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蒼星石はとある事に頭がいっぱいで仕事に集中できない。
とある事とは同僚の水銀燈の事である。
彼女はちょっと捻くれた性格だが、根がとても真面目で、仕事を真剣に熟す女性だ。
その水銀燈が3日前から会社に来ない。携帯にも自宅にも繋がらない状態で、訪ねて行っても留守。
そんな中、彼女の友人でもある蒼星石は居ても立ってもいられないような心境だ。
今日も必ず自宅へ訪ねに行こう…。そう心に誓いながらただひたすら1日のノルマをこなしている。

仕事も早々と切り上げ、水銀燈の家に向かう蒼星石。途中、学生時代からの友人に出会った。

「あら、仕事はもう終わったの?随分早いわね。」
「あぁ、真紅の方こそ主婦業が割りと暇そうだね。」
「そうね、ジュンがなんでもやってくれるからかしら。」

真紅は大学を卒業してからすぐにジュンと結婚したが、なんでもカカア天下らしい。
「これからどこかへお出かけ?」
「うん、実は水銀燈が…」
蒼星石は真紅に水銀燈の事を話した。真紅なら隠す事もないと思ったからだ。

「そう…、私も心配だわ。あの子、なんでも1人で抱え込む所があるから…。」

突然、目の前の喫茶店から1人の女性が出て来た。
「真紅!人に茶ぁ奢らせておいて、ちゃっちゃと店を出るなですぅ!」
「あ、翠星石も一緒だったんだ…」
「あれ…蒼星石、今日も早いですね。毎日そんなに仕事量が少ないんですか?」
翠星石は蒼星石との2人暮らしで家事全般を務めていて、蒼星石の嫁状態である。
真紅とは同じ主婦?同士、ご近所な事もあって毎日のように会っているようだ。

蒼星石は今まで水銀燈の事を黙っていたが、これを期に話す事にした。
「どうして黙っていたですか…。」
「ゴメン、あまり君に負担かけたくなくてさ。たたでさえ…」
「やかましいです。今日は一緒についてくですぅ。」
やがて3人連立って水銀燈の家に行くことになった。

水銀燈の一軒家の前に来ると、また知った顔触れに出くわした。

「薔薇水晶にチビ苺。久し振りですぅ。」
「あ、翠星石に蒼星石に真紅!久し振りなのー。」
「みなさん、ご無沙汰…」
「一体、どうしたんだい?2人して水銀燈の家の前で…」

事情を聞くと、薔薇水晶は電話を掛けても繋らない水銀燈が心配で来たらしい。
家から此所まではだいぶ離れているので、仕事を休んで来たと言う。

雛苺の方はまた違う理由だった。なんと金糸雀も3日前から連絡が取れないとか。
水銀燈と金糸雀はとても仲が良く、休日には共に出かける仲だったので、何か知らないか聞きたいらしい。

「なんか嫌な予感がするのー。」
「欠け落ちだったら許さない…銀ちゃん…」
「それはありえないから安心しろですぅ」
「やっぱり家には居ないのかなぁ。」
チャイムを鳴らしてもやはり反応は無い。思い切ってドアノブを捻って見る。
ガチャ。普通に開いた。

「不用心だなぁ、本当に留守なんだろうか?」
「ちょっと入って居るかどうか確かめるといいですよ。」
「うふふ…銀ちゃんのマイホーム…」
「あ、薔薇水晶。行ってしまったのー…。」
「彼女のストッパーが必要ね。」

中に入って見ると、荒れている様子はまったくなく、強盗が押し入った形跡もない。
家中を探したが本人はおらず、少し散らかった小物ばかりが目についたが、ふと雛苺が気になる物を見つけた。
「これ、水銀燈の日記なのー。」
「もしかしたら彼女に何があったかわかるかもね。」
「銀ちゃんの秘密…いただき…」
「……お前は見るなですぅ。」

『5月20日 真紅は相変わらず紅茶中毒。時代はヤクルトなのにまったく反吐が出るわ。』
「先月の日付だね。普通な事しか書かれてないから、この時はまだ何もないみたいだね。」
「普通?普通ですって!?紅茶の素晴らしさがわからないなんて、異常にも程があるわ!」
「異常者はお前ですぅ。黙って見てろです。」

