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11ページめ
七月最後の今日も、とっても暑いのです。
薔薇十字児童養護施設の施設長室は空っぽ。佐原先生はどこかへ出張です。
職員室では、先生たちがお話しています。
柿「そう…一昨日そんな事があったんですか…」
桜「そうなのよぉめぐちゃん。確かに佐原先生の言う事も分かるんだけど…」
柿「でもあの娘たちが友達になりたいと思ってて、ええと、財閥令嬢でしたっけ、
その姉妹の子たちもそう思っているんなら、もう任せとけばいいと思いますけどね…あの娘たちはどうしてます?」
桜「みんな何だか元気がないのよぅ…特に水銀燈ちゃんは…ね」
柿「あの娘は…他の娘のように、双子でここにいる訳じゃないですからね…
とりわけ寂しいんでしょうね、お友達を取り上げられて」
桜「そうねぇ…でも水銀燈ちゃん、さっきから姿が見えないんだけどぉ」
柿「…もしかして、その姉妹に会いに行ってるんじゃないですか?」
桜「…!!」
柿「…」
桜「…私は何も知らないわよぅ。だって夏休みですもの」
柿「私だって。夏休みですから、別にあの娘がどこに行こうと詮索は不要ですよね」
桜「例え佐原先生の言いつけを破っていた…としてもね」
柿「ふふっ。ところで柏葉先生は?」
桜「さっきから外で木刀の素振りをしてるのよぅ。元気ねぇ」
柿「桜田先生だって、たまにラクロスのラケットの素振りしてるでしょう?」
桜「もう年なのよぅ」
その頃、水銀燈は、あの川原の日陰で体操座りをして、真紅と雛苺姉妹が来るのを待っていました。昨日も、真紅達は来ませんでした。
今日も…もうすぐ11時になろうかという時間ですが、人の姿は見えません。ただ陽炎が立ち昇っているだけです。
…やっぱり、あの娘、私の…私達のことなんて、どうでもよくなったのかな…。
そんな考えを振り払うかのように、水銀燈は手元にあった石を川に投げ込みました。
結局、その日も真紅達は現れませんでした。

夜。消灯間近の九時半、施設の少女達は、自分のベッドの上で、思い思いに単語帳を開いて勉強したり、ぼうっとしたりしていました。
頭で社会を生き抜く。それが薔薇十字院の掲げるスローガンです。
水銀燈は、壁の方を向いて横になっています。
翠「水銀燈…起きてますか?」
単語帳を見ていた翠星石が、水銀燈のジャージの背中に声をかけます。反応はありません。
翠「もう…諦めるです。今日も、あの姉妹は来なかったんでしょう?」
他の少女達も、一様に水銀燈に目を向けています。
水銀燈の背中が、少しぴくっとしたように見えました。
翠「期待するのって…裏切られたらそれだけ傷つくんですよ…」
少女達には、また少し、水銀燈の背中が震えたように見えました。
やがて、消灯の時間が訪れました。

深夜。水銀燈はむっくりと起き上がりました。
他の少女達は完全に眠りの世界に行っているようです。
窓の網戸を音がしないように開けた水銀燈は、ジャージのままゆっくりと外の地面に降り立ちました。目指す場所は一つ。
覚悟を決めて歩き出した水銀燈は、自分を見据えて立っている、月明かりに照らされた人影を見つけてその足を止めました。
銀「柏葉先生…?」
木刀を持ったその人影は、柏葉巴先生のものでした。
巴「…水銀燈ね」
銀「…ちょっと散歩に行くだけですから…」
見つかってしまうとは水銀燈には予想外の出来事でした。
巴「…裸足で?」
銀「…」
柏葉先生はしばらく黙っていましたが、不意に、自分のサンダルを脱いで水銀燈に手まねきしました。
巴「貸してあげるわ。これ履いて行きなさい」
銀「えっ…?」
巴「お友達の所に行くんでしょう?」
銀「!!」
巴「一昨日の事は、他の先生方から聞いてるわ…。」
銀「あのぉ…ありがとうございます」
巴「佐原先生は会うなって言ったみたいだけど…
あなたがどうしたいかについては、私は口を出すつもりはないわ」
銀「先生…」
巴「じゃ、行きなさい」
水銀燈は走り去りました。月明かりの下、柏葉先生は、何ごともなかったかのように白樫の木刀の素振りを再開しました。
つづく

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