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「夏休みの自由研究に、天体観測をしようと思うのだわ」
 
キッカケは、いつもの如く。
僕のプライベートタイムに、いきなり押しかけてきたと思えば、真紅は出し抜けに言った。
目ヂカラMAXな蒼い瞳にチキンハートを貫かれた僕は、まさしくヘビに睨まれたカエル。
 
「2週間ほど我が家の山荘に籠もるつもりだから、手伝いなさい、ジュン」
「だが断る」
 
次の瞬間、必殺『巻き毛ウィップ』の餌食になってたともさ、ああ。
こういう反応されるのは、長年の経験から、分かり切ってたんだけどね。
懲りないヤツと笑われても構わない。僕は、この刺激がたまらなく好きなんだ。
 
「殴ったね…………もっと殴ってくれ!」
「……はぁ。まったく、減らず口ばかり達者になるのね。躾が足りないようだわ」
 
しれっと返してくる。なーにが躾だよ、まったく。
 
こいつは昔っから、こうだ。事ある毎に、上から目線な保護者面をする。
たまたま、家が隣同士で、たまたま、同い年で。
それでもって、たまたま、示し合わせたわけでもないのに、高校まで同じになったりして。
諸々の偶然が重なっただけの、単なる腐れ縁だってのにさ。
 
これはもう、保護者なんて生易しいものじゃなく、専制君主と言い表すべきじゃないか。
僕を一介の従者としてコキ使うことに、真紅はカケラほどの疑問も抱いてないだろう。
そして最も厄介なことには、僕の中に、真紅に奉仕して喜んでいる別の僕がいることだ。
 
思えば……出会った瞬間から、僕らは主従関係にカチッと嵌まってたんだよな。
もう10年も前のことになるのか――当時はまだ、僕は小学生だった。

ある日のこと、僕は近所の公園で、遊びの輪に加われずに泣いてる真紅を見かけた。
それまで外国で暮らしてた真紅には、親友なんて、当然いるはずもない。
向こうっ気の強い真紅の性格も、子供社会においては災いしたんだと思う。
 
真紅は色褪せた木のベンチにぽつんと座り、犬のぬいぐるみを抱きしめていた。
僕は、子供ながらに居たたまれない気持ちになって――
一大決心の末に、話しかけたんだ。
 
もうだいぶ記憶が曖昧だけど、あの時、僕は真紅を慰めるつもりが怒らせてしまった。
礼儀も知らない子供だったし、なにか彼女の気に障る物言いをしたんだろう。
あれ以降だ……真紅が礼節について、口喧しく注意するようになったのは。
 
 
「返事は、ジュン?」
 
とにもかくにも、こういった突然の申し出には、もう慣れていた。
それに翻弄されてるくせに、いつも応諾してしまう僕にも、非があるんだろうけどね。
 
「しょうがないな。はいはい、わかったよ。手伝わさせていただきますよ」
「ふふ……いい子ね」
 
だって、そうすれば真紅は、この胸を焦がすほどのチャーミングな笑顔をくれるから。
 
 
    ▼    
 
 
その翌日、観測地点の山荘へと移動した。
けっこうな奥地で、着いたときには、山の早い夕暮れが迫っていた。

「もう……だめだ……。足が痛くて、これ以上は歩けないよ」
「だらしがないわね。日頃から、パソコンばかりしているからよ」
「いいだろ別に。僕の趣味にまで、いちいち口出しすんなって」
 
強く言い返したつもりが、疲労の極致で、声に勢いがない。
着替えなどの荷物の他に、小学生の頃に買ってもらった天体望遠鏡も担いできたからな。
ばかりか、真紅の望遠鏡まで運ばされたんだ。これじゃあ疲れて当然だろう。
 
しかし、救いもあった。
山荘は新築かと見紛うほど綺麗だし、涼しいし、快適に過ごせそうだったんだ。
食事に関しても、山荘を管理する老夫婦が準備してくれるという。
バカンスを楽しむには、いい避暑地だ。それだけは間違いなかった。
 
 
 
その晩は、機材の調整がてら、山荘の一室から目的もなく夜空を眺めた。
僕の望遠鏡も、久々の活躍の場に歓喜して、えらく張り切ってるようだ。
ずっと放置してきた僕の罪悪感が、そう見せているだけかもしれないけどね。 
 
