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この母なる地球に巨大隕石が衝突する。
その事実は世界中に混乱を巻起こした。

多くの人々に絶望、不安、悲しみなど、ありとあらゆる負の感情を多くの人々にもたらし、
暴動、破壊と言った、多種多様の犯罪を社会に招いた。

そして明日の12:00、長い混乱の時代は終了する。
正確には、長かった人類の歴史は幕を閉じるのだ…。

そんなわかりきった事を今更告げる早朝のニュースに、私は溜め息を吐きながらTVの電源を切る。

私の短い人生も地球の表面諸共消し飛ばされるのか…。
確かに短かったけど、結構楽しかったな…それだけに色々悔やまれる。
だから人類最後の日くらい、せめて大切な人の側で過ごしたい…。
きっとそれだけで死への恐怖も少しは和らいでくれると私は思う。
その相手は勿論、
 A.蒼星石に決まっている…。
 B.ジュンしかいない…。
 C.真紅…。
 D.雛苺…。
 E.水銀燈…。
→F.金糸雀…。
 G.薔薇水晶…。
 H.雪華綺晶…。
 

金糸雀…。
……何だか選択肢をものすごく誤ったような気がするんだけど…ま、いいか。
――今、逢いに行くですぅ。 

もう2度と会えなくなるというのに、近頃、蒼星石は私の前に姿を現さない。
1人でどこかへ行ってしまったんだろうか…そう考えると涙が込み上げる。

この寂しさを少しでも紛らわせられるのなら、あのチビカナでも構わない。
独りは嫌だ…独りは嫌だ…独りは……。

「あら、翠星石?こんな所で会うなんて…」

金糸雀のマンションはまだ先にある……ハズなんだけど今、本人とバッタリ出くわしてしまった。

「チビカナ、こんな日にデカ姉と車で何処に出かけるつもりですか?」
「ん、まあ、ちょっとした所かしら…」

金糸雀の隣りにいるデカ姉こと草笛みつ。
本人はみっちゃんと呼んで欲しいらしいが、なんか気が進まないので私はこう呼んでいる。

「んなこたぁどうでもいいです。翠星石はちょうどお前に用があったんですよ」
「カナに……?もしかして翠星石にはカナ達の秘密がバレてるのかしら!?」

秘密…?…人類が滅ぶ日に隠すような事なんてあるのだろうか?
チビカナの思考回路は未だよくわからない…。

「何の事だか知りませんが、最後の日くらいお前と一緒にいようと思って会いに来たんですよ」
「そ、蒼星石はどうしたのかしら…?」 

金糸雀の口からその名前を聞くと、また私の瞳に溢れんばかりの雫が溜まっていく…。
――もう2度と…会えなくなるのに…蒼星石…どこに行ってしまったんですか…?

「会いたいですよぅ…蒼星石…蒼星石ぃ……」
「す、翠星石……」
「翠ちゃん、何があったのか話してくれる?」

デカ姉に優しく問いただされると、私は幼子のように泣きじゃくりながら、
蒼星石が私の前からいなくなってしまった事やそれに対する悲しみを一通りぶちまける。

「みっちゃん、カナは決めたのかしら…最後の1人は翠星石にするかしら…」
「うん……カナ、私もそれでいいと思う……」

……?さっきからなんの事だかわからない…。
秘密だの、最後の1人だの……2人は何を知っているのだろう?

「翠星石、車に乗るかしら」
「ど、どこへ行くんですか…?」

わけのわからないまま私は、2人に連れられて彼女達の目的地であろう場所へ向った。

辿り着いた先はどこぞの山奥。深緑の木々が美しく立ち並び、新鮮な空気がとても美味しい…。
こんな日に、こんな何もない所に、2人は何の用があると言うのだろう? 

「翠星石、危ないからちょっと下がってるかしら」

金糸雀はそう言いながら鞄の中から大きなリモコンらしきものを取り出し、
何もないだだっ広い地面に向って慣れた手つきでスイッチを押した。
やがて何かに反応したような音が聞こえたかと思うと、大きな地響きと共に目の前の地面が割れる。

正確には、土に隠れていたシャッターが横に開き、四角い大きな穴が顔を出したのだ。
そして金糸雀がまた別のスイッチを押すと、穴の奥から大きなリフトが上がってきた。

「さあ、乗るのかしら。翠星石」
「チビカナ…これはいったい…?」
「翠ちゃん、それは中で説明するわ。早く乗って?」

目の前のアンビリーバボーにドン引きしながらも、私は2人に言われるままそれに乗る。
未来使用と言っても差支えないこの超ハイテクエレベーター…
まるで某アニメの狸と一緒にいるような気分だった。

