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 微かに聴こえる鐘の音
力なく鳴るそれにどこか安らぎを
か弱きそれは六等星に輝きを
何処か懐かしいその音は……


そんな気がした


その日から、またその音を聴くことはなかった
数年前から誰も居ない教会から聴こえたあの音
老朽し建物としての役割も果たせず、取り壊される事もなく佇んでいる
多分、その後ろにある墓地のせいでまだ残されているのだろう
今、考えると数日前に聴こえたあの音が幻聴と錯覚しそうになる
あの日から毎日、この窓からあの教会を眺める日々
でも、それも今日で終わり
今日こそ私はここを脱け出し、そこへ行く
きっと何かが変わる、そう信じたい
退屈な神様が決めたレールはもう歩きたくない
そして私はここを脱け出した、月のスポットライトに照らされ、自身の役割も果たせぬ壊れた教会へ

人一人が余裕で通れる穴が開いた扉だった物の向こうにそれは居た
雨をしのぐ事さえままならない、天井から溢れる月光の下に
「……天使……さん?」
月光の下に光輝く髪がゆっくりと動いた
「……誰ぇ?」
その色
その声
その容姿
私は確実に何かに引かれた
「誰ぇ? こんな所に何の用?」
待っていた結末がこんな近くにあるなんて
「……聞いてるぅ?」
「あっ……えっと……」
その想いは脆かった
 だって、制服を着た天使なんて
「ここで何をしているの?」
「住んでるの、悪ぃ?」
「ううん、全然……あの、よかったら名前……」
「私ぃ?──水銀燈」

水銀灯? 水銀党? 水銀燈? すいぎんとう
「いい名前だね」
「……」
「あっ!! 私、めぐって言うのヨロシク」
「ふぅ~ん、ところで」
「 ? 」
「さっき言ったのは何?」
さっき? 私、変な事言った?
「う~ん」
「……」
ヨロシクかな?
確かに初対面でしかもこんな形で会ってヨロシクなんて……
あと何か言ったかな?
「う~ん」
「ほら、天使とかなんとかぁ」
あっそれか
「天使さんって言った事?」
「そう、何で私が天使なのぉ?」
それは……だって……
「一目見て」
「……あきれたぁ、こんな所に来ていきなりヨロシクなんて……貴女変わってるわねぇ」
「そうかな? それなら天使さんだって変わってるわよ」
「例えば?」
「普通はこんな所に住まないわよ」
「……それもそうねぇ」
「何でこんな所に住んでるの?」
「……私と同じジャンクだから……かなぁ?」
「ジャン……ク?」
「私もここと同じ様に壊れているのよ、私は産まれた時からだけどね」
「ふふっ、なら私と一緒だね」
「……どこか……悪いのぉ?」
「心臓がね……お医者さんは移植をしないともって、後一年だって」
「なんで……なんで笑いながらそんな事をしかも、初対面に」
「う~ん、多分、天使さんだから……かな?」
「ところでぇ……やめてくれない、それぇ」
「どれ?」
「貴女のその……天使さんってのよぉ」
「……それなら私は貴女じゃなくでめぐ゙って名前があるんだから──」
「分かったわよぉ……その……めぐ?」
「今度こそヨロシクだね天……水銀燈」
「……」
「てっ天使なんて言ってないよ」
「今、言ったじゃない」
「あっ!!」
「ふふっ」
「ははっ」
本当に天……じゃなかった
水銀燈と一緒だと落ち着く
「そろそろ戻るね」
「あっそぉ」
「私の部屋、四階の408だから」
「だからぁ?」
「ちゃんと来てよね、またね水銀燈」
「約束はしないわよ」
「待ってるからね」
そう言い残して私はドアだった物の間から外へと出た
「綺麗な……月」
教会に寄りかかるように座り、月を眺めた
本当は眺めているフリだ
体が動かない
鼓動が早い
息が苦しい
私が見つめる先に月が本当にあるのかも分からない
苦しくないって言ったら嘘だけど
けど、いつもと違う
きっと水銀燈との出会いが何かを変えた
やっぱり水銀燈は私の天使さんだ
こんな終わりかたは悪くない
いや、むしろ望んでいた
でも、今が終わりじゃないみたい
ゆっくりと私の体が落ち着きを取り戻すのが分かる
「さぁてと、帰るか」
部屋に戻ってからはずっと窓の外を見ていた
疲れていたけど、興奮して眠れなかった
こうして見るとあの教会がとても神聖な物に感じる
そして、その教会を照らす月も
月の回りに輝く星も六等星さえも
それでも、あの教会は
「ジャンク……か」
大きく優しい何かが私の体を揺する
「んんっ?」
目を開けると部屋が明るい
太陽は昇り、いや、むしろ沈み始めている
私の体を揺らしていたのは窓から入り込む風
目の前には数時間前に置かれたであろう昼食
そして、その横にはバナナが置いてあった
「誰だろう」
置かれてある一房のバナナを見れば誰かのお土産だと言うのが分かる
よく見るとバナナの横に紙がある
「なんだろう?」

――来いって言うから来てあげたのに寝てるなんて本当におばかさん
  それと、ご飯はちゃんと食べなさい――

「ふふっ、来てくれたんだ」
その日から毎日、私達は会うようになった
私が水銀燈に会いに行ったり
水銀燈が私の所へ来たり
最近では水銀燈が私の所へ来ることが多い
「病人はおとなしくしてなさぁい」とか言っては私の所によく来る
「それなら水銀燈も体が悪いんでしょ?」って言いそうになるけど、
私を心配して言ってくれてるから、そこは受け止めている
本当は私も彼処に行きたいけれど、毎日水銀燈が来てくれるからそれで十分
でも、たまに水銀燈に内緒で勝手に私も押し掛ける
たまにだけど、だから私が行った時は凄い驚いてる
その時の顔って言ったら
「ふふっ」
「なぁにぃ?」
「なんでもなぁい、ただの思い出し笑いよぉ」
「ちょっと真似しないでよぉ」
「ふふっ」
「ははっ」
きっと……
ううん、私は今が一番幸せ


~翠星石(水銀燈編)・完


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