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――なんだ…?この紙キレは…

『まきますか まきませんか どちらかに丸をお付け下さい』

姉ちゃんからか?
他に考えられないもんな、こんな怪文書を弟の机の上に置ける人物なんて…。

どうせ今日は何もする事ないし、愚鈍な姉の戯れにでも付き合ってやるかぁ…。

まきます、っと。
…というか何をまくんだ?…ったく、アイツなんの為に学校で国語教わってんだよ…。

失笑失笑…。
さて、アイツが帰って来るまでにからかうセリフでも考えておこ……うわっ!?

うん。今、目の前に突然鞄が置いてあるのはイリュージョンってヤツだな。
ハハハ…あの鈍い姉も急に成長したもんだな…。
褒めて遣わそう…芋虫からゴキブリに進化したって所だ…。

中を開けて見ると…何という事でしょう。
そこには赤い服を来た可愛らしいお人形さんが入っているではないですか。
普通の狭い家が、超リアルな女の子の人形を予告無しに置く事で、ホラーハウスと化してしまいました。
まさに、匠も泡を吹いて卒倒する衝撃的ビフォーアフター…。

「人間ね…」

喋った……母さん!
この子、さっきまでうんともすんとも言わなかったのに、今、言葉を喋ったんだ! 

ビデオカメラビデオカメラ…いやぁお父さん感動しちゃったなぁ…決してビビってなんか……。

「うわぁぁ!?なんだなんだ!?お前はなんだあぁぁぁ!?」

「4380000時間ぶりの人間も随分と騒がしいわね…
まあ、いいわ。お前、そのネジを巻きなさい」

438万時間…?長っ……えーっと…1日が24時間だから4380000÷24=……
ネジ…?ああ、コレか…この金ぴかがなんだって?

「私は忌々しい呪いで、4380000時間この鞄に閉じ込められていたのだわ。
私は今、ネジを巻かれなければ、意識は保てても動く事ができないの。
早くネジを巻きなさい。そのネジは人間にしか巻く事ができないのだから」

細かい説明をご苦労様…。いろいろとご苦労様…。

まあ、可哀相だよな、ぶっちゃけ。
こちらに言わせれば、だから何?的な他人事だけど。
ネジを巻いてやるくらい大した手間は掛からんだろうしな。…でもちょっと気になるんだよな…。

「僕がそれを巻いたら、お前はどうするつもりだ…?」

「うふふ、知れた事ね……
まず、お前を下僕にしてから世界中の紅茶を買わせ、毎日、私の為に淹れさせてあげるのだわ」 

あれ、僕、何してたっけ。

おや、この鞄はなんだろう。
閉まってるからって、何でもホイホイ開けちゃう奴って知性を疑うよな。

放っておこう。
なんか赤いドレスの裾みたいなのがはみ出してるけど、気にしない気にしないっと。

「ちょっと!?何をするのよ!?開けなさい!!」

「何をする、だぁ?んな事言われて自由にしてやるボケが何処にいるってんだよ!!」

僕に世界中の紅茶を買わせて淹れさせる、だとぉぉぉ?
どんだけお金掛かると思ってんだよ!?どんだけ時間と労力を消費すると思ってんだよ!?

とかそういう問題じゃない。

とにかくコイツを絶対野に放ってはいけないという事だけ確信した。
呪いとやらをかけた人物は賢明な人のようだ…せめて注意書きくらい張っといて欲しかったが…。

「お、覚えておきなさい…!!絶対、後悔させてやるのだわ…!!」
「あ~、そのセリフは、また4380000時間経ってから誰かに言ってやれよ?」

誰かいればの話だからな?期待すんなよ?そん時にはお前は無人島暮らしかもしれんからな。

「ま、待って頂戴!わ、私も少し言い過ぎたわね…!話せばわかるのだわ!」 

……開けてやるよ。どうせまたすぐ閉めるだろうけどさ…。
で、どんな悪徳商法かましてくれるんだ?

「そ、そうね…巻いてくれたら、1つだけ望みを叶えてあげるわ。私も誇り高きドール、約束は守るのだわ…!」

前言撤回、まるでカルト宗教の勧誘だな。
しかも1つって…悪魔でさえ3っつなのに、どんだけケチなんだよ?

誇り高きドール?確かに埃被ってるかもな?なんてったって480万時間だからな。
悪魔は約束守る振りして命奪うのがお約束ってね……ああ、コイツは悪魔以下だっけ?