「素敵……。やっぱり、見え方が桁違いね」

望遠鏡を覗き込んだまま、真紅がいつになく嬉しそうな声をあげた。
「都会では夜空が明るすぎて見えない星も、ここでは見えるのだわ」
 
そんなこと、昨日今日に始まったことじゃない。
『光害』なんて言葉が造られるほど、日本の夜空は光で満たされてるんだ。
本気で満天の星空を観測しようと思ったら、こんな山奥に籠もるしかない。
この時期、都会の河川敷なんかは、花火に興じるDQN連中で騒々しいしな。

夢中で星を眺めながら、時折、歓声をあげる真紅。
そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、来てよかったなと、しみじみ思ってしまう。
いつしか僕は、心の中で、誘ってくれた真紅に感謝していた。
たとえ荷物持ちとしか見なされてなかったとしても、ね。
 
だがしかし、事件は思いがけないところから起きる。
  
「えっ?」
真紅が、突如として息を呑んだ。「なんなの、あれは」
 
いつも冷静沈着な真紅にしては、珍しい狼狽ぶりだ。
そんなにも彼女を動揺させる事象とは、いったい……。
 
「どうしたんだ、真紅?」
「ジュン! ちょっと、こっちに来てちょうだい。早く」
 
言われるまま近づくと、今度は望遠鏡を指差して、唇を戦慄かせる。
「これを見て」
 
真紅と場所を入れ替わって、望遠鏡を覗く。
だが、その先に広がっているのは、なんの変哲もない夏の星空だ。
 
「なんだってんだよ。普通の夜空じゃないか」
「よく見なさい! 位置は、月から僅かに下がった辺りよ」
「んん?」
 
もう一度、真紅に言われた辺りを見ると……今度は、僕にも分かった。
なにかが、オレンジ色に眩く輝いている。UFOという名詞が脳裏を掠めた。

「恒星じゃないな。彗星の色でもなさそうだし」
 
独り言を並べながら、尚も観察を続けていると、新たな事実が判明した。
そのオレンジ色の輝きは、移動していたんだ。それも、僕たちのいる方角へと。
 
「ひょっとして、隕石なのか?」
「隕石……? 嫌だわ。この辺に落ちたりしないかしら」
「あれだけ激しく輝いてるってことは、地上に達する前に、燃え尽きるだろ」
 
それなら安心と、ぎこちない笑顔を見合わせる僕たちだったが……
次の瞬間、真紅はまたもや、端整な顔を強ばらせていた。
 
どうして、そんな顔をする?
彼女の凝視する先へと振り返って、僕も理解した。
そのオレンジ色の輝きが、ぐんぐん大きさを増していたからだ。
すごいスピードで飛んでくるのが、肉眼でも確認できた。
 
「ジ、ジュンっ?!」
「真紅っ!」
 
逃げる余裕なんてなかった。咄嗟に真紅を庇うべく、抱きしめただけで。
僕と真紅の足は根が張ったように動かず、身を寄せ合って竦み上がるばかりだった。
 
 
そして――

部屋が眩いオレンジ色に染まり、目を開けていられなくなった。
死ぬんだと思ったさ、マジで。この状況じゃあ、助かるわけがないって。

「……ジュン」
 
だから、僕の名前を呼ぶ真紅の声が近くに聞こえたときには、奇妙な気がした。
天国とやらに、一瞬で辿り着いたのかと思ったんだけど――やっぱり違った。
 
「いつまで抱きついてるのよ! 離しなさい!」
 
突き飛ばされるが早いか、頬をひっぱたかれた。それも、気持ちいいほど強烈に。
それで、僕も真紅も我に返ったけれど……
二人が冷静でいられたのは、これまた極めて短い間だけだった。
 
 
「な、な、な…………なんじゃあ、こりゃあぁ?!」
「嘘……でしょう? なんなの、いったい……」
「おい、真紅! どうなってるんだよ! なんなんだよ、これ!」
「私に訊いたって、判るわけないでしょう!」
 
がなりあう僕たちの見つめる先には、オレンジ色に明滅するコピー機大の塊が鎮座していた。
あれだけ燃えてたんだから、まだ少し燻っている……かと思いきや、放射熱が感じられない。
奇妙なことに、床のカーペットも、まったく焦げていなかった。
 