『5月21日 とある業者に試作の新製品ヤクルトの試飲を依頼される。
ヤクルト飲んでお金を貰えるなんて超ラッキーだわ!』
『5月22日 試作品のヤクルトがかなりの美味でびっくりしたわ。これなら一日20本イケる!発売が楽しみね。』
『5月25日 最近なんだか口の中が痒い。腫れものができた訳じゃないんだけど、なんなのかしら。』
『5月26日 口の中の痒みがあまりにも酷いので病院に行ったけれど何も異常は無いって言われた。まだ痒い。』
『5月27日 突然、痒みが収まった。ホッとしたけど、変わりに口の中を怪我しちゃったのよね。ツイてない。』
『5月30日 今日は金糸雀とお買い物。たった1週間ぶりだけどなんかいつもと違って見えた。金糸雀って結構魅力的よね…。』

『5月31日 今日も金糸雀とお出かけ。それにしても何なんだろう、この気持ち。金糸雀を見ていると胸が熱くなるの…。』

「やっぱり金糸雀と会ってるね。」
「何だか薔薇水晶みたいにヤバげな文章ですぅ。」
「銀ちゃん…浮気…許せない…!」

『6月3日 口の中がまた痒くなった。今度は以前にも増して酷い。そろそろ会社を休もうかしら。』
『6月4日 無性にお肉が食べたくなったので血の滴るようなレアステーキを食べた。何故か痒みも収まった。』
『6月5日 今日も昨日と同じステーキを食べる。だけど満足できない。もっと極上の肉が食べたい…。』
『6月6日 また口の中が痒い。死にそう。ステーキ食べても収まらない。何を食べても…。誰か助けて…』
『6月7日 痒い痒い痒い痒い痒い痒いかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆい
『6月8かゆかゆいかゆいかゆゆいいかゆかゆ金糸かなりあかな早く来かゆいかゆいかゆいかゆい早く金

一同は戦慄していた。
「……確かに水銀燈は先週辺りから何か挙動不審だったけど、まさかこんな…」
「き、昨日の日記が書かれてないですぅ。……ただなんでしょうかこの文字…。」

『かゆ うま』

「かゆ……うま?なんの事かしら。」
「えーと…今日のお粥がうまかった……とか…」
「それはないのー。」
「わかったですぅ!アルファベットに直すと『KAYU UMA』!水銀燈は口が痒い中、ユーマを見たんですぅ!」
「それもないのー。」

(似ている…。)
蒼星石には1つ思い当たる事があった。
バイオハザードというゲームの中で、ある飼育員がウィルス侵されながら書きつづった日記である。
それには、ウィルスの副作用で体が痒くなり異常な食欲に支配されてゆく自分の様子が書かれている。
そして終いには、その飼育員は理性を失い、人を食してしまうと言う恐ろしいものだ。
はっきり言って、この現実に置いて、そんな悍ましい事が起こるなど有り得ない事だ。だが……。
水銀燈は恐らく、どこか知らぬ業者に飲ませられたヤクルトが原因で異常な痒みに襲われたんだろう。
口の中がキレた時やレアの肉を食べた時に痒みが収まったと言う事は、血にその痒みを止める効果があるのだろうか…?。
更に水銀燈は肉を欲していた。満足を求める程に。
そして『かゆ うま』の文字。飼育員が最後に書いた一言とまったく同じなのである。

「蒼星石、どうしたですかぁ?」
「っ…!」

翠星石に急に呼ばれてハッとなった。
いくらなんでも考え過ぎだろうか…。まさか現実にそんな事があるわけ無いはず。蒼星石は呼吸を整える。
その時、玄関のドアが開く音がした。全員玄関へ向かう。

