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「蒼星石はいっつも、翠星石の心配ばかりしていたですぅ」

翠星石はそう言いながら、雪華綺晶の手を引きながら薔薇屋敷の庭園を散歩していた。

「翠星石の方が木登りは得意ですのに、いっつも心配して止めてきたもんですぅ!」
そう言うや否や、楽しそうな笑顔を浮べながら、手ごろな木に手をかける。
「そうですぅ!一緒に木登りすれば記憶が戻るかもしれないですよ!」

それを見て、雪華綺晶。
突然頭を押さえながら、苦しそうに地面に膝を付いた。

「う…うぅ……お姉様のお陰で、徐々に記憶が……ぅぅ……でも……頭が割れるように……」
実際は記憶も何も、全くの別人なのだが。

本物の結菱氏の相続人・翠星石にバレないように、何とも妙な芝居をせざるを得なくなってしまった。


「大丈夫ですか!?蒼星石!無理しちゃ駄目ですぅ!……さ、屋敷に戻るですよ」

そんな事情があるとは知らず。
翠星石は雪華綺晶の事を『事故で記憶を失い、顔もちょっと変わった蒼星石』だと思い込んでいた。




           ミ☆ トリック・スターず  ☆彡

                 後 編 




「……困った……」
「ばらしーちゃん、どうしましょう!?」

雪華綺晶と薔薇水晶が薔薇屋敷に来てから3日。
翠星石との感動(?)の再会を果たしてから2日が過ぎていた。

その2日間、翠星石は一時も『蒼星石』のもとを離れず……
お陰で、何か金目のものを盗んで逃げる暇も無かった。

そして、こうして薔薇水晶と、『蒼星石』のふりを続ける雪華綺晶が話し合えるのも、
翠星石が入浴している時間だけ、という何ともシビアな展開になっていた。


「……貰う物の候補は絞れた……」
「あとは、どうやって逃げるか、ですわね……」

薔薇水晶にしたら、雪華綺晶の事は忘れて一人で逃げるのも可能な事では会ったが……
それでも、相棒として一緒に働いてきた彼女を残して行くのは、気が引けた。
『残った貴方が私の事密告しないとも限らないし、仕方なしで一緒に居てあげるんだからね!』
みたいなツンデレっぽい事も考えたりしたが、如何せん、それを口に出さないにだから伝わりようが無い。


ともかく、二人が逃げる手はずを相談しようとした時……

「そーせーせきー!!お風呂あがったですよー!」
翠星石の元気な声が聞こえてきて、二人の密談は中止せざるをえなくなってしまった。 




「蒼星石が風邪引いたときには、翠星石が沢山食べさせてあげたですぅ!」 

4日目の朝。 

雪華綺晶の寝室―――とはいっても。翠星石も同じ寝室なのだが―――に、翠星石が皿を持ってやって来た。
お皿の上には、シロップ漬けの桃の缶詰が。

「はい、あーん」
翠星石は楽しそうに、雪華綺晶に手ずから食べさせようとしてくる。
「え、いや、お姉様。何もそこまでなさらなくても……」
雪華綺晶も、流石にこの溺愛っぷりには困った。

だが……
「こういった姉妹の触れ合いを通して記憶が戻らんともかぎらんですよ。なので、あーん」
翠星石は一歩も退かず、フォークに刺した桃を雪華綺晶へと差し出す。

「え?いや、その……ええっと……………ああ!お…お姉様……記憶が……!
 懐かしい……お姉様が、病床に伏した私にお料理を……ああ!駄目!頭が痛い……」
仕方無しに、雪華綺晶はいつもの演技でこの場を誤魔化す事にした。