だが、驚愕の事態はまだ続く。
なんと、そのオレンジ色の塊が、パカッと割れて大輪の花を咲かせたんだ。
お釈迦さまが蓮の花に乗ってる絵を想像してくれたらいい。あんな感じだった。
しかも中の人が、神々しいまでに純白の美少女だったから、二度……いや、三度ビックリ。
 
「ウソだろ……まさか、本物の宇宙人? 未知との遭遇かよ」
「なにを言うの、ジュン。UFOなんてプラズマよ! 有り得ないのだわ」

動揺を隠せない僕らを余所に、純白の美少女は静かに瞼を開いた。
そして、やおら――
 
「qあwせdrftgyふじこlp;@:」
「日本語でおk」
「日本語でおkなのだわ」
 
口々に言うと、謎の少女は「おや?」という風に首を傾げた。
すかさず、手元のリモコンみたいな物をピポパと操作して、もう一度……。
 
「……あ、あー、テステス。……ごきげんよう、地球のみなさん」
「おおっ、喋った?!」
「同時通訳機ですって?!」
「その反応、どうやら言葉は通じているようですわね。よかった」
 
こいつ、ただ者じゃない。見かけは人間だけど、マジで宇宙人なのは、確定的に明らかだ。
衝撃のあまり呆気にとられている僕と真紅に、少女は礼儀正しくお辞儀をした。
 
「はじめまして。私は雪華綺晶。遙々、月から旅して参りました」
「……はぃ? 僕の聞き間違いかな。どこから来たって?」
「月からですわ。私は【月花美人】――かぐや姫の遠縁の子孫なのです」
「百歩譲って、貴女のヨタ話を信じるとして……なんの目的で来たというの?」
 
謎の少女を見据えながら、真紅が怯えを滲ませた声で訊ねる。
すると、少女は我が意を得たとばかりに、婉然と微笑んだ。
 
「実を申しますと、私……旦那様を迎えに参りましたのよ」

な、なんだってー?! 旦那って、つまり伴侶……夫のことだよな、常識的に考えて。

いま、この場にいる男といったら……僕しかいないんだけど。
――って、マジか?! こんな美少女に結婚を迫られるなんて、漫画でなきゃ有り得ないだろ。
いやはや~、こりゃまいったなぁ。どうする? どうするよ、桜田ジュン!
苦悩のあまり悶絶失神しそうになっている僕の前に、少女が進み出てきた。
 
「さあ、旦那様。私と共に、月の御殿に参りましょう。
 そして二人、身も心も、とろ~りとろとろ濃密な蜜月に酔いしれるのです」
 
歌うような囁きと共に伸ばされた少女の細腕は、僕に―― 
――は掠りもしないで、隣に佇んでいた真紅を捕らえていた。
当然、真紅は双眸をパチクリさせて、あんぐりと口を開きっぱなしだ。
 
「お、お待ちなさい! なにをトチ狂っているの! 私は女の子よ!」
「ふふふ……なにを仰るウサギさん。性別など瑣末なこと。
 私にとって、旦那様は貴女だけですのよ」
「無茶苦茶なのだわ! ジュン、なんとかしなさい!」
 
と、言われてもね。僕にどうしろと? うん……どうすりゃいいんだろうね。
人智を超越した、笑うしかない展開に、僕の思考も閉鎖されそうだよ。
 
「さあさあさあ! 今宵はもう遅いですから、一緒に床入りしましょう旦那様っ!」
「ちょ、や、やめ! ジュン、助けなさあああああああああぁぁぁ――」
  
真紅は純白の美少女に引きずられて、隣の寝室に吸い込まれてしまった。
すっかり置いてきぼりの僕は、風速1000メートルの暴風圏に放り込まれた心境で――
……敢えて言おう。なんかもうワケワカメ。
 
 
 【☆円盤皇姫キらきしょ~★】 第2話に続くよっ!


  な / ______
ぁ 訳/        ̄ヽ
ぁな /          \
ぁ い レ/ ┴┴┴┴┴| \
ぁ じ /   ノ   ヽ |  ヽ
ぁ ゃ> ―( 。)-( 。)-|  |
んぁ >   ⌒  ハ⌒ |  / 
!ぁ>  __ノ_( U )ヽ .|/
  ん  |ヽエエエェフ | |
  \  | ヽ ヽ  | | |
 √\  ヽ ヽエェェイ|/
    \  `ー― /ヽ

【月花美人】&【瞳に映る夏の夜空】
本当は前スレに投下しそびれたネタだけど、折角なので使い回したでござる。

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