「で、自由になったらどーすんだよ?」
「それはまずお前を下僕にして…」

閉めるっと。
さて、ガムテープは何処だったかな?ほんとは中にセメント流し込めればいいんだけど…。

「ちょ、ちょっと!?話はまだ終わってないわっ!!」

「人間をパシリにしか見えない悪魔人形を、誰が野放しにするかってんだよっ!!」

あったあった。こいつでグルグル巻きにして…3っつで足りるかな?
まあ、いいや。

紅「ぱ、パシリって何…!?自由がないって事…!?」

ハハ、幻聴が何か言ってらぁ。ググレやカス。

「わ、わかったわ!週に1日くらい休日を…2日でもいいかしら…!?」

取り敢えず、こんだけ巻いとけば何もできんだろう…。
粗大ゴミの日まで押し入れにでもしまっとくかな…。

「気に入った紅茶があれば、一緒に飲んでもいいわよーーーーー!!!!」

「テメェは自殺しろっっ」

お悔やみの言葉と共に封印完了。
巻け巻け言うからちゃんと巻いてやったんだ、感謝しろよ?
さて、外の空気でも吸って来るか…。さっきから息苦しすぎて窒息寸前だ…。


――なんだろう?さっきまであんなにいい天気だったのに、いつのまにか雲ってきたよ。

「あー、嫌な雲ですぅ。チビからノート返して貰ったら、とっとと帰るですぅ」

「翠星石ったらそんな事言って…日曜日に桜田君に会える口実なんて、滅多にないじゃないか」

僕は容赦なく双子の姉にからかいの言葉を浴びせる…どんな反応をするかわかっていても楽しい。

ほら、顔が赤くなった。もちろん次に飛んで来るセリフの内容は予想がついてる。

「ななな、何を言ってやがるですか、蒼星石!誰があんなチビなんぞ…!」

ふふふ…翠星石の意地っ張り。なんで桜田君には素直になれないのかなぁ。

「じゃあ僕、貰っちゃおうかなぁ…桜田君の事」

「ど、どうぞ勝手にしやがれです!そんなの翠星石はへーきのへーざですぅ……」

あれ?だんだん声が萎んでってるよ?
ふふ…こんな可愛い姉さんはいくら見てても飽きないや。
とは言ってもさっきの言葉も半分は本気なんだよ?でも僕はわかっちゃったからね…翠星石の気持ちが…。
僕は桜田君も翠星石も大好きだからいいんだ…。

ってあれ?噂をすれば桜田君だ。グッドタイミングだね。

「ん?お前ら、僕ん家の前で何やってんだぁ?」

「やっ、こんにちわ」
「何やってんだぁ、じゃねぇです!先週、翠星石がお前に貸したノートを返しやがれですぅ!」

怒っていても赤い顔が残ったままだから、見ていてつい笑っちゃう…。
平常心を保つってのも大変だぁ。

「いっけねっ!忘れてたっ…」
「忘れてた、じゃねぇですぅ!大体いつもお前はですねぇ…」

「ぷっ、アハハ」

いつも通りの展開にやっぱり吹き出しちゃうよ。ゴメン、怒らないで翠星石。
毎回、借りたものをすぐ忘れる桜田君もほんと天然だなぁ。
せめて翠星石の気持ちには早く気付いてあげてよね?
僕は楽しそうな君達を見てるだけで幸せだから全然泥を被ってる気がしないんだ…。

「うふふっ…見ぃつけたぁ…」


――ん?なんだ…?この頭に響いてくるような声…女の子の声か…?

…えっ?

翠星石と蒼星石の後ろにいつの間にか女の子が立ってる…すごく小さい。
人形…?さっき家で見たヤツと似てる感じもするけど、色や姿が全然違う。

僕を見て笑ってる…?
なんで僕を見て笑ってるんだ…!?まさかあの赤い人形の仲間か…!?

「ちょいと!聞いてるんですかぁ?」
「お前らっ…後ろっ!!」
「何っ!?」「キャッ!?」

ん?なんだよ…せっかく人形の方へ振り向いたのに、何でこっちへまた向き直すんだ?
何で呆れたような顔してるんだ!?何でイタズラな子供を微笑ましく見るような顔してるんだ!?

「いい年こいてガキ臭いことしてんなですぅ!」
「アハハ、びっくりしたぁ…」

こいつらには見えてないのか!?僕にだけしか見えないって言うのかよ!?
お、おい!?蒼星石、思い切り抱き付かれてるのにわからないのか!?

コラッ…胸に触ってんな!!
僕だって触りたいけど、理性をきっちり守って触らないんだぞっ!その手をどけろおぉぉぉおおお!!!!

「キャッ」
「なーにをとち狂ったですか、馬鹿モン!」
「ごはぁっ!?」


星が見える。

なんてボーイッシュな織り姫だ…ロン毛な彦星もいる…そういや先日は七夕だったっけ…実にいい蹴りだった…。

くそっ…僕はまだヤクなんかに溺れてないぞ…
おい!お前ら、そこで待ってろ!絶対そいつを刺激するなよ?

