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雛苺・金糸雀チームが雪華綺晶と激闘を繰り広げている頃。
薔薇水晶は、ロープでグルグル巻きにした水銀燈を、一人でせっせと運んでいました。

というのも、雪華綺晶に教えられた謎の尾行者の存在。
それから暫くして聞こえてきた、謎の悲鳴。

この流れは間違いなく、イヌミミ真紅が邪魔をしに来ると見ていいでしょう。
ここは一度場所を変えて、じっくり、しっかり、水銀燈のネコミミを引き千切るのがベストです。

そう考えた薔薇水晶は、どこか人目につきにくそうな場所を探して水銀燈をドナドナと運んでいました。


そして……


真紅は水銀燈と薔薇水晶の姿を探して、廃工場の中を必死に走っていました。
頭の上ではイヌミミが、走るリズムに合わせてピコピコと動いています。

まさか雪華綺晶がそれっぽい視線で見つめていた先には何も無いだなんて、真紅は思ってもいません。
そう。真紅が向かっている先には、本来なら誰も居ないはずだったのですが……

「見つけたわ!薔薇水晶!」
「……あ」

薔薇水晶が勝手に場所を移動してくれたお陰で、真紅は迷子にならずに済んだのです。 




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇
  



「薔薇水晶!水銀燈を放しなさい!」

真紅は平らな胸を張って、声も高らかに薔薇水晶にそう言い放ちます。
ですが、必死に走ってきたせいで疲れているのか、頭の上のイヌミミにはいま一つツヤがありません。

薔薇水晶も、最初は驚いた様子でしたが……すぐにニヤリとした笑みをうかべました。
そして、ロープでグルグル巻きにしてある水銀燈を盾にして、恐怖の提案をしてきたのです。

「……人質の命(水銀燈のネコミミ)が惜しかったら……抵抗しないで……」

確かに真紅は、あまり水銀燈とは仲が良いとは言えませんでしたが、このまま見過ごす訳にもいきません。

「くっ……卑怯よ!!」
真紅はイヌミミを震わせて、悔しそうにそう叫びました。
本当なら、今すぐにでも薔薇水晶にお仕置きしてやりたいのですが……
ですが、人質をとられては動く訳にもいきません。

ここは耐えるしかないわね、と自分に言い聞かせて、真紅は薔薇水晶を睨みつけるだけです。

対する薔薇水晶は、優勢と見て取ったのか、余裕を感じていつもの無表情に戻りました。
そして人質の水銀燈から手を離すと一歩、また一歩と、悔しそうに立ち尽くしている真紅へと近づきました。

コツン、コツンと薔薇水晶が近づいてくる足音が、やけに大きく聞こえます。
真紅にはそれが、まるで死神の靴音にも似たように感じられます。

そして……
薔薇水晶の足音が近づくにつれ、真紅は何だか妙な違和感を感じ始めました。

うかつに声を出すわけにもいかないので、真紅は無言で、近づいてくる薔薇水晶の様子を観察します。
すぐに気が付きました。 


薔薇水晶は今、真紅のイヌミミを千切るために、水銀燈から離れちゃっています。
つまり……人質は今、ロープでグルグル巻きにされているだけで、危険な状況ではありません。
とんでもないチャンスです。

いきなり訪れた反撃の機会に、真紅は目を輝かせました。
イヌミミもピコーンと起き上がって、やる気は十分です。

そうです。
うっかりテンションが上がっちゃったので、イヌミミもピコピコ動いてしまったのです。


そんな真紅のイヌミミを見て……何かが変だと、やっと気が付いた薔薇水晶。
クルリと振り返ってみると、頼みの人質からずいぶんと離れちゃっていました。
「……あ」
やっちゃった。みたいな声が思わず漏れてしまいます。