「かなり……深くまで行くんですね」
「そうじゃなきゃ困るのかしら」

深くないと困る……いくら私でもだいたいこの先の予想は付いて来た…。
そして私達の降りた先……そこはハイテクなんて陳腐な単語じゃ絶対に言い表せないような場所だった。

人里離れた山奥にある巨大な地下…
そこには巨大な設備が所狭しと敷き詰められており、
百万馬力の男の子を1人くらい作れそうな巨大コンピュータが建ち並んでいた。

「地下にこんな設備…いったいどうやって……?」
「カナがみっちゃんの協力を得て、自力で作り上げたのかしら」

技術は勿論、費用なんて想像もできないくらい必要だろう…。
驚き慄く私を余所に、金糸雀は淡々とこの地下について説明していく。

「地球に巨大隕石が降る事を国連が発表する3年前に、カナはそれを既に知っていたのかしら
そしてNASAが人類を生存させる為のシェルターを開発している事も…
ただしそれは選ばれた人達のみで一般人は対象外。当然、カナ達もそれに含まれていないかしら
だからカナはハッキングを駆使して様々な技術や大量の資金を調達…
当時の推測上、最短の年月を経て、何とかこのシェルターの完成を間に合わせたのかしら」

チビカナが、権力から身を隠す程の史上稀に見る天才、というのは噂で聞いた事がある。
普段、ドジを装っているのは周りの目を眩ませる為で、
そこまでするのは、デカ姉の側で普通に暮らしたい、という思いがあったからなのだと…。 

それらは全て本人の自称かただの都市伝説だと思っていた…この光景を目の当たりにするまでは…。

「労力だってカナの作り上げたロボット達で十分事足りるし…
それにしても永久機関の原理、発掘するのは骨が折れたかしらー
でもそのお陰で酸素の生成やエネルギーの供給もバッチリかしら
ここに居れば何の問題もなく人類滅亡から免れる事ができるのかしら

ただし問題は食料…こればかりは間に合わなくて蓄えるしかなかったかしら…。
あの食料庫に約50年分の食料が保存していて…でもそれはせいぜい3人分…
それは勿論、カナとみっちゃん…そしてあなたなの分かしら、翠星石」

ひたすら喋りまくる彼女の話に付いて行けず、開いた口が塞がらなかった…
でも…これで私は生き延びられる…

「そうです!蒼星石を連れて来るですぅ!これでまた一緒に…」
「翠星石!?カナの話を聞いていなかったのかしら?
このシェルターに3人以上入れるのはキツいかしら!だからカナは今日まで誰にも言わずに…」

嫌だ。蒼星石を見捨てて自分だけが生き残るなんて……!
蒼星石のいない世の中で生きて行くなんて……私は絶対に耐えられない……!

「んなの知ったこっちゃねぇですぅ!
それに蒼星石を捨てて生きるぐらいなら、翠星石も一緒に死ぬですぅ!」
「うぅ…そんな事言われたって……」

金糸雀へ訴える私の瞳からは、大量の想いが零れ落ちている…。
自分の人生最後の日、チビカナといるのもいいかな、と思ったけれど…
やっぱり私は蒼星石の側にいたい。だって約束したから…ずっと一緒だって…。

「カナ、行ってあげようよ。時間、まだあるでしょ?」
「デカ姉……」

そして再び住宅街へ戻る…そこはもう、既にゴーストタウンと化していた。
誰もいない道を駆ける車窓から私は首を出し、大声で妹の名を呼ぶ……しかしそこに返事はない。

なんで行く先すら伝えてくれなかったんだろう…?
私達は双子という絆で結ばれている筈なのに…。

「もうあまり時間がないかしら!」
「も、もう1度、自分の家に行ってみるですぅ!」

引き絞るような祈りや願いと共に、最後の希望の地へ向った…。

そして辿り着く見慣れた我が家…しかし、そこに見慣れた筈の双子の妹の姿はない……。

「もうこれ以上は時間をかけられないのかしら!早くカナのシェルターに向かわないと……!」

「そんなの嫌ですぅ!蒼星石!蒼星石ぃ…!」

自分の命なんてこれっぽっちも惜しくない…
大切な妹と…蒼星石と一緒に居られれば……。
今の私にはもう、正常な判断なんてできない…
いや、しなくていい……。

もう1度玄関へ…蒼星石を探さなきゃ…最後の最後まで…諦めたらそこで試合終了……

「ゴメンかしら、翠星石…!」

突然、金糸雀の甲高い声が聞こえた後、
一瞬、私の後頭部に衝撃が走り…徐々に目の前…が…真っ暗……になっ――


――ふと目を覚ますとそこは何の変哲もない部屋…
強いて言うのなら、女の子の趣味に溢れた普通の部屋。
私はその部屋にあるベッドに寝かされているようだ…。

「目、覚めた?」

声のする方を見やると、そこにはデカ姉と金糸雀がいる。

「ここは例の地下シェルターにある一室。あなたは気絶したままここへ運ばれたのよ」

そうだ…私は…
蒼星石!?蒼星石がいない…約束したのに!ずっと一緒だって約束したのに…!