ガチャ……。玄関にいるのは………水銀燈だ。
「あ、あんた達!なんで私ん家の中に?」

「水銀燈なのー!無事だったなの?お口、痒くないー?」
抱擁を求めに駆け出す雛苺。

「だめだ!!」
叫ぶ蒼星石。驚きと惑う雛苺達。水銀燈は目を丸くしている。

「水銀燈、金糸雀はどこだい?」
「…!知らないわぁ。知るわけないじゃない。全然、会ってないもの。」
少し、戸惑いを見せる水銀燈。
「嘘だね。」
「な、何でよ…!」
翠星石が日記を見せようとするが蒼星石は気付かれないようにそれを制する。
「話を変えよう。何故、仕事をなんの連絡も無しに休んだんだい?」
「そ、それは……事情があって…」
最後の方だけ声が萎む。
「みんな、君の事を心配してたんだよ?何か言う事があるんじゃないかな。」
「悪かったわよ……ちょっとあなた達に言いづらい事があって……連絡しなかったの。」

「そう…じゃあまた話を戻すよ。金糸雀はどこだい?」
「だから知らないって言ってるでしょ!」
「金糸雀が3日前から連絡が取れないんだ。そう、君が無断欠勤した日からね?」
「……何が言いたいの?」
「君が僕らと連絡を取りたくなかったのと何か関係があるんじゃないかい?」
「…………」

そこで翠星石が割って入る。
「ちょっと待つです蒼星石!水銀燈は本当に知らないかもしれないですぅ!」
「いいや、知ってるよ。」
「蒼星石、どうしてそんな事が言えるの?答えなさい。」
「水銀燈、金糸雀はもう、この世にはいないんだね。」
「……!はぁ?あなた何を言って…」
蒼星石は日記を水銀燈に手渡す。

水銀燈は渡された日記をめくりながら静かに言った。
「…………何よこれ?一体誰がこんなもの書いたのよ?」
「へっ?」
「誰がこんな悪趣味な事書いたのよ?それになんでこんなので金糸雀が死んだ事になるわけ?」
「え……っと……。」

「もういい…全部言うわ…。私達、ただ単に会社を起こすつもりだったのよ。」

水銀燈はなんだか呆れたような表情だった。蒼星石は推理が見事に外れた為、縮こまっている。

水銀燈が言うに、会社の話は金糸雀が持ち掛けたらしい。
しばらく内密に事を進めて目処が立った後、蒼星石や雛苺も誘うつもりだったようだ。

「何も無断欠勤なんかしなくたって…」
「前、他の同僚が私の陰口を叩いてるの聞いたのよ。私の代わりなんているんだからみたいな事。だから…ちょっとね。」
水銀燈は仕事がよくでき、上司にも好かれて信頼され、更に容姿も淡麗。
それにちょっと捻くれた性格のせいで周りから妬まれていたのは蒼星石も知っている。

「僕に何の相談もなかったのはショックだよ…。」
「ごめんなさぁい。あなた、かなり現実主義な所あるからちょっと言いづらかったの。」

「それにしてもこの悪趣味な日記は誰が書いたですか?金糸雀はどこに行ったですぅ?」「金糸雀はこの3日間うちに泊まってたの。今日、留守番を頼んでたんだけど、どこに行ったのかしらぁ」

「ふっふっふっ…カナの作戦は成功なのかしらー!」
何処からともなく声が聞こえる。全員が辺りを見回していると…、

バカッ

床の一部が開きその中から金糸雀が出て来た。
「地下は結構肌寒かったかしらー。お久し振りね、蒼星石!」

「金糸雀、そんな所でなにやってたなの?」
「ドッキリ大作戦かしらー!楽してズルしてドッキリ映像激写かしらー!」
デジカメを片手にクルクル回る金糸雀。
「このでこピン!さっさと何してたか白状するです!」

金糸雀から聞いた話でわかった事は、
この日記は金糸雀の直筆だと言う事。
いつかみんながこの家を尋ねに来るであろう事を予測して準備したものだという事。
留守番中、2階の窓で見張ってたら蒼星石達が来るのが見えたので、日記を目に止まる場所に置いた後、床下に隠れたと言う事。

「でも、バイオハザードネタが蒼星石しか知らないと言うのは残念だったかしらー。」
蒼星石達は呆れてものが言えなかったが、薔薇水晶は金糸雀に歩み寄り、静かに呟いた。
「一応、念の為…銀ちゃんに手を出すのは……許さないからね…」
「あ、安心するかしらー!カナにそんな趣味はないかしらー!」

「まったく、とんだゲーム脳ですぅ」
翠星石が締めた。

終わり

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