来るであろう真紅からの攻撃に備えるべきか、再び人質をとって始めからやり直すべきか。
薔薇水晶はそんな風に、一瞬ですが迷ってしまいました。

その一瞬の迷い。
それが命運を分けました。

次の瞬間、真紅の拳は正確に、薔薇水晶の顔面を捉えていたのです。
ボグシャァと、とっても良い音が鳴り響きました。

「人質を取るだなんて!絶対、貴方を許さないわ!」
真紅は怒りにイヌミミをプルプル震わせながら、薔薇水晶を睨みつけます。

辛うじて踏みとどまった薔薇水晶が、ギリリと睨み返してきます。
ですが、まだ完全に体勢を立て直してはいなさそうです。

このチャンスに一気にケリをつけようと、真紅は薔薇水晶にお仕置きビンタを食らわせる事にしました。

大きく手を振りかぶって、薔薇水晶へと振り下ろします。

ですが、ちょっと意気込みすぎて大振りになってしまった為、薔薇水晶に防がれてしまいます。
バチーンと当たる直前で、真紅の手は薔薇水晶に捕まれていたのですた。

意地っ張りな真紅にとって、これはとっても悔しい事でした。

なので、止められているにも関わらず……
真紅は無理やり、力づくでも、薔薇水晶の頬にビンタを当てようとします。
ジリジリと、少しずつではありますが、受け止めている薔薇水晶の手を押して進んでいく真紅のビンタ。
正直、威力なんて期待できそうにもありませんが、そんな事はもうどうでも良かったのかもしれません。
女の意地、というやつです。

そしてついに。
真紅のビンタもどきが、薔薇水晶の頬にぴとっと当たりました。

ふふん、と得意げな表情を、真紅は浮べます。
薔薇水晶も、何故かニヤリと笑いました。

真紅は、ビンタを当てる事に夢中になって、全く気付いていませんでした。
薔薇水晶のもう片手が、こっそりと頭の上のイヌミミを狙ってきていた事に。

「はっ!?いけない!」

イヌミミに薔薇水晶の指先が触れた感触で、真紅は思い出したように一歩後ろへ飛ぼうとします。
ですが……それよりも、薔薇水晶がイヌミミをしっかり掴むのが先でした。
 
「は…放しなさい!!」
片耳だけとはいえギューっと引っ張られて涙目になった真紅は、叫びながら抵抗します。

「……いや……絶対に……放さない……」
薔薇水晶は律儀にそう返事をしながら、真紅のイヌミミを引っ張ります。

「痛い!痛いわ!!放しなさいったら!!」
真紅も叫びながら、薔薇水晶の手を振りほどこうとしますが、完全にピンチです。

千切られたら痛くって気を失っちゃう、イヌミミという弱点。
それを引っ張られて、真紅は本気で困ってしまいました。

無理やり振りほどこうとして、その拍子に千切れてしまいでもしたら……想像するだけで震えちゃいます。
かといって、このままではジリ貧です。

何とかして打開策を。何とかして、手を離してもらわないと。
真紅は、ただその事だけを考えます。
改めて敵(薔薇水晶)の様子を見てみると……片手を伸ばして、イヌミミを引っ張ってきている状況。

「やってみるしかないわね……!」
真紅は手を伸ばし、薔薇水晶のワキをコチョコチョとくすぐる事にしました。

「……ひゃぁ!?」
変な声を上げて、薔薇水晶はイヌミミから手を離してくれます。
計算どおりです。

  
自分にはイヌミミという弱点がある。
それを改めて自覚した真紅に次の行動は、まさに迅速でした。 


タタタッ、と薔薇水晶目掛けて走り……その横を通り過ぎます。
そして、ロープでグルグル巻きにされている水銀燈へと駆け寄りました。

「水銀燈!今、ロープをほどいてあげるから……
 今だけでいいの!協力して頂戴!」
それだけを言うと、返事も待たずにロープをほどきます。

するすると、水銀燈を縛り付けていたロープが床に落ちました。

やっと自由になった水銀燈は、立ち上がってから、コキコキと首を動かします。
それから……ニヤリと笑みを浮べると、緊張した表情の真紅へと顔を近づけました。

「ふふふ……本当におめでたいわねぇ、真紅ぅ?
 この私が貴方の頼みを聞くだなんて本気で思ってるのぉ?」

頭の上でネコミミをピコピコさせながら、水銀燈は真紅の細い首へと手を伸ばします。
そして、指先でコロコロと真紅のノドを軽く撫でた後……
実に楽しそうに目を細めながら、そっと囁きました。

