※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


ちょっとした手違いで頭の上にイヌミミが付いて取れなくなってしまった真紅。

本人はあんまり嬉しく思っていませんが、ところがどっこい、周囲からは大好評です。
なんだか以前より、こう、視線がねっとりしてるのが、何とも不快でしたが。

彼女はそんなネコミミ生活を続けるうち、仲間に出会いました。

ふわふわの尻尾を生やした翠星石と、ネコミミをピコピコ動かす蒼星石です。


そんな、ちょっと普通とは違う真紅達は、NASAやCIAといった強敵と……
見えない敵と闘いつつも、日々の生活を送っていました。
時に、燃え盛る建物の中を駆け抜け。
時に、自宅への襲撃を跳ね除けて。

激戦の末に手に真紅達はつかの間の平穏を手に入れます。
ですがそれも、脆くも崩れ去ってしまいました。

真紅の前に現れた水銀燈と、薔薇水晶に雪華綺晶と名乗る妖しげな二人組み。
彼女達の目的は、真紅の頭の上でピコピコと動いているイヌミミでした。

そして、三者三様の思惑が交差する激戦の末……

勝利の証を手に入れたのは、水銀燈でした。
蒼星石の頭の上で楽しそうに揺れていたネコミミは、彼女に千切り取られてしまったのです。




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇ 




水銀燈は、自宅で悩んでいました。
頭の上でピンとなっているネコミミは、彼女が少し緊張している証拠でもあります。

可愛らしいネコミミでも見れば、入院中のめぐも元気を出してくれるかもしれない。
彼女のその作戦は、確かに成功しました。
問題は……
その時にめぐにノドを撫でられて、とっても嬉しくなってしまった事です。


「これじゃあ完全に、飼い猫ねぇ……」
気持ち良くってついつい、ベッドの上でゴロゴロとしてしまった事を思い出すとブルーになっちゃいます。

これでは水銀燈の目指す、『めぐが元気になる』『主導権は自分が持つ』の目標は半分しか達成できません。
ノドをころころと撫でられるたびに、主導権はめぐに持っていかれてしまうからです。

プライドが人一倍高い彼女にとっては、それを簡単に受け入れるのは難しい事でした。

「とりあえず……また失敗しないためにも、この耳の事をちゃんと知っとかないといけないわね」

敵を知り己を知れば百戦危うからず。
昔の偉いヒトの言葉を胸に、水銀燈はネコミミの研究を始める事にしました。

とりあえず正座をして姿勢を正してから、おもむろに自分の膝の上に毛糸玉を置きます。

ころころもふもふとした毛糸玉の魅力との、真っ向一騎打ちの構えでした。


―※―※―※―※―

 
金糸雀は、窓辺に座りながら空を眺めていました。

過去に二度も、自分達のピンチに駆けつけてくれた正体不明の女の人。
頭の上にイヌミミを生やしているという以外には何も分からない少女。

「カナも、あんな風に素敵なイヌミミを付けて……大活躍してみたいかしら……」

ふぅ、とため息をつきながら、空に記憶に焼きついているイヌミミ少女の姿を思い浮かべていました。

思えば思うほど、憧れは強くなります。
ですが、なりたいと願えば願うほど、それが途方も無く難しい事だと思い知りました。
だって、どんなに頑張っても人間にはイヌミミなんて生えてきませんもの。

何度目かも分からないため息をふぅ、とついてから、金糸雀は部屋の中へと視線を戻しました。

そこら中に、みっちゃんが作ってくれたイヌミミやネコミミのカチューシャが置いてあります。
確かに、その出来栄えは見事なものでした。
金糸雀も数日間は、それを付けて大いにテンションを上げていましたが……

いかんせん、これらは全て作り物。
あの時の少女のイヌミミみたいに、ピコピコ動いたりはしてくれませんでした。


金糸雀は悲しい現実を忘れようと、せめてもの気晴らしにカチューシャを頭に乗せてみます。

その瞬間、待ってましたとばかりに部屋の中にカメラのフラッシュが広がりました。
みっちゃんさんです。
可愛らしい金糸雀の姿を写真に収めようと、はぁはぁ言っているみっさんのカメラが火を噴いたのです。
 
「ああん!もう!よく似合ってるわよカナァァ!!」

みっさんは軟体生物みたいに身をくねらせながら、何枚も金糸雀の写真を撮ります。

「可愛いィィ!!カナほんとに可愛いんだから!!もう、食べちゃいたいくらいよ!!」

みっさんは大興奮でシャッターを押しまくります。
金糸雀は、捕食の意味でも性的な意味でも、それだけは勘弁してほしいかしら、と心から思いました。

ともあれ、そんなエキサイティング撮影会が行われていた時でした。

『ぴーんぽーん』

玄関でチャイムが鳴る音が聞こえます。
誰かお客さんでも来たのでしょうか。

「はいはーい」
みっさんはそう言うとカメラを置き、玄関へと向かいます。
金糸雀も、誰が来たのかしら、と後ろから付いていきます。

そして玄関を開けると、そこには……

「カナリア、見て見て!トモエが買って来てくれたのー!」
シロクマ手袋とシロクマ耳を付けた雛苺が、可愛らしい笑顔で立っていました。

「きゃー!」と叫び、みっさんがおもむろに雛苺に飛び掛ります。
「可愛いィィ!食べちゃいたい!むしろイタダキマス!」とも叫びながら。

親友である雛苺の生命や貞操や色々なモノのピンチだと判断した金糸雀。
とっさに手近な所に置いてあったバイオリンでみっさんを殴打します。鈍い音が響きました。 


―※―※―※―※― 


真紅は落ち着いた表情で、紅茶のカップを傾けていました。

「それで、そんなに痛いの?」
少し緊張した表情で蒼星石へと視線を向けます。

ネコミミを千切り取られて、やっと普通の女の子に戻れた蒼星石はというと……
苦い薬を口いっぱいに頬張っても出来ないくらいに辛そうな表情をしながら答えました。

「……うん。うまくは言えないけど、とにかく凄く痛いんだ。もう死んじゃうかと思ったよ」

そう言いながら、蒼星石はネコミミが取られた事を示す小さな傷跡をさすります。
「実際、三途の川の向こう側でおじいさんが手を振ってた気がしたもの。いや、むしろ手を振ってたね」
「……おじじはまだ生きてるですぅ」
翠星石が小さな声で、そう呟きました。

ともあれ。
真紅は頭の上でふるふる震えているイヌミミを撫でながら。
翠星石は、ふかふかの尻尾をギュッと抱きしめながら。
「無理に取ると、そんなに痛いんだ」と顔を青くします。

そんな二人の表情を見て、蒼星石はほんの少し身を乗り出して、真面目な表情で言いました。
「水銀燈は僕のネコミミを奪っていったけれど……彼女のそもそもの狙いは真紅、君だ」

翠星石も、不安げにうつむきながら、言います。
「それに薔薇水晶と雪華綺晶とかいう連中も、翠星石の尻尾と真紅のイヌミミを狙ってるですよ……」

「……もう、平穏な日常には戻れないのね」
真紅の小さな一言が何の余韻も残さず、空間に吸い込まれるように消えていきました。


―※―※―※―※―


その頃。


「………はッ!?」

水銀燈は全身に毛糸がからまった状態で我に返りました。
短く咳払いをしてから、少しだけバツの悪そうな顔をしていたとか、していなかったとか。





 
|