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どうしよう。
私は本格的に困っていた。

あんまりにも月が綺麗で……今にも手が届きそう、なんて考えて。
さらには何を思ったのか、手が届くかも、なんて夢見ちゃったりして。
ハシゴを用意して、公園の照明灯に登って。
てっぺんに腰掛けた瞬間、悪戯な風が吹いてハシゴが倒れちゃった。
こうなったら、格好はつかないけど、しがみ付きながらズルズルと下に降りて。と思った瞬間。

「貴方、天使さんね!?」
どこから湧いて来たのか、寝間着姿の少女が私を見上げていた。

そりゃあ、夜の公園の照明灯の上に座ってる美少女を見たら、天使だと勘違いするかもしれない。
でも、私はあいにくと天使じゃなくって、ハシゴが倒れて困っている美少女。

でも、この水銀燈。ブサイクな真紅なんかと違って「助けてー」なんて情け無い事は言えない。
だから……
「ふふふ……私は天使なんかじゃないわよぉ?」
ちょっと余裕の表情を見せながら、やんわりと電波少女の言葉に否定を入れておく。

なのに、電波少女はというと。
「ううん、間違いないわ!天使よ!だって、こんなに綺麗なんですもの!」
目をキラキラさせながら食い下がってくる。

ああ!もう!しつこいわねぇ!!
貴方に見られてると、『ブザマにしがみついてズルズル落下作戦』が決行できないでしょぉ!?

正直、ちょっとイライラしてきたけど……私は誇り高き水銀燈。
ミステリアスな余裕の笑みを浮べながら、寝間着姿の電波少女を見下ろすだけ。
 
こんな事をしてたんじゃあ、逆にこの子の興味を引くだけかもしれないけど……
ブザマな所を見られるより、ずっとマシ。

私は自分にそう言い聞かせながら、照明灯のてっぺんに腰掛けていた。 
笑みを浮べながら優雅に足を組んだりなんかして、余裕を演出する事も忘れてはいない。

「素敵!やっぱり天使よ!」
電波少女はなおも、本当に嬉しそうな笑顔で私を見上げてくる。
私も、ついつい良い気になってフフンと笑みを浮べてしまった。

「私は柿崎めぐよ。天使さんのお名前は?」
電波――もとい、めぐにそう聞かれて、私も咄嗟に名乗りそうになったけど……
よく考えたら、『水銀燈が水銀灯に登ってました』なんてバレたら、とんだ笑い種になってしまう。 

ちょっとだけ、どう答えるべきか迷ったりもしたけれど。
「どうして私が人間なんかに名乗らなくちゃいけないのよぉ……」
プライドが邪魔をして、そう答えてしまった。

「そう……そうよね……」
めぐは残念そうにうつむきながら、悲しげな呟きをもらしたりなんかしちゃってる。

ああ!もう!何でそんな顔するのよ!これじゃあまるで私が悪者じゃないの!
「……水銀燈よ」
小さく舌打ちしてから、仕方が無いので名乗ってあげる事にした。

めぐは、私が名乗ったのがよっぽど嬉しかったのか、顔をパッと上げると私に笑顔を向けてくる。

ああ、この目は完全に、私を天使と思い込んでる目ねぇ……
そう思うと、期待を裏切れない、みたいな使命感が湧いてくるから不思議。
まあ、私はイジワル真紅なんかと違って、とぉっても優しいんだから仕方の無い事。
  

それからも、めぐは目をキラキラ輝かせながら、憧れの天使さんに向けての質問攻撃。

「天使さんは空が飛べるの?」
「じゃなかったら、どうやってここまで登るのよぉ……」
本当はハシゴを使ったからだけど、ここは見栄が優先。

「天国ってどんな所?」
「さぁ?私が教えるとでも思ったのぉ?」
我ながらこの回答は、どんな時でも使える切り札に近い存在感があると思う。

「天使さんって皆、水銀燈みたいに綺麗な人なの?」
「真っ赤でブサイクなのが一人居るわねぇ……」
よく考えたら、あの子は天使というより修羅ね。返り血で真っ赤なタイプの。 


と、そんな事を続けている内に、めぐは何を思ったのかこんな事を言ってきた。
「私、天使さんの為に歌を歌うわ」
 
それから、こほんと咳払いをしてから、めぐは私を見上げながら歌を歌いだした。

「 ―――― からたちの 花が咲いたよ ――――」

私はてっきり、賛美歌でも歌われるんじゃないかと思ったけど……
めぐが歌ったのは、古い歌。
どこかで聞いた事のあるような……それでいて、決して思い出せないような。懐かしい歌。

歌が終わると、めぐは相変わらずキラキラとした目で私を見上げてくる。
「どうかな?気に入ってもらえた?」
私も、ここばっかりは素直に、思ったとおりに伝えた。
「悪くないわねぇ……」
うん。悪くない。今まで聞いた全部の歌の中でも、一番悪くない。

私の感想に、めぐも嬉しそうに目を細めていた。 



「ねえ水銀燈……私、明日も歌を歌うから……またここで会ってもらえるかな?」
別れ際、めぐは私に向かってそう言葉を投げ掛けてくる。

「どうしても、って言うなら……仕方ないわねぇ……」
これでやっと降りられる。
そう思って、すっかり舞い上がってた私は、ついついそう答えてしまった。

そして、めぐが帰った後……

相変わらず照明灯のてっぺんに腰掛けた私は、本格的に困ってしまった。

『また明日も』という事は……
つまり、私は明日も。場合によっては明後日も、明々後日も、ここに登らなくてはならない、という事。

何だか、頭が痛くなってきた。

深いため息と共に、照明灯のてっぺんに座ったまま、私は月に向かってうんと手を伸ばす。
当然のように、手は届かない。
だって、私は天使なんかじゃないのだから。
とびっきりの美少女ではあるけれど。

「ま、暫くは天使のフリをする、ってのも……悪くはないかもね……」

小さくそう呟いてから……どうやって降りようかと、周囲をキョロキョロしてみた。 






 
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