「でも……ネコは気まぐれ、って言うわよねぇ?ふふふ……
 この気まぐれは高くつくわよぉ?」 


言い終わると同時に、真紅は、水銀燈は、薔薇水晶へと向き直ります。
一時的にではありますが、最強タッグが誕生した瞬間でした。
 

「そうと決まれば、一刻も早く薔薇水晶を倒してここから帰りましょう」
真紅はグッと拳を固めて、そう言います。

「貴方と同じ意見、ってのも気分が悪いものねぇ……」
水銀燈もニヤリと笑みを浮べながら、そう言います。


二人に睨みつけられている薔薇水晶は、どうしてこうなっちゃったんだろう、と涙目で思っていました。

とりあえず、二人がかりでボコボコにされるのだけは嫌な薔薇水晶。
今頃は雛苺と壮絶な戦いを繰り広げているとも知らず、雪華綺晶が帰ってくるまでの時間を稼ごうとします。

「……………」
ですが、何も良い言葉が出てきませんでした。
こんな時、無口っ子だと困っちゃいます。


と、そんな隙に、水銀燈は薔薇水晶の右肩をガッシリと掴みました。
真紅が左肩をガッシリと掴みます。

そして。
「いくわよ!水銀燈!!」
「私に命令しないで!!」
ピッタリと息の合った二人に、薔薇水晶は思いっきり投げられたのです。 


薔薇水晶は、綺麗な放物線を描いて空を飛びます。
そして地面にボグシャァ!と落ちて決着。真紅と水銀燈はそう思っていました。

ですが……
薔薇水晶は地面に衝突なんてせず、空中でクルリと身をひるがえすと……スタッと地面に着地したのです。


そして着地の拍子に少しだけめくれる、薔薇水晶のスカート。
チラリとそこから見えたものに、真紅も水銀燈も驚きを隠せませんでした。

別に、薔薇水晶が意外と大胆な下着をしていた訳ではありません。
彼女のスカートの隙間からは……しなやかなネコの尻尾が顔を覗かせていたのです。

「そんな!?まさか貴方もなの!?」
「ネコの……尻尾ですってぇ!?」
真紅と水銀燈が、叫びます。

薔薇水晶も、もはや隠す必要も無くなったと言わんばかりにスカートの端からネコ尻尾を出しています。

「どういう事なの!?
 ……そうよ、このイヌミミにしても、貴方は始めから知っている風だったわ!
 薔薇水晶!貴方は何者で何を知っているというの!?」

真紅の言葉が、薔薇水晶を射抜きます。

薔薇水晶は、ほんの少しだけ沈黙をしてから……やがて話し始めました。

それは、イヌミミ真紅やネコミミ水銀燈、ふかふか尻尾の翠星石とシロクマ雛苺。
彼女達が、このよく分からないヘンテコなトラブルに巻き込まれる原因のお話でもありました。 



―※―※―※―※―
 
 

