※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

心の檻に囚われた鳥。纏わりつく過去に縛られているようです。

行き場の無い叫び。それは記憶の底に溜る、重い鎖。

声も想いも届かない闇に、ただ独り沈み逝く運命。

誰かの愛が要るのです。

気付いて下さい。

抱き締めて下さい。

それだけで十分ですから・・・。


悲しみの涙、恐怖の涙、愛の涙。

全てが、命の糧となるはず。

触れてもいい。
この深い胸の奥にまで、届く自信が、あるのならば・・・。

これは夢と現、光と闇が混じりあった、不思議な不思議な物語。

バイト帰りの見慣れた道。
紅く染まる夕焼けを眺めながら、独り帰路につく。

僕の名前は桜田ジュン。
どこにでもいる野暮ったい高校生。

自分のことを野暮ったい、なんて言ってること自体が少し悲しい・・・。
けど実際、他に例えようが無いし。

ていうかまず学校にすら行ってない。最近。
まぁ行きたいとも思ってないけどね。

学校じゃみんな僕のことを煙たがる。

それは仕方ないっちゃ仕方ない。

なんせ僕には『どこにでもいる野暮ったい高校生』とは縁の無い、ある厄介な能力があるから。

きっとそんな困った能力が彼らを自然と遠ざけているんだろう。

そう、僕の目に映る世界。

それは・・・。

人が行か交う大通り。
鬱陶しい大人達。汚い空気。ぼんやり歩いていると、信号が点滅し始める。
瞬間、背中に誰かの視線を感じた。いや、こんな大通りで視線を感じない方がおかしいが。
気になり振り向く・・・。
「うわ・・・。」
思わず声を漏らした。
片腕が無く、身体は半分潰れ、首がおかしな方向に曲がっている少女・・・と言
うよりも人ではない何かが、横断歩道の向こうに這いつくばっていた。
・・・そう、僕の能力とは、死んだ人間が見えるというモノ。
そしてたった今、その 何か と目が合ってしまったわけで・・・。
そいつは血で染まった銀髪を振りながら、片腕だけでずるずると僕の方に寄って来る。
やばい・・・。
本能がそう悟った。
たいていの霊なんてモノは、気付かないフリをしていればほとんどやり過ごせる。
しかし今回は違った。
こいつはこの世に未練を残して死んでいったに違いない。あまりに、重すぎる。
我に帰り、人込みを押し分けその場から逃げた。
ああいう奴は、自分の存在が気付かれたと知ると・・・
僕はとにかく走った。
脚が震えていた。
背後から、聞こえた唸るように低い声。

「 見 え  て  る   ん で し   ょ ? 」
何も聞こえない何も聞こえない何もきこ

家に着くと、すぐにに部屋に篭り、テレビを大音量で点け、カーテンを閉め、ベッドに飛び込んだ。
布団を頭から被り、ただただ祈り続ける。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・。」

僕が何をしたわけでもない。なのにこんなに震えてる。

あいつは僕が逃げ出した後も、ずるずると追って来た。

ああいう奴は、自分の存在が気付かれたと知ると、一人でも多く同じ闇に引きずりこもうとする。


僕は、気付いちまったんだ。
後悔しても、遅い。

突然、部屋の電気が消える。テレビも消えた。
家中の電気が落ちたらしい。ベッドの中、震えは止まらなかった。

ズッズッ・・・

階段を上って来る、何かを引きずるような音。
「姉ちゃん・・・?」
違う。あいつだ。ずっと追って来たんだ。
僕は、泣いていた。怖くて仕方ない。僕が何をしたっていうんだ。

ズッズッ・・・

もうあいつは部屋の中に入ってきている。ベッドに近付いて来る。
『来るな来るな来るな来るな・・・。』

・・・・・。
願いが天に届いたのか、音は止み、すぐ横にいた気配は消えた。
恐る恐る布団から顔を出す。横には何もいなかった・・・。
安堵の波が立つ。
ほっとして、伸びをした後、仰向けに寝直す。


「え?」

あいつは天井にいた。天井から、僕を見下ろしていた。

「見  え てる   ん で  し ょ ?」

動くことも、声をあげることもできずに、僕の意識は薄れていった。


「・・・っと・・・ちょっとぉ・・・。」
僕の意識は薄れて・・・って、あれ?
「ヒトの顔見て気絶なんて、失礼じゃない・・・。」

えーと・・・
どうにも僕は本当にイッてしまったらしい。
恐怖とは人をここまで壊すものなのか・・・。
何せ今僕の目の前には、おぞましい化け物には程遠い可憐な少女がふわふわ浮いてるんだから。
なんかすごい暗い顔してるけど。
「・・・気付いてるんなら、始めからそう言いなさぁい・・・。」

