ込んで金糸雀と視線の高さを合わせます。
そして両手で、涙を浮べている金糸雀の顔をガシッと掴みました。

「いいですか、よく聞くですよ。
 雪華綺晶は……きっと、翠星石と蒼星石の奇跡の双子パワーでも苦戦する相手です。
 だから、お前が、今から公園に行って真紅に事情を話して、ここまで連れて来るですよ」

いつになく真面目な表情の翠星石の言葉に、金糸雀も涙を拭いてからコクリと頷きました。
それを見て、翠星石は……普段はあまり見せない、とっても優しい笑顔を何故だか浮べました。
 
「さ!分かったなら、その短い足でスタコラと走るですぅ!」
さっきまでの優しい表情はどこへやら。
翠星石は金糸雀のおでこをペシッと叩いて、そう言います。

「カナの足は短くないかしら!むしろ美脚と言っても過言ではないかしら!」
金糸雀も、おでこをさすりながら、頬をぷくーっと膨らませます。

二人はそれから、見詰め合ったまま、ちょっと可笑しそうに表情をほころばせました。
そして。
「……すぐに真紅を呼んでくるかしら」
金糸雀が、力強く翠星石を見つめながら言います。
「……時間ぐらいは稼いでやるですよ」
翠星石も、静かに頷きます。

金糸雀は、最後に何か言おうとしたのか、少し迷ったように視線を泳がせて……
やがて、小さな拳を握り締めると、真紅が来るはずの公園目掛けて走り出しました。

翠星石は、とりあえず金糸雀が道を曲がって見えなくなるまで見送ってから。
それから蒼星石の応援に、と考えていました。

ですが。

翠星石は、見ました。
金糸雀が走っているすぐ近くの塀に、小さな亀裂がピシピシと広がっていくのを。

「!!……チビカナ!?」
翠星石は気が付けば、走り出していました。

声に気付いた金糸雀が振り返ると同時に……彼女のすぐ近くで、塀がガラガラと崩れます。
降り注ぐコンクリートの塊。

「きゃっ!?」と金糸雀は叫び、目をギュッとつぶります。 

ですが……
いつまで待っても、破片は降り注いでは来ませんでした。
むしろ、何だか柔らかいものがぶつかっただけです。

金糸雀は恐る恐る、目を開けました。
そこには、自分を守るように抱きしめた、翠星石の姿が……。

「そんな!翠星石!」
金糸雀は自分を庇ってくれた翠星石に、そう声をかけます。

ですが、翠星石が何か答えるより早く。
たった今壊れた塀の穴から、声が聞こえてきました。

「うふふ……見つけましたわ……」
その声の主は、雪華綺晶のものです。
彼女は、フェンスを引き千切り、ガードレールをブチ破り、最短距離で追跡してきたのです。

「ひぃぃ……き、雪華綺晶かしら……」
金糸雀はあまりにも常軌を逸した登場をしてみせた雪華綺晶に、ちょっとだけ泣きそうになりました。
そのままへなへなと地面にへたり込んじゃいそうになります。

その時です。
金糸雀を抱きしめたままの翠星石が、地面を蹴るように走りだしました。
そして、まるで跳ぶように、さっき金糸雀が曲がろうとしていた道を曲がると……
翠星石は何も言わず、金糸雀から手を放します。

それから翠星石は、うつむいたまま、とっても小さな声で呟きました。

「……アイツがここに居るという事は……蒼星石も……」

翠星石は再び黙り込みます。
金糸雀は心配して、翠星石の顔を覗き込もうとします。

ですが、その前に、翠星石はパッと顔を上げて、あっけらかんとした表情で言いました。

「いやー、さっき変な走り方したせいで、足を挫いてしまったですぅ」
嘘です。
自分を守ったからだと、金糸雀にも理解できました。
「こうなったら、翠星石がここでアイツを迎え撃ってやるですぅ。
 きっと蒼星石の事ですから、一度逃げて、翠星石とで挟み撃ちにするチャンスを窺ってるですよ」
嘘です。
蒼星石があの時に見せた決意は、そんな弱気なものではありませんでした。