薔薇水晶のお父さん、槐さんは、とっても賢い人でした。
生物学、脳生理学、化学に機械工学。とにかく、なんでも出来ました。

槐さんは持てる才能の全てを、世の為、人の為に……ではなくて、自分の趣味へと向けたのです。

毎日、毎日、研究室に篭って何やら怪しげな事を繰り返しています。
ときどき、笑みを押し殺したような不自然な表情でパソコンゲームをしたりしていました。

そして、そんな日々が繰り返される中。

ついに、槐さんの最高傑作ともいえる存在……
イヌミミとふかふか尻尾。ネコミミとネコ尻尾。シロクマセットが完成したのでした。

槐さんは、笑みを押し殺したみたいな独特な表情で、自分の作品を見つめます。
薔薇水晶のような可愛らしい女の子がコレを付けたらと思うと、何だかグッときます。

とっても感慨深い気持ちになってきましたが、同時に疲労も感じました。
この『けもみみシリーズ』製作の為、最近の槐さんはあんまり寝てなかったのです。

そこで槐さんは、助手をしていた白崎という男に見張りを頼んで一休みする事にしました。

ですが……これが間違いだったのです。

白崎はあろう事か、槐さんの作った『けもみみシリーズ』の大半を盗んで逃げたのです。
純粋な趣味の領域としてしか考えていなかった槐さん。
これを商売にしてお金儲けをしようと考えていた白崎。 

二人の意見の行き違いが招いた、哀しい結末でした。  

研究成果を盗まれてからというもの、槐さんはすっかり元気を無くしてしまいました。
大好きなお父さんの哀愁漂う背中に、薔薇水晶も胸を痛めました。

何とかして、元気付けてあげたい。
薔薇水晶はそう考えて……そして名案を思いつきました。

唯一残されていた『けもみみシリーズ』
しなやかさと美しい毛ツヤを誇り、脅威のバランス神経を手に入れる事のできるネコ尻尾。

簡単には取れないとは知っていましたが……それでもと、薔薇水晶はネコ尻尾を自らに付けたのです。

鏡の前で、薔薇水晶はお尻のあたりに付いたネコ尻尾を確認します。
それから、お気に入りの服に着替えて、お父さんを励ましてあげようと声をかけました。

すっかり元気が無くなってしまっている槐さんの服のスソを、薔薇水晶はちょんちょんと引っ張ります。
そして、恥ずかしくって耳まで真っ赤になってしまいましたが……
「……お父様……元気を出して……にゃ……」
練習したとおりに言う事が出来ました。

槐さんも、可愛い薔薇水晶の心遣いに気が付き、数日ぶりにですが笑顔を取り戻しました。

ここまでは良かったのです。
ここで終わっていれば、全ては元通りになるはずでした。
 

ある日の朝、薔薇水晶はいつもより早く目が覚めました。
そのままフラフラと、台所へ水でも飲みに行こうとします。

その時でした。

「素晴らしい……!」
お父さんの、槐さんの呟きが、聞こえてきたのです。

薔薇水晶は、何だろう、と思って声のした方向をこっそり探ってみます。
そして、見てしまったのです。

少年のように目をキラキラさせた槐さんが、とある救出劇が書かれている新聞を読んでいるのを。 



―※―※―※―※― 



「まさか、その新聞は……私が金糸雀を助けた時の!?」

あれは、イヌミミが付いてから暫くしての事。
すっかり忘れていましたが、そういえば写真付きの記事になっていました。

真紅の問いかけに、薔薇水晶はネコ尻尾をゆらゆら揺らしながら静かに頷きます。
「……お父様は……イヌ派だった……」

ネコも可愛いけど、やっぱりイヌが好き。槐さんはそんな人だそうです。 

ともあれ。
薔薇水晶は、そんなお父さんの為を思って、こんな危ない事に手を出している。という訳でした。


「……お父様の為にも……必ず取り戻す……
 そして……イヌミミには……私こそが相応しい……」

無表情な薔薇水晶でしたが、その目には嫉妬に似た感情が見え隠れしています。
そして、その瞳を見つめたまま、真紅も微動だにしません。

やがて、薔薇水晶は物陰に消え行くように姿を消しました。
小さな呟きだけを残して。

「……近いうちに……必ず……」 



残されたのは静寂。
それと、真紅と水銀燈の二人だけでした。 


「チッ……まんまと逃げられちゃったわねぇ」
水銀燈が悔しそうに舌打ちをして呟いた言葉が、静けさの中でやけに大きく聞こえます。

「根本的な解決はしてないけれど……とりあえず、この場は乗り切ったようね……」
諦めを含んだ安堵のため息が、真紅の口からも漏れました。





 
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