「ご、ごめんなさいかしら……蒼星石は……もう、助からない……」
「カナはね…あなたに死んで欲しくなかったから…仕方なく……」

蒼星石…私は…約束を破ってしまった……
自分が言い出しっぺなのに…私は…私は……

「翠星石、お願いだから後を追うような真似だけはやめて欲しいかしら…お願いだから…」

後を追う……か。
それで蒼星石の所へは行けるものなんだろうか……。
それで蒼星石は喜んでくれるんだろうか……。

「カナは最後の1人なんてほんとは選びたくなかった……
できればみんな連れて来たかった……でもみっちゃんにも生き延びて欲しくて…後、それと…」
「チビカナ、本当にありがとうです。後、変な心配しやがるなこんちくしょう、ですぅ」
「翠星石……」

私は、生きる事を選ぶ。
もしそれで私の心が苦しむのなら、それは私に対する罰…
蒼星石と一緒にいてあげられなかった私への罰……。
早い話、死んで即刻楽になろうなんて虫が良すぎるんだ。
でも…蒼星石……私はとても寂しい、悲しい、苦しい…逢いたい――


――どれくらいの時間が経ったのだろう…。
あの日から私は、それ程不自由もなく金糸雀達と暮らしている。
だけど蒼星石の事は片時も忘れない…心の空白は、今も埋まらない……。 

「あれからだいぶ経つかしら…もう外へ出ても大丈夫かしら」

促され、私は金糸雀と一緒に地上へ出る。
外は何もない焼け野原を想像していたけど、結構跡形が残っているものだった。

葉っぱを失った木々なんて散らかったように転がってるし、
住宅街の方を見渡せば、崩れた建物が多少なりの原型を止どめている
私の家はあの辺りかな?ここからはそんなに離れてないんだ…。

「遠くへ行くつもりなら、この通信機と発信機を持って行くといいかしら
帰りたくなった時に連絡を寄越せば、みっちゃんが車で迎えに行くのかしら
それと崩れた建物には近付かないようにするかしら。それと絶対…」
「今更、後を追いたいなんて思わねぇですよ。そんじゃコレ、借りてくですぅ」



――本当に久し振りの我が家…こんな滑稽な形で残ってるなんて…。
あー、せっかく蒼星石と一緒に育てた花達がみんな死んじまってるですぅ…可哀相に。

これ、もしかして階段ですか…?
ふざけてて蒼星石が落っこちちまった事もありましたねぇ…あん時は大変だったですぅ。

冷蔵庫なんて残ってるんですね…よくお菓子をつまみ食いして蒼星石に怒られましたよ……。

蒼星石……今も夢に出て来るですぅ…私に助けを求める蒼星石が…毎晩…毎晩……。
そして私の名前を何度も呼ぶんですぅ…何度も……。
苦しいですよぅ…寂しいですよぅ…耐えられんですぅ……。
もう…これ以上、生きてるなんて……
「翠星石…」
ほら、またこうして私を……

「す、翠星石!君なのかい!?」

え……?私は後ろを振り向くと………
――本物ですよね?夢なんかじゃないですよね?蒼星石……。

「よかった…本当によかった……翠星石!」
「蒼星石ぃ!!」

このぬくもり…決して夢なんかじゃない。
もう離さない…2度と…絶対に……。

「く、苦しいよ…翠星石…」
「ご、ゴメンですぅ」

蒼星石は涙で目を真っ赤にしてる……きっと私の目も真っ赤だろう…。
よかった…本当に…でもどうやって助かったんだろう?
それに蒼星石はあの時どこへ……

「行こう翠星石。向こうにみんなもいるよ」
「向こう…?いるって誰がいるんです?」
「真紅達だよ。ほら、行こう?」 

真紅達…?真紅達も生き残ったの…!?
動揺を隠せない私は蒼星石に手を引かれるまま歩く…どうやら近所の公園へ向っているようだ。

――あれれ?あそこで談笑してるのは3丁目の結菱夫妻ですぅ…。
それに折れた道路標識でふざけてるのは近所の餓鬼共ですぅ…。
飲んだくれの親父も……口うるさい小姑おばばも……ボロアパート暮らしの無職も……
みんな助かったんだろうか……でもどうやって?