金糸雀は、心配させまいと明るく振舞おうとする翠星石の姿に、涙がこぼれそうになります。
翠星石は、そんな金糸雀の顔を両手でガシッと掴み寄せると、歯を食いしばりながら言いました。

「……チビカナ。泣いたらダメですよ。
 アイツの思い通りになってやるなんて悔しくないですか?
 翠星石は……絶対に!アイツの思い通りになるなんて嫌ですぅ!」

それは意地っ張りな翠星石の、今にも崩れ落ちそうな最後のプライドでもありました。

やがて翠星石は、曲がり角の向こう側からこちらに近づく雪華綺晶の足音に耳を傾けます。
恐らく、すでに逃げる事が出来ない状況であると感付かれているのでしょう。
急ぐ訳でもなく、ゆったりとした足取りで近づいてきているのが分かります。

翠星石は、おでこがくっ付く位の距離まで金糸雀と顔を近づけると、小さな声で言いました。

「さて。翠星石の恐ろしさを、アイツにも見せてやるですよ……
 ……チビカナも覚悟を決めやがれですぅ」


―※―※―※―※―


「ふふふ……鬼ごっこもお終い、ですわ」
雪華綺晶は道の角を曲がりながら、楽しげに歌うように、そう言いました。

そして、くるっと角を曲がってみると……
そこには金糸雀の姿がありません。
翠星石も何故か、パッタリと地面にうつ伏せで倒れています。

「一体、何をなさって……」
雪華綺晶は倒れたままの翠星石にそう声をかけようとして……ハタと気が付きました。

そうです。
自分は今、シロクマっ子です。
そこから導き出される答えは……

『翠星石は死んだフリをして、この場を乗り切ろうとしている』

その事に気が付いた雪華綺晶は、思わず笑っちゃいそうになりました。

「困りましたわ……死んでしまわれては、手が出せませんわ……」
ちょっとした小芝居をしながら、ジリジリと倒れている翠星石に近づきます。
きっと、油断した隙に金糸雀に上から襲わせる予定なのだろうと読み、周囲に気を配る事も忘れていません。

「ああ。どうしたら良いのでしょう?」
ワザと困ったような仕草もしてみせます。
ですが、目だけはギラリと輝いていました。
 
「ばらしーちゃんに何と申し上げたら良いのか……」
ふぅ、とため息まじりに呟きながら、倒れている翠星石に近づきます。
そして。

「……などと、引っかかると思われましたか?」
ニタァと、瞳孔とか大変な事になっている笑顔を浮べて翠星石へと手を伸ばしました。

ギュッと、翠星石がはいている『ふかふかの尻尾』を隠す為の長いスカートの端を掴みます。

そして、いざ尻尾を引き千切ろうとして……雪華綺晶は異変に気が付きました。
「そんなまさか!」と思い、慌ててスカートを持ち上げて、中を覗いてみます。

ありません。
いいえ、パンツはありました。
肝心の尻尾が、どこにも無いのです。

雪華綺晶は、翠星石にまんまと騙された事に気が付きました。

『死んだフリ』ではなく、正しくは『尻尾を取られて気を失っている』です。
それに気付かず小芝居をしていたと思うと、なんだかとっても恥ずかしいです。

雪華綺晶は、ちょっとだけ顔を赤くしちゃいました。
と、そこで、さらなる異変に気が付きます。

慌てて周囲を見渡すと、こちらをジーっと見ている警察官が居ました。
自分の状況を考えると、女の子のスカートを覗いて顔を赤らめてる人物に見えなくもありません。
しかも、シロクマ耳なんてのも付けています。

どう見ても変態です。
本当にありがとうございました。

雪華綺晶が逃げるべきか言い訳をすべきが考えている間にも、警官は無線機で何やら連絡をしています。
翠星石が最後に行った嫌がらせ攻撃は、本人の予想以上に効果がバツグンでした。


―※―※―※―※―


「翠星石の尻尾は……絶対にカナが守ってみせるかしら!!」

金糸雀は、ふかふかの尻尾を両手で抱きかかえながら走ります。
真紅との合流地点を目指して、一生懸命に地面を蹴ります。

途中、数台のパトカーとすれ違いましたが、気にしている余裕はありません。





 
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