「蒼星石!?大丈夫ですか!?
 ですが……確実に記憶が戻りつつある証拠ですぅ!」
翠星石は勝手に手ごたえを感じて、グッと拳を固めている。

どうやらこの場は乗り切れたようだが……次からもっと酷くなりそうな気がした。

だが、そんな雪華綺晶の心配も杞憂に終わる。

ピーンポーン。

来客を知らせる、チャイムの音。
予想外の方向から、状況はさらに混乱していく事となったのだった。 


「貴方が、結菱氏の個人資産を相続した、翠星石と蒼星石ね」
玄関先でスーツ姿の金髪女性は、そう言いながら翠星石と雪華綺晶へと視線を巡らせた。

「え、ええ……はじめまして」
「そです。翠星石達に何か用ですか?」

訝しげに返す雪華綺晶と、キョトンとした表情の翠星石。

二人に対し、金髪女性は一枚の名刺を差し出した。
『警察庁ろぅぜん警察署・保安課 真紅』

「屋敷の保安について、いくらか話しがあるの」
金髪碧眼の刑事はそう言うと、鋭い視線を雪華綺晶に向けてきた。
「これだけの資産ですもの。悪しき輩が狙ってこない方が不思議ですものね」

雪華綺晶は……手の中に冷たい汗が滲み出てくるのを感じた。

まさか、バレたのでしょうか!?
いいえ……ばらしーちゃんの書類は、そう簡単には見破れないはず。
だとしたら……彼女の言う通り、唯の『保全』が用件なのでしょうか……

表情こそ崩さないが、心拍数が上昇していくのを感じる。

そんな緊張した雪華綺晶には目もくれず、というより気付かず、真紅は背後に立つ制服警官の紹介を始めた。

「彼は、桜田ジュン。私の部下よ。この屋敷の保安体制が整うまで、彼を警備につかせるわ。
 もちろん、貴方達が良いと言えば、だけれど」

丁寧に、相手の出方を窺う発言。
だが、裏を返せば、こちらの返答と……その真意を探る発言にもとれる。

雪華綺晶は、真紅の提案に対し、ほんの一瞬だが迷った。
だが、それも一瞬。
例えどう思われようと、屋敷の中に天敵を。警官を招き入れる道理は無い。

丁寧に断りを入れよう。
そう決め、口を開こうとした瞬間。

「そういう事なら、暫くは良いですよ」
実にあっさりと。
スーパーで大根でも買うかのようにあっさりと、翠星石が答えやがった。

「それなら、蒼星石も記憶を取り戻す事だけに専念できるですぅ。
 いやー、それにしても感動の再会ですっかり忘れてたですぅ。世の中には悪い奴がいっぱい居るですからね。
 最も、蒼星石は翠星石が守ってやるですから何の心配もいらんですぅ!」

一気にそう言ってくる翠星石の言葉を聞きながら……
雪華綺晶は自分の足元がガラガラと崩れていくような錯覚を感じた。


「どうも、桜田ジュン巡査です」
制服警官は、屋内だというのに帽子もとらずに、無愛想にそう挨拶をしてくる。

「翠星石ですぅ」
「妹の『蒼星石』ですわ」
「……私は『蒼星石』の後見人……薔薇水晶……」

屋敷に暮らす者、三者三様の挨拶をしてから、昼食にでもとりかかる事にした。

「僕は、いいです」
それだけ言うと、無愛想な制服警官は、屋敷の巡回を始める。

よって昼食は、翠星石と『蒼星石』そして薔薇水晶の三人で、いつもと同じように行われる事となった。 


「それにしても、あんな無愛想な奴とは予想外ですぅ」
翠星石が早速、愚痴を漏らす。 

「でしたら、今からでもお引取り願ってはどうでしょう?」
雪華綺晶がそれとなく、進言する。 

「………」
薔薇水晶は、ちょっとだけ目をキラキラ輝かせる。 


「いやいや。実際、悪い奴が来たら、翠星石だけでは蒼星石を守りきれないかもしれんですからね」
翠星石の答えに、薔薇水晶の目がドンヨリと悲しそうな色をしはじめた。


結局、その日は一日、屋敷の中を見回り続ける制服警官と、引き篭もりっぱなしに薔薇水晶。
そして、翠星石による『思い出を取り戻すための作戦』だけで終りを迎えようとしていた。


