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「万が一の事態にも対処できるよう、これからも連絡はしっかりしときましょう」
「そですね。降りかかる火の粉で引火、爆発炎上だけはカンベンですぅ」

翠星石の家の玄関でそんな会話をして、今日は解散。
真紅は自宅に帰るために、一人でてくてくと道を歩きます。

と……歩いている内に、ふと気が付きました。

翠星石と蒼星石は、姉妹なんだから当然、同じ家に住んでいます。
ですが真紅は、家に帰る時には一人にならざるをえません。
例えば、今のように。
――― 敵が狙うとしたら『今』こそ『その時』なのでは!?

そう思うと、急に不安になってきます。
頭の上ではイヌミミがふるふると震えちゃいます。

やっぱり女の子な真紅は、一人で帰るのが怖いのでジュンにでも迎えに来てもらおうと電話をかけてみました。

「僕は、引き篭もりだ」
用件を聞くや否や、何一つためらう事無くそう言ってのけたジュン。
真紅はすぐに、電話を切りました。

「全く、肝心な時に頼りにならない下僕ね!」
イヌミミをピンと伸ばしてぷんすか怒りながら、真紅は自宅への道を歩きます。
背後から忍び寄る、二つの人影には気が付かないまま。 




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇
  



「この私のエスコートを断るだなんて、全く失礼な話ね!」

真紅は怒りながら、てくてくと歩きます。
すっかり腹を立てているので、さっきまでの不安感や恐怖は、完全に忘れちゃってました。

「そもそも、原因の半分はジュンが変な通販に手を出した事でしょう!」

自分のうかつさが残り半分である事も忘れていません。
忘れてはいませんが、あのヒッキーには許しがたいものを感じます。

怒りの力で、真紅の頭の上のイヌミミは天を突かんばかりの勢いです。
それを見た周囲の民家のペット達は、『女王陛下がお怒りに!大変だ!』と震え上がりました。

そんな風に周囲の小動物達に思われているとも知らず、真紅はてくてく歩きます。

そして、自宅まであと数分もかからない場所まで来た時。

「……待ってた……」
「ふふふ……お久しぶり、ですわね」
突然目の前に、薔薇水晶と雪華綺晶……真紅をつけ狙う二人組みが現れたのでした。

「……うかつだったわ」
真紅は小さな声で呟きます。
すっかり腹を立てていたせいで、周囲の音をイヌミミで調べて安全なルートを探す事を忘れていたのです。

でも、今更そんな事を後悔しても仕方ありません。
これからどうやって、このピンチを乗り切るか。それが今一番考えるべき事です。

逃げようにも、逃げる先……自分の家への進路には、薔薇水晶と雪華綺晶が立っています。
翠星石の家までは遠いので、助けに来てもらうのも難しい状況です。

「ほんの少しだけど、困ったわね」

本当はとっても困っていましたが、真紅は精一杯に強がってそう呟きました。

とりあえず、何か素敵な打開案が浮かぶまでの時間稼ぎを。
真紅は薔薇水晶と雪華綺晶を睨みつけ、話しかけました。

「貴方達、以前も私を狙ってきたわね。一体、何が目的なの!?」

「さあ?依頼の内容をそう簡単に喋るとでも思われたのですか?」

雪華綺晶は相変わらず不敵な態度を崩さぬまま、笑みすら浮べてそう答えます。

これではラチが開かない。
そう考えた真紅は、今度は薔薇水晶へと視線を向けました。

「……それは……本来なら……お父様の物……」
薔薇水晶は小さな声で言いながら、真紅の頭でぱたぱたと風に揺れているイヌミミを指差します。

その言葉と行動で真紅は、目の前に立つ薔薇水晶が、何故だかイヌミミに詳しそうだと判断しました。

「取ってもらえるのなら、むしろ私の方から頼みたいくらいだけど……
 無理やり千切られるのだけは遠慮したいわね。他に何か取る方法は無いの?」

真っ直ぐにこちらを見つめる薔薇水晶に、真紅はそう尋ねてみます。
薔薇水晶は何だか気まずそうに、ふいっと視線を逸らします。
残念。
どうやら、引き千切るしか無いようです。
 
引き千切られる。
蒼星石が言っていた「痛かった。死ぬかと思った」との言葉が、脳裏をチラチラします。
真紅は、心の底から泣いちゃいたくなりました。


「そろそろ『くんくん探偵』が始まる時間なの。そこを通してくれない?」
とりあえず、真紅なりに精一杯考えて、二人を説得してみます。

「なら、手早く千切るよう善処しますわ」
返ってきた答えは、あまり楽しそうな提案ではありません。

よし。逃げよう。
真紅はそう心に決めると、ジリジリと後ろに下がり始めました。

すると、薔薇水晶はニヤリとした笑みをおもむろに浮かべ……
ポケットから笛を取り出し、大きく息を吸い込みます。

そして『ピー!』と大きな笛の音が鳴り響きました。

「きゃっ!?」
真紅は小さな悲鳴を上げて、頭の上のイヌミミを押さえます。

きっと薔薇水晶が取り出したのは犬笛だったのでしょう。
イヌミミにしか聞こえない大きな音を鳴らす笛。
その音に真紅は驚いて、とっさにイヌミミをかばってしまったのです。

