「翠星石、またヒナのうにゅーを取ったなの?今度こそ許せないの!」
いつもの幼稚臭い怒りが甲高い声を通して廊下に響き渡るちび苺。
ちび苺は只でさえ声がでかいから叫ばれると頭が割れそうになるのですぅ。
ま、今回もちび苺の苺大福を盗み食いしたのは事実ですがね?もっと上手に隠せないもんですかねぇ♪
「いつもいつも酷いの!謝罪と弁償を要求するなの!」
ったく…お菓子を盗られたくらいで泣きわめく高校生は全世界捜してもコイツだけですぅ。
お子ちゃまにはスパルタが必要ですね。どれ、そろそろ反論してやるですぅ。
「このちび苺!そんな下らない事でいちいち喚くんじゃねぇ!ちびちびも少しは成長しやがれ!」
???
怒鳴った後に何故か違和感が…。なんか喋った時の感覚がいつもと違うような…。
雛苺は泣きじゃくった表情で怯えているようです。
……ちょっと言い過ぎたかもしれんですぅ。
……何故か無性ににそんな気がするですぅ。
「あ、えっとその…そんなに泣くんじゃねぇ。これじゃ翠星石がまるで悪者じゃ……あれ?」
言えない…。いつもの語尾が言えない……。何故か「ですぅ」と言えんですぅ……。
「……、あれぇ?………、ええっ?………!………!!………!!!!」
いくら声を出そうとしても口が動くだけで、声が出ない…。というより「です」と「ですぅ」が言えない…。
「ええぃ!なんなん………だ、これは!どうなってやがんだ!キィーー!!」
うぅ、喋りそのものが不自然にならないようにしていると、なんか乱暴な男口調になってしまうです…。
目の前の雛苺は更にビクついていますが、恐らく、さっきとはまた別の理由で怯えているのでしょうね…。
それにしても言い慣れた口調で喋れないのはものすごいストレスですぅ!!
翠星石の怒りのボルテージはどんどん上がってくですぅ!!ハァハァ…。
だんだん周りに人が集まってきましたが、今はんなの知ったこっちゃねぇ!
……事もねぇですぅ……。
うっ、みんな、恐ろしい物を見るような目で私を見てますけど、
果たしてそれは私の表情が怖いからなのか、行動が怖いからなのか……。
恐らくどっちもですかね…。
あ、真紅!でも今はなんか会話したくねぇです。
頼むから空気読んであっち行けですぅ…。
「真紅……」
「翠星石、何を1人で喚いているの?はっきり言って、変人にしか見えないのだわ」
「やかましい!翠星石だって好きでこんなんやってんじゃねぇ!あっ…」
ダメだ。やっぱ意識してないとこんな口調に……。これじゃ一昔前流行ったスケバン刑事ですぅ…。
「翠星石。貴女、いつからそんなに口汚なくなったの?元の口調も美しくはなかったけれど、今は最低なのだわ」
「…………」
くうぅぅ……何も言い返せんですぅ。たとえ訳を話した所で、更に変に思われるだけでしょうし…。
こ、このまま学校に居続けるのは精神や脳髄に過度な負担が掛かるです…。
ここはひとまず――
「し、真紅。き…今日はちょっと気分がすぐれん…のだわ…ので早退するわぁ…」
「…………翠星石?」
「けけ、決して仮病じゃないなのよぉかしら!!お、お腹が急に痛くぅなったんなのぼく!!!!」
「……ほ、本当に疲れているみたいね。先生には伝えておくから…今日は家でゆっくり休みなさい…」
「真紅…。ありがと…かしわぁ。」
「…………」
い、一応、わかって頂けたようですぅ…。とにかく、さっさと家に帰ってこの状況をなんとかしなければ…。
「す、翠星石、お大事になの…」
あーっもうっ!ちび苺にまで心配されるなんて焼きが回ったようですぅ…!
今日は誰の顔も見たくないです!
――自宅にて
はぁあぁ、だめです…。さっきから何度喋ろうとしても、何かに遮られたように声がでないですぅ。
語尾を「ます」「ますぅ」や「どす」「どすぅ」に変える事も一時期考えましたが、
前者だと全ての会話に用いるのは無理があるし、後者だとなんか京都の人みたいだし…、もちろん「げす」や「がす」みたいなオジン臭い語尾なんて以ての外ですぅ!