そして、例の如くの翠星石の入浴タイム。

雪華綺晶と薔薇水晶の詐欺師二人組みは、半泣きで相談をしていた。

「どうしましょう!ばらしーちゃん!!」
「……警官……怖い……でも……」

「今回は諦めて、逃げた方がよろしいのでは!?」
「……警官……お金……牢屋……お金……」

「とりあえず……ばらしーちゃん!大至急、警察の動向を確認して下さいまし!
 私達は疑われているのか……それとも、まだ気付かれていないのかを!」
  


5日目。
その日も雪華綺晶は、翠星石とすっと一緒だった。

薔薇水晶は、書類上の手続きが有るという理由で外出。
本来の目的である警察内部の情報を調べるためにと、地下へと潜っていた。

よって、屋敷の中には、勘違いした姉と、嘘っぱちの妹と、陰気な制服警官。


6日目。
何らかの情報を掴んだのか、薔薇水晶が屋敷へと戻ってきた。

早速、その情報を基に話し合いでもしたい雪華綺晶だったが……

「どうしたですか?蒼星石。そんなにソワソワして……
 心配しなくても翠星石はずっと傍に居てやるですよ?」

翠星石が片時も離れようとしないので、相談は彼女が入浴した時―――いつもの時間に行うしかなさそうだった。


7日目。
雪華綺晶と薔薇水晶が屋敷へ来て、一週間も経っていた。

本来なら、とっくに逃亡して、どこかで豪遊でもしてる予定が……
それがすっかり、チャンスを失って籠の中の鳥状態。

そして……

この日、雪華綺晶は(当然のように翠星石も一緒だが)初めて桜田ジュンに自分からコンタクトを取った。
 
「いつもご苦労様。よろしければ、ほんの息抜きにでもお茶でもいかがでしょうか?」
柔らかな表情を浮べたまま、雪華綺晶はそう声をかける。

相変わらず帽子も取らないような堅物ではあったが、桜田ジュンも静かに頷いて答えた。


翠星石と『蒼星石』、薔薇水晶と桜田ジュンが、テーブルを挟んでカップを傾ける。
屋敷の雰囲気に溶け込むように、静かな、落ち着いた午後の時間が流れていた。

「蒼星石の記憶、早く戻るといいですね」
翠星石はそう言いながら、隣に座った『蒼星石』の手を取る。

「ええ、そうですわね」
『蒼星石』のフリを続けながら、雪華綺晶はごく自然に返事をする。

「……うん……」
事情を知っている薔薇水晶も、どことなく複雑そうな表情を浮べながらもそう答える。

「病院へは?」
口数少なく、桜田ジュンが、あくまで静寂を破らない静かな声で尋ねた。

「え、ええ。行ったのですが、どうにも良くならなくて……」
雪華綺晶はそう答えるが……どうも、桜田ジュンは気に入らなかったようだ。

「もう一度、ちゃんと検査したらどうかな」
鋭い、棘を持った声で、そう告げてくる。

「い…いえ、それは……」
ほんの一瞬。だが、確実に雪華綺晶の表情には、困惑の色が浮かんだ。
これまで、散々無口で寡黙な人物を通してきた警官が、急に饒舌になったせいでもあるだろう。

そして桜田ジュンは、立ち上がると雪華綺晶へと近づき……

「僕は、警察官だ。良い病院も知ってるし、連れて行ってあげるよ」
そう言うと。雪華綺晶の手をグイっと引っ張った。

―――連行される!?

その恐怖が。
『演技』でも隠せない、詐欺師としての本能からくる恐怖から、雪華綺晶の顔色が青くなる。

咄嗟に、薔薇水晶は助け舟を出そうとして……

だが、やはりというのか、ここでも一番速かったのは翠星石だった。


「蒼星石に何するですか!!このスケベ!!」

叫ぶや否や、翠星石は制服警官に飛び掛る。
警官はそれをひらりと避け……その隙に、雪華綺晶の手を離してしまった。

だが、翠星石からの追撃は止まらない。

「この!勝手に!蒼星石に!手を!出すなですぅ!!」
裏拳、アッパー、回し蹴り、ビンタに、グーでパンチ。

目にも留まらぬ打撃の嵐を繰り出すも、その全てを桜田ジュンは避けていく。

やっぱり、警察って凄く強いんだ。怖いなぁ。
薔薇水晶は、その光景に、想像したくない未来を想像してブルブル震えていた。
 

止まらない、翠星石の怒涛の連撃。
そして、それを止めたのは……

場違いとしか言いようの無い、雪華綺晶の笑いだった。


「ふふふ……先ほど、手を握られた時……まるで絹のように柔らかな肌に、驚きましたわ。
 一度も現場に出た事の無い方のように、細く、柔らかい手。
 それでいて、今の体捌きは、現場での実践経験を積まれた方のようにも見えますし……」