よし、頬を抓ろう。痛い。
「ゆゆゆゆ夢でぃやない!?」
頭の中は混乱しきっていた。
目の前で浮かぶ彼女は呆れ顔で言った。

「イカれてるわぁ・・・。」

今度こそ僕の意識は薄れていった。
これから、彼女との不思議な生活が始まることもしらずに・・・。

あれから一週間がすぎた。
水銀燈と名乗るあいつは、未だに僕から離れようとしない。
彼女が幽霊であることは事実だ。
しかし僕を呪い殺す気があるのか無いのか、どうにも微妙な感じだ。
波長の合う人間に霊が憑くことはよくあるけど・・・。

「おい、お前いつまで僕に憑いてるつもりだ? ていうか初めて目が合った時の体中の怪我はどうした。」
「・・・。」

僕が何を聞いても、彼女は何も返さない。
「はぁ、テレビでも見るかな・・・。」
水銀燈は僕についてきて、テレビの前、ちょこんと僕の隣に座る。

しばらくして、忘れた頃に返ってくる答え。

「怪我とか、停電とかは、ただの演出よぉ・・・。」

そしてそんなやりとりに今度は僕が言葉を失う。

「お前な・・・。」

こんな日々が一週間も続いている。

はぁ・・・先が思いやられる・・・。

『うわ、桜田が来たぜ・・・。』『あいつってヤバイんだろ?』『変なこだよね~。いつも一人で。』『気持ち悪~い。』
うるさい、うるさい、うるさい・・・うるさい!!

ガバッ

「夢・・・か・・・。」
部屋はまだ薄暗く、朝日も差し込んでいなかった。時計は静かに時を刻んでいる。午前5時。

また同じ夢を見た。
僕は悪くなんかない・・・。あいつらなんかと一緒じゃない。僕は・・・ぼくは・・・

「うっ・・うぇぇ・・・!」
思わずその場で吐いてしまった。
「くそ・・・くそぉ・・・。」
『僕は・・・悪く・・・ないのに・・・。』
うなだれる僕を、後ろから何かが包む。それは、水銀燈の両腕だった。
「震えてる・・・怖い夢、みたの・・・?大丈夫よ・・・」
呆然とする。彼女から話しかけてくることなんか、めったになかったから。

情けなかった。悔しかった。空しくて、悲しくて・・・
「うるさい!!お前なんかに何がわかるんだ!なんで僕ばっかりこうなんだよ!!
 なんでお前なんかに慰められなきゃいけないんだよ!!」

目の奥が熱かった。あぁ、今すごいヒドイ言ってる。でも、もうダメなんだよ・・・。
僕は水銀燈を振りほどき、家を駆け出した。

僕のあとを水銀燈は付いてこなかった。

あれからまた一週間、水銀燈は僕の前に姿を現さなくなった。
何かが大きく変わったわけではない。
むしろ、こっちが普通な生活なわけで・・・。

静かになった部屋、っていっても、もともと会話がよくあったわけでもい。

6時か・・・いつもなら、一緒にテレビを見ている時間だ。
今、僕の隣には誰も座っていない座布団がひとつ。

どうすればいいかなんて分かるはずがない。

この一ヶ月間、何も無かったんだ。
 

何も・・・。

いま、僕は夢の中にいる。ときどきこうやって夢と現実の区別がつく。
 
目の前では一人の少女がうずくまって泣いている。
どこかで見たことがある。銀色のキレイな髪。澄んだ声。
誰だっけ?? 僕はこの子を知っている・・・。

気付くと僕は彼女のに手を伸ばしていた。
そして、彼女に触れた瞬間、頭の中に走馬灯のように、見たことのない影像や
声が流れ込んできた。


          『ははは!やっぱりこいつ殴るのサイコー!!!』  


『あんたなんか、産まれて来なければよかったんだよ!!』
                            『金持ってんだろ?出せよ!!』

      『水銀燈? 誰?そいつ。』     

『おら、もっといい声で鳴けよ!!』 
                 
                   『あなたなんて友達でもなんでもないわ。さよなら。』

             
            
           『お前みたいなくず、死ねば?』

「なんだ?今の・・・。」

これはこの子の記憶?
だとしたら、なんて悲しく、酷く、辛い・・・。

「・・・あなた、誰・・・?」

少女が顔を上げる。
見たことがある。覚えている。君は、君の名前は・・・。

「水銀燈っ!!!」

午前7時。僕はベッドの上にいた。やっぱりこれは夢だった。

「今のは・・・あの子は水銀燈・・・?」
僕が見たのは水銀燈の過去だろう。きっと、波長の合うもの同志に起こる何か・・・。

波長の合う・・・そうか!!