「あ、翠星石なのー!おーいなのー!」
「翠星石も無事だったようねぇ」
「まあ、理由は何であれ、よかったのだわ」
「やれやれ、心配して損したよ」
「……ジュンはツンデレ……」
「これでみんな揃いましたわね」

――公園の真ん中で手を振ってるのはチビ苺…相変わらずちっさい奴ですぅ……。

それを取り巻くように、水銀燈、真紅、雪華綺晶、薔薇水晶、それにジュンも……
ずっと忘れた事なんてなかった…みんなを忘れた事なんて1度も……
ずっと逢いたくて、逢いたくて、逢えなくて……でもこうして逢う事ができた……。

「翠星石、またこれでみんなと一緒にいられるね。本当によかった…」

 A.「うん、よかった……」私は嬉し涙を拭いながら答えた。
→B.「ちっともよかぁねぇですぅ!」私は記憶にしまっていた筈の怒りをぶちまけた。

「ちっともよかぁねぇですぅ!」私は記憶にしまっていた筈の怒りをぶちまけた。

「翠星石は蒼星石の事をずっと探してたんですよ!一体どこをほっつき歩いていたですか!」
「…ゴメン、実は僕、地球に巨大隕石が降る事を、国連が発表する3年前に、既に知っていたんだ
だから人里離れた場所に地下シェルターを作って…」

――ん…?どこかで聞いたような内容ですぅ。

「あら蒼星石、あなたもなのぉ?実はあたしもよぉ」
「えぇ!?君もかい!?実は僕、噂で『闇に紛れた史上稀に見る天才』って囁かれてたんだ」
「……蒼星石…私は『無口過ぎて判別しづらい史上稀に見る天才』って囁かれてた……」
「ヒナは『絶対に違うだろうけどたぶん史上稀に見る天才』って囁かれてたのー」
「普通に生きる為、女王様キャラを装うのに苦労したものだわ」
「引き籠もってごまかすのは大変だったなー。精神的に」
「お嬢様キャラだってなかなかですわ…」

な、なんかみんなの会話に全然ついていけないんだけど…。

「翠星石に予め話すと情報が漏れるかもしれないって思ってさ…
当日に打ち明けようと思ったんだけど探しても結局見つからなくて…」 

「そんな……ひどいですぅ……てっきり翠星石は捨てられたのかと……」
「ほんとにゴメンよ……蓄えた食料に余裕がなかったから、他の人に知られたくなかったんだ」

「ねぇねぇ、翠星石はどうやって助かったなの?」
「え…?翠星石もシェルターに非難してて…」

「えぇ!?翠星石もシェルターを作っていたのかい!?これはうかつだったな…」
「いえ…翠星石はその……」

「あなたもなかなかやるじゃなぁい。やっぱり手当たり次第ハッキングして技術盗んだのぉ?」
「いえ…だからその……」

言いづらい…何故か言いづらい……金糸雀のお陰で助かった、ってものすごく言いづらい……

「自作の人工知能達がとても優秀で頼もしかったのだわ」
「永久機関の原理を発掘するのにとても時間がかかったのー」
「……水素と酸素を生成させる機械は…作るの以外と簡単だった……」
「NASAの最新型コンピュータよりも自作のコンピュータの方が性能良すぎて困りますわ」
「§*%¢℃¥」
「※◎☆&&£」
「∵≡∑∮√━‡」
「★☆◎◇□☆@」
「♀∞∴″<>¥〒」

――あれ?これじゃまるで翠星石が史上稀に見る馬鹿みたいじゃねぇですか…?

ふと周りを見渡すと…
ご近所の天才さん達が、私にとって史上稀に見る会話を繰り広げているようだ。

「お?お前も生きてたのかよ。泥だらけじゃん」
「いやぁ、俺の作ったシェルター、エレベーターなくて梯子なんだよ」
「うわwwwダサwwwwwwwwwwwww」

「奥さん、お聞きになって。また家の人工知能が悪さして…もう」
「あー、早い内からちゃんと仕付けた方がいいわよ」
「しかも10か国語程度しか覚えないから出来が悪くてねぇ」

「おじいさんや、あの第666プロテクトは固かったですねぇ…」
「あとコンマ0.00001秒遅かったらアウトじゃったのう、ばあさん」
「でもおかげで機密情報ががっぽがっぽでしたからねぇ…」

「僕のパパはすごいんだよ!ミノフスキー粒子を使った車を作ったんだよ!」
「そんなの大した事ないでしゅ。僕なんて生後8か月の頃にサイコフレームを開発しまちた」

……もういいや。
なんかみんな無事みたいだし……よかった、よかった。

でも…この切なさになんて名付ければいいんだろう……。
あれ…?何故か目から水が……

終【史上稀に見る人類】

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