その声に、翠星石も動きを止める。
桜田ジュン―――いや、制服警官も、帽子の隙間から鋭い視線を雪華綺晶へと投げ掛ける。

雪華綺晶は、続ける。

「お茶を飲んでる時はとっても申し分無いマナーなのに、何故か貴方は屋内でも帽子を取らない。
 部屋に入る時だけ、屋敷に入る時だけでも、帽子を外す。
 そんな最低限のマナーすら守らないのは、どうして?」

何が言いたいのか分からない薔薇水晶も思わず、
「きらきー?」と声をかけそうになるが、かろうじて留まる。

雪華綺晶の口からは言葉が紡ぎ出され続ける。


「そして何より。『本物』の桜田ジュン様は、交通課勤務。なのに貴方は、保安課の人間。
 ……貴方は、だぁれ?」

まるで、姉妹の悪戯でも見つけたかのように、雪華綺晶は目を楽しげに輝かせながら制服警官を見つめた。
 

「……何が言いたいんだい?」

先ほどまでの喧騒が嘘のように、警官は静かな。それでいて、よく通る声で、そう呟いた。


「最初に出会った時から、貴方は変わった方でしたわ。
 警備の筈なのに、私達にはあまり近づこうとせず……それでいて、遠くから見守るようで……」

雪華綺晶の返事に、警官は呆れたようにため息をつき、大げさな身振りを交えて告げる。

「僕は人付き合いが苦手だからね。それ位の距離が、一番気が楽なのさ」


「おかしいと思ったのは、夕べばらしーちゃんが貴方の事を教えてくれてからですわ。
 そして今しがた、貴方の手に触れて。
 『どうしてこの方は名前を、身分を偽って、男装などしているのだろう』と」


雪華綺晶の言葉。
それはつまり、目の前の警官は『桜田ジュン』ではないどころか、男ですらない、という事。


雪華綺晶の、薔薇水晶の、翠星石の視線を浴びながら、制服警官は…―――

まるで何かを諦めたかのように、大きく息を吐いた。 


「……家も、財産も、何も無い。僕だけの力でどこまで行けるか……知りたかったんだ」

ポツリと、呟くように、警官は口を開いた。

「だから家出した。この仕事でも、本当は最後まで名乗らないつもりだったんだけどね……」 


制服警官はこの時初めて、帽子を取った。

「だけれど、この家に僕でも翠星石でもない人間が来たのを知って……
 翠星石が怖がってないか心配になって……真紅に頼んで一芝居打った、って訳さ」

警官が見せた、その顔。
それは、その左右で色の異なる瞳は、何よりも確かな証拠でもあった。

「僕は、蒼星石。
 家出して行方不明になった翠星石の妹で、この家の『本当』の相続人でもある」

翠星石と、まるで鏡に映したかのようにそっくりな顔。
正直、雪華綺晶とは全く似ていない。 


突然の告白に、水を打ったように、時が止まったかのように、屋敷は静寂に包まれる。

そして、再び雪華綺晶の声が、その静寂を打ち払った。

「私とした事が、とんだ道化を演じていた、という事のようですわね。
 ……どうして最初に訪れた時に、私達を逮捕しなかったのでしょうか?」

「……翠星石は君が偽者だと気付いてなかったからね。
 彼女を傷つけないためにも、暫く様子を見させてもらう事にしたんだよ。
 それに……君達の正体も調べたかったしね」