僕は着替え、家を飛び出した。

そして走った。

走って走って、

彼女と出会った場所まで。

波長が合うものに取り憑く霊の習性。それは助けを求めている印だ。
水銀燈の記憶は僕に似ていた。
力がなくて、押し黙ってるしかなくて、誰かに助けてほしくて、
それでもヒトリ閉じこもっている。
僕が助けてあげなければいけなかったんだ。
なのに慰められたのは僕で、
なのに僕は彼女を突き放して・・・


水銀燈は僕の元を離れようとしなかった。
しかし今、彼女はここにいない。

それが示すこととは、地獄にも天国にも逝けずに、孤独の闇を永遠に彷徨い続けるということ。

「水銀燈・・・消えちゃダメだ・・・!!!」

間に合ってくれ・・・

水銀燈と出会ったあの横断歩道。
人込みを掻き分け、彼女の気配を探す。

『水銀燈・・・水銀燈・・・!』

・・・・・。
何分、何十分探し続けただろう。水銀燈は、いなかった。

僕が彼女を殺したんだ。
彼女は助けを求めに来たのに、僕はそれを投げ捨てた。

力無く足を動かし家路につく。

星は出ていない。

世界は、暗かった。

家に着き、部屋に入る。
暗い部屋は、僕の心を写しているようだった。

『僕は・・・最低だ・・・。』
涙が溢れ出していることに気付いたのはしばらくしてからだった。

ベッドに倒れこみ、ゆっくりと目を瞑る。

何も無い部屋。

時計だけが話し相手。

僕はまた夢の中にいるようだ。
そして目の前には、求め続けた彼女がいた。
「・・・水銀燈・・・水銀燈か!?」
こくりと頷く彼女は、穏やかな笑顔を浮かべていた。
「ごめん・・・僕は・・・僕は君を・・・。」
言葉が無くなる。すると水銀燈は、僕を抱きしめた。
「私はあなたに救われたの・・・誰かに気付いて欲しかった・・・。
 あなたは私に似ていた・・・。一緒にいるだけで、優しい気持ちになれた・・・。」

涙と葛藤で、ぼくは何も言えなかった。

「迷惑かけてごめんね・・・。もう、お別れだから・・・。」

彼女の身体が光に包まれていく。

僕はただ眺めているしかできなかった。

そして、僕の夢から水銀燈は消えた。

眩しい日差しが部屋を照らしていた。
いつもの朝が来ていた。
僕の隣に水銀燈はいない。

時間を確かめようと携帯電話を見ると、あることに気付いた。
今日は、水銀燈に初めて出会ったあの日。
バイト帰りの道、交差点での出会い・・・。

つまり、今までのことは全て夢だった。
また、一日が始まる。

気付いたことはもうひとつあった。
僕のあの能力が、キレイさっぱり無くなっていた。
もう霊を見なくなったわけだ。

そしてあのバイトの帰り道を通り、人込みの行き交う交差点を横切る。

水銀燈は、いなかった。
もともと、彼女の存在自体が夢であったのかもしれない。

それでも、水銀燈はずっとどこかで助けを求めてるはずだ。

僕はこの命を一生懸命育てていく。そう、彼女の分まで。

それが、今生きているヒトにできる、亡き人たちへの最高の救いになるはずだから・・・。

「明日から、学校に行ってみよう・・・。」

風が、気持ちよかった。

きっと、大丈夫

FIN


現が産み落とした夢。

その夢が救った現。

そらが正しいか、間違っているかは分かりません・・・。

物語とは生き物。

常に動き回っています。

しおりなど、置いてゆきましょう。

気まぐれな風がめくったページを読めばよいのですから・・・。

誰かの声に気付いてください。

手遅れになる前に・・・

それでは、ごきげんよう

|