「あのチビ、や~っとノート取りに行きやがったですぅ」
「何も蹴飛ばさなくたってよかったのに…」

くっ…柔らかな弾力性を期待したのに…じゃなかった…あのクソ人形め…叩き起こしてやるっ!

おらぁ!…おらっ…おらおらおらおらおらおらっ…さあいでよ、悪魔人形っ!

…なんだよ?…おめめぱっちり開いてんじゃねぇかよ!?…寝過ぎだからだクソがっ!!

「おいっ!この悪魔人形っ、僕の目に何かしたろ!!変な人形が見える呪いでもかけたのか!?」
「………愚かね。その子は私を未だ付狙っている、私と同じローゼンメイデンのドールよ」

ろ、ろーぜんめいでん?なんだそりゃ…?アイツも生き人形なのか…?作ったヤツはどんな趣味してんだよ!?
それに、僕にだけ見えてアイツらには見えないとか、なんてポルターガイストだよ!? 

「私はこの4800000時間、身を隠していたの。
でもお前がこの鞄を開けた事で、彼女に私の居場所が知れたのよ」

なんてこった…

でも、狙われてんのはコイツなんだよな?だったらこの鞄ごとあの人形に引き渡しちゃえば…。

「見てなさい。彼女は特定の人にしか姿を見せないけれど、実体の人間を襲えるわ。
下手したら殺されるかもしれないわね」

だめだ!あの人形、なんとかしないと!
なんだって生きた人形はチャッキーみたくロクな奴がいないんだ!?

「キャアァァァ!!!!」

しまった!アイツらが…!

この悲鳴は、紅茶を無理矢理買わされてるとか、淹れさせられてるとかのレベルじゃない…!

「他にも人間がいるのね。助けようとしても無駄よ?お前ではあの子に触れる事すらできないわ
あら、どうしましょう。全てはお前の責任よ?お前がこの鞄を開けなければよかったんだもの」

そうだ…僕のせいでアイツらは…!!
翠星石、蒼星石…お前らが僕のせいで死ぬなんて嫌だっ!耐えられない!

「わかっているわね?私なら、なんとかできるのよ」

迷ってる場合なんかじゃないよな…。アイツらが死ぬ事に比べたら、紅茶奴隷になるくらい何て事…。

「やっつけてくれよ……」

「約束は……守るわ……」

このうさん臭い笑顔、全然信用できないが、僕にはコイツを頼るしか方法がない…!

…うわっ、やわらかっ…コイツ本当に人形かよ?顔だってどう見ても普通の女の子にしか見えないし…。

しかもなんだよ…何気に良いにおい…乙女の甘く清楚な香りが僕の鼻腔をくすぐ…じゃなくて、ネジだったな!

人形って大体背中に…あったあった。変な所にあったらマジどうしようかと…
お?う、動いた…動いてる……

「はあぁぁぁ……よくもこの私をコケにしてくれたわねっ!」
「ぐあぁっ!!」

星が見える。
ゼウス…あの悪名高いゼウスが僕の事を見下ろしてる…ってかコイツ、グーで殴りやがったな…。

「おい…約束はどうした……アイツらはどうなる……」
「フン、誰が人間との約束なんか守るって言うのよ?」

予想はしてたけど信じたくなかった…でないとアイツらが…!ちくしょおぉぉぉおお!!

「汚ねぇぞ……テメェ!!!!」
「安心しなさい。お前も彼女達の元へ、すぐ逝けるのだわ」

やっぱりこんなヤツを信じた僕がバカだった!!僕のせいで…僕のせいで…アイツらは死……?

「それじゃあ、私はもう行くのだわ。さようなら…」
「ま、待ってくれ、頼む!この通りだっ…アイツらだけでも助けてやってくれぇっ!!」

じぶんの額が、水滴で湿った床に強く当たるのを感じる…。
せめて…アイツらだけは…!!

「僕はどうなってもいいからっ…下僕でも…何でもなってやるからっ…頼むっ!!」

紅茶奴隷どころかサンドバックにだってなってやるから…っ!

…痛ててっ!髪を引っ張るなよっ!?おいっ!!

ん…?なんだよ…手なんか突き出して…コレ指輪か…?なんか変わったデザインだな…。

「誓いなさい」

誓う…って何をだ…?体育祭の開会式で必ず言うあれか……痛ぇ!いい加減に髪を放せぇ!

「誓うのよ、この薔薇の指輪に。口付けをして頂戴…」

僕は人形の顔を見た…
それは吸い込まれそうな瞳だった…
いや、既に呑まれていたのかもしれない…

何故なら僕は、その目を見た直後、無意識の内に指輪へ口付けをしていたから…。

「いい子ね…。さあ、遠くから眺めてなんかいないで、こっちへ来たらどうなの?雪華綺晶」

「うふふっ…とても楽しいお人形劇、拝見させて頂きました…紅い薔薇のお姉様…」

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