しまった!
真紅がそう思う暇もなく、薔薇水晶の手が真紅の左イヌミミを。雪華綺晶が右イヌミミを掴みました。 

全然楽しくない綱引きが始まります。 


「……お父様……取り戻す……」
薔薇水晶が何やらブツブツ呟きながら、イヌミミを引っ張ります。
「ふふふ……何だか運動会を思い出しますわ」
雪華綺晶も微笑みながら、イヌミミを引っ張ります。


「痛い!痛いわ!お願い!止めて!」

真紅はあんまりの痛さに、ちょっとだけ泣いちゃいながら叫びます。
それでも綱引きは止まりません。
本当に痛いです。
うっかり読んでしまったジュンの黒歴史ノートの中身より痛いと、真紅は意識の片隅で考えていました。

泣いても叫んでも、そんな事お構い無しに薔薇水晶と雪華綺晶はイヌミミを引っ張ります。
その時でした。


「待て待てーい!!」


突然、真紅でも薔薇水晶でも雪華綺晶でも、翠星石でも蒼星石でも水銀燈でもない声が響き渡ります。


「やんちゃな盛りの過ちとは言え、見て見ぬフリは目の毒かしら!
 とっておきたかったとっておき!期待に応えて今!ここに参上かしらー!!」
「参上なのー!!」

みっさんお手製のイヌミミカチューシャを付けた金糸雀。
それと、シロクマ手袋&シロクマ耳の雛苺がポーズを取っていました。 


「待って!お願い!待ちなさいったら!!」
そんなちびっ子二人の登場なんて気にする事も無く、相変わらず真紅のイヌミミはぐいぐい引っ張られてます。
本当に、このままでは取れちゃいそうです。


「……『温厚』とは『知的』に並んで、カナにはお似合いの言葉かしら。
 感謝すると良いかしら!カナが『キレる10代』でなかった事を!」
完全に無視された金糸雀はぴっと指を突き出し、声も高らかに倒置法なんか使ったりしちゃって叫びます。


「止めなさいと言ってるでしょ!いい加減にしなさい!!」
真紅は必死に抵抗しますが、二対一では流石に勝てません。
相変わらず、三人ともちびっ子どもは無視でした。


「……ふふ……ふっふっふ……
 この策士・金糸雀とした事が、無視されない話題作りという基本を忘れていただなんて……
 知的な現代人としては、軽快な話術で場を切り抜け、あるいは盛り上げるのは当然の事かしら」

またしても空気扱いされた金糸雀は、ちょっとだけ口元をピクピクさせながら呟きます。
それから……

「雛苺!突撃かしらァァ!!」
勢いよく言い切ると、金糸雀は真紅のイヌミミを引っ張っていた薔薇水晶に体当たりをかましました。

ぽこ、と音がして、金糸雀は地面に転がります。
薔薇水晶は突然の乱入者に、きょとんとした表情をしていました。当然、全く効いていません。
 
ですが……

ボグシャァァ、みたいな音が、不意に鳴り響きます。
その場に居た誰もが音のした方向を見てみると、雪華綺晶がシロクマ手袋の雛苺に吹き飛ばされていました。

「!!……あの手袋……!!」
薔薇水晶は見覚えのある手袋に、ついつい驚きの声を上げてしまいます。

その一瞬の隙をついて、真紅は自力で脱出しました。
相手が一人なら、簡単に振りほどけます。

金糸雀は、まだ地面で転がっています。
雛苺が、優しく且つワイルドに助け起こしていました。

完全に形勢が逆転した薔薇水晶は、あまり表情こそ変えませんが、悔しそうに後ずさります。
それから、キッと雛苺が身に付けているシロクマ手袋と耳を睨みつけました。

雛苺が付けているシロクマ手袋&耳も、真紅のイヌミミと同じように、薔薇水晶の父親の作品でした。
助手であった白崎に持ち逃げされた、父親の大切な研究成果の一つです。
そして、イヌミミを付けると耳が良くなるのと同じように、あのシロクマ手袋は……

「小さな体とは思えない、凄い力でしたわ……」
雛苺に吹き飛ばされた雪華綺晶が、いつの間にか薔薇水晶に近づき、耳元で囁きます。

そう。雛苺のシロクマ手袋は、可愛い見た目ながらシロクマ並の力が湧いてくる代物だったのです。

「……退却……」
これは不利だと見たのでしょう。
薔薇水晶はそう言うと、雪華綺晶と並んで一目散に逃げ出しました。
 

そして…… 


薔薇水晶と雪華綺晶との激戦のおかげで、もう立っているのがやっとの真紅。
頭の上ではイヌミミが、ぺたんと倒れちゃってます。

それでも、自分のピンチを助けてくれた雛苺にお礼を言いました。
「ありがとう……貴方が来てくれたおかげで助かったわ……」

雛苺は無邪気な笑顔で、それに答えます。
「うぃ!でも、ヒナも前に助けてもらったのよ」
それから、第一話の時の、河原で溺れかけていたエピソードを真紅に伝えました。

真紅は、「ああ、そんな事もあったわね」と思いましたが……
いかんせん、どんなに頑張っても、雛苺と一緒に居るもう一人の小さな女の子。
イヌミミカチューシャの女の子の事は思い出せませんでした。


その頃。
まさか、あんなに憧れてたイヌミミのお姉さんに忘れ去られているとは夢にも思わず。

「ほーっほっほ!正義の味方の初陣にして大勝利かしら!
 今日という日が明日の伝説になること間違いなしかしら!!ほーっほっほ!!」

あんまり役に立たなかった金糸雀は、夕日を背に大爆笑していました。 





 
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