『正体』
その単語に、雪華綺晶と薔薇水晶の全身から、すごーく嫌な汗が出てきた。


「もう知ってると思うけど、偽ってたのは部署だけ。僕は本物の警察官だよ。
 さて。
 雪華綺晶に薔薇水晶。詐欺の容疑で逮捕する」 


長い間ノドに引っかかっていた魚の骨が取れたかのように、すっきりとした笑顔で詰め寄る蒼星石。
その手には、当然のように、丸い輪っか。手錠が握られている。 


何となくだけど、『大きな秘密を暴いて大円団!』『バンザイ!バンザイ!』『みんなハッピー!』
……みたいになれば良いなー。と、雪華綺晶は考えていた。 

だけれど、全く。一切。そんな事にはならず。
正直、この流れはカンベンして欲しい。 


雪華綺晶と薔薇水晶は、ジリジリと壁際に後退しながら、引き攣った笑みを浮べるだけ。
はっきり言って、二人とも喧嘩は苦手。
それを抜きにしても、勝ち目は無さそう。


だが……そんな彼女達に、奇跡が舞い降りた。

「そーせーせきーーー!!!!本物の蒼星石ですぅ!!今度こそ本物の蒼星石ですぅ!!!!」

翠星石が、今度こそ間違いない本当の感動の再会を前にして、一切空気を読まずに蒼星石に飛び付いたのだ。

「ちょ!?翠星石!?感動の再会は後にして、今はあの二人を逮捕しないと……」
「うぅ……いやですぅ!!もう、ぜったいにはなさんですぅ!!そーせーせきぃーーー!!!
 ずっとはなさんですぅ!!いっしょにいるですぅ!!!」

翠星石は泣きじゃくりながら、蒼星石へとしがみ付いている。
そのせいで、蒼星石は全く身動きがとれなくなっていた。 


「これは……お姉様が空気を読めない方のお陰で……」
「……助かった……」

雪華綺晶と薔薇水晶は、今が好機と見ると、もつれ合う双子姉妹を飛び越えて玄関へと猛ダッシュ。

「す…翠星石!?逃げられちゃったじゃないか!」
「にがさんですぅ!!もうそうせいせきはどこにもにがさんですぅ!!」




背後から聞こえる大きな声に、ついつい笑ってしまいそうになるけど……
結局、自分達にとって報酬なるものが何一つとして無かったのを思い出すと、切なくなる。



「まあ、それでも暫くは美味しいものも食べられた事ですし」
「……うん……今回はこれで勘弁してあげる……」


雪華綺晶と薔薇水晶はポンコツ自動車をへと飛び乗ると同時にエンジンを回し、颯爽と逃げ出した。





「それにしても」
遠のく薔薇屋敷を背景に、雪華綺晶が呟く。

「あれだけの財宝を前にしながら、一つも手に入らなかった、というのは少々悲しいですわね」

「……残念……」
薔薇水晶も、いつもより言葉数も少なく返事をする。


「まあ、今回はちょっと変わったバカンスだった、と思う事にでもしましょうか」

雪華綺晶はそう言い、ポンコツ自動車のミラー越しに、豆粒のようにすっかり遠のいた薔薇屋敷へと視線を向けた。

――――ほんの少しだけ、微笑みながら。





















      ~ 一向に懲りない面々のエピローグ ~



味より、見た目より、値段と量。
そんな安い定食屋で、雪華綺晶と薔薇水晶はテーブルを挟んで向かい合っていた。

鯖の味噌煮を解体しながら、黙々と箸を進める薔薇水晶。
食事も終り、新聞を広げている雪華綺晶。

やがて、雪華綺晶は新聞をテーブルに置くと、薔薇水晶へと真っ直ぐに向き直った。

「ところで、ばらしーちゃん。フランス語は喋れます?」
そう言った雪華綺晶の指差す先は、新聞の一面記事。


『フランスの富豪、フォッセー家に隠し子が発覚』
隠し子の名前が雛苺という事以外は、一切が不明。
発見した人物には、謝礼として100万ドルが支払われるらしい。


ビッグビジネスの予感に、薔薇水晶はニヤリと悪い笑みを浮べる。
それを見て、了解したと受け取ったのだろう。
雪華綺晶の顔にも、ニヤリと悪い笑みが浮かんだ。


自称・無敵の詐欺師、雪華綺晶。
自称・天才ペテン師、薔薇水晶。

二人の大成功を追い求める冒険は――― 当分の間、終わりそうにない。 




                 ミ☆  Fin  ☆彡 



  
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