なんか…何気なく使っていた「です」「ですぅ」のありがたみがわかったような気がするですぅ…。
このまま諦めるわけにもいかんですし…なんとかならないもんでしょうか…。
「デストロイヤー、デスノート、デスメタル、デスヴォイス、アンデス、ゴッデス、ごっつぁん……」
うーん…。自分なりにいろいろ試してみて分かった事は、
「です」という言葉そのものが言えないのではなく、語尾としての「です」に限って言えない事くらいですね…。
「デスクリムゾン、デスガイア、デスゲイズ、ハーデス、ユーゼス、マヒャドデス、レベル5デス…………あっ」
そうです、閃いたですぅ!英単語の「Death」なら言えるはずですぅ!
「Death Death Death Death Death Death Death……」
ビンゴ!やっぱり言えたです!でもまだ喜ぶのは早いですぅ。肝心なのは次ですからね。
「Death Death Death Death Death Death Death Death Death Death Death Death Death
Death…Deathぅ…あ!」
言えたDeath!「Deathぅ」って言えたDeathぅ!
言葉の概念をきちんと頭でコントロールすればちゃんと言えるんDeathねっ!
「Deathぅ♪Deathぅ♪ Death♪Death♪Deathぅ♪♪ちゃんと言えるDeathぅぅう♪」
なんか嬉しくてつい口ずさんでしまうDeathぅ♪さて、軽く練習しないといけないDeathね。
「私は誇り高き薔薇乙女、翠星石Deathぅ。
翠星石の双子の妹の名は蒼星石Deathぅ。蒼星石はボーイッシュな格好が魅力で、男女問わず人気者Deathぅ。
蒼星石は文武両道。おまけに家事もこなしちゃうとても優秀な完璧超人Deathぅ。
更に更に、蒼星石は容姿淡麗でクールな表情とは裏腹に可愛い性格してるDeathぅ
」
うん、違和感なく自己紹介できたDeathぅ。日常会話への対応もこれで完璧Death♪
「す、翠星石…?」
「ひゃう!そ、蒼星石、いたんDeathか。学校はどうしたDeathぅ?」
「き、君がお昼休みに早退したって…真紅に…き、聞いた…もんだから……ぼ…僕も早退して来たん…だけど…」
「???そうなんDeathか?でも翠星石はもう大丈夫Deathぅ!」
「そ、そそ、そう…よ、よかたね…。そ、そう言えば…今、何してたの…かな?」
「え?あぁ、そんな大した事じゃぁないDeathぅ」
「べ、べべべ別に…だ、誰かを呪ってたわけ……じゃないよね?」
「はぁ?何わけのわからん事を言ってるDeathか??」
「なな…な、なんか…き……君からもの凄い殺気を感じるんだけど…き、きき、気のせいだよね?」
「気のせいDeathよ!それに双子の姉に向かってなんて事言いやがるDeathか!」
「そ、そう…それなら…良いんだけど…。それじゃ…」
まったく、帰って来て早々、何を言い出すかと思えば…。
それにしても蒼星石は顔色が青かったDeathが大丈夫Deathかね…。言葉も震えて呂律が回ってなかったDeathし、もしかして体調が悪いんじゃ…。
今日の夕飯は翠星石が作る事にして、蒼星石には部屋でゆっくり休んでてもらうDeath。
翌日
――ふぁああ、よく寝たDeathぅ。昨日は訳も分からずとんだ災難に遭ったDeath。
まぁ、あの言葉はちゃんと言えるようになったDeathから、もう気にする事なんて……。
…………あれ???
「あの言葉」って一体どんな言葉Deathぃたっけ?
昨日は確か、言えなくなってしまった「あの言葉」を発音が同じ別の言葉で代用したんDeathよね……。
うーん、いくら思い返してもそれがなんだったのかまるっきり思い出せんDeathぅ……。
…………ま、いっか。
もう解決したハズDeathし、今更、その出来事自体を気にするなんてナンセンスDeathぅ♪
それにしても、今、心配なのは蒼星石Deathぅ…。
昨日は夕飯も食べに来なかったDeathし、「1人にして欲しい」と部屋にも入れてもらえなかったDeath…。
何か悩みごとがあるんDeathょうか…?
翠星石の知らない所で苛めに遭ってたりしなければいいのDeathが…。
取り敢えず、蒼星石を起こしに行